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搾られた月



 星がチカチカ揺れていた。
 まん丸い月に夜道は明るい。
 凍てついた空気が耳に痛い。
 少し下がり気味だったマフラーをずり上げ、小石を鳴らしながら、わたしは家路を急いでいた。あの角を曲がれば、家はもうすぐそこだ。
 そう思ったとき、その声は聞こえてきた。
「満月だ」
「満月だね」
「今日はたっぷり搾り出せるぜ、な相棒?」
「全くその通りだ」
 わたしは足音を忍ばせて、声のする方へ近寄った。二人の黒づくめの男が、折り畳み式の梯子とバケツを手に天を仰いでいる。
 そのまま物陰に隠れて様子をうかがっていると、「じゃあ、やるか」男たちのうちの一人がおもむろに梯子を地面に突き立て、するすると登っていく。梯子を登るごとに梯子自体も天に向かって伸び始め、男は瞬く間に豆粒ほどの大きさになった。そうして月にその影が映るようになると、梯子は伸びるのをやめたようだった。
 月光の中、男は両手を大きく広げ、月を抱きかかえるようにして鷲掴みにしたように見えた。地上に残った男はその様子を見て、バケツを差し出す。

 ボタタタタ。

 天から何かがバケツの中に落ちてきた。

 ボタタタタタタタ。

 こんなに距離があるのに、ねらい違わずバケツの中に吸い込まれていく。それは雨粒のようなものだった。だが、月明かりの中でさえ、黄金色に煌めいて見える。
 バケツの中には、まるで光がたまっているかのように輝いている。ほどなくしてバケツ一杯に光がたまった。
「相棒、もういいぞ」
 呟くような声であったが、天のいる男にはそれで十分だったらしく、行きと同じように素早く梯子を下りてきた。それから二人の男は、バケツの中を眺め合い、「いいできだ」とかなんとか述べ合った。
 それから男たちはくるりとこちらに振り返ると、
「月のしずく100%のジュースでござい」
といって、いずこともなく駆け去っていった。
 わたしは自分の存在がバレていたことにどきまぎしながら、風のように去っていった男たちを見送った。



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