最強?の目覚まし
『朝〜、朝だよ』
『朝ご飯食べて学校行くよ〜』
朝から脱力するような目覚ましの音に起こされて、
カーテンを開けてベッドから這い出る。
制服に着替えて、いつものように名雪を起こしに行く。
「名雪ーっ!起きろーっ!」
このぐらいノックしたらいつもなら起きてくるはずだった。
が、今日の名雪はしぶとかった。
「起きろっ!」「・・・くー」「名雪っ!」「・・・うにゅ」
「あ・さ・だ・ぞーっ!」「・・・ねこー・・・くー」
だめだ。やっぱきのうのテレビが原因か。
『ム●ゴ●ウとゆかいな仲間たち』でネコ特集やってたからな・・・
あの名雪が9時まで起きてたもんな。ム●ゴ●ウ恐るべし。
真琴たちと一緒に焼きそばを食べた時以来のしぶとさだ。
あの時は作戦その1とその2でなんとか緊急回避したが・・・
「ついに『あれ』の出番がやってきたか・・・」
俺はついにあの最終兵器で名雪と対決する決意を固め、いったん部屋に戻った。
◆
7年前の記憶を取り戻したついでにいろんなものも思い出していた。
そのなかには『あれ』もあった。
テレビのバラエティ番組で見たあの勇姿。
そう、バズーカ砲である。
もっとも弾は入ってなくて音だけだが。
これなら名雪と対決することができる。
早速俺はバズーカ砲を入手すべく行動を開始した。
「北川、ちょっといいか?」
「なんだ、あらたまって」
「おまえ、バズーカ砲持ってないか」
「相沢・・・何考えてんだ」
「普通だ」
「普通はそんなこと考えないぞ」
「とにかく、あるのか?ないのか?」
「あるわけないだろ」
「・・・・・そりゃそうだな」
「いや、待てよ・・・」
「あてがあるのかっ」
「確かファンシーショップの店長がその手のものに詳しいってきいたことがあるぞ」
「ファンシーショップって・・・」
「例のぬいぐるみがあるところだ。雑貨屋といってもいい」
「ああ、あれか」
「そう、あれだ」
「サンキュ、助かったぜ」
「相沢」
「ん、なんだ?」
「おまえ、本当に普通か?」
「普通だ」
「ならいい」
俺は放課後、速攻でファンシーショップへ向かった。
「ここか・・・」
商店街の奥にその店はあった。
「うっ、まだ売ってるのか」
ショーケースのなかにはまだあのぬいぐるみがあった。
\500,000と書かれた値札は消され、\8,000になっていた。
「なんて値引きだ・・・」
そしてショーケースをよく見ると、例のものも見つかった。
値札は・・・\1,000,000。ひゃくまんえんもするじゃねーか。
これは値引きに賭けるしかねーな。
俺は店長と交渉すべく、意を決して店に入った。
「いらっしゃいませー」
愛想のいいおねーさんの店員のあいさつがひびく。
早速俺は交渉すべく店員に話しかけた。
「あのー、すいません」
「なんでしょうか?」
「ショーケースのなかのバズーカ砲なんですけど・・・」
店員の顔がみるみる硬直してくるのがすぐにわかった。
「あの値段、なんとかならないでしょうか・・・」
「は、はいっ、わかりましたっ。てっ、てんちょお〜!」
しばらくすると、恰幅(かっぷく)のよさそうな店長がでてきた。
俺はいきなり切り出した。
「あのバズーカ砲なんですが・・・」
「千円でいいですよ」
「は?」
「千円でいいですよ」
交渉はあっさり成立した。
俺は釈然としなかったが、とりあえず目的のものは無事入手した。
次は、秋子さんに使用許可をもらわねばならない。
いくらおおらかな性格の秋子さんでも無許可でバズーカ砲をぶっ放すのは危険極まりない。
「ただいま」
俺はバズーカ砲を抱えてキッチンへ向かった。
「あ、祐一さん、お帰りなさい」
いつものように出迎えてくれる秋子さん。
しかし、さすがに俺の姿を見ると顔色が変わった。(とはいっても見た目には変化はないが)
「どうしたの、それ・・・」
「これで名雪を起こすんです。最後の手段で」
俺の返事を聞いたとたん、秋子さんはにっこり微笑んだ。全てを納得してくれたようだ。
「これ、使っていいですか」
「了承」
許可はあっさり下りた。が・・・
「わたしも参加していいかしら?」
予想外のことだった。やっぱり心配なのだろう。
「ええ、いいですよ」
「楽しみにしてるわ」
「え・・・」
その時秋子さんの表情がすごく楽しそうに見えた。
◆
部屋に戻ってからバズーカ砲を抱えて廊下に出た。
そうそう、秋子さんを呼ばなきゃ。妙に楽しそうだったのも気になるしな。
「おはようございます」
「おはようございます。いよいよね」
「ええ、娘さんを傷つけるかもしれませんが」
「大丈夫よ」
根拠のない返事だったが納得した。
俺は最終決戦を挑むため名雪の部屋へ向かった。
『なゆきの部屋』とかかれたドアの前に再び立つ。
俺はおもむろにドアを開けた。
「うにゅー・・・」
気持ちよさそうに寝てやがる。しかしこれで最後だ。
俺はバズーカの照準を名雪にセットした。
「秋子さん、カウントダウンをお願いします」
「わかりました」
夢に終わりを与えてやるのだ。
「発射10秒前、9、8、・・・」
勝負だっ、名雪っ。
「5、4、3、3、1、」
「ゼロ、発射!」
「うおおおおおおおっ」
ものすごい轟音だった。ちょっとやりすぎだったか。
「名雪ー、起きたかー」
俺はやさしく声をかけた。が・・・甘かった。
「くー・・・」「なゆき?」「ねこさん・・・くー」
「そんな馬鹿なーーーーーーーっ」
作戦は完璧だった。が、全くビクともしなかった。
「やっぱりだめだったみたいね」
「ええ・・・え゛っ?」
秋子さんは終始微笑んでいた。
「祐一さん」
「はい?」
「これを使ってみてくれる?」
「こ、これは・・・」
それはジャムを塗ってあるトーストだった
それは以前食べたあのジャムよりもおどろおどろしい色だった。
「秋子さん、このジャムは・・・」
「企業秘密です」
秋子さんはすごくうれしそうだった。
「もしかして、前に名雪を起こしたみたいにやるんですか?」
「ええ、そうよ」
「はぁ・・・・・」
俺は覚悟を決めて作戦その2もどきを実行した。
俺は名雪の近くにそのトーストを近づける。
そして食う。
「う・・・・・」
俺はこの世で一番不思議なものを食べた気がした。
「・・・うにゅ?・・・」
おお、いちおう反応はあったぞ。
「今日のスペシャルジャムは特にうまいな〜」
俺は泣きそうになりながらトーストを頬張る。
「・・・スペシャルジャム〜・・・・うにゅにゅ?」
ついに目を擦り出して皿を掴んだ。
「おはようございます・・・」
「おはよう・・・」「おはよう、名雪」
「祐一」
「なんだ」
「目が真っ赤だよ」
「気のせいだ」
「お母さん」
「どうしたの、名雪」
「わたし、すごく不思議なものを食べてた気がするんだけど・・・」
「気のせいよ」
「さあ、みんな朝食にしましょう」
「はい・・・」「はい・・・ふぁ・・」
「なあ、名雪」
「なに、祐一」
「一回あれ食ってみるか」
「あれって?」
「あのジャムだ」
「なんでよう」
「お前を起こすのに俺が食った罰だ」
「うー・・・」
「さあ、行くぞ」
「あ、待ってよ〜」
かくして俺の戦いは惨敗に終わった・・・・・・
〜END〜
あとがき
とりあえず一気に書き上げてしまいました。
名雪で何か書こうと思って思いついたのがこれでした(^_^;)
やっぱり寝起きのネタは使いやすいですね。
しかし本編のあのジャムは一体なんなんでしょうね。
次回はジャムネタで行こうかなっ(笑)
1999/06/27