エピソード51 

おたくのがとんできた

 ある日、飛行機に乗ったときのことです。機材はB767。お決まりのお見合い席を予約しました。機体の右側にある2列シートの通路側がいつも取れるのに、この日は通路側は予約済みで窓側しか取れなかったのです。いざ、乗ってみると、隣の通路側に現れたのは中年男性。平日の早朝便で普段着は珍しいな、という印象を受けました。

 出発まで数分間時間がありました。と、そのときです。その中年男性は、通りかかったCAを呼び止めると比較的厚めのメモ帳を差し出し、あるページを開いて、
「ココと、ココと…」
と言いながら何やら指し示しています。私は初めて見るその場面にちょっと好奇心。
(何しているんだろう…)
 メモ帳を受け取ったCAは頭を下げてその場を離れました。
 しばらくすると、そのおっさん、手を鼻に近づけました。そちらを注視していたわけではないのですが、飛行機の狭いシートではいやでも隣の行動は目に入ります。
(ま、まさか…)
 そう、右手の小指が自分の鼻の中へずぶりと。
(そんな、公共の場でヤメテー)
 それで、今度は鼻から出した小指の爪の内側根元に親指の爪先をあてがいまいした。
(う、うそ)
“ピンッ”
 隣国から発射された物体は、テポドンよろしく国境を越えてきて、私の頬に軽いダメージを残しました。
「テメー、表に出ろ!!お宅のが飛んできたんだよ!」
てな強行外交もできず、何事も無かったように前を向きつづける私。
 信じられないことに、その男は、飛行機が離陸して水平飛行を続ける間も、ずーっっと、自分の鼻からの弾頭の採掘に余念が無かったのです。ただCAが近くを通るときは、採掘をやめるんです。査察があるときには、何事も無かったように振舞うあたり、ちゃんと悪いことだとわかっていてやっているようです。ちなみに残りの弾頭は全部発射せずに近海に捨ててくれました。
 しばらくして、もうすぐ降下開始かなーと思ったとき、ちょっと年上のCAがやってきました。目標は私の隣の乗客。
「お客様。あなた、ずーと鼻くそホジっていたでしょう。いい加減にしないさいよ」
と言ってくれるはず…もなく、それどころか、
「これちゃんと書き込んでおきました」
と言いながら預かった手帳を渡し、さらに、
「私、チーフパーサーのxxです。いつもお乗りくださいましてありがとうございます」
と、そのCAは頭を深々と下げてにっこり笑って去っていきました。
(マジ?)
 現状、ANAは“国際線”ではプラチナ会員とかスーパーフライヤーズ会員にはわざわざ席のところまで来て、
「私、xxでございます。いつもご利用頂きありがとうございます」と頭を下げてくれるのです。一度、ビジネスクラス客で唯一挨拶にこられて、いい気になったことのある私。もちろん、ここ数年国内線ではこの意味の無い儀式を廃止しているのは知っていますが、よりにもよって、この隣の迷惑千万なおっさんに…
 あとで、知り合いのCAに聞いたところ、例のメモ帳については「それはサイン帳でしょう」と言われました。搭乗の記念にと、頼んでくるその手のマニアな客は結構多いらしいです。機内で堂々と鼻くそほじる人は結構少ないと思いますが…
 

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