HomePageさらさらオリーブしゃんその他の娘謎な物gameチャットmail

02 気になるあの娘

顔なじみのお人形について

 最近、とても気になる娘がいる。うちの近所の古本屋に併設された、子供用品のリサイクルショップにいる娘。パッケージからすると恐らく、'96のカレンダーガールの一人であろう、黒いコートを羽織ったようなノーマルジェニーがとても気になって仕方がない。

 気になっているのに、実はまだ窓越しにしか見たことがない。一つにはそのコーナー自体が子供用品を欲する母親向けに作られているため、入るのが躊躇われるというのもある。狭い店内には子供服のリサイクル品が数多くひしめき合っており、その中で着せ替え人形というのは、彼女を含めて2、3人しかいない。普通のおもちゃ屋さんなら、既に何のためらいもなく、彼女たちに会うことが出来るのだが、さすがにこの状態だと、私からしても場違いな感じを否めない。無論、見ている方はもっと場違いだと思うだろう。

 だが、本当の理由はこんなことではない。愛しい彼女たちのためなら、少々の世間的な体裁は、実は大したことではない。私が店内に入り、直接、彼女を見るのを躊躇ってしまうのは、彼女が顔なじみの娘になってしまうのが怖いからだ。

 私が住んでいるのは清水市なのだが、清水の駅前近く繁華街、駅前銀座、清水銀座には、未だにごくごく普通の個人商店的なおもちゃ屋さんが4店、存在しいている。小規模な個人商店には厳しい時代であるにも関わらず、なかなか頑張っているな…と思う。しかし、気になるお人形方面の売れ行きは、どの店でも概ね芳しくないようだ。

 その中の一軒にちょっと気になる店がある。私が人形好きになったころは、順調に新しい娘が入っていたし、古めの600円コーディネートドレスが置いてあったりと、私にとってはなかなかありがたいお店だった。確か青目のティモテを偶然見つけたのも、この店だったはずだ。ところが、ここ一年ほど、この店でも新しい娘を入荷しなかった時期がある。現在はポツリポツリと新しい娘もやってはくるが、入荷したりしなかったりと、あまり当てには出来ない。入荷しない理由は、もちろん、着せ替え人形が売れないからだ。

 このお店には中途半端に古い普通のジェニーが残っている。コレクターからすれば珍しくもなく、また新製品でもないので、売れる理由があまりない娘たち。私がこの趣味にはいる前から売れ残っている娘も多い。行く度にいつも変わらぬ笑顔で迎えてくれる彼女たちのうち、何人かは、いつしか私の心の中では、勝手に顔なじみの娘と思えるようになってしまった。

 新しい娘の入荷がまばらなため、その店に頻繁に立ち寄ることはないのだが、それでも数ヶ月に一度、その店を覗いてみる際には、その娘たちのことを探し、思わず一度、手にとってじっと瞳を見つめたりする。そして申し訳ないような感情を抱きながら、そっと元あった場所に戻す。気にはなるのだが、だだでさえ置き場所に困っている上に、うちには既にたくさんのジェニーたちがいて、ここで彼女を連れ帰ったとしても、なかなか飾ってあげることが出来ないことが分かり切っている。

 あれは去年の夏頃だったろうか。ある日、いつものように立ち寄ってみると、店の前に置いてある処分品用のワゴンの中に、私の顔なじみの娘が3人、入れられていたのだ。顔なじみの娘が投げ売りされているのを見るのは、正直な話、何とも心が痛むことだった。処分品として扱われていること、半額以下に値引きされていることが、彼女たちにとってとても失礼なことのように、私には感じられた。私は彼女たちを手に取り、どうしようかと迷ったのだが、うちの連れ帰っても、さほど可愛がってあげることが出来そうにないのが分かり切っているので、やはり連れて帰ることが出来なかった。

 それから1ヶ月後くらいに、またその店に寄る機会があったので、気になる処分品用ワゴンの中を覗いてみると、彼女たちの姿は消えていた。やっと引き取ってくれる人が現れたことに、私はホッとする反面、顔なじみの娘がいなくなったことに対し、一抹の寂しさも感じていた。願わくば良い買い主に巡り会えてくれたら、うれしいのだけれど。

 そして去年の暮れ頃だったと思う。久しぶりにその店に立ち寄ってみると、ちょっと古めの箱入りコーディネートドレスが安くなっていたので、何点かを手に持って会計を済ませようとすると、『人形の方も安くするから買っていかない?』と、店のおばさんに声を掛けられた。多分、私をコレクターと見たのだろう。おばさんに付いて行き、人形売場でおばさんの様子を伺っていると、並んでいる人形の奥の方から、3人の人形が引っぱり出してきた。

 私は一瞬、目を疑った。そこにいたのは、以前、ワゴンセールに出されていた、私が顔なじみだった娘たちだったからだ。私は売れたと思っていたのだが、実は値引きされてもそれでも売れず、結局、他の娘の後ろに隠されるように置かれていたのだ。店のおばさんはこちらの様子を見ながら『一体1000円でいい』と言ったのだが、私は迷いながらも、やはり可愛がれそうもないなら買うべきではないと思い、買わずに店を出た。

 その後、しばらく商店街を歩いていたのだが、頭の中からは彼女たちのことが離れない。彼女たちの微笑みは何も変わっていないのに、ワゴンセールに回され、今では1000円でこうして売り込みをされている。私には顔なじみの娘が酷い扱いを受けているように思え、可哀想だと感じてしまった。結局、私は来た道を戻ると、店に入り、3人にうち2人を連れて帰ることにした。

 自分でもバカだと思う。思い入れが強すぎるのだと思うのだが、同情とでもいうべき感情を抑えることが出来ないのだ。ただ単に安売りされている娘を見るだけでも胸が痛むのだが、それがずっと前から知っていた娘となると、ちょっと考え込んでしまう。それほど可愛がってあげられなくても、連れ帰ってしまった方がいいのだろうか。それとも見ない振りをしていた方がいいのだろうか。物言わぬ彼女たちは、いったい何を思うのだろう。

 そもそも出会った全ての人形を連れ帰ることなど出来ないのだから、どこかに一線を引かねばならない。だが、顔なじみの娘に関しては、既に情が移ってしまっているため、私にはしっかり線引きできない。一度、リサイクルショップの中に入って、その娘を手にとってしまったら、私は多分、自分なりの線引きを行うことが出来ないだろう。ラセッカと散歩に出る度に、ショップの窓を覗き込み、ドキドキしながらその娘がいるかどうかを確認する。窓越しに見るあの娘は、いったい何を思うのだろう。

1999/09/30

次のページを見る 真面目にさらさら〜、メニューへ HomePageへ 前のページを見る