2010 NY国連・カーネギー公演日記
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2010年 NY国連・カーネギー公演日記

2010年2月16日(火)〜24日(水)


2月20日(土) カーネギー公演


今日はカーネギーホールでの日本人向けの公演。
僕が3席と鳴り物でいつも同行してる福矢・喬若・ひろばらもそれぞれ1席の計6席。
9時45分にホテルロビーに集合してカーネギーへ。
ホテルはカーネギーとは道路隔てた斜め向かいなので徒歩でガラガラ荷物を引いていく。
楽屋に入って、カーネギーでは何度も公演しているプロデューサーの武部氏から諸注意。
NYは非常にユニオンが強く、特にカーネギーはうるさいので、勝手に舞台にある物、
マイクスタンド一本動かしてはいけない。スタッフの許可無く舞台や客席に入ることもだめ。
自由にしていいのは楽屋だけらしい。
カーネギーホールは3つのホールからなり、僕らの会場は小ホールに当たるワイル・リサイタルホール。
2階席も含めると260席ほどのこぢんまりしたホールだけど、
天井から豪華なシャンデリアが下がる雰囲気のいいコンサートホール。
3つの楽屋を部屋割りしてスタンバイしていると、スタッフが来て舞台に置いたピアノを動かしだした。
高橋さんから聞くと、カーネギーではまずピアノを動かすことから仕事が始まるらしい。
つまり舞台上にグランドピアノと椅子だけが置かれている状態が、基本の舞台設定らしい。
ピアノを動かした後、僕と武部、高橋の3人だけが舞台に入る許可をもらって舞台へ。
まずは高座の設営。舞台のチーフがスタッフに台を持ってくるように指示。
このチーフは日本円で年収5,000万の高給取りで、ユニオンの偉いさんでもあるらしい。
スタッフが台を運んできて舞台の中央へ。
実はカーネギーでの公演はこの高座が一番のネックだった。
カーネギーホールは舞台上に置けるのは楽器と譜面立てと椅子だけ。
それ以外は一切置くことを認めないという。
12月に下見に来たとき、舞台の高さが50cmほどしかないので、
フロア・マネージャーに高座を置かせて欲しいと言うと、だめだと頑として認めない。
低いので何とか台をと懇願するとハープの台ならいいと言う。
大ホール裏に置かれたハープの台を見に行くと、2台並べると広さ的にはOKだが20cmちょっとしかなく、
おまけに椅子がずり落ちないように止めるため半分だけ縁が付いている。
これでは低いのでこのハープの台を2段重ねにと言うと、ここでもまた安全上それは認められないと言う。
では平台と箱馬はと日本の舞台ならどこでもある道具を聞くと、それもないと言う。
大ホールとかでオペラなどするときはどうするのと武部さんに聞くと、
舞台装置など組むような公演はカーネギーでは一切してないと言うこと。
今のままでは客席から見ると演者の顔しか見えないが、ハープの台で妥協するしかなかった。
しかしもう一度ダメもとでチーフに、これでは低いのでもう一段ハープの台を重ねられないかと聞いてみると、
『ハープの台は2台しかないが、じゃあチェロの台を』とあっさり向こうから言ったのにびっくり。
あれだけ交渉してだめだった物をあっさり許可するとは・・・。
そのことをチーフに高橋さんが言うと、『ハウス・マネージャーがそう言ったかもしれんが、わしがOKならOKだ』と。
さすが年収5,000万の親方。心強い。
チェロの台が2台運ばれてきてハープの台の上に乗せる。チェロの台の方が少し小さいので、
2段なのがよくわかるが仕方がない。
チーフの許可を得て客席に降りて椅子に座って見てみる。
これなら腰から上が何とか見ることができる。
名だたる演奏家が使ったチェロとハープの台を高座にするなんて、カーネギーらしいなぁ。
30数万円かけた国連の高座といい、カーネギーの高座といい、今回のNYは高座に思い出が残る公演となった。
福矢・喬若・ひろばも舞台に入ることが許され、毛せんを自分たちでかける許可を得て
(いちいち許可を得ないといけなくてじゃまくさい)高座設営。
めくり立てはお寺の落語会などで使ってる照明用のビデオライトのスタンド。
完全なコンサートホールなので舞台袖がなく、囃子場は舞台の後ろのピアノを
出し入れするドアを薄めに開けて裏で演奏する。
音がこもりそうだし、客席からドアの隙間が見えて鳴り物が見切れてしまうかもしれないけど仕方がない。
高座のマイクを設定し、裏のお囃子を演奏してみると、ドアの隙間からしか音が出ないのに
三味線も太鼓も音がこもらず生音でもクリアに聞こえる。
一旦用意した鳴り物用のマイク類も撤収して生音で演奏することにする。
改めて高座用のマイクレベルを鳴り物を演奏してレベルを微調整する。
上方落語は噺の中に“はめもの”と言われる効果音やBGMが三味線や太鼓で入るので、
サウンドチェックも必要な仕事。
昼前には準備は完了し、お弁当をと言う話もあったが、今日は昼夜2回公演で楽屋で弁当を食べると
一日室内で過ごしてしまうので、気晴らしにいつもの中華屋に昼食をとりに行くことにした。
食事の後また気のいい親父はポスターやフライヤーを持ってこい、店のあちこちに貼ってやるからと、
しきりに言ってくれた。もうすでに玄関正面に大きく僕のポスター貼ってるのに。
開演1時間前に楽屋に戻り準備。30分前に開場するとお客さんがぞろぞろ入ってくる。
ほんとなら開場の時に一番太鼓を叩くが、へたに音出しすると開演と見なされ料金のカウントが始まるおそれがある。
カーネギーは昼夜2回公演の時間押さえているが、パフォーマンスの時間は1回で3時間という契約になっている。
3時間を1分でも過ぎるともう1回分の料金がチャージされるらしい。
ハウスマネージャーの部屋に音に反応する録音機が置かれ、
音出しと同時に時間のカウントが始まる。
公演時間は約2時間30分。少し押しても2時間45分で終える予定だから、
開演30分も前から音を出してそこからカウントされると、もう1回分チャージされてしまう。
それで2番太鼓から始めることにした。
客席は2階席で少し確保してる席が空いている程度で満席。
トップのひろばから大きな笑いが返ってくる。
ひろば「動物園」、小春團治「ちりとてちん」、喬若「七度狐」、小春團治「さわやか侍」、
中入り、福矢「牛ほめ」、小春團治「冷蔵庫哀詩」、古典・新作・はめもの入りとたっぷり6席。
夫婦、家族連れ、大使、着物姿・・・、昼夜ともたくさんのお客さんが訪れ、笑い声が気持ちよく返ってくる。
三味線・太鼓の音の良さだけでなく笑い声の返りも気持ちいい。
カーネギーホールという世界有数の音楽ホールは、落語にもすばらしいホールであることがわかった。
2回目の終演は午後10時過ぎ。今日だけで6席しゃべったことになる。
昨日もリハを含めて4席。
2日間で10席は少しハードだったけど、何とか喉ももった。
ホテルの部屋は空気も乾燥してるので声の調子を心配してたけど、寝るときにバスタブにお湯を張り、
カーペットに水をまき散らし、その上なおマスクまでして乾燥から喉を守った甲斐があった。
10席何とか務めることができた。
撤収してホテルに荷物を置きに帰り近所のレストランで打ち上げをと歩いていると、
大阪からわざわざ取材しに来てくれた馴染みの記者とばったり。一緒に打ち上げ。
今回手伝ってくれたカーンの娘紗理奈ちゃんが12時に誕生日を迎えるので、
こっそり店に頼んでケーキとろうそくを用意してもらってみんなで祝った。
食事の後武部氏に近所のアイリッシュパブでと誘うと、みんなもゾロゾロ付いて来て、全員でもう一杯。
結局ホテルに戻ってきたのは朝の5時頃だった。



カーネギーホールの前で。
記録写真は撮ったが、出演者が自身のホームページに掲載する物でさえ、
内部の写真は一切公開禁止にされている。
内部はこんな感じ→https://www.carnegiehall.org/About/Building-Overview/Weill-Recital-Hall



ホールの前には僕のポスターが貼られている。



カーネギー公演のチケット。
関係者用に確保した席なので料金は$0。



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