月齢3.8の薄暗い夜に、黒づくめの男たちが街を徘徊する。言わずと知れた、悪名高き星商人どもだ。時折きらりと空を辷ってくる星のかけらを集めている。
それは、加工され薬となるのだが、非常に効能あらたかなもので、従ってとてつもなく高い。高いが、必ず効くので、値はつり上がる一方という代物。星商人どもが目の色を変えるのも無理はないのかもしれない。
今また、一つの流れ星が空を斜めに辷って来るところだ。暗い夜道の中程で、目ざとく星商人の目が光る。
(あちらだ、あの4丁目の三叉路だ)
黒づくめの身なりのよい彼らは、だが足音一つ立てずに獲物に向かって忍び寄る。商人同士の連帯感というものも存在しない、シビアで孤独な世界。一つの星のかけらに数人の星商人が集まった時などは、静かなる死闘が開始されることも稀でない。
砂まみれのコンクリ舗装の路面にキラリと光る、流れ星のかけらは落ちて間もないためか、かすかにしゅわしゅわと音を立て、光の粉を吹き出している。これがもうしばらくすると、そこらの石ころとなんら変わりがなくなる。目利きの星商人でさえ、区別は難しい。かちんと割ってみれば両者の判別は簡単なのだが、それをやってしまうと、価値がなくなる。常に時間との戦いがそこにはあるのだった。
4丁目の三叉路を黒い人影が、さっと通り過ぎた。一番手に現れたこの商人は、邪魔が入ることなくかけらを懐にしまい、左の角を曲がって、立ち去ろうとした。
「君、待ちたまえよ」
背後からの声。商人はライヴァルが現れたことに気付いた。このセリフは宣戦布告の合図なのだ。しぶしぶと振り返り、商人も返事を返す。
「待てといわれて、待つ義理はない」
これは、戦いを受けて立つ場合の返答で、商人はくるりと身を翻して走り出した。その素早さは尋常ではない。黒い一陣の風とも形容できそうな走りっぷりは、酔っぱらいを駒にし、犬猫を怯えさせる。すぐさま後を追うライヴァルも負けてはいない。
商人たちは、市の中心にある星商人の商工会館まで追いつ追われつの駆けっこをする。その間にあらゆる武器を使って星のかけらを奪い合い、商工会館に着くまでに星のかけらを手にしていたものが権利を獲得するのだ。
今、追っ手の男は懐から数枚のカードを取り出した。一見してただのトランプだが、しかしトランプには「切り札」の意味がある。
鋭く投げつけた。幾枚かは、はねのけられ、さらに少ない枚数が、男の体に突き刺さる。
男はバランスを崩して歩をゆるめた。身を傾けながら、懐に手をやる。
振り返りざまに火薬粉をばらまき、続けて投げつけられたカードを燃やし、追っ手との間に煙幕を張った。
追っ手は舌打ちし、追われる男は、体勢を立て直して、素早くT字路の角を曲がった。どちらに曲がっても、すぐにまた角があり、見通しがよくない。
T字路に立ちつくして、追っ手の男は、左右を交互に睨んだ。
商工会館へは、右手に曲がる方が近かった。右から、さらに左、右と曲がったところで商工会館の裏手に出る。
その後の勝負がどうなったのか……わたしは雲に視界を遮られてしまったのでわからない。