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第1章 研究目的と従来の研究
第1節 研究目的
第2節 植物季節現象に関する従来の研究
第1項 生物季節観測の概要
第2項 ソメイヨシノ開花に関する従来の研究
第3節 気候区分に関する従来の研究
第1項 気候区分の方法
第2項 日本における従来の気候区分
第3項 従来の気候区分の課題

第2章 研究方法及び資料
第1節 研究方法
第2節 資料の選定について
第3節 対象地域及び対象期間

第3章 気候区分の結果
第1節 データ行列の作成
第2節 主成分分析の結果
第3節 クラスター分析の結果

第4章 ソメイヨシノ開花と気圧配置型との関係
第1節 気圧配置型出現日数
第2節 気圧配置型がソメイヨシノ開花に及ぼす影響度

第5章 結論

謝辞 参考文献

第3章 気候区分の結果

第3節 クラスター分析の結果

第10表の主成分得点を全て用いてクラスター分析を行った.結果として得られた樹形図を第22図に示す.結合距離の短い地点間では経年変化が類似していることを意味する.結合距離11で区切り,8個の地域に区分した.次に樹形図の左側から順に番号を付け,G1,G2,とした.さらに結合距離6で区切り,地域内での小区分とし,地点数の多い方,または樹形図左から,G1-1,G1-2,と表した.最終的には13の地域に区分した.

地域区分図を第23図に示す.分布形態を分かりやすくするために,各グループの区界を過去の気候区分などを参考にして示した.G2-2に区分される浜松と彦根がG2-1の領域に分布するなどの理由から,小区分については分布記号を変えて示す.

G1は,全体としては東北北西部から甲信越,北関東,北陸にかけて広く分布している.G1-1は信州・北陸の豪雪地帯にまとまって分布している.G2は東は甲府,西は大分,そして1地点だけ離れてはいるが福江に,と東西方向に長く分布している.小区分としてはっきりとした境界は見られないが,どちらかというと,G2-1は西日本側に分布している傾向が見られる.G2-3は離れて分布しているうえに,その間の距離もかなり遠い.共通点として考えられることは,2地点とも海に面していることで,このことがソメイヨシノ開花に対して何らかの影響を与えていると考えられる.G3は関東,近畿,四国地方の太平洋側と浜田に分布しており,その中で東京,横浜の大都市がG3-2に小区分される.G4は輪島,石川県,北近畿,山陰といった日本海側と広島,岡山に分布している.G5は下関と九州北部,G6-1は九州南部,G6-2は八丈島である.G7,G8はそれぞれ東北北東部,北海道南部に分布する.

樹形図より,グループ間の類似度を見てみると,G5とG6が最も近い関係にあり,次にG7とG,8,そしてG3とG4が近い関係にある.分布図を見てみても,互いに近接した地域にある.次にはG2とG3・G4,そしてG5・G6とG7・G8が近い関係にある.G2・G3・G4で九州以外の四南日本はほほ網羅され,G5・G6・G7・G8で東西南北の両端がひとまとまりとなる.そしてG1とその他のグループとが最も遠い関係にある.

第24図に地域別の開花日平年値を示す.本研究の区分は単純に平均開花日の類似度により行ったものではないが,同じグループ内ではある程度のまとまりがあることは明らかである.地点数が多く,広く分布しているグループほど開花日の平年値の違いが大きく,G1-1では最大の19日間の差がある.最も早く開花するグループはG6-1で,また開花日の標準偏差(第25図)の値も最も小さくさく,毎年安定して早く開花する地域であるといえる.興味深いのは,同じくG6のG6-2の標準偏差の値が全地点中で最も大きいことである.開花日の平年値に比べると,標準偏差の値はグループ内でのまとまりが小さい.経年変化の特徴で区分したとは言え,経年変化の変動幅は同地域に区分された地点間でも大きく異なるようである.

第26図にグループ別の開花日平年偏差を表す.各地域の地点の平年偏差を年毎に算術平均し,それをグループ別の値としたものである.この図より,ソメイヨシノ開花日の経年変化の特徴について,グループ間の平均的な経年変化の差異を個々の年の平年偏差の異同として把握することができる.各主成分の特徴が強く現れる年においては,特徴的な平年偏差の差異が現れるはずである.

第1主成分負荷号が最大値となる1994年にはG7・G8で開花が早まり,GIではやや早く,それ以外の地点において開花が遅れている.最小値を示す1977年にほ,G4の傾向がやや弱いとはいえ逆の傾向を示している.第27図はグループ別の主成分得点の平均値である.第1主成分得点の値について見てみると,G1・G7・G8において負の値,G4でほとんど0に近い値,その他で正の他を示している.このように主成分得点 の特徴が,主成分の強く影響する年の平年偏差の特徴をよく表している.
第2主成分負荷量の極値である1979年と1986年にも,G7とG8において若干異なるが,第1主成分の場合と同様である.

このように個々の年の開花日平年偏差のグループによる違いは,各主成分との複雑な関係により説明される.本研究は,その積み重ねとしての経年変化の特徴により地域区分を行ったものである.

このように,各グループは主成分の特徴で区分されているので,主成分との関係により各グループの特性を明らかにできる.次に各グループの平均的な経年変化に及ぼす第i固有べクトル,即ち経年変化型iの相対的な寄与率により,各グループと各主成分との関係を明らかにする.なお、ここでは小区分の単位で分析する.

具体的な手法としては重回帰分析を用いる.従属変数に地域別開花日平年偏差,独立変数に第9表の固有べクトルを設定し,平均値が0,標準偏差が1となるように標準化した後,ステップワイズ法により有効な独立変数のみを用いて重回帰分析を行う.よって固有べクトルaとの標準偏回帰係数cがj個(地域によってその数はことなる)算出される.最後に従属変数毎に標準偏回帰係数の平方値が平方和に占める割合を算定し,これを経年変化型の相対的な寄与率とする.この際,係数の有意性が問題となるが,ここの計算では重回帰分析に用いられた全ての独立変数の係数を用いる.数式で表現すると,

(平年偏差)=c1a1+c2a2+…+cjaj → c1〜cjを算定
(相対的な寄与率)=cj2/Σcj2xl00%
となる.なお主成分とグループが逆符号で関係している場合(標準偏回帰係数が負の値となる場合)には相対的な寄与率も負の値で示した.

第12表に重回帰分析の結果を表す.主成分分析の累積寄与率が約77%であったので,その結果を利用したこの結果の精度もそれほど高くはならなかったが,F検定では全てのケースで有意水準99%で有意だとの結果を得た.また,有意水準95%で有意な標準偏回帰係数には網掛けを施して表したが,以下ではその係数の付く固有べクトルが,各地域の経年変化に影響する経年変化型を表しているものとする.

次に,ステップワイズ法によって変数に取り入れられた固有べクトルを全て用い,各経年変化型の相対的な寄与率を求めた.それが第13表であり,第28図はそれをグラフ化したものである.寄与率の高さは横棒グラフの長さによって表される.

まず目に付くのは,経年変化型2の寄与率がG6・G7・G8以外のグループにおいて,正符号で非常に高い値となっていることである.よって経年変化型2は,G6〜G8以外の地域において,開花が平年よりも小くなるか,遅くなるかを決定する,最も重要な経年変化型である.またこのことから,ソメイヨシノ開花に影響する気候条件である春先の気温については,経年変化の特徴はG1〜G5においてほほ同様であり,本研究により区分された違いは,特異な年の平年偏差の表れ方など,より複雑で局地的な部分の特徴によるものであると解釈できる.それが,その他の経年変化型の寄与率で表されている.

逆に,G6〜G8については他の多くの地域と比較して,大幅に異なる経年変化の特徴を有しており,この地域の気候が他の地域とは成因的に異なっていることが考えられる.G6とG7・G8の違いを決定しているのは経年変化型1の寄与のしかたである.G6はG2-3やG5とともに正符号で関係しており,G7・G8はG1とともに逆符号で関係している.先にも述べたが,東北日本と西南日本(なかでも九州)での開花日平年偏差の対称性を説明するのが経年変化型1である.

また,経年変化型3と都市昇温などの温暖化との関わりについて述べたが,寄与率の高い地域はG8(約17%)で,次いでG2-2(約10%)であった.逆符号ではG6-2(約-22%)のみであった.北部で気温上昇に対する開花の早まりが人きく,南部では表れないとの過去の研究結果と―致している.またG2-2は,鳥取を除いては人口規模の大きい都市で構成されており,都市昇温の存在は十分に考えられる.青野・小元(1990b)は, 東京における都市昇温による開花の早まりは1920年代から見られるとしている.東京と横浜の大都市で構成されるG3-2に対する寄与率がごく小さかったのは,対象期間の当初から都市規模がかなり大きかったためである可能性がある.

経年変化型4は,すべての地域において正符号の寄与率を示しているのが特徴で,G6-2において最大の寄与率(約25%)を示す.それから,G2内の小区分全てにおいて20%前後のほぼ同じような値を示していることから,経年変化型4の特徴によりG2が規定されているものと考えてよい.

経年変化型5以降の主成分分析の結果の寄与率は低いものであり,より局地的な経年変化型である.相対的な寄与率では,G8における経年変化型5の約14%や,G6-1における経年変化型6の約-15%,G6-2における経年変化型7の約-14%,G2-3における経年変化型8及ぴ経年変化型9の-14%など,比較的高い値を示しており,局地的な経年変化の特徴を把握する経年変化型として重要である.