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第1章 研究目的と従来の研究
第1節 研究目的
第2節 植物季節現象に関する従来の研究
第1項 生物季節観測の概要
第2項 ソメイヨシノ開花に関する従来の研究
第3節 気候区分に関する従来の研究
第1項 気候区分の方法
第2項 日本における従来の気候区分
第3項 従来の気候区分の課題

第2章 研究方法及び資料
第1節 研究方法
第2節 資料の選定について
第3節 対象地域及び対象期間

第3章 気候区分の結果
第1節 データ行列の作成
第2節 主成分分析の結果
第3節 クラスター分析の結果

第4章 ソメイヨシノ開花と気圧配置型との関係
第1節 気圧配置型出現日数
第2節 気圧配置型がソメイヨシノ開花に及ぼす影響度

第5章 結論

謝辞 参考文献

第4章 ソメイヨシノ開花と気圧配置型との関係

第2節 気圧配置型がソメイヨシノ開花に及ぼす影響度

第19〜第21表に示された各年の気圧配置型出現日数を,それぞれの気圧配置型の時系列データであると考え,第8表の経年変化型(固有べクトル)との関係を相関分析により明らかにした.計算にはピアソンの積率相関を用い,その結果,有意水準95%以上で有意な相関係数のみを第22表に表した.欄が空白のものについては統計的に有意な関係が存在しないことを表す.

正の値を示す場合,その気圧配置型の出現日数が多い年には対応する経年変化型(固有べクトル)の値も大きい値を示すことを表す.つまり,その経年変化型と強い正の関係にある地域においては開花日が退れ,逆符号で強く関係している地域においては開花日が早まることを意味する.負の値を示す場合にはこれと全く逆の傾向を示す.従ってこの値は,各経年変化型がどのような気圧配置型に影響されているのかを知る手掛かりとなる.

経年変化型と各地域のソメイヨシノ開花との関係は,第13表のグループ別開花日平年偏差に対する各主成分の相対的な寄与率によって表される.正の値で経年変化型と同符号で関係し,負の値で逆符号で関係することが明らかとなっているので,この値と第22表の年変化型と気圧配置型との相関係数を用いて,各地域のソメイヨシノ開花と気圧配値型との関係を明らかにできる.

具体的な方法としては,各地域に対して影響する経年変化型(第12表において有意水準95%以上で有意な経年変化型)の相対的な寄与率(第13表)と,第22表に示した経年変化型と気圧配置型との相関係数の積を,地域別,期間別,気圧配置型別に合計し,その値を100倍したものを気圧配置型が各地城の「ソメイヨシノ開花に及ぼす影響度」とした.

例えば,G1-1は経年変化型1・2・4から強い影響を受け,それぞれの相対的な寄与率は(-21.00%,55.88%,13.00%)である.そして,経年変化型1は第1〜第8半旬においてはT・Uc・W型から影響を受け,相関係数はそれぞれ (-0・425,0.402,0.372)である.-21.00%をそれぞれにかけて(0.089,-0.084,-0.078)となる.経年変化型2はT・Va・W型から影響を受け,相関係数に55.88%をかけると(0.249,-0.223,-0.119),経年変化型4も同じくT・Vb-e型で,(-0.041,0.046)となる.同じ気圧配置型について合計するとT(0.297),Uc(-0.084),Va(-0.223),Vb-e(0.046),W(-0.277)となり,これを100倍したものが影響度となる.すべての期間,地域について同様の作業を行い, 第23表の値を得た.

符号が正ならば開花を遅らせる影響を持ち,負ならば開花を早める影響を持つ.またこの値は,例えば「20」で4日遅れるというような絶対的な関係を示すものではないが,絶対値が大きいほど影響度は強いと考えてよい.これを用いることで,ある期間のある気圧配置型がどの地域のソメイヨシノの開花日を早めたり,遅らせたりするのかを定量的に把握し,比較することが可能となる.

地域によっては影響を受けない期間もあるので,それは考慮にいれないものとする.過去の研究によると第1〜第8半旬の影響を受けるのは,北海道と東北,長野・新潟県のみであるので,G1,G7,G8以外の地域についての第1〜第8半旬の影響度は除外する.それから,4月以前に開花してしまう地域では,第19〜第24半旬の天候は,開花には直接影響を及ぼさない. 従って, 全地点の平均開花日が3月31日以前であるG3,G5,G6-1についての第19〜第24半旬の影響度は除外する.

この結果,気圧配置型が各地域のソメイヨシノ開花に及ぼす影響度を図示したものが第32図である.ソメイヨシノ開花を遅らせる方向に最も影響している気圧配置型はT型である.T型の出現により,北西季節風が強まりシべリア気団が南下する.日本の天気は太平洋側で晴天,乾燥,日本海側で雪となり,裏・表日本気候区を区分する際の基準となる天気区界が現れる.しかしソメイヨシノ開花に関しては,ほぼ全国的に開花が遅れる方向に影響している.降水でははっきりとした境界が見られる冬型の気圧配置だが,ソメイヨシノの開花に影響する気象条件である気温については,程度の差はあるものの九州南部を除いてほぼ全国的に平年値よりも低下する.

T型の他に,開花を遅らせる方向に影響している気圧配置型はVb-e型である.G2,G7,G8において強く影響している.G2においては,夜間の放射冷却のために日最低気温が低下し,そのことが開花を遅らせるのであろう.G7,G8において開花が遅れる理由は放射冷却ではなく,北東部に位置するためにその他の地域では既に崩れているT型の気圧配置の影響が残っており,その寒気により遅れるものと思われる.

開花を早める気圧配置型は多くあるが,G1のVa型,G7,G8のX型を除いては,気圧の谷か停滞前線といった降水を伴う気圧配置型である.停滞前線の位置は寒帯気団と熱帯気団の境界を示すものであるから,それが冬季の日本の南岸,あるいは日本列島上に横たわるということは,季節はずれの暖かさとなるはずである.従って,W型の出現により開花日が早まることは当然と考えてもよいであろう.

第19〜第24半旬のUa型の影響度も大きいが,これは南からの気流が流れ込み気温が上昇するためであろう.Ubについても同様に考えられる.UcについてはG7,G8において値が大きくなっているが,ここはUcの場合には低気圧の影響が及ばない地域であると考えられ,高気圧などの影響で比較的高温となるためであろう.

また,他に気圧の谷の出現が多くなると開花が早まる理由としては,暖冬には低気圧が頻繁に日本列島を通過し冬型の気圧配置が長続きしないということがある.第45図に期間ごとに気圧配置型の出現頻度を示しているが,第1〜第8半旬に比べて第9〜第18半旬にはU型の出現頻度が多くなっており,季節が進むと低気圧の通過が増加することが分かる.暖冬には季節の進みが早くU型の出現頻度が高いので,開花の早まりと関係してくるのである.

地域別にみてみると,G6-1がどの気圧配置型の影響も受けないことが非常に特徴的である.九州南部においてはどのような気圧配置型が現れようとも,それにはあまり関係なくソメイヨシノが開花していることになる. G6-1の鹿児島,宮崎の開花日の標準偏差は全地域のうちで最も小さく,また平均開花日も最も早い地域である.よって九州南部においては,どのような総観的気候条件であろうとも,気温については比較的変動が少なく,温暖な気候にある地域であるといえる.

G6-1の北に隣接するG5も気圧配置型の影響を受けにくい地域である.T型の影響を最も強く受けるが,日本海側に位置するためであろう.G6-1と同じくG6に属するG6-2であるが,対照的に多くの気圧配置型の影響を受ける.ソメイヨシノの南限であるため,微妙な気温の変動にも影響を受けるためであると考えられる.第9〜第18半旬について他の地域と比較してみて特徴的なことは, Vb-e型により開花が早まることである.これは海に囲まれており放射冷却が起こりにくいためと考えられ る.

第9〜第18半旬に限ってみてみると,T型に最も影響を受けるのはG3-1であり,次いでG4,G3-2,G1-2の順となる.日本海側の地点が多いG4,多雪地帯であるG1-2に冬型の影響度が大きいことは当然のように思えるが,G3は太平洋側である.西高東低の気圧配置時には降水は日本海側に限られるが,気温については太平洋側も低下し,それがその他の気圧配置時とは比較にならないほど低温となるために,大きく 影響を及ぼすのではないだろうか.またこの期間には,G4はT型以外の影響は受けない.G4は多雪地帯であり,地面は雪に覆われていることが多い.このことが,放射冷却を起こりにくくしたり,接地層の気温上昇を妨げたりなどの影響を与えていることが考えられる.

気圧配置型による影響を調べてみて明らかとなったことは,日本海側と太平洋側の気候を区分する際に非常に垂要な基準となる西高東低の気圧配置時の天気区界が,気温の影響が大きいソメイヨシノ開花日を指標とした場合には見られないことである.従って,本研究によって得られた気候区分における日本海側と太平洋側との境界は,その他の気候区分による裏日本と表日本の気候区界とは性質が異なる.また季節の進行の早さを表すものとして,停滞前線の出現や気圧の谷の頻繁な通過があげられること,高気圧による放射冷却が多雪地帯や島嶼部においては見られないこと,さらに冬季から春季にかけては,九州南部はその他の地域とはかなり異なり,気圧配置型の違いによる気温変動が少ない地域であることも明らかとなった.