走査型トンネル顕微鏡 [scanning tunneling microscope]
STMと呼称。鋭い金属探針を試料表面から1nm程度まで近接した位置に置き、探針と試料との間に流れるトンネル電流を測定しつつ圧電素子によってこれを表面に沿った方向に走査し、表面の構造や電子状態を観察する実験法。STMはドイツ生まれの物理学者ビニッヒ(Binning, Gerd Karl, 1947.7.20-)とスイスの物理学者ローラー(Rohrer, Heinrich, 1933.6.6-)が発明し、この業績により共に1986年ノーベル物理学賞を受賞した。光学顕微鏡に比べて、原子尺度分解能が得られるなどすぐれた特徴がある。すなわちビームによる実験法ではその広がりの中で平均化した情報しか得られないが、STMでは特定のサイトでの原子尺度の情報を得ることができる。またSTMの機能の1つとして、特定の原子位置でトンネル分光を行う走査型トンネル分光法(STS)がある。これにより実空間で分解された表面電子状態の情報が得られる。STMは結晶の並進周期より大きな高次元表面構造を原子尺度で観察することを可能とし、ナノメートルスケールの構造の研究を大きく前進させた。探針と表面が直接相互作用するため、探針の効果までを考えて実験データを定量的に解析することは容易ではない。探針と試料表面の量子力学にもとづく第1原理計算によれば、トンネル電流は探針先端にある原子尺度の突起(ミニチップ)の頂点原子に集中し、これが原子尺度の分解能を実現させている。トンネル電流はこの位置での表面の局所電子状態密度に比例し、フェルミ準位付近での表面電子状態を反映する。STMによって探針が誘導する局所反応を利用した表面の原子制御が行なわれており、‘アトムテクノロジー’ともいい、今後の技術的な発展に向けて大きな可能性が期待されている。

某理化学事典より
まんま抜粋(笑)

あ、「戻る(back)」ボタンで戻って下さい