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第1章 研究目的と従来の研究
第1節 研究目的
第2節 植物季節現象に関する従来の研究
第1項 生物季節観測の概要
第2項 ソメイヨシノ開花に関する従来の研究
第3節 気候区分に関する従来の研究
第1項 気候区分の方法
第2項 日本における従来の気候区分
第3項 従来の気候区分の課題

第2章 研究方法及び資料
第1節 研究方法
第2節 資料の選定について
第3節 対象地域及び対象期間

第3章 気候区分の結果
第1節 データ行列の作成
第2節 主成分分析の結果
第3節 クラスター分析の結果

第4章 ソメイヨシノ開花と気圧配置型との関係
第1節 気圧配置型出現日数
第2節 気圧配置型がソメイヨシノ開花に及ぼす影響度

第5章 結論

謝辞 参考文献

第1章 研究目的と従来の研究

第2節 植物季節現象に関する従来の研究

第1項 生物季節観測の概要

そもそも,生物季節現象は農業との関係が強く,農作業の週期を決める基準として用いられて来た.適期適作業ということは農業にとって重要であるが,適期を示すのに何月何日という暦日を用いたり,気温が何度に達したときという具合に気象要素を用いるよりは,どの木の発芽するころに播種を行い,その花の咲くころに移植を行い,あの木の落葉するころに収穫を行うといったように,生物季節を農作業の適期を決める基準とする方がいっそう実用的だからであり,農家の習慣やことわざとなっていることが多い(気象庁,1964).

農業への利用の例を挙げると,桑の発芽日を予想し,蚕種の掃立日を決定して春先の農繁期の労力配分を行ったり,病虫害の発生を予察したり,他の生物季節現象の進行具合から,霜害などの気象災害による農作物の被害を推定することにも利用されて来た.このように生物季節現象は農業気象学の分野においてその価値が重要視され,古くから研究が行われて来た.

1490年にポーランドのクラコウ・アカデミーによって観測署が設立されたのが世界最初の生物季節観測であるが,現在その観測記録は紛失している.現在まで継続している最も古い生物季節観測は,1736年にイギリスにおいてマーシャン(Marshan)が開始した観測である.1780年にはヨーロッパに国際的な観測網が作られ,その後は世界各地で生物季節観測が行われるようになった(河村,1982).

日本においては,明治13年(1880)の気象観測法(内務省地理局測量課)の中に「定期顕象ノ記」として生物季節観測法が示されたことから,生物季節観測が組織的に実施されたのは明治13年(1880)からと推定できる(気象庁,1988).その後,1925年に生物季節観測網がほぼ完成し,中央気象台(現在の気象庁)が今同の生物季節現象に関する報告を集計するようになった.しかし,当時は観測種目や観測方法,観測基準に気象官署問での違いがみられ,資料を相互に比較したり気候値として利用することは不可能であった.そこで,こうした違いによる観測記録の地点間での差をなくすために,中央気象台は1953年に生物季節観測指針を制定した,観測指針は以降2度にわたり改正され,観測種目や観測方法,観測基準に変更が加えられたが,ソメイヨシノの開花日については1953年の基準から変更されていない(青野,1993).

生物季節観測は生物に及ぼす気象の影響を知るとともに,その観測結果から季節の遅れ進みや気候の違いなど総合的な気象状況を知ることを目的としている(気象庁,1964).日本の生物季節観測は対象となる生物により植物季節観測と動物季節観測に分けられ,全国102の気象官署において,職口が官署の構内又は付近で,なるべくその地域―帯を代表するような場所を運び,できるだけ毎年同じ場所で,植物季節現象については標本を指定したうえで観測を行っている(気象庁,1988).観測は生物季節観測指針に制定された観測方法,観測基準,さらには観測に当たって心構えに従って行われている.以上のように慎重に観測が行われていることから,主観的な判断による観測ではあるのだが,観測誤差はそれほど大きくないものと推定される.

第1表

植物季節の規定観測項目は16項目(第1表)ある.規定観測目の対象となる規定種目は,主として各地の生物季節観測の結果を互いに比較したり,同―地点の観測結果を長期間にわたって比較するなどの目的に用いる.したがって,規定種目として観測すべき正規種目の生育が気候条件の違いなどにより困難な地点においては,代替種目として異種が観測されている・ソメイヨシノを例に挙げれば,北海道の道北・道東ではエゾヤマザクラまたはチシマザクラが,名瀬以南の地方ではヒカンザクラが,それぞれ代替種日として制定されている.それでもなお項目によっては欠測値が非常に多く,切れ目のない時系列データとして地点間の比較に用いることの可能な項目は少ない.