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針の月



 細い細い銀の月は、青い闇の中で鋭利に輝いていた。
 道はかぼそい月の光のみに照らされて、やっと路面が見えるか見えないか。
 ちょうどT字路の白熱灯の周りだけが明るい世界を築いている。水色の大きな蛾がハタハタと舞っていた。
 時刻は丑三つ時、T字路の角から千鳥足の男がぬうっと現れた。道の端から端まで行きつ戻りつ、いっこう歩が進まぬのにじれた月が、尖った体でちくりと男の尻を刺した。
「あいたっ」
 男は正気にかえると、辺りをぐるりと見回したが誰もいない。天には小気味よげに月が輝いていた。



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