セクシュアルハラスメント

セクシュアルハラスメント(セクハラ)はどうして起きるのでしょうか。たまたま、加害者が破廉恥な人間だったからだとか、女性を性の対象としてしか見ていない男性だったからだとか、いろいろ言われますが、どうもそれは誤解です。パワハラが誰にでも起きうるように、セクハラも誰にも起きうると考える方が、現実に近いと思われます。


まず、セクハラというと、とかく男性が女性にするものと考えがちですが、セクシュアルハラスメントは、「性に関わる嫌がらせ」ということですから、実際には女性が男性に行うこともあります。例えば、女性が男性に、「あなた男なのに、こんなこともできないの。しっかりしてよ。」というような発言をすることがありますが、これも明らかにセクシュアルハラスメント(性に関わる嫌がらせ)です。


ただ、そうは言っても、悪質なセクハラのほとんどは、男性が女性に行うものです。なぜそういうことが起きるのかを、まず考えてみる必要があります。


最近、テレビや新聞でジェンダーという言葉を聞いたり見たりすることが多くなりました。ジェンダーとは、「社会的、文化的な男女の性的役割」というような意味で用いられますが、どの社会、文化もジェンダーを持っています。しかも、社会、文化によってその中身は少しずつ異なっています。ジェンダーとは、わかりやすく言ってしまえば、その社会、文化が考える「男らしさ/女らしさ」のことです。重要な点は、ジェンダーの中身は社会や時代によって違うにも関わらず、そこに生きているわたしにとっては、「そうでなければならない。そうでなければおかしい。」ものと感じられていることです。なぜ、そのようなことが起きるのでしょうか。それは、ジェンダーというものが他の文化的なものの考え方や習慣と同じように、人が生まれて物心つく前から、徹底して意識して、または無意識に「こういうものだ」として人の心に刷り込まれていくからです。「男の子なんだから、泣いたら恥ずかしい。」、「女の子だから、ピンク色が好きなんだね。」等々、毎日の生活の中で、繰り返し徹底して刷り込まれていきます。


このようなことの結果として、物心ついたころには、日本で育った男性の心の中には無意識にではあれ、「男は強くなければいけない。男はしっかりしなければいけない。男は女に尊敬されなければならない。男は女をリードしなければいけない。男の方が女より上だ。男の方が女より偉い。」というような思い込みやプレッシャーが作り上げられます。言葉に出して、「男は女に尊敬されなければならない。」などと言えば、多くの男性は、「そんなこと思っていないよ。」と考えますが、実際には、「男は女に尊敬されなければならない。」という思いは、多くの男性の中にあります。その証拠には、妻から馬鹿にするようなことを言われて、平気な夫はあまりいません。逆に、尊敬できない(情けない)夫の姿を目にした時に、がっかりした思いを口にしない妻もあまりいません。


このようなジェンダーの刷り込み、支配があるために、男性から女性へのセクハラはきわめて起きやすくなります。京都橘大学の浜田准教授が言うように、「セクハラの背景には、女性を支配できる男性が優れているという思いがある」ことになります。このことからわかることは、セクハラは被害を受けた女性ががまんして黙っていたら、絶対に終わらないということです。黙っていたら、どんどんひどくなります。なぜなら、男性にとって、自分の行為を女性が受け入れた(例えば、女性の手を握ったが、女性は黙っていた)ということは、自分の男性としての優秀さの証明になるからです。ジェンダーを刷り込まれた男性にとって、セクハラ(性的に自分を受け入れさせること)は自分の男らしさを証明する「当たり前の正しい行為」なのです。さらには、男性の性的欲望と女性の性的欲望の違いも、男性から女性へのセクハラが起きる原因になっています。男性の性的欲望にとっては、対象の女性は、最終的には「心の持たない、自分を楽しませるだけのモノ」になってしまいます。つまり、相手を「物化」してしまうのです。だから、男性はレイプなどというひどいことが平気でできるのです。このような事情が、男性から女性へのセクハラを、きわめて悪質なものにしています。


セクハラで訴えられた男性の多くが、「悪気はなかった。相手も受け入れていた(喜んでいた)。」というようなことを言うのは、一見、自分のした悪いことを、なんとか口でごまかそうとしているように見えます。しかし、実際には、本気でそう思っていることが多いのです。ここにも「強い立場の人(男性)」と「弱い立場の人(女性)」の「気持ち、思いのズレと断絶」がありますし、加害者は悪いことをしているつもりがない(自分にとっては、当たり前のこと、正しいことをしていると思っている)という、パワーハラスメントととも共通する人権侵害の構造がはっきりと見えます。