そこはお月さんの行きつけの店だった。
新月の晩の、六時きっかりには必ず店のおきまりの椅子に座っている。そうして八時には一悶着起こしている。
お月さんはとても喧嘩ばやかった。
好戦的で、そのわりにひどく弱い。これは周知の事実だ。それでもお月さんがうまく渡り合っていけるのには、ちょっとしたコツがあった。
お月さんは必ず喧嘩相手を店の外へ誘きだす。相手はむろん、店のマスターに追い出されたと思うのだが、実はお月さんが大げさに店内を逃げまどい、挑発し、暴れ回って備品を壊すので外へ出されるのだ。
外に出たら、お月さんの反撃が始まる。相手はお月さんが弱いとタカをくくっているから、油断している。
そこがお月さんの狙い目でもあった。勝負はいつも、あっという間に片がつく。きっと相手はなにが起きたのか、悟るゆとりもあるまい。
電光石火、背広の内ポケットから爆弾を取り出し、まるで癇癪玉を投げつけるかのごとく、相手の足元へたたきつける。ニトロのきいた爆弾は、瞬く間に敵を彼方へと吹き飛ばしてくれる。
お月さんはそれを見るとスカッとした気分になれるのだった。
むしゃくしゃするときにはこれが一番だ。
つまり、新月の晩には。
日毎ダイエットを繰り返し、やっと理想体型になれたと油断しては肥え太る。そんな連続の中休みには、いいストレスの解消行為なのだ。
機嫌のよくなったお月さんは、改めて店に入り、一杯やる。
これも決まったことだった。
そうして午前二時には、先刻吹き飛ばした相手の復讐にあって、空へ放り投げられるのだ。
お月さんの短い休暇は今晩もいつもどおりの終わりを告げた。