この映画が流行った頃、若者達の間で「ウェスト・サイドを何回見た…?」という言葉が交わされたといいます。
中には、5回も6回も見た人も多いとか…。
この時代ですからビデオのことではありません。
映画館に足を運び、料金を支払った上でのことです。
ストーリーも結末も判っている映画を何度も見るということは、普段はそう無いことでしょう。
そう、この映画の価値はストーリーではなく、歌とダンスの素晴らしさにあるのです。
私は、ある程度の評判や予備知識を持ってからこの映画を見たのですが、インパクトの大きさは想像以上であり、 レナード・バーンスティンの音楽とジェローム・ロビンスの振り付けに圧倒されたものでした。
本来、私は、ミュージカルというジャンルの映画は好みではありません。
カトリーヌ・ドヌーブの「シュルブールの雨傘」など、退屈過ぎて途中で席を立った位です。
それまでのミュージカル映画は、夢があり、愛があり、明朗で、華麗で、ハッピーな結末で終わるイメージがありました。
しかし、この映画の舞台は大都会ニューヨークの負の部分とも言える、ごみごみした埃っぽいスラムであり、登場人物は汗の臭いのするような不良少年達です。
また移民や人種差別などの社会問題も内包し、結末も悲劇的です。
この「WEST SIDE STORY」は、あらゆる点で従来の概念を覆したエポックメーキングな、そして最高のミュージカル映画と言えるでしょう。
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| G・チャキリス |
物語: ニューヨークの下町ウェストサイドに、対立する2つの不良少年グループがありました。
1つは、イタリア系移民のジェッツ、もう1つはプエルトリコ系移民のシャークスです。
シャークスのリーダー、ベルナルドは、都会に憧れてニューヨークに来たばかりの妹マリアを体育館のダンス・パーティーに連れて行きますが、そこでマリアは1人の青年、トニーと運命的な出合をして恋に落ちます。
しかし、トニーは今は真面目に働いているものの、元ジェッツのリーダーでしたからベルナルドが許す筈もありません。
その夜、2つのグループは代表者同士の決闘で抗争に決着をつけようとします。
それを知ったトニーはマリアと相談し止めさせるために駆けつけますが、ジェッツの現リーダーでありトニーの親友リフがベルナルドにナイフで刺されるのを見て、思わずナイフを拾いベルナルドを刺殺してしまいます。
それがマリアとトニーの悲劇の始まりです。
この下町の「ロミオとジュリエット」の物語は、全世界的にヒットしたブロードウェイ・ミュージカルの映画化です。
その映画化に当たって監督のロバート・ワイズとジェローム・ロビンスは、歌えて踊れて演技が出来る一流の者達を集め、有名無名に関わらず全てのキャストをオーディーションで決定したといいます。
相も変わらず学芸会の延長のような底の浅い日本の芸能界など比較にもならぬ、アメリカのショー・ビジネスの厳しさや豊かさを感じます。
この年のアカデミー賞で「ウェストサイド物語」は実に11部門で受賞しており、私の不確かな記憶によれば、多分現在までの映画を含めてもこの記録は破られていないと思います。
この映画の初公開時、東京の「丸の内ピカデリー」では単館で、約1年4ヶ月のロングランを記録しています。
その後、何度かリバイバル上映されましたが、最初のリバイバル上映までの間が確か7、8年位あったでしょうか。
その間、この映画の再上映を待ち焦がれていた私は、映画が始まった時、再びこの映画を見ることができる喜びに、思わず目頭が熱くなるほどだったのです。
しかし、ビデオが普及するようになってこうした「リバイバル上映」はされなくなりました。
確かにビデオは、いつでも好きなときに見ることができます。
家庭用TVの画面サイズも大きくなってはいます。
でも映画館の画面(特にこの映画は70mmです)で見る場合とは、その迫力、躍動感、音響の効果など全く異なるものと言ってもいいでしょう。
ビデオでの映画はただ「見た」というだけです。
私達はビデオの手軽さ便利さの代わりに、「映画」の感激や感動というものをかなりの部分で失っているように思えてなりません。
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| ジェッツのメンバー(手前がR・タンブリン) |
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映画は冒頭、ニューヨークの摩天楼街を俯瞰しながらゆっくり移動して行きます。
そして、ある1点で急激に降下すると、そこはスラム街の中の小さな公園?(広場)で、あのフィンガー・スナップの音が聞こえてきます。
この1曲目の「プロローグ」から、素晴らしい音楽とダンスの世界が展開して行きます。
体育館でのダンス・ナンバーをメドレーとして1曲と数えれば、歌と音楽は全部で15曲。
有名な「トゥナイト」や「クール」「アメリカ」もいいのですが、私は「クインテット」が好きですね。
決闘に向かうジェッツとシャークス、それを止めさせるために急ぐトニー、彼を想うマリア、そしてベルナルドの帰りを待つアニタ、各人各様の思いをそれぞれが歌います。
それから、恋をして気分がハイになっているマリアが仲間達と歌う「アイ・フィール・プリティ」も…。
私は、この映画のサウンド・トラック・レコードを、最初に買ってから8年後位にまた同じ物を買っています。
1枚目のレコードは音質が劣化するほどの回数を聴いたということなのですが、後にも先にも、全く同じレコードを買いなおしたのはこれだけです。
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| R・ベイマーとN・ウッド |
キャスティングに話を移します。
この映画の主要な配役の中で、一応スターと呼べるのはマリアを演じたナタリー・ウッド1人だけでしょう。
彼女は子役から映画には出ていたようですが、よく「子役は大成しない」といわれる中、上手にそれをクリアしたと思います。
青春映画の秀作、エリア・カザン監督の「草原の輝き」が良かったですね。
残念なことに彼女は1981年、映画の撮影中、夜一人でボートを漕ぎ出し二度と帰って来ませんでした。
マリアと運命的な出合をするトニー役のリチャード・ベイマーも子役育ち。
あのヴィットリオ・デ・シーカ監督の名画「終着駅」でジェニファー・ジョーンズの甥の役をやったのが少年の頃の彼でした。
ジェッツのリーダー、リフを演じたのはラス・タンプリン。
いかにも悪童のような顔つきですから、役にはピッタリでしょう。
とにかく抜群の身の軽さが身上。
「略奪された7人の花嫁」など多くの映画に出演しているようですが、私とは縁が無いのかこの映画以外に見たことはありません。
しかし、何といってもこの映画から生まれた最大のスターは、シャークスのリーダー、マリアの兄を演じたジョージ・チャキリスです。
ラフなスタイルでも、またスーツで決めても、とにかく格好いいのです。
女性に圧倒的な人気を博したのも判る気がします。
アカデミー賞では、彼の恋人役を演じたリタ・モレノと共に助演賞を獲り順風満帆といえましたが、あまりにもこのベルナルドの役の印象が強烈で素晴らしかったためか、あとが続きませんでした。
この後、日本ロケをした「あしやからの飛行」やクラウディア・カルディナーレと共演した「ブーベの恋人」など、かなりの映画に出演したようですが、ヒット作と言えるものもなく、いつの間にか話題にも登らなくなってしまいました。
本当にその後、どうしたのでしょうか…。
しかし、彼や彼女達のその後がどのようなものであれ、この映画で見せた彼等の若さに溢れた躍動感のある歌や踊りの評価が変わるものではありません。
いえ、むしろ、ビートルズがその後の世界の音楽に変革をもたらしたように、この 「WEST SIDE STORY」もミュージカルの分野で様々な影響を現代まで与え続けています。
そういえば現在、TVで放映されているCMの中にも、この映画の「クール」の1場面を再現しているものがありますね。
いまでも私は時々ビデオでこの映画を見ますが、出来ればもう一度映画館で、70mmの大画面の迫力を味わってみたいと思っています。
(完)