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夜の散歩 1



 まだらの夜空に玲瓏な月が渡っている。
 雲の波間は絶え間なく続き、月は隠れたり現れたり。明かり一つない道を、月はそれでも充分に照らしだした。
 夏はもう帰り支度を始め、昼間とはうって変わって秋の虫が声をあげている。空気までがすでに肌寒い。
 どうやら季節は夜に忍び寄るらしい。鈴のような音をたてて、道は賑やかであった。
 時折ひょいと蟋蟀が道に躍り出ることもある。
 長い触覚を震わせてじっとなにかを探ると、すいと草葉の陰へ隠れてしまった。
 林の向こうから黄金虫が重い羽根を広げて飛んでくる。
 ぶーんとくぐもった羽音が辺りに響き渡る。
 それはまるで飛行機のエンジンのようだ。
 一直線に道を横切って、別の林へと赴くのだ。
 はたりと虫の音が止んだ。
 わたしの気配に世界は一時、静かになった。
 歩き始めたわたしに、世界は緊張している。地を踏みしめる音が小さく響く。わたしは慎重に歩を進める、彼らを驚かさないように。
 そのうち、警戒を解いた虫たちが音楽を再開した。
 地を踏む音と虫の音。
 わたしも世界の一部なのだなぁ、と感じた。



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