蒸し暑い夜、窓を開けたまま寝苦しいベットに横たわり、スタンドの明かりにたかる羽虫を手で払いのけながら、わたしは悶々として睡魔がわたしを安らぎの中へ早く連れ去ってはくれまいかと思っていた。
窓からのぞくお月さんはまん丸に肥え太り、ほのかにオレンジ色で、これまたまことに暑苦しい。
わたしは腹立ちまぎれに、読みかけの本を月に向かって投げつけた。
「いてっ」
かすかに声が聞こえた。
わたしはハッとして、雨戸を閉め、窓を閉めると、スタンドの明かりを消して、布団を目深にかむって寝たふりをする。じっとりと汗が噴いた。
がしゃんがしゃんと雨戸を揺さぶる音が聞こえたが、わたしは無視した。
翌朝、雨戸の下に昨夜投げた文庫本が落ちていた。 一枚の紙切れがはさんである。
「あなたのご本はお返しします。月夜にはお気をつけ下さい」
とあった。わたしは震えながら、手紙を破り捨てた。