「いさぶろう・しんぺい」と肥薩線

肥薩線 人吉−吉松間。ここは1909年(明治42)開通当時は鹿児島本線として開業し、多くの列車が行き交った区間です。通称「矢岳越え」と呼ばれる急勾配の峠越えのため、ループ線、スイッチバック、トンネル、と当時の最高の鉄道技術を集めてつくられました。
そのかつての幹線も、現在では普通列車がわずか平日4往復・・・
その普通列車の1往復に人の名前のついた列車があります。「いさぶろう」と「しんぺい」。

1996年(平成8)3月にゆっくり走る観光列車として登場しましたが、九州新幹線開業を機に大リニューアル。
さてその雰囲気やいかに。

乗車日 2004/04/23


吉松駅に入る「いさぶろう」。

かつての幹線の駅らしく、駅構内がかなり大きい吉松駅です。

人吉から来る列車が「いさぶろう」、吉松から行く列車が「しんぺい」を名乗ります。


「はやとの風」と並んで到着。「いさぶろう」を降りた多くの乗客は「はやとの風」に乗り継いでいきます。

わたしはその逆コースをたどるわけです。


車内。「はやとの風」と似ていますが、座席が向かい合わせになっているところがちがいます。

車両中間部のフリースペースはほぼ同じつくりです。

座席ですが、通常の向かい合わせ席は全て指定席
指定席になったことで団体ツアーに組み込まれることも多くなったため、なかなか座席が取れないこともあるので要注意です。

8席分あるフリースペースが「自由席」となります。


車体を横から。

「はやとの風」と同様に、車種は一般形のキハ40形の改造でキハ140形。

色は「古代うるし色」とのこと。

編成は1両。単行です。

この車両になる前の「いさぶろう・しんぺい」の時には多客期には何両か増結していたこともあったようですが、これからはどうなるんでしょうか・・・


出発後。車両前方にモニター発見。


トンネルの内部まで見ることができます。当時の鉄道技術がしのばれます。

この区間のトンネルには悲劇があります。

1945年8月22日、吉松−真幸間にある山の神第二トンネルで多くの復員軍人を乗せた列車が勾配を上りきれずにトンネル内で立ち往生。蒸気機関車の煙が充満してきて、暑さと苦しさのため多くの乗客が列車を降りて脱出しようとしたときに列車が逆走、50人もの犠牲者が出てしまいました。

それ以来、このトンネルでは人の話し声や話に返事する、という現象が起きるようになったとか・・・


真幸(まさき)駅到着。

駅に着くたびに5、6分の停車時間があるため、わずかな時間ではありますがいろいろ見ることができます。

青空に映える「しんぺい」。


真幸駅名物の幸せの鐘を鳴らす図。

この駅の入場券は「真の幸せ」ということで縁起物になっています。現在無人駅のため、人吉駅で売っています。通販もやっているそうです。


真幸駅石庭。ちゃんと目が入ってます。

かつてはホーム上もすばらしい石庭だったそうですがホームは残念ながら荒れ気味な状態にあります。


真幸を出てしばらくすると見えてくるこの雄大な景色。

目の前の霧島連山とえびの盆地。
遠くには桜島、さらには開聞岳まで見えるとか。

日本三大車窓の1つに数えられる素晴らしい景観です。

残りの2つは長野県の篠ノ井線・姨捨駅と北海道の根室本線・狩勝峠(旧線のため廃止)。


矢岳第一トンネル。2096mと肥薩線では最長。

このトンネルの吉松側(この画像)には開通当時の鉄道院総裁・後藤新平の石額「引重到遠(いんじゅうちえん)」が、人吉側には逓信大臣・山県伊三郎の石額「天険若夷(てんけんじゃくい)」がはめ込めれています。

意味はこの難所を平地のようにしたことで、重いものを遠くに運べるようになった、というもの。

当時の鉄道関係者のNo.1、2がこのようなものを掲げている、というのはいかにここが重要で、かつ厳しい工事だったことがしのばれます。

列車名はこの2人の名前にちなみます。


矢岳駅到着。標高536.9m。ここが峠の頂上です。

ちなみに吉松が213mで、人吉が106.6m。

つまり323.9m登ってきて、これから430.3m転げ落ちることになります(^^;


矢岳駅。
おそらく開業当時からの駅舎でしょう。

古いながらもよく整備されていて、大切に使われているようです。


駅舎内。
床はコンクリート張りではなくて、いわゆる土間。かなり珍しいと思います。

照明は小奇麗なものが。たぶん最近つけたものではないかと思います。


途中からループ線に入り、ループの終わりからスイッチバックして入ると大畑(おこば)駅。

付近が梅の名所なので駅名板に梅のサインがあります。


大畑駅。

この駅舎も開業当時のものと思われます。




駅舎内にはなぜかおびただしい数の名刺や使用済みの定期券とかが大量に貼り付けてありました(^^;


大畑駅、ホーム側から。

ここもかなり美しく整備されています。


ホームにあった泉。
蒸気機関車時代に運転士たちがここで顔を洗ったとか。


終点・人吉駅到着。吉松−人吉間35kmを1時間11分、平均速度29.6km/h。新幹線とはまたちがったゆっくりとした旅路です。

ここからは「九州横断特急」で球磨川沿いを下っていくのが定番になっていくのでしょう。

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