はぐれ雲新之助の気まぐれ絵日記

2002/05 著作


第1章 オイラ

オイラは、中年のオヤジ。
 いまだにチョンガーで、母と2人暮らし、
仕事もこの不景気の中、希望退職を願い出て退職
今もって次の仕事も見つからず、もぉ、数ヶ月遊んでいるのだ。
毎日の様に時間を持て余し、やたらに無駄な1日を過ごしている事にも、
なんだか慣れきってしまった・・・。

 テレビを見るのも飽きた。
インターネットを接続するのも飽きた。
ウォーキングも飽きてきた。
  物を造るのも、
ギャンブルも・・・。

「あぁ〜、何か面白い事、、、ないかなぁ〜」
「あぁ〜、退屈じゃぁ〜!」(ふぅ〜)

普通の人ならば、旅行でも行って気分転換するのだろうが
オイラは、極度の乗り物恐怖症で、それも、まま成らない・・・

情けない中年のオヤジが、ここに居るのだった。

 
第2章 きっかけ

今年の春は、やけに暖かく近所にある桜並木の桜も、
3月の終わりには既に葉桜になってしまった。

4月に入ったある日、その葉桜のトンネルの下をいつもの様に
ウォーキングするオイラ。

毎日、そこは通るのだが、その日の葉桜のトンネルは、
いつもと違った感じがした。

地面に散った桜の花が茶色に変色し、まるでジュータンを
敷き詰めたようになり、それを覆うかのように
緑の葉桜がトンネルをつくり、
緑のすき間から木漏れ日が差し込む・・・。
ちょっとした、森林浴気分に浸っていた。

  

そして、何気なく葉桜の向こうに見え隠れする山並みを眺めていた。

「山でも、登ったら気持ち良いだろうなぁ〜」

と、思いつつも一人では登る気がせず直ぐに頭の中から消えていた。

そんなある日、
近くに住む兄夫婦からパソコンにメールが届いていた。

「なんだろ?」と、メールを開いてみると・・・

「今日、極楽寺山に数十年ぶりに登った」

「えっ!!」

極楽寺山とは、葉桜の向こうに見え隠れしていた山の事だった。

「あぁーーー、誘ってくれれば・・・・」

そのメールを見て以来、極楽寺山に登りたくて身体がムズムズしている
のが自分でも解るようになっていたのは言うまでもあるまい。



第3章 極楽寺山極楽寺


「極楽寺山かぁ〜・・・」

オイラの住む廿日市(はつかいち)市と、お隣の街、
五日市(いつかいち)市の境にそびえ立つ標高約693メートルの山で
瀬戸内海国立公園に指定されている。
登山の他にもクルマでも山頂近くまで上がる事ができキャンプ場や
温泉などの保養施設も最近は設けられている近郊の住民に
親しまれている山なのだ。

モミの原生林に囲まれた山頂付近には、
山の名称どおりに極楽寺という山寺がある。
聞くところによると極楽寺は天平3年(731年)の開山で、
極楽寺本堂は毛利元就に再興され唐様式仏殿の面影を
保つ県の重要文化財らしい。
また、極楽寺の本尊である十一面千手観音は行基作で後に
弘法大師により開眼したと伝えられている。
また、木像では、日本最大級の高さ8mの大仏が本堂横に
安置されており、年に1度、4月の本尊千手観音世音縁日、
通称「かんのんさん」の日だけ一般に公開されている。

「もぉ、数十年、登っていないよなぁ〜・・・ ?」



第4章 着々と・・・

「どぉ〜も、登山の事が頭から離れず身体がムズムズしてタマらん!」

そこで、登山する、しないに関わらず極楽寺山の
登山ルート等を調べてみることにした・・・。

インターネットで検索したり、
実際に登山した兄にメールで問い合わせてみたり、
本屋で山関係の本を立ち読みしたりと、、、。

  調べているうちに登山コースが五日市(五日市)・
廿日市(はつかいち)平良(へら)・廿日市原の
三コースある事が解ってきた。

五日市コースは、小学校のころ遠足や友達などと数回登った
経験があるコースで登山コースとしては比較的楽なコースらしい。

平良コースは、兄夫婦が登ったコースで登山口が我が家から
一番近い・・・しかし、急坂が多く中級者向けのコースらしい。

  原コースは、観光協会などが極楽寺登山を募集したりする
一般的コースだけど、登山口が遠いのがネックとなる。

「ううむ・・・ どないしょ?」

「兄達は、平良コースを登ったらしいが・・・」
「兄達は色々な山をトレッキングしているウォーカーだからなぁ〜」

仕事を辞めて以来、散歩程度しか歩いていないので
自分の体力に自信がなかったのだ。

「オイラは、平地ウォーカー・・・」 
「いきなり急坂にチャレンジは無謀かなぁ〜???」

などと、思いつつも次第に平良コースへ挑戦する
気持ちが大きく膨れあがってきたのだった。
その後は早かった。。。

 図書館で詳しい登山口までの地図やコースの参考本などを
調べ上げオイラなりの登山地図を作り上げていた。
  それと共に、大きめのウエストバックやペットボトル入れなどを
少しづつ買い集め登山の日に備えるようになっていた。

「久々の登山・・・万が一、道を迷って暗くなったときの為に
ライトを買ってぇ〜 ・・・ そうだ、杖もいるかな?
 まてよ・・・杖は、カメラ用の一脚で代用できるぞ!」
 
こんな感じで、気分は、すっかり登山モードに切り替わっていた。



第5章 行くっきゃない!

4月21日、日曜日・・・雨。

この日は、年に一度の極楽寺のお祭り「かんのんさん」の日だった。
 街の観光協会も記念の原コース登山参加者を募集していた。
しかし、あいにくの雨。
登山初心者のオイラには、雨中の登山は驚異に感じ参加出来なかった。

残念。

4月22日、月曜日・・・晴れ時々曇り。

朝、テレビの天気予報を見ると1日中晴れて気温もかなり高くなるみたいだ。
気温は、4月としては異常な暑さの28〜30度の予想がでている・・・。
実は、オイラは暑さにかなり弱い。
ましてや、登山となると体力がもたない・・・。

「あぁ〜、どないしょ ・・・  無理かなぁ ・・・ 
でも、今日登らないと明日から天気がくずれそうだしぃ〜。」

心の中で、葛藤しながらもコンビニへ100円おにぎりと、
ペットボトル(スポーツドリンク)を買いに行っていた。

「あはは ・・・ こりゃ〜、行くっきゃないじゃん!」

てな訳で? 白いタオルを首に巻き・・・ムギュ
(苦しい〜・・・ちゃうがな)、、、

おにぎりなどをウエストバックに詰め込んで腰に巻き、
白い帽子をかぶり、一脚を片手に握り、、、

「さぁ〜、小学校以来の登山に出発じゃぁ〜!」

時計を見ると、丁度9時だった。
強い日差しを背中に浴びながら平良コース登山口を目指し
川沿いを北上するのだった。

「暑ぅ〜・・・ やっぱり 止めようかなぁ〜」

思いとは、裏腹に身体の方は、
着実に登山口へと近づいているのであった。。。



第6章 入山・・・。

家を後にして30分後、平良登山口の標識を発見・・・ホッ。
登山口と言っても民家の玄関脇をすり抜けて入山する感じで、
うっかりしていると見逃してしまいそうな登山口だった。
ウエストバックのベルトを締め直し、
カメラ用の一脚を長く伸ばし、登山の準備OK!

「よっしゃ・・・入山するっか。」

空を見ると、晴れていたはずの空がいつの間にか曇り空になっていた。
山道の道幅は、思ったよりも狭く、1メートル有るか無いかで、
しかも昨日の雨で湿り気があり滑りやすくなっている。
山道は、予想以上に初めから急な登り坂で、フッと前方を見ると
木々の枝が山道を覆うようにトンネル状になっている。


「マジかよ〜、薄暗くて気味が悪いよ〜」
「何か出て来そうだし・・・うぇ〜ん、やだなぁ〜」

でも、ここまで来て引き返すわけにもいかず
恐る恐る進んで行くと程なく右手に・・・

「極楽寺まで、あと90分。 迷わないでね」と標識があった。

記念に、ウエストバックに入れていたデジタルカメラを取り出し

「パチリ」

一人歩きは、退屈なので写真を撮りながら登って行くことにした。
その標識を過ぎると今度は注意書きの札が吊してあり・・・

「芸予地震の影響で山道の陥没やひび割れなどがありますので注意して下さい。」

  

「おいおい・・・・」

厳しい登山の予感が・・・・トホホ。
辺りは、相変わらず何か出て来そうな木々のトンネルが続いている。
不安になりながらも仕方なく登って行くと小さな墓石のような物が
草に埋もれているのが見えた。


「七丁」と書いてある・・・?

そう言えば図書館で、調べたとき山道の所々に標石があって、
それが登山者の目印となると書いてあった事を思い出した。

「確か・・・七丁を過ぎると辺りが開け遠くに高圧の鉄塔が
見えてくるって書いてあったよなぁ〜・・・」

なるほど、、、しばらく歩くと木々のトンネルから抜け出る事ができ
曇った空も見る事が出来た。
周りを見回して見ると説明どおりに小さく鉄塔が見える・・・

ホッ。


薄気味悪いトンネルを抜けた開放感からか、、、
急に小便をしたくなり、キョロキョロ辺りを見回し
小さないちもつを引っぱり出し至福のときを・・・・

ジョンジョロリ〜ン。

大自然の中での小便は気分良い(笑)。
すっきりした気持ちで山道を歩いていると
前方に自然のオブジェを発見!?


只の皮が所々はげ落ちた木だけなのだが、、、
皮の黒い部分と、実の白い部分のコントラストがクッキリと
分かれていて不思議な雰囲気を造形していた・・・ 
何だか、得をした気分だ。
そんな小さな喜びを味わいながら鉄塔を目指し、
なだらかな坂道を登って行くのであった。

ところが、そんな喜びも、、、ひとときだった。
山道に堆積している落ち葉を踏みしめるたびに、
ガサガサ、ゴソゴソ・・・?

「何だろ・・・?  まさか、ヘビ!?」

恐る恐る、足元を確かめながら歩いていると大量のトカゲが
逃げ回っているのが見えた。

「わぁー・・・人間がきたぞぉー!」

「な・なんじゃ? トカゲが喋ったぁー・・・気持ち悪」

足元に気をとられていると何やら前方で音が。。。(ブゥーーン)

「あわわっ!」

でっかいハチの様なヤツが、まるで進行を妨げるかのように山道前方で
静止飛行し、こちらの様子をうかがっている。
そう言えば・・・

「兄が、ハチとか、ヘビに注意しろ」

と、メールでアドバイスしてくれていた事を思い出した。

わっわっ、勘弁してくれー・・・小便した事は、
謝るけぇ〜、、許してぇーー・・・」


しばらく、立ち止まって、ハチとにらめっこ・・・
足元では、相変わらずトカゲ達がガサガサと、うごめいている。

「うぅーー、・・・ ワン!

何故か、叫んでいた?

すると、ハチの八平が怯んだのか、それとも呆れたのか
一瞬、道を開けたのだ。
オイラは、咄嗟にその場から回避するように走り抜けた。

「あぁ〜・・・ 助かったぁー」(ホッ)

しかし、それだけではなかった・・・。
気分を落ちつかせ、先を急いでいると、何やら上空から肩の上に

・・・ポトリ。

「何だろう・・・?」と、左肩を見ると・・・

「う゛ぅぁぁぁぁーーー!!!」

肩の上に、5センチくらいの毛虫がチョコンと乗っていて
「こんにちわぁ〜」と、こちらをつぶらな瞳で見ていたのだ!

「ど・どないしょ ・・・ 
わっ、わっ!

身をひねって落とそうとするが、毛虫はオイラの肩が気に入ったのか、
しがみついているのだ。

「そんなに邪険にしないでよぉ〜ん ・・・ お・ね・が・い」(ウフッ)

「ひょぇぇぇーー〜!!」

肩を何度も必死の形相で振り回し格闘するも、、、
相手は、手強い。
それならばと、手に持っていた杖代わりの一脚で ・・・
 
バシッ!

見事に毛虫の身体に一撃を喰らわす事に成功し
毛虫の花子は地面に落下していった。。。?

「ふぅ〜〜〜〜」

ゼイゼイ、言いながらも胸をなで下ろし勝利の雄叫びを・・・

ォーーーーー・・???」

アハハ・・・ 慌てて肩を振り回したせいか首の辺りがつってしまった

「痛てて・・・」

そんな、こんながあって、気が付くと目標にしていた高圧鉄塔の下へ、
いつの間にか到着していた。

何だか、自動車の走る音がヤケに大きく聞こえてくる?
鉄塔を過ぎ下り坂を下りていくと、、、
そこは、山陽自動車道をまたぐ極楽寺橋だった。

   

橋の上からは、遠くに下り線の宮島サービスエリアがよく見える。。。

入山して、30分が過ぎていた。



  ちょっと、余談? ハチに遭遇したら・・・

  ・山登りのときは、出来るだけ白い服装で歩きましょう。
 ハチは、色の濃い動く物を襲います。

  ・ハチが近づいても決して手で払いのけないこと。 
攻撃と思い襲って来ます。

  ・素早く、その場所から回避しましょう。 
ハチのテリトリーは、約10mなので逃げる。

  ・回避出来ないときは、白いタオルなどで頭を覆い姿勢を低くしましょう。
ハチは、縦の動きを認識できません。 
上手くいけば、見失って攻撃を中止します。

  ・香水を持っていれば頭上にふりまきましょう。 
ハチは、あらゆる香水の臭いを嫌がり逃げます。

  ・刺されたら毒袋を摘まないように針を抜き、
刺されたところを指先で絞り出すように摘み毒を出します。

  ・よく小便をかけるとよいと言いますがアンモニアは殆ど
含まれていませんので、水で洗い流しましょう。 
ハチの毒は水に溶けるので効果があります。

  ・出来るだけ早めに医者へ行きましょう。
ただし、スズメ蜂に刺されたときは、
助けを呼び、あまり動かないようにしましょう。



弟7章 難所 ・・・ そして


実は、下調べで平良コースの登山は、
この極楽寺橋を過ぎてからが本当の登山となるらしいのだ。
クルマの騒音を聞きながら橋を渡りきると、
いきなり舗装された急坂が・・・?


「あはは、、、 こりゃぁ〜、ゆっくり登らないと足が保たん!?」

などと、思いながら急坂を登っていると、何やら後ろから足音が・・・?
しかし、振り返って見る余裕すらない急坂。
だんだん、足音が近づいてくる・・・

「どんな、人だろう?  屈強な山男かな?」

な〜んて、想像を巡らせていたら、、、

「おはようございま〜す」と、女性の声が・・・?

「えっ? あっ・・・おはようございます」

と挨拶をしている間に追い抜いて行くのは、
オイラと同年代の小柄な女性だった。
しかも、重そうなリュックを背負って息も切らさずに登って行く

・・・唖然。


「す・凄い! スーパーウーマンだぁ〜」

見る見る姿は小さくなり、影も形も見えなくなった。
そして、「ふっ」と思った。

「ヤバッ!  小便とか、毛虫と格闘している姿を見られたかな・・・」
(赤面)

舗装された急坂の上部は地震の影響か大きく陥没し、
えぐり取られ木々が倒れ道をふさいでいた。
舗装された急坂は、直ぐに険しい山道と変化した。

 

「オ〜、マイ、ゴット!」


またまた、不安が脳裏を横切りながらも、木々に覆われた細い山道を
一歩一歩確かめるように、ゆっくりと登る。
参道は、極楽寺橋までとは違って岩が転がっていたり亀裂があったりと、
かなり様相が違ってみえる。

次第に、急坂がこたえてきたのか呼吸も「ゼイゼイ」と
苦しくなってきたころ・・・

「極楽寺まで、あと60分」の標識が見えてきた。

 

「入山してから、約50分・・・なかなか、良いペースじゃん。」

と、自分に言い聞かせる。
乱れた呼吸を整えるために辺りの景色や木々をゆっくりと
撮影しながらウグイスのさえずりに耳をかたむける。

ときには、ハチの八平や毛虫の花子と、
再度格闘しながら登り続けるのであった。

すると木々に隠れた山道の上から何やら話し声が聞こえてきた。

「ひょっとして、先程追い抜いて行ったスーパーウーマンかな?」

遠くに、女性らしき姿が見え隠れ・・・どうやら別の下山者のようだ。

「わっ、見る見る近づいてくる。。。挨拶しなくっちゃ。。。あわわ」

少し年輩の女性が下りてくる。 少し道を開けてあげて・・・

「こんにちわ〜〜〜」

女性もニコリと微笑みながら「ハイ、こんにちわ」と
言ってすれ違って下りていった。

「う〜ん。  見知らぬ人と挨拶って、何だか良いもんじゃのぉ〜」
「しかし、こんなに早く下山してくるとは・・・?」
「早朝登山者なのか?」
「それとも山頂で、1泊して下山していたのか?」
「ううむ・・・いずれにしても、又しても女性だよ。」
「むふふ・・・スーパーウーマン2号と命名しょう」
(笑)

山道は、益々険しくなってきた。
木は、真っ二つに折れ曲がり、大きな岩が至るところで
崩れ落ち山道をふさいでいるのだ。


「なんじゃ、こりゃぁぁぁーーー!」


岩を乗り越え、倒木のすき間をかい潜り登っていくと、
今度は急な階段が待ち伏せていた。

 

階段といっても丸太を横にして土に埋めてあるだけで、
今にも崩れそうな感じだ。その階段を見上げながら
乾いた喉をスポーツドリンクで少し潤した。

「プハ〜・・・美味い!」

相変わらず、木々に覆われた細い道が続いている。

「いったい、今、どのくらいの高さまで登っているのだろう?」

少し、不安になりながらも丸太の階段を登っていくと、
突然、お地蔵さんがまつられた、ほこらが目前に現れた。。?


「何で、こんな所に・・・・?」

何か、異様な空間に感じ、思わず手を合わせていた。
登山中は、気がつかなかったが、そこは「二十六丁」の標石が
あるところで、標高518メートル地点だったようだ。

ほこらを過ぎると下界が一望できる狭い岩場にでた。
少し休もうかと思ったが、おにぎりを食べながら
休憩している年輩の夫婦がいたので邪魔をしては、いけないかなと思い、
ゆっくり景色を楽しむことなく挨拶を残し歩を進めたのだった。

そろそろ急坂にもウンザリしていたが木々に混じって
ヤブツバキの花や山鳥の鳴き声が疲れを癒してくれる。


「これが、森林浴っちゅーもんかねぇ〜・・・ほっほっほっ。」

不思議と身体が軽く感じ足取りも軽やかになっているのだった。
それもそのはず、いつの間にか原登山コースとの合流地点に着いていた。


時間を見ると、既に11時・・・入山して、1時間半たっていた・・・。

かなり険しい道を登ってきたわりには、さほど疲れもなく、
(写真の顔は疲れているが・・・アハハ)
むしろ気持ちはワクワクしている・・・?

「あと、極楽寺まで、およそ30分くらいだ!・・・ ファイト〜!」

声には出さなかったが自分に気合いを入れ、少し楽になった
山道を進んで行くと、また、若い女性の下山者とすれ違った。

「スーパーウーマン、3号ってか・・・アハハ。」

ヤブツバキの花が山道にまかれたように落ちている・・・。


「綺麗やなぁ〜。 まるで、ツバキロードって感じ。」

辺りは、木々の原始林から一転して、ブナの原生林と変化していた。
ヒンヤリとした澄みきった空気を満喫しながら新緑を楽しんで
歩いていると大きな岩が見えてきた。
よく見ると、岩の上に小さなお地蔵さんが奉ってある?
  台座を見ると・・・

「大月観音」と書いてある。


「何で、こんな所に、、、?」

不思議に思いながらも、一応、手を合わせ拝んでいた。
空を見上げると、相変わらず曇っている。

「今日は晴れて気温も夏日となる予想が出ていたのに
、、、珍しくはずれたのかなぁ〜?」

「でも、登山には丁度良い」

「うんうん、日頃の行いが良いからのぉ〜・・・?」(笑)

所々にある標石もいつの間にか「三十丁」を超えていた。
さらに、先へ進んで行くと、珍しく道が二股に分かれていた。

標識を見ると「左・憩いの森」と書いてある。
「憩いの森」とは、極楽寺山の山頂付近にある多目的広場の事だ。

「やっほー・・・ もう少しじゃ。  右へ行けば、極楽寺だな。」

益々、足取りが軽くなるのが解った。
すると、直ぐに五日市登山コースとの合流地点に到着した。


この合流地点こそ、極楽寺の山門(仁王門)前なのだ。

左手を見ると十数段の石段の上に古びた仁王門が姿を見せていた。

  

「仁王門かぁ〜、小学校の遠足以来だなぁ〜、仁王様は元気かな?」

幼い日の記憶そのままに残る仁王門へと階段を登り、門の格子を
覗き込むと仁王様が「ギョロ」っとした目で、こちらを睨み返した。

「しかし、仁王様も歳をとったね・・・ 失礼やけど、ボロボロやん。」

仁王様が恥ずかしそうに照れ笑いをうかべた気がした。

「それじゃぁ〜、先を急ぐんで・・・・」

仁王門を潜ると正面に、三体のお地蔵さんが出迎えてくれた?


「わざわざ、出迎えて頂かなくても・・・・」と、手を合わせる。
(条件反射)

お地蔵さんの右側を見ると極楽寺へと続く急な石段が・・・。

  

「よし、この階段を登れば、極楽寺!」

数十年ぶりの石段をゆっくりと踏みしめながら登って行くと
正面に極楽寺が見えてきた。

標高661メートルの極楽寺境内に到着したのだ。
時間を見ると、11時半だった。

「ふぅ〜、久しぶりぃ〜」

シーンとした境内の砂利を踏みしめ、展望台へ足を進めた。
少し曇っているがオイラの住む下界が見渡せる。
重いウエストバックをおろし大きく深呼吸・・・。

  

「う〜ん、快感!」


ウエストバックを展望台に置いたまま極楽寺本堂へ向かった。
本堂前には、昨日のお祭りのなごりか、
営業していない露店が数軒置かれたままになっていた。


本堂も、ボロボロの小さな山寺ではあるが、
それがまた良いあじをだしている。

チャリーン・・・

  賽銭箱に5円玉を投げ入れ鈴を、カランカランと鳴らし

・・・南無。

昨日のお祭りだったら本尊の十一面千手観音座像を拝む事が
出来たのだが、今日は扉は、しっかりと閉じられている

・・・ちと、残念。

ふと横を見ると、本堂横の建物の扉が少し開いていたので、
こっそり覗いてみる事に・・・・?
照明の無い薄暗い部屋の中にボンヤリとデッカイ顔がドドーンと、
こちらを凝視していたのだ!?

「ヴワッ!」


(この写真は、珍寺大道場より借りました)

「だれじゃ〜・・・ 覗くのは。」

「あわわ。 オイラは痩せてて美味しくない。」
「食べないで下さいぃ〜」


「・・・・?」

落ちついて見ると高さ8メートルの日本最大級木像大仏座像が微笑みながら、
こちらを見ていたのだった・・・ほっ。
しかし、その大きさを間近に見ると威圧されてしまう ・・・ 凄い!

その後、展望台に戻り下界を見ながら昼飯の100円おにぎりを
・・・モグモグ。

「うぅーーー、美味いィ〜〜〜!」

気がつくと、霧雨が・・・
その情景は、まるで天上に居るかのようで実に神秘的であった。

「そぉ〜言えば、オイラが二十歳くらいだったか、、、
この展望台の前で、亡き父と写真を撮ったよなぁ〜」

懐かしい思い出を巡らせるオイラであった。



第8章 ブラブラと・・・徘徊


お腹も一杯になり、充電完了。
再びウエストバックを腰に巻き・・・

「ちと、山頂探検と、まいりますか。。。」

極楽寺山には、色々な場所に展望台が設けられている。
キャンプ場もある。 大蛇が住んでいたという蛇の池ってぇ〜のもある。
最近では、さくらの里とかアルカディアビレッジってぇ〜温泉もあるらしい?

「え〜とぉ〜・・・確か、本堂の横に山道があったはず・・・?」

本堂の横の山道を探していると、何処からか声が聞こえたような気がした?

「ゲロゲロ・・・ ちょいと、オッさん」

何気なく、横を見てみるとデッカイ、
カエルの石像がチョコンと座っているではないか・・・


「はて?  こんな所に・・・何で?」

その石像は、どぉ〜見ても場違いだ。

「今、オイラを呼んだのは、君かい?」

「オッさん、アホか。 石像が喋れるわけないケロ!」

カエルのケロ助は、何も言わずに目で訴えていた。
(・・・なっ・アホな)

ケロ助がいた場所を通り過ぎると本堂裏へと出た。

本堂裏には、多くの仏像が奉ってあった。
「十三仏」と書いてあるが、もっと多くあるのでは・・・。


しばし、見入っていた。
そして、後ろを振り返ると小さな観音様の石像が十三仏と
競うように並んでいた。


ヒンヤリとした空気が漂い、何か別世界へ迷い込んだ感覚になった。
下界では、味わう事の出来ない心洗われる空間だ・・・。

「ほんじゃぁ〜皆さん、先を急ぎますので・・・・南無。」

本堂裏から続く舗装された参道を歩いて行くと駐車場が見えてきた。

「あれっ? こんな所に駐車場があったかなぁ〜・・・・ううむ?」

駐車場に出た所に標識があり見てみると、その標識の横に
丸太で作られた急な階段があり「展望台」と書いてあった。

「また、登りか〜、、、しゃ〜ないなぁ。。。 はて?」

誰かに、見られている気がして振り返ると・・・・
オイラの2倍はある修行僧像が木の陰に隠れるように立っていた。

  

「ビックリさせんで下さいよぉ〜人が悪いんだから・・・めっ!」

極楽寺裏参道入口の目印として備えてあるのだろうが、
まるで、門番のように見えた。
(発想が乏しい)

修行僧のチン念さんと別れ展望台への階段を登り始めると
直ぐに老夫婦とすれ違った。

「こんにちわ〜」・・・

今日、何回目の「こんにちわ」だろ?
でも、挨拶は、気持ちが良い。
年齢からみて、クルマで山頂へ来た人だろう?
階段をゆっくりと数百メートル進むと小さな高台にたどり着いた。

標識には「極楽寺山、山頂693米」と書いてあった。


「やったーー! ここが、本当の山頂じぁ。」

しかし、周りは木々に覆われ、辛うじて見える景色は
近くの山肌だけだった・・・トホホ。
こんな所には、長居は無用・・・
そのまま、標識に従って蛇の池を目指すのだった。

今度は、急な下り坂だ・・・。

「ううむ・・・この山道は、何だか記憶があるぞ。」

20年くらい前、兄とクルマで来たとき確かビデオを撮りながら
歩いた記憶が甦ってきたのだ。

「そぉ〜言えば、兄ちゃんと来たときは観音さん(極楽寺の祭り)の
日で、兄ちゃんは大好物のイカ焼きを食べながら歩いていたっけ」

懐かしい思い出に浸りながら、ひたすら下り坂を下って行くと、
見覚えのない場所に出た?


「ありゃりゃ・・・  ここは何処? 私は誰?」

道を間違えたのかと思い辺りを見回してみると所々に木の台があり、
その上にチラホラとカラフルなテントが備えてあった。

「ここって、新しく出来たキャンプ場かな?」

注意深く、辺りを観察しながら、その場所へ入って行くと、
これまでの静寂を破るかのような人が騒ぐ声が聞こえてきた。
奥へと、進むにつれ、その声もドンドン大きくなってくる

あっ・・・・ ここは!」

  

いつの間にか、蛇の池に着いていたのだ。

「えっ、えっ・・・・ここって、
木に覆われていた蛇の池裏の森だった所・・・?」

幼い日の記憶では、蛇の池周辺は木々に囲まれた静かな空間だったが、
その雰囲気は無くなり蛇の池に沿うようにキャンプ場が作られていた
・・・ 何か、キツネに摘まれた感じだ。


あらためて数十年の時の流れを感じつつ、久々の蛇の池を見回すのだった。
先程から聞こえてきた騒ぎ声は、蛇の池沿いでバーベキューを
しているグループの声で、良い臭いと共に漂ってくる。
池の水面にはスイレンの丸い葉が無数に点在し、
石の上には何故か亀が置物の如く休んでいる。
  更に池を観察していると・・・・水中に人の顔が!?


「わっ!  人面魚・・・」


一昔前に話題となった人面魚(頭の模様が人の顔に見えるコイ)が、
目の前を悠然と泳ぎまわっているのだ。
それも、1メートル近い大きなコイがウヨウヨしている・・・

「お〜い、人面魚やぁ〜い。 この池には、大蛇がおるんかぁー?」

「さぁ〜、、、ずいぶん昔の事じゃからのぉ〜。
まぁ〜、ワシらの姿を見れば、いても不思議はあるまい。」

「なるほど、言われてみれば、みんな巨大だ。 ・・・むふふ」

人面魚の鯉太郎と、こんな話しをしながら、ゆっくりと歩く・・・。
蛇の池周辺には、桜やビンク色の綺麗な花が咲いてる。
時折、水面上を一羽のサギが優雅に飛びまわっていた。
そんな風景を見る見る、蛇の池の周囲を散策していると
正面に高さ20メートルくらいの階段が見えてきた。


「確か、憩いの森公園・・・?」

蛇の池を見下ろしながら階段を上がって行くと、
やがて緑の芝生が鮮やかな広場が目の前に広がった。
誰もいない公園には八重桜が植えられ大きな花が咲き乱れている。

  

「えっ・・・まてよ、 
小学校の遠足で来たときは、滑り台があったはず・・・・・」

記憶が正しければ、蛇の池から公園へ上がってくる
階段横に長い滑り台があったのだ?

公園から蛇の池のほとりまで何度も何度も滑って遊んだ記憶がある
しかし、
滑り台は無くなり、屋根付きベンチが置かれていた。

「そぉ〜だよなぁ、、、もぉ、30年も前の話し・・・ あ〜あ」

この公園にも展望台があったが、
ここも近くの山並みが見えるだけだった。

「そろそろ、帰ろうかな」

まだ、一度も行ったことがない、さくらの里や温泉にも
足を延ばしたかったが下山に体力を残しておかないと
辛くなるので、仕方なく極楽寺へと戻るのであった。

極楽寺の展望台からの風景は天候が回復したせいか、
下界がハッキリと見えていた。


「あの島が宮島でぇ、、、あの辺りが、オイラの家か?」
「ほいほい、するとアレが桜並木・・・・」
「まるで、オモチャの様じゃ・・・アハハ」

風景をしっかりと目に焼き付け極楽寺を後にする事にした。
時間は、13時20分 ・・・ 
約2時間山頂を散策していたようだ。



第9章 下山 ・・・

階段を下り、仁王門を潜る・・・

「ほんじゃ・・・仁王さん」と、軽く会釈すると
「おぉー、気を付けて帰れやー」と、白いハンカチを振る仁王様?

下りは楽じゃ。
なだらかな山道を軽やかに下山するオイラ。

「ダメよ! 調子に乗って歩いていると足を痛めちゃうわよ・・・」
「あっ、これは、大月観音様。  あはは・・・大丈夫ですよ〜」

大岩上の大月観音様の声を聞き流し足の進むままに歩いていると、
やがて原登山コースの合流地点に・・・。

「楽勝、楽勝・・・・・あっと言うまに合流地点じゃん」
「・・・ほっほっほっ」

オイラの考えは甘かった

合流地点を過ぎると、急な下り坂が待ち受けていた。
坂道は、何とかなるが下りの階段や岩や倒木・・・
予想を遥かに超えてヒザの負担となってきた。


階段を下りるたびに全体重が片足に「ドスン、ドスン」とかかり、
ヒザが悲鳴をあげだしたのだ。

ドスン「痛っ!」、、、          .

    
ドスン「ギョエ〜!」、、、

                
ドスン「止めてくれぇー!」

「そんな事、言ったってぇ〜・・・ 歩かないと、帰れんじゃろが!」

ドスン「ヴワッ」、、、          .

     
ドスン「殺す気かー!」、、、

               
ドスン「人でなしィ〜!」

「おいおい、、、そこまで言うかぁー。」

ヒザとケンカしながら下山していると、目の前を・・・・

ニョロリ〜ン


わっ! マムシだ ・・・・・ チャーンス!?」

(バチリ)

「誰じゃ、ワシを撮影するヤツは・・・」と、振り返るヘビ・・・

「おぉ〜、そなたは新之助殿で御座るな?」

「へっ?  何で、オイラを知ってるん?」

「おぉ、そぉ〜で御座ったな。
拙者は大月観音様の召使いじゃよ」

「・・・・?」

「解らぬのか? お主は大月観音様の忠告を無視したで御座ろう。」
「それで、心配なされて様子を見てまいれと、おっしゃいましてな」

「えっ、それで、、ワザワザ、、、」

「そぉ〜じゃよ、、、この罰当たり者が!」
「ヒザを見てみよ。  泣いておるではないか。」

「はい、あの時、忠告を聞いていればと、、、、」
「オイラが悪ぅ〜御座いました。」

「解れば良いのじゃ。」
「無理をせず、ゆっくりと下山なされぇい」
「・・・・さらばじゃ!」

それだけ言い残しマムシのヘビ丸殿は木々の中へ消え去った?

オイラは、両足のヒザに詫びをいれ、ゆっくりと歩き始めた。
下山途中に、再びハチの八平や毛虫の花子と再会しながらも、
どぉ〜にか極楽寺橋へたどり着き橋の上で休憩する事に・・・。


橋の中程にドッカリと腰を下ろし空を見上げると青空が広がり
太陽がオイラの肌をジリジリと焼いており、
橋の下は、忙しげにクルマ達が猛スピードで行き交っている。

「ヒザ達よ・・・もぉ〜少しの我慢だよ。」
「頑張っておくれ」

靴を脱ぎ、両足を投げ出し、ヒザ辺りをマッサージ、、、
スポーツドリンクを「ゴクリ」と飲み、
しばしボケェ〜と風景を眺めるのだった。

「お〜い、新之助ぇ〜・・・ もぉ〜、良いよ」

「あっ、そぉ〜・・・ ほんじゃ、もぉ〜ひと頑張り」
「・・・ 頑張っておくれやす〜」

相変わらず、ヒザ達は悲鳴をあげていたが休息で力を取り戻したのか
登山口まで、アッと言う間に下山したのだった。

「極楽寺で、出会ったモノ達よ・・・ また、逢おう!」

山道を後にして、川沿いを歩く。
平地になると不思議とヒザの痛みも消え、
いつもの足取りに戻っていた。

約30分で、家へとたどり着いた。
時計を見ると、丁度15時になっていた。
そして、万歩計のフタを開け表示を確かめる・・・

「二万二千歩・・・十五キロと三百メートル・・・。」


思わず、今、下山してきた極楽寺山を見上げ、
久しく味わうことのなかった達成感に酔いしれるのだった。



第10章 ・・・・・番外?

「曇り空 山に登りて 晴れわたり」

仕事を辞め張り合いのない生活が続き心が曇っていましが、
この登山で久々の達成感を味わうことができ、
気分が晴れ晴れとしている気持ち。

「極楽で 父と見下ろす 街並みや」

極楽寺展望台で亡き父を思い浮かべ、父と二人で久々に
下界を見下ろしながら時を過ごした気がした。

天国の父は、いつも、こんな感じで、
オイラの街を見ているのだろうか・・・?

「行きは良し 帰りは、こわし 山登り」

登るのは辛いけどペースを考えて登れば意外に楽だ、、、
帰りは楽だけど足が勝手に進むので逆に怖い、
ヒザを壊してしまわないように注意しましょう。

これ、教訓!?(笑)

登山後、3日間くらい階段の上り下りが大変でした
・・・トホホ。

「山登り 一度登れば 二度三度」

山登りって不思議です。
一度登ってみたら、また、登りたくなります
・・・何故なんでしょっ?

現に一週間もしない内に他の山に登ってしまいました・・・。
暑くならない内に、もぉ〜一度どこかへ登ってみたいと
今も思うのであります・・・ふぉふぉふぉ。


はぐれ雲、新之助の気まぐれ日記・・・。

次が、あるかは定かでないが、オイラは気ままな「はぐれ雲」
その内、ヒョッコリ現れて、オイラと同じ時過ごそう。

それでは、みなさん ・・・ その日まで。

はぐれ雲新之助よ ・・・

何処へ行くぅ〜 ・・・ ?