第20話  ランプに想う素朴な宿−青森青荷温泉


記念すべきほのぼの旅行記第20話は、このお盆休みに奥さんの実家・青森に帰った時に
ちょっと足を伸ばして1泊2日で訪れた、青荷温泉・ランプの宿に関するレポートです。
夜の灯りはランプだけと言う、この山あいの秘湯の温泉場。その素朴さは、都会の文明に
慣れ切った僕達の心と身体に深く染み入りました。では、早速その素朴さを味わって下さい。



2000年8月13日(日)

8/12(土)から15(火)の日程で奥さんの実家・青森に揃って帰省していた僕達。ただ実家でボーっとしているだけでは勿体ないので、8/13(日)からの1泊2日で青荷温泉・ランプの宿に行ったのです。
ここ青荷温泉は、青森県黒石市の南東約15kmに位置します。黒石市と十和田湖のちょうど中間くらいでしょうか。

僕達2人と奥さんの母親と弟の4人は2台の車に分乗し、朝11時頃には青森市を出発しました。約1時間弱で黒石市に到着。お勧めの蕎麦屋さんがあると言う事だったのでちょっと寄り道し、早めのお昼です。
頼んだ鴨南蛮そばは、手打ち蕎麦がシコシコと美味しく、鴨のこってりとした脂とベストマッチです。

お腹も落ち着き、再び車を走らせます。黒石市から十和田湖に通じる国道102号線・十和田道を進むと、だんだん回りの景色は山深くなっていきます。そして、車はその途中で左折し、いよいよ青荷温泉へと通じる山道へと・・・。
この道の先にあるのは青荷温泉だけ。この林道は青荷温泉専用の道なのです。そして、青荷温泉には今回訪れるランプの宿が1軒あるだけ。俗に言う、秘湯の一軒宿ってやつですね。
対向車とすれ違うのも厳しそうな中を、約6kmの道のりが続きます。山をひとつ越え、ようやく青荷温泉への入り口に到着・・・!
ちなみに、冬の間は当然の事ながら雪に覆われるこの一帯。昔は冬季は閉鎖されていた青荷温泉ですが、最近ではスノーモービルでの送迎(!)をしてくれるようで、雪に閉ざされた秘湯の一軒宿って言うのも乙なものではないでしょうか・・・♪


駐車場に車を停めると、"テギ(面倒)かげるばて、歩(あ)さてけへ"と書かれた、ひなびた看板が。あいだみつをを髣髴させる味わいのある文字がひなびた感じを醸し出していますが、東京生まれの、東京育ちのダンナさんには今いち意味不明。どうやら、”誠にご面倒をお掛けしますが、ここから歩いてお越し下さい”と言う意味らしい。

重い荷物をかつぎながら、急坂を下って行くと緑濃い木々の間からランプの宿が目に飛び込んできました。
木造のこの宿。周りには当然何もなく、山あいの新鮮な空気と流れる川のせせらぎの音だけが僕達を包み込みます。もうすでにこの時点で、俗世間から離れて別世界に迷いこんだような錯覚に陥ってしまいます。

入り口を入ると、そこには帳場と言うのがふさわしい受け付けとおみやげ物コーナーがあります。
帳場のオジさんも髭を伸ばし、素朴な山男って感じです。
夏のこの時期、やっぱりかなり人気のある宿なんでしょう・・・かなりの人が訪れているようです。


今日のお泊りの部屋を教えて貰い、裏手にある別棟に向かいます。前日までの雨のせいで水量も多かったのか、かなりの水音を響かせた小川に懸かった吊り橋を渡り、別棟の離れの部屋へと・・・。
湯治場と呼ぶのが相応しいようなひなびた造りの離れ。都会の閉鎖された空間とは全く異なり、開けっぴろげで、ぬくもりを感じさせる雰囲気です・・・!
襖を開けて部屋に入ると、ランプにすすけた天井が目に写ります。畳敷きの部屋には開け放たれた窓から涼しい山の風が吹きぬけて爽やか。
何もない部屋です。電気がないこの宿。もちろんTVなどもなく、あるのは古ぼけたテーブル(ちゃぶ台?)だけ。そして部屋の片隅に目をやると、何やら注意書きらしきものが・・・。
ランプの宿で過ごす注意事項や、心構えが書かれてあったのですが、全て津軽弁で書かれてあります。それも、青森出身の奥さんでさえ聞いた事のない言葉遣いも含まれているよう。味わいがあります。是非皆さんにも読んで欲しいと思いますので、 こちら に縮小しない写真を用意しました。さあ、貴方はどこまで意味が分かるでしょうか?どうしても分からない場合は、掲示板にでも質問してください(笑)

お茶でも飲んで一服した後は、さっそくお風呂へでも行こうと言う事に・・・。
この宿には、本棟の男女別の内風呂と、川べりに設けられた混浴(!)の露天風呂、そして別棟の脇にあるお風呂の3つがあります。
すでにお昼寝モードに入った奥さんの弟を置いて、僕達3人は別棟の脇にあるお風呂へ・・・。
狭い脱衣場で浴衣を脱ぎ、中に入るとやけに隣の女風呂の声が近くに聞こえます。板張りの隙間から覗けるくらいに・・・。
ハハハ、実はここも混浴なんです。脱衣場だけが別になってるだけで、中はひとつ。ウチらの家族が入っていると気を遣ってか、他には誰も入って来ませんでしたので、真の混浴は味わえませんでしたが(笑)
世の男性族にはちょっと気になる所ではないでしょうか・・・。
肝心のお風呂は湯温が異常に熱く、熱い風呂好きの僕達でもちょっと厳しい感じでした。結局はカラスの行水で終わってしまいました。それでも秘湯の雰囲気は十分味わえ、風呂上がりの涼しい風が火照った身体に爽やかでした。


別棟の裏手にはちょっとした散歩道がありました。そんな大げさなものではありませんが、滝あり、小川あり・・・と、自然の息吹に触れる事ができます。

部屋に戻るともう何もする事はありません。普通であれば、ほとんど意識しないままにTVでも付けている所なんでしょうが、こういう所に来て手持ち無沙汰になってしまうのが現代人なんでしょうね。
畳にゴロゴロっと転がりながらボーっとマンガでも読んでると、爽やかなそよ風も手伝ってか眠気が襲って来ます。こりゃ、絶好のお昼寝状況ですね。そして、いつの間にか意識が遠のいていきました。

起き出すと、もう時刻は5時を過ぎています。思いっきり寝ちゃってますね・・・(笑)
本棟に行き、そろそろ夕食の時間です。帳場の横手にある大広間がお食事処。続々と宿泊客が集まり出し、いよいよ食事の時間になりました。

メニューは山菜川魚が主体のシンプルなものですが、どれも素朴な中に素材の持つ味わいが感じられます。写真右に見える大鍋(!)は、山菜うどんのつゆが入ったもので、年季がこもっていますね。この大鍋は翌朝の味噌汁にも使われ、ランプの宿のひとつの名物にもなっているようです。

食べ始めて間もなく、宿の主らしき男性が登場。津軽弁バリバリで何を言いだすかと思ったら、今日の夕食のメニュー紹介でした。それも、笑うに笑えないギャグを交えて延々と続くのでした。まあこれも、こういった風流な宿ならではの楽しみのひとつでしょう・・・。

そして食事も半ばを過ぎた頃、ちょっとした趣向が行われました。
講釈師みたいな女性が現れ、さて取り出しましたのは・・・"さては、南京玉すだれっ!"
TVでは見た事はありますが、もちろん生で見るのは始めて。これぞっ、日本の伝統演芸です。芸自体は良くあるパターンで、そんなに驚き、感嘆するものではありませんが、お客さんからはやいのやいのの喝采の連続で、大盛り上がりでした・・・!

素朴な宿の温かい雰囲気に包まれた夕食も終わり、再び部屋に・・・。
部屋にはすすけたランプがあかあかと灯っていました。蛍光灯や照明に慣れ親しんだ僕達には、薄暗い感じは否めませんが、その柔らかく温かみを感じさせる灯りは日本人の原点を思い出させてくれるような気がしました。
しかし、まだ時刻は7時過ぎ。たっぷりお昼寝もしてしまっていたので、当然眠い訳もなく、かと言ってTVも何もないこの部屋。奥さんとその母親は露天風呂へ、そしてダンナさんは本棟の内風呂へと行って戻って来ると、もう何もする事はありません。
で、どうしたかって・・・そこは抜かりはありません。こうなる事を予想して、予め昼のうちに売店でトランプを買っておいたのです・・・!
逆に言えば、手持ち無沙汰になってしまう人が結構いるんでしょうね。売店にはトランプや花札がちゃーんと売られてるんですから・・・(笑)

こんな訳で始まった"夜の大トランプ大会"。薄暗いランプの灯りの下で少しでも反射を良くしようと、座布団に白いシーツをかぶせ、さっそくゲームは開始されました。種目は『関係』。東京生まれのダンナさんは初めて聞く種目ですが、青森県人の間ではポピュラーなようです。皆さんは聞いた事ありますか・・・?
ナポレオンに似た感じで、ゲーム途中でペアになった者同士が多くの点数を集めた方が勝ちってゲーム。別にトランプ入門のHPではないので、詳しいルールは省略しますが、当然初めてやるダンナさんが勝てるはずもなく、ちょっとつまらなげなダンナさんを後目に時は流れていきます・・・。

ちょっと一息ついた所で、ダンナさんからの提案。ペア戦を止めて、そしてちょっと賭けませんかとの事。もちろん否も応もありません。結局、その方が盛り上がりましたからね。何を賭けたかって(?)・・・まあ、公共のこの場で名言は避けますが、ほんのチョコレート代くらいですよ(笑)
結果の方もあまり公表はしたくないんですが・・・賭けると聞いて気合いが入ったダンナさんは、真剣さを増し、だんだんゲームにも慣れてチャラだったのですが、奥さんは・・・・・一人負けでした・・・(-_-;)
なんか。ラスベガスでの敗北を思い出しましたね。我が家は夫婦揃って、根っからギャンブル弱いんでしょうか・・・トホホ(!)

結構盛り上がったトランプ大会も12時頃にはお開き。そろそろ寝ようかと言う事に・・・。
窓から外を眺めると、川べりに立てられたランプ灯がほのかに浮かび上がり、川のせせらぎの音が心地よく響きます。そして、夜空には満天の星・・・★。都会では見られない光景です。人間、たまにはこういう環境で、心身ともにリフレッシュする事も大事なんですねー。つくづくそう思いました。

そんな感慨を抱きながら、静かな夜は更けていくのでした・・・>^_^<



2000年8月14日(月)

2日目の朝。爽やかな朝の小鳥達のさえずりと共に目覚めます。朝風呂で頭をすっきりさせ、朝食です。
内容はどこにでもある平凡なメニューでしたが、味噌汁が美味しかったですね。大鍋で大量に作っているのが良いのか、爽やかな自然に囲まれて味覚が鋭くなっていたのか、それは分かりませんが、思い出に残る味でしたね。

お土産処であれこれお土産を物色し、その片隅にある喫茶コーナー(と言っても、ただ椅子が置いてあるだけ)で食後のコーヒーでも飲んでウダウダしていると、すぐに出発の時間がやって来てしまいます。

この山奥のひっそりした一軒宿。僕達に素朴な思い出をたくさん残してくれました。都会の垢を落としてのんびりしたい人。日頃の疲れを癒して、心身ともにすっきりさせたい人。一度この宿を訪れてみて下さい。
とにかく、絶対おススメです。東北、そして青森近辺を訪れる事があったら、是非足を伸ばしてみて下さい・・・(!)