エピソード25 

ズボンの中に武器なんかありま…

 最近、アメリカ同時多発テロのせいで手荷物検査場が若干厳しく(というより面倒くさく)なりました。昔なら、

「搭乗券拝見してまーす」

「はいはい」
 で済んでいたのに、今は(例えば羽田の場合)、手荷物検査場の手前で搭乗券を係員に渡さなければならず、おまけに、
「お名前をフルネームでお願いします」「山本和夫(仮名)です」

てなやりとりをするわけです。その後、プラスチックのカードを渡されるので、さらに検査場まで進んで別の係員にそのカードを渡すのです。


 カードを単なる通行証だと思っていた私は、未だにカードの文面を見たことが無く、最近、検査場の係員に「カードの内容、問題ございませんね?」と聞かれて、「えっ?ええ。大丈夫です」といいかげんな返事をしてしまいました。

 

 他の空港を比べると若干チェックの手順が異なりますが、「手荷物は自分で管理できている」ことと「搭乗券が自分のものであることを証明できる」ことの確認はどこの空港でも共通しています。でも、搭乗券に記されたカタカナの氏名が読めれば誰だって偽りの名前をフルネームで言うことくらい簡単ですよね。いつか、ひげもじゃもじゃに生やしてターバンを頭に巻いて、「ハァイ。ヤマモトゥ、カズオゥ(仮名)デース」なんて言ってみたりして…と考えているところです。

 

 ところで、正確には検査が厳しくなる前からのことなんですが、小道具好きの私はズボンやらコートのポッケにさまざまな金属製品を「隠しこんで」います。これらをすべて手荷物や専用カゴに移し変えないと人間用の金属探知機を無事潜り抜けることができません。そのため、私はいつも手荷物検査場の前でゴソゴソと「事前準備」にいそしまなければなければなりません。


「これで、よしっ」
 その日も私はすべての金属製品をカバンに移し変え、準備万端と人間用金属探知機を潜り抜けました。
“ピーーーーーー”「ハイッ。お客様、金属反応でーす」

 いつもながら威勢の良い係員の『金属反応』。
(おかしいな、ズボンも上着もコートのポケットも空にしたし、腕時計もはずしたはずだし…) もう一回、探知機をくぐるも、またもや反応音がなります。
「お客様。ライターや携帯電話、…」

「いや、全部出したはずです」
「それでは、コレでチェックさせていただきますがよろしいですか?」
(でたでた。お得意の虫眼鏡っぽい探知機ですね。)「どうぞ、どうぞ」
 大の字に立った私の全身をほぼくまなく調べ終わった後、彼女の捜査の手は私の体の中央付近にまで及びました。そのとき、
「ピィユーーーーン」
 探知機がへその前を行き過ぎてまた戻ってくると、再び、
「ピィユーーーーン」(なーんだ、ベルトのバックルじゃん。これにて一件落着…)と思ったとき、
「ベルトの周りに金属反応がありますので、詳細にチェックさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「えっ!?ええ」(おいおい。見ればバックルがモロ金属なのわかるじゃん。)

 最近脂肪がつき始めたおなかを偽るために息を吸って凹ませるより早く、彼女の手はベルトのすぐ上のところに手のひらを当て、なでるように調べていきます。そして、予想はしていましたが、ベルトの下も…。

(あっ。それは、まずい。そんな…ズボンの中に『武器』なんて…。それより下はダメッ!!)と、勝手に興奮している私。


「はい。ありがとうございました。異常ありません」
 股上の、危険ゾーンぎりぎりのところまでのチェックを終えた後、目の前の年頃のお嬢さんはそう言ってニコッと微笑んだのでした。
「犯人は…ベ、ベルトのバックルみたいですね?」

 私はそう言いながら平静を装ってその場を離れました。
 ちなみに、その直後に気づいたのですが、真犯人はカッターシャツのポケットに入っていたアルミ製の名刺入れでした。早く気づけよ俺。それに係員の女性も…。

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