まだらの夜空に玲瓏な月が渡っている。
雲の波間は絶え間なく続き、月は隠れたり現れたり。明かり一つない道を、月はそれでも充分に照らしだした。
夏はもう帰り支度を始め、昼間とはうって変わって秋の虫が声をあげている。空気までがすでに肌寒い。
どうやら季節は夜に忍び寄るらしい。鈴のような音をたてて、道は賑やかであった。
時折ひょいと蟋蟀が道に躍り出ることもある。
長い触覚を震わせてじっとなにかを探ると、すいと草葉の陰へ隠れてしまった。
林の向こうから黄金虫が重い羽根を広げて飛んでくる。
ぶーんとくぐもった羽音が辺りに響き渡る。
それはまるで飛行機のエンジンのようだ。
一直線に道を横切って、別の林へと赴くのだ。
はたりと虫の音が止んだ。
わたしの気配に世界は一時、静かになった。
歩き始めたわたしに、世界は緊張している。地を踏みしめる音が小さく響く。わたしは慎重に歩を進める、彼らを驚かさないように。
そのうち、警戒を解いた虫たちが音楽を再開した。
地を踏む音と虫の音。
わたしも世界の一部なのだなぁ、と感じた。