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第1章 研究目的と従来の研究
第1節 研究目的
第2節 植物季節現象に関する従来の研究
第1項 生物季節観測の概要
第2項 ソメイヨシノ開花に関する従来の研究
第3節 気候区分に関する従来の研究
第1項 気候区分の方法
第2項 日本における従来の気候区分
第3項 従来の気候区分の課題

第2章 研究方法及び資料
第1節 研究方法
第2節 資料の選定について
第3節 対象地域及び対象期間

第3章 気候区分の結果
第1節 データ行列の作成
第2節 主成分分析の結果
第3節 クラスター分析の結果

第4章 ソメイヨシノ開花と気圧配置型との関係
第1節 気圧配置型出現日数
第2節 気圧配置型がソメイヨシノ開花に及ぼす影響度

第5章 結論

謝辞 参考文献

第3章 気候区分の結果

第2節 主成分分析の結果

主成分の算出には相関行列を用い,固有値が1以上の値を示す主成分を全て算出した.その結果,第7図に示したように主成分を10個抽出した.第1主成分の固有値は11.25で,その寄与率が26.79%,第4主成分までの累積寄与率で55.70%と, あまり寄与率が高くならなかったことから,ソメイヨシノ開花日の経年変化が複雑な現象であることが分かる.第10主成分までの累積寄与率は77.39%で,得られた主成分で全変動の約8割を説明できる.固有べクトルは第8表に,主成分負荷量は第9表に,第10表にクラスター分析に用いる主成分得点を示す.

第7図

ここでは,固有べクトルによって表される経年変化型と,主成分得点で表される経年変化型の分布パターン,そして主成分得点と変数との相関関係を表す主成分負荷量について中心に考察し,各主成分の表す属性を明らかにする.なお,第i主成分の表す経年変化型を「経年変化型i」と表現する.

第8図に表した経年変化型1は,全変動の26.79%を説明する経年変化型である.1970年代前半までは比較的正の値をとることが多く,その後1980年代後半まではほほ負の域で推移し,その後は再ぴ正の値をとっている.図中に示された5年移動平均曲線により,1970年代の開花日の早まる傾向と,1980年代の開花日の遅れる傾向がよくわかる.なお,ピリオドグラムによる周期牲の検出を試みたが,統計的に有意な周期はみられなかった.

次に第1主成分得点の分布パターンより,経年変化型1の特徴と各地点の経年変化の特徴との関係を明らかにしたい.第9図に示した通り,経年変化型1の特徴と各地点の経年変化との関係は東北日本と西南日本に大きく2分される.西南日本においては経年変化型1と同様の傾向が経年変化の特徴の中に見られ,東北日本においては全く逆符号の傾向が現れているものと解釈できる.1以上の値を示すのは九州及び太平洋沿岸,-1以下の値は東北地方以北であり,両地域で経年変化型Iとの関係が強い.正の極値はソメイヨシノの南限である八丈島,負の極値は函館となっている.

主成分と変数との相関関係を表す主成分負荷量の値を第10図にみると,最大値は1994年で0.77を示し,第1主成分と強い関係にある.0.6以上の値を示す年は1963年,1983年,1964年,1972年,1962年である.最小値は1977年で-0.87を示し,逆符号で第1主成分との関係が強い.同じく1982年,1984年,1974年,1981年,1976年,1966年,1965年が-0.6以下の値を示す年で,特に1982年,1984年は-0.8以下の値であり,非常に強い関係にある.

第11図は最大値の1994年と最小値の1977年の開花日平年偏差分布図である.また,それぞれ上位5年と下位5年の開花日平年偏差の平均値の分布図を第12図に示す.第11図,第12図より,第1主成分負荷量が正符号で高い値を示す年は西南日本で開花が平年よりも遅れ, 東北日本で平年よりも早くなり,そして逆符号で高い値を示す年では逆の傾向が見られることが明らかである.

以上より,経年変化型1は西南日本と東北日本では逆符号で現れ,2月中旬から下旬以降の気温分布が,北暖西冷型であるか,あるいは北冷西暖型であるかに強く関係している経年変化型であると思われる.また,この分布図は開花日の平年値を等期日線で表した第6図に非常によく似ている.従って,同じころに開花する地点のソメイヨシノは,天候の影饗を受ける時期も同じころであるため,第1主成分得点の分布 型が平均開花日の等期日線と類似したものになったとも考えられる.

次に経年変化型2であるが,全変動の13.88%を説明する経年変化型で,第13図に表した特徴を持つ.経年変化型1に比べると,長期問にわたる大きな変動傾向は見られない.また,経年変化型1に見られる1970年代から1980年代にかけての開花の早まる傾向が見られないことが対照的である.1950年代から1960年代初頭にかけてと,1970年代の終わりごろから1980年代にかけての年々の変動の幅が大きいことも特徴的である.

第14図が第2主成分得点の分布形態である.本州中央部ではほぼ正の値を示し,東北以北,本州南岸,四国,九州のほとんど,そして神戸で負の値を示す.開花の早い地域と遅い地域において負の値を示すという見方も可能である.正の極値は金沢で1.29,負の極値は八丈島で-3.90である.

主成分負荷号についてみると,正符号で0.6以上の値を示す年は1986年,1970年で,-0.6以下の値を示すのは1979年,1960年,1987年である.これらの年の開花日平年偏差の分布(第15図),及びそれぞれ上位5年と下位5年の平均値(第16図)より,正の値の年では,ほぼ全国的に開花が返れ,逆に負の値の年には全国的に開花が全まっていることが明らかである.

以上より,経年変化型2は,ほぼ全国的に開花が早まるか遅れるか,即ち,温暖か寒冷かを表す経年変化型であるといえる.

全変動の8.77%を説明する経年変化型3(第17図)の大きな特徴は,1950年代後半,1960年代後半,1980年代後半に,それぞれ段階的に減少を続けていることである.つまり,経年変化型3との関係が強い地域においては,開花の早まる(逆符号では遅れる)傾向が続いていることを表している.

第18図より,経年変化型3の分布を見てみると,北海道と東北北部,新潟,高山,そして,太平洋べルト地帯と呼ばれるような地域で正の値を示している.最大値は函館の2.31,最小値は八丈島の-4.21であった.

また,第3主成分負荷量の絶対値が0.6以上を示し,経年変化型3との関係が強い年は,正符号では1955年の0.60,負符号では1990年の-0.79となる.なお,1990年は全国的に開花が非常に早く,各地で最早記録を更新した年であった.

経年変化型3と正の関係があり,開花日が段階的に早まりつつある太平洋べルト地帯には大都布が多く存在する.そこで,経年変化型と都市昇温との関係を調べてみた.一般に,都市のヒートアイランド強度は人口の対数値と比例関係にある.よって,便宜的な値として,各対象官署の存在する市町村の1990年現在の人口集中地区人口(第19図)の常用対数をとった値(第11表)を,各市町村のヒートアイランド強度の指標とし,第3主成分得点との相関係数をピアソンの積率相関により算出した.

その値は0.418(有意水準99%で有意)で正の相関が見られた.経年変化を問題としながら都市規模の変化については全く考慮していないこと,各官署の対象木の存在する位置がヒートアイランドの影響を受けているか検証していないことなど問題があり,断言はできないが,人口規模の大きいところで開花がやまりつつあるといえる.また,東北北部・北海道において主成分得点が正の値を示しており,函館で極値となっていることは,北の地点ほど温度上昇に対する開花日の早まり方が大きいとする結果(青野,1993;青野・小元,7990b;Kai et al,1993)にも適合する.

以上より,経年変化型3は都市昇温をはじめとする温暖化との関係がある経年変化型であると思われる.

終年変化型4 (第20図)は,全変動の5.48%を説明する経年変化型である.1956年を除いて,1970年代まではほぼ一定の振輻で変動しているが,1980年代以降には減少傾向が続いており,近年は平均日よりも早く開花する傾向にある経年変化型である.主成分得点の分布は第21図のようになっている.東北北西部,関東,東海,近畿,四国の瀬戸内で正符号の値を示し,他で負の値となっている.

以上のような特徴をもつ経年変化型と,実際の各地点のソメイヨシノ 開花日の経年変化の関係により気候区分を行った.