ひみつのジャム(前編)
前から気になっていた。
何も考えていないようなおおらかさ。
職業は不明、でも生活はちゃんとしている。
企業秘密という謎のジャム。
そして、ついに名雪を起こすことに成功したスペシャルジャム。
あまりにも謎が多すぎる。
そう、秋子さんのことだ。
名雪ですら知らないことがいっぱいある。
少なくとも1つくらいは知っててもいいんじゃねーか?

          ◆

「というわけだ」
「ふぁいとっ、だね」
「興味あるわね」
「ボクも参加するよっ」
名雪、香里、あゆ、そして俺。
全員の共通点は秋子さんの「あの」ジャムを食わされたということだ。
俺たちは「秋子さんのジャム被害者の会」を結成して、
あのジャムの謎を追求することにした。
が、いま俺たちの手にはジャムのサンプル1つすらなかった。
というのも、あれでいて秋子さんは結構チェックが厳しい。
1度ジャムを入手すべく夜中にキッチンに突入したとき、
まちがえてイチゴジャムを取ってきたことがあったが、
ほんのスプーン1杯だったのに、朝起きたら「ちょっとイチゴジャムがへってるわね」
って言ってたからなぁ。
正面突破という手もあるがおもいっきり疑われるしなぁ。
うーん、疑われなくて入手できる方法・・・
「そうだ」
俺はついに入手方法を思いついて、メンバーの1人を指名した。
「あゆ」
「え・・・ボク?」
「そうだ、もう1回朝食に招待してもらうんだ」
「ボクはどうすればいいの?」
「あのジャムを食う」
「うぐぅ・・・祐一君がいぢめる・・・」
「いぢめるんぢゃない、ジャムのサンプルをもらうんだ」
「どうやるの・・・」
「食ってるときに『つくってみたい』とかいってサンプルをもらうんだ」
「そういえば、ボクそんな約束したねっ」
「そう。だから疑われずに入手できるのはあゆしかいないっ」
「うん・・・ボクがんばるよっ」
「ところで・・・」香里が割り込んでくる。
「そのサンプルをどうするわけ?」
「ふっふっふ、すでに手は打ってある」
「あんたにしては用意周到ね」「祐一すごーい」

俺はジャムの鑑定?をひょんなことから知り合った倉田佐祐理という3年の先輩にお願いしていた。
佐祐理さんに話を持ちかけたのは、昼飯のときにジャムの話をしたのがきっかけだった。
「佐祐理さんはジャムは好きですか?」
「ええ、家にたくさんありますし、大好きですよ」
「どのくらいあります?」
「ええと、数え切れないくらいくらいはありますね」
「すげえ・・・」
「どうかしました?」
「あ、そうだ佐祐理さん、うちにこんなジャムがあるんですけど・・・」
俺は一部始終を佐祐理さんに話した。
「あははーっ、おもしろそうですね。わたしも参加していいですか?」
「えっ・・・ええ、いいですよ」「まるで舞踏会のときみたいですね」
どうやらとんでもないことになりそうだ。まるで探●ナ●ト●クープみたいだ。

「じゃあ、あゆ、頼んだぞ。作戦決行は次の日曜日だ」
「まかせといてっ」
「わたしはどうすればいいの?」
「名雪は普通にしてればいい」
「うん、わかった・・・」
「わたしは?」
「香里、うちにくるか」
「あたしは遠慮しとくわ」
というわけでジャムのサンプルをゲットすべく俺たちは行動を開始した。

          ◆

日曜日。いつも通りの朝。
しかし、キッチンにはあゆがいた。
予定通りだな、よしよし。
「予定通りきたよ」
ボカッ。
「うぐぅ・・・いぢめられに来たんじゃないのに・・・」
「いきなりバラすな」「うぐぅ・・・」
「あらあら、朝からケンカはだめよ」
はっ、いかんいかん。
「い、いえ、ちょっとからかってただけですよ」
「ボクは大丈夫だよっ」
ふぅ、やれやれ。
「あゆちゃん、今日は洋食だったわね」
「うんっ。あ、今日はいろんなジャムを食べてみたいなっ」
「いいわよ。前食べてもらったジャムもあるけどいいかしら?」
「うん、いいよっ」
よしよし。あゆのやつ、いい演技じゃねーか。
「祐一さんもどうかしら?」
「うんうん、え゛っ?」
「祐一君も食べるよねっ」
「・・・・・・はい・・・・・・」
くそっ、しまった。一生の不覚・・・
俺たちはあのジャムも含めていろいろなジャムを味わった。
「おはようございます・・・」名雪が起きてきた。
「イチゴジャム・・・くー・・・」
ボカッ。
「寝るなっ」
「祐一、いたい・・・」
「あのジャム食いたいのか?」
「・・・ううん」
「おはよう、名雪」「名雪さん、おはよう」
「おはようございます・・・くー・・・」まだ目が覚めてねーな。
俺は名雪のトーストに6種類あるあるジャムを全部塗ってやった。
「祐一・・・これじゃ食べられないよ・・・」
「一口で6つも味わえるんだぜ、ぜーたくだな」
「うー」
とりあえずいろいろあったが楽しい?朝食のひとときだ。
「あゆ、そろそろ頼むぞ」「うんっ」
いよいよ作戦決行だ。
「秋子さん」
「なに、あゆちゃん?」
「ボクもジャムを作ってみたいんだけど、できるかなっ?」
「大丈夫よ。でも今日は材料を切らしてるから今度またいらっしゃい」
「うん、いいよっ。でもとりあえずサンプルが欲しいな」
「いいわよ。どれがいいかしら?」
「えーっとね、これと、これと・・・」
「じゃあ全部持っていっていいわよ」
「ありがとう!秋子さん」
やったー!これで半分はクリアだぜ。
「祐一さん、すごくうれしそうね」
ぐあっ、さすが秋子さん、こういうところは鋭い。
「いや、あゆがうれしそうだったから」
「うん、ボクも楽しみだよ」
ボカッ。
「うぐぅ・・・ボク何か言った?」
「まぎらわしい事を言うなっ。『楽しみ』だなんて」
「うぐぅ・・・ひどいよ祐一君」
「祐一さん、女の子に手を上げちゃだめよ」
「祐一、あゆちゃんにあやまろっ」
しまった。俺が作戦をつぶしてどーする。
「ごめんな、あゆ」
「ううん、全然気にしてないから」
「じゃあ、今日はこれでお開きね」
「ごちそうさまっ」「ごちそうさまです」「ごちそうさま」
ついにジャムのサンプルをゲットした俺たちは早速次の行動に移った。

〜to be continued〜


あとがき
KanonのSS第2弾。ジャムネタです。
ここまではうまくまとまったんですが、
ギャグに走るか、シリアスにするか、正直迷ってます。
はてさて、どうなることやら(-_-;)
199/07/08



MIDI:「Kanon」より「木々の声と日々のざわめき」
作者:TETSUさん