「ええかっこしてるわけやない。『灯(あか)りを守らな』と思うからやるんです」                     

 阪神大震災の遺族や被災者の思いをつないで燃える神戸市中央区の震災モニュメント「1・17希望の灯り」。この灯りを半年間毎朝、自主的に掃除している夫婦がいる。

同市中央区八幡通1の日本料理店経営、舘川勝美さん(61)と妻千賀子さん(58)。

2人は自宅から店に通う途中灯りに立ち寄り、タオルやおしぼりを使い分けてふく。思いに支えられて輝き続ける灯りは、訪れた遺族らを勇気づけている。

 「灯り」は、同市が震災5年の今年1月に東遊園地内に建立した「慰霊と復興のモニュメント」敷地内に併設されたガス灯。縦横各60センチ、高さ90センチの黒御影(みかげ)石の上に設置され、強化ガラスで囲われている。
JR三ノ宮駅に近く、同市役所南隣にあることから、訪れる人は後を絶たない。公園内にあるので風の強い日には木の葉やほこりがガラスのすき間から舞い込み、雨の翌日には灯りの前に敷かれた御影石が泥だらけになる。

 夫婦は、震災で同区江戸町のマンションが全壊し、東遊園地に避難。親族や友人が亡くなることはなかったが、今年1月17日午前5時46分に全国から集まった火が集められて灯りが点灯された瞬間は、涙を浮かべて手を合わせる遺族の姿に胸が熱くなった。灯りの建立に携わったボランティア女性から「何かあったら灯りをよろしく」と言われ、「家と店の間で毎日見かける灯りやし、自分がやらな」と決め、2月下旬から掃除を始めた。

 掃除は主に千賀子さんが担当し、勝美さんは休日を中心に手伝う。自宅と日本料理店は自転車で5分の距離。モニュメントわきに自転車を置き、水でぬらしたタオルでガラス面をふいてワイパーで水気を取る。店のおしぼりの縫い目に串焼きの串を差し込んで作った特製モップをガラスのすき間に差し込み、灯りを囲う四方のガラス面の内側もふく。土台や灯りの前に敷かれた御影石も丁寧にふき終えると、日本料理店に向かう。
 千賀子さんは「掃除も一つのリズム。店がつぶれるか、私が生きとう限り掃除は続けますよ」と話している。(2000年8月17日毎日新聞兵庫面(西田進一郎記者)
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