夜の街を子供たちが大勢で歩いている。まだ小学生くらいだろう。近くの雑居ビルに進学塾ができて、このあたりも、子供が夜遅くまで出歩くようになった。
妙に疲れた顔をしている子供たちを大人は、見て見ぬ振りをする。
その子供らの集団から少し遅れて、女の子が一人歩いていた。体の具合が悪いのか、手で腹を押さえ、前屈み気味だ。
少女は、早く家に帰らなければと焦っていた。
塾の授業の半ばから、下腹が痛かった。ここのところずっと、調子が悪い気がしていたのだが、今日は特に痛み出したのだ。
病気になったのだ、と少女は思った。先生の話も上の空で、早退しようか、それともあと少しなのだから、我慢するか、そればかり考えているうちに、当の授業が終わったのだ。
ほっとして、帰り支度をし、教室を出たが、皆よりは出遅れてしまった。薄暗い階段を降り、通りにでると、ビルの間からやけに大きな満月が覗いているのが見えた。
電車に乗り、バスに乗っての帰宅道、窓の外には、大きな満月。満月を眺めていると、痛みも安らぐ気がする。
家に帰り着くと、母がにこやかに迎えてくれたが、娘の顔色の悪いのに気がつくと、ハッとしたようになって、「どうしたの」と聞いた。
「お腹が、痛いの」
「お腹? ずっと痛いの?」
「うん。今日授業中から痛くなって。でも前からずっと変だったの」
「お腹だけ痛いのね」
少女は頷いた。そう問答する間にも母は、額に手を当て、腹をさすり、腰をさすったりした。そうされると、気持ちがよかった。
「そうね。じゃあまず、おトイレに行ってらっしゃい」
少女は、素直に指示に従った。
「おかあさん!」
やがて、トイレから娘が叫ぶのを聞いて、母はゆっくりと、トイレに近付いた。
半べそをかいて、娘が見上げてくる。安心させるように微笑むと、母は告げた。
「大丈夫よ。病気じゃないのよ。少し、大人になった証拠なの。今度、お赤飯炊かなくちゃね」
そういわれて、少女にも、なにが起きたのか薄々とわかってきた。ぱっと頬を染める。
「いらっしゃい。着替えましょ。あんたも、もうそんな年になっちゃったのねぇ。おかあさんも驚いたわ」
少女は、頷いた。