杉の柩
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アガサ・クリスティー著、早川書房

 ミステリ界の女王、アガサ・クリスティーの著作です。エルキュール・ポワロもの。クリスティーの作品はテレビ、ビデオ、映画、お芝居にもなっているので、知らない人はほとんどいないのでは?!
 そしてクリスティーが生んだ名探偵エルキュール・ポワロを知らない人もいないとは思いますが、御存知ない方のためにちょっと人物紹介。エルキュール・ポワロは、ベルギー人です。よくフランス人と間違えられています。きちんとした身なりに卵形の頭がのっています。小さな灰色の脳細胞と口ひげが大の自慢。ベルギーでは警察に勤めていましたが、定年退職してイギリスに渡ってきました。そして、探偵業を始めるわけです。しょっちゅう、いえ、たまにもう引退して、田舎で野菜を作って暮らすんだとかいっています。美食家。……うう、こんな言葉の羅列ではあらわせないくらい人物が書き込まれています。みんな、ポワロを知らないなんて、損してる!
 この作品では、殺人容疑で逮捕され、裁判に掛けられることが決まっている女性を救って欲しいと医者に頼まれたポアロが、真相解明に向けて、捜査を開始しますが、どの人の話を聞いても、その女性が犯人ではないかと匂わせるものばかりでした。八方塞がりの捜査の中で、医者にせっつかれながら、しかしやっぱりポワロは、その女性の無実と真犯人を指摘します。
 室生はクリスティの語り口が好きです。その時代の生活感がにじみ出ていて、すでに犯人が分かっているものでも、おもしろく読めます。もちろん、どこに伏線が張ってあるのかみるのも一興です。訳も丁寧な言葉を使っているのがいい。小説の登場人物に上流階級が多いとしても、なんて優しい言葉を使っていることでしょう。それが鼻につく場合もありますが、いい雰囲気のほうが勝っていることは確かだと感じます。この頃の日本は、こういう言葉使いをしていたのだと改めて、日頃の言葉のぞんざいな話され方に哀しさを覚えますね。
 室生のクリスティ作品で近頃お気に入りの一冊は、やはりポワロもので、「鳩のなかの猫」です。こちらもどうぞ。