死ぬなら闘え、闘うなら生きろ!
プロローグ


 
「前進止め!」

そのかけ声と共に駆け足状態であった幹部候補生達の足が止まった。
区隊長が二等兵達に何かを指揮し、命令を受けた兵士達は机や書類を運んできた。
「卒業だ」
誰かがそう呟いた。
此処に転属になってから教育らしい教育は何も受けていなく、ただ目前に迫る敵に向かって行軍しているだけであった。
しかしそれでも日々は過ぎていった。
明治神宮外苑での行進は遥か彼方、昔の出来事であった。
絶望という奈落の底に落とされたあの日々。

二,三十人の生徒達が教官の前に整列をする。
「今から卒業任官を開始する」
辺りは畑、装甲車や他の部隊の行進は脇目を降らずに前進している。
そしてこの場には本来居るべき生徒の半分もいなかった。
それでも皆、整列し敬礼をした。
咳払いが一つ。
「同校における教育を終了。同日、曹長の階級に進め、見習士官を命じられる。関口巽」
「はい!」
一歩前進仁王立ちとなり関口は区隊長の前に立った。
声すら上げることが出来ず、絶えず打たれていた自分はもう此処には居ない。
「今日より南方軍第×軍に転属命ずる」
「はい!」
「次ぎ、滝本公平!」
「はい!」
数々の候補生達に転属先を伝えられる。
内心の想い複雑にそれでも厳粛の中それは続けられた。
そして最期の生徒の転属先を伝えられ
「おめでとう、それでは直ちに各自、荷物を取ってきてそのまま各個前進で出発せよ!貴公らの武運長久を祈る、解散!」
「有り難うございました!」

長く辛かった幹部候補生の時期を経て、初めて腕を通す見習士官の服に身を包んだ生徒達は、久方ぶりの微笑みを浮かべながら装甲車に向かった。
「関口、少しは明るい顔をしろよ!これで古兵にもう虐められないぞ、内務班からおさらばだ!」
立ちつくす関口に数人軽く肩を叩き、各々の行き先を示す軍用トラックに乗り込んでいった。
「もう昔のことなんか忘れろ!これから俺達の時代だ!」
滝本が白い歯を出し笑う。日に焼けそして薄汚れた顔にその白さは余計に目立つ。
「次、会うときは大学でだ!君に会うために真面目に行くことにするよ」
関口にそう言い捨てると自分の行き先の軍用トラックの荷台に飛び乗った。
「次って…」
みんな知っていた、これからいよいよ前線に出て死に行くことを、それでも笑っている、関口にはそれが出来なかった。
荷台から滝本が関口に手を振っていた。
19980923