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星のかけら



 残業でくたくたになった晩に、家近くの路地で何か光るので見てみると星のかけらだった。
 虚暗いアスファルトの道に金の光を放つそれは、天の星々と同じように輝いて見えた。このかけらは本物に違いない。
 かけらは、闇市で高く売れるのだ。装飾品というわけではなく、かけらに施しを加えて薬をこしらえるのだが、そんなことはわたしにはどうでもいいことだ。つまり、わたしにとってこれはちょっとした金儲けになるということが何より重要なことなのだった。
 わたしがこれを見つけたのは幸運だった。星のかけらは滅多に落ちていないのだ。
 落ちていたとしても、星狩り商人たちが残らず狩っていってしまう。
 星狩り商人は、夜毎星のかけらを専門に回収する商人たちだ。一晩に数個の星のかけらで、わたしたちサラリーマンが稼ぐ五、六年分の金を儲ける。
 わたしが星のかけらをもっていると奴らに知られたら、なにがなんでも横取りされてしまうだろう。奴らはたちの悪いことでも有名なのだ。
 だからわたしはすばやく星のかけらを胸の隠しポケットに滑りこませた。みすみす奴らに渡してしまうことはないのだ。
 案の定、わたしが何食わぬ顔で帰路につき始めると、後ろの角から星狩り商人が姿を現した。まるで葬式帰りのような、真っ黒の背広ネクタイに白い手袋は、奴らの仕事着だ。何故そのような服装をするのかは誰も知らない。
「よこしたまえ、君が星のかけらを拾ったことはお見通しだ」
 男は単刀直入にそう言った。
「ほう、君の目は千里眼かね。そんな証拠がどこにある」
 わたしはそう言い返した。
「黙れ、お前にそんなことを聞かれる筋合いなどない。おとなしく渡したほうが身のためだ」
「ふむ、聞かれて答えられないのだから、そう言うのは必然だな」
「なにを、これ以上の侮辱は我慢ならんぞ」
 男はそう叫ぶや否やわたしに飛びかかってきた。わたしはといえば、きっとここで相手が掴みかかってくるだろうと想像していたから、ひらりと身をかわすことは簡単だった。男はわたしが避けたのでぶつかる対象物のないまま勢いよく路地につんのめった。
 してやったりとわたしはにやりとした。いい気味だ。しかしわたしは自分の腕にそう自信をもってはいなかったので、これを機会に逃げ出すことにした。
 男が地面に打ったところを手でさすりながら立ち上がった頃には、わたしは家に帰って玄関の鍵をかけてしまっていた。

 翌日、朝一番に会社へ「今日は風邪をひいたので、欠社します」と電話をかけ、星のかけらを闇市に持っていって金と引き換えた。それから何食わぬ顔で、「薬を飲んだら風邪が良くなったので……」などと言い訳をして会社に出社した。
 こうした儲けは秘密に得るからこそ楽しみとなるのだ。




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