月の出の時刻になっても、お月さんが現れないので皆で噂していると、角から澄ました顔でやって来た。
すぐにお月さんを取り巻いて、糾弾した。
「おいおい、今何時だと思ってんだよ」
「職務怠慢だ」
「こう暗くちゃ、せっかくの酒も呑めやしねぇ」
「さっさと天に帰りやがれ」
皆にさんざん責められても、お月さんは、へらへら笑っているばかりである。
「ラリってるのかい? 縁起でもねぇ」
男たちの一人がたじろいでいう。男どもは一瞬顔を見合わせた。
そうして、惚けているお月さんをそっと坐らせ、その傍らでひそひそ話をはじめる。
「どうするよ、今晩は十三夜だぜ?」
「お月さんをふくろにしてもいいが、日が悪すぎるな」
「なんでまた、よりによって、お月さんのやつは・・・・・・」
「それをいっちゃあ、もとのもくあみよ。さて、皆にてがねぇなら、俺にひとつ案がある」
やがて男たちは、酒を手に、お月さんを囲んだ。
お月さんは、まだ心ここに有らずといった風である。
「さあさ、お月さん、気付けに一杯おやんなさいよ」
「この酒は、今年一番の酒だよ」
「ほらお呑みなさいって・・・・・・おお、呑んだ」
お月さんはぐびりと一口で杯をからにする。男たちの顔に喜色が浮かんだ。
「そらそらもっとおやりなさい。やっぱり御神酒は効くねぇ」
男たちは、今晩のために神社に奉納していた酒を持ってきたのだった。
お月さんは、杯を重ねるうちに、理性を取り戻したようだった。それまで、男衆に口まで持っていってもらっていた杯を自分の手で奪い、ぐいと飲み干すと、キョロキョロと辺りを見回す。
「気がついたようだな、お月さんよ」
男どもはまたさっとお月さんを取り囲み、凄みをきかす。
「・・・・・・ああ、すまない。どこかで一服もられたらしい」
「そうかい。しかし俺たちも今晩はあんたに誠意を示した。あんたが今晩天空を照らしてないと、俺たちが困るのは百も承知だろう?」
「ううむ、今日は十三の月だものな。来年は、いつにましての豊作を約束しよう」
「わかりゃいいんだ。さ、もう一杯やりねぇ。今晩は俺らと呑もうや」
そうして、男衆とお月さんは一夜を呑み明かした。