エピソード23 

機内暴力

 7月に機内で「迷惑行為反対」キャンペーンのビデオが流れていました。なんでも、夏になると比較的おとなしいビジネス客の割合が減り、代わりに増える観光客の中には「はめ外し→迷惑系」の客が増えるかららしい?

 そういえば昔、こんなことがありました。

 

…(回想シーン)…

  飛行機は全日空486便、福岡を夜遅く出て関西空港に向かう便です。そのせいかキャビンは皆お疲れといった雰囲気でした。そのとき機内アナウンス…、

「出発時刻ではございますが、まだ数名ご搭乗になっていないお客様がいらっしゃいます。お急ぎのところ大変申し訳ございませんが、もうしばらくお待ちください」

(何っ!迷惑な客だなあ…)

 

 そのときです。どこからともなく大きな声が聞こえ始めました。

「おい。…だいたい、おまえ達はやなぁ…

 

 何か文句を言っています。ただでさえこっちは気が立っているのにやかましいなあ、と耳を傾けてみると、どうもオジさんが1人騒いでいるようです。私は機体中ほど左側の非常口脇の席に座っていましたが、どうもその男は反対の右側の同じあたりに座っているようです。(トイレの陰になってまったく見えないんですが…)

 

「いったいどれだけ遅れたら気が済むんや?あん?いうてみい!」

「大変申し訳ございません。あと3名ほどお客様がいらっしゃったらすぐに出発致しますので…」

「機長連れて来い!機長!!」

「………」

 

 こういうときスチュワーデスは大変だなあと思って、同情しつつも聞いていました。

 

「大体、おれが15分前のチェックインに間に合わんかったときは行ってしもうたくせに、なんで今回の客は待ってやるんや?」

(要するに愚痴言いたかったのかぁ。…ちなみに、券の購入、未購入ではなく、チェックインしたかどうかで待ったり待たなかったりするのは事実らしいです。爆弾だけ預けて乗らない人がいる可能性があるかららしい、というのはある知り合いの談。)

「申し訳ございません。もう少しお待ちに…」

「だから、おまえじゃ話にならん言うとるやろが!!」

 

 そこにチーフパーサーがやってきました。二人のスチュワーデスが目の前にしゃがんで謝っているのに納得しないオヤジ。でも、だんだん口調だけでなく、言っている内容自体が無茶苦茶になってきました。

 

「ワシがいっとることはな。この辺のみんなが思っとることや。みんな我慢しとるからワシが代わりに言ってやってんねん。ほら見い。皆疲れとるやろ。どうすんねん」

(オヤジのせいで疲れ倍増してるんだけど…)

 

 でも、なんと、この状況で「ええぞ、ええぞ」と冷やかし半分でオヤジを応援する声が出たのです。う〜む、信じられん。しかし、その掛け声を聞いて自分がヒーローになったと勘違いしたのかこのオヤジは、次の一言で間違い無くすべての乗客を敵にしてしまいました。

 

「いいんか。ワシが納得せんかったら飛行機出発でけへんで!いいんか。それでも?」

 

 …うんざりした表情で事の成り行きを見守る他の乗客。周囲が見えていないオヤジ。それを謝罪・説得と正攻法で対応するしかないスチュワーデス。ますます泥沼化していく様相を呈していたそのとき、スチュワーデスの言葉尻に反応したオヤジが最初に動きました。

「貴様ァー」

「お止めくださいッ!!」

(何が起きたんだ)

 私は身を乗り出して事件の起こっている方へ首を伸ばすと、な、な、なんと、そこに見えるのは胸倉をつかまれて壁に抑えつけられて必死に抵抗するスチュワーデス。すぐにシートベルトを外し、そちらへ駆けよると、一瞬先に周囲の客や係員がオヤジをとり抑えていました。ホッとしていると、機内放送…

 

「ただ今、お客様の暴力行為がございました。止む無く拘束させて頂くとともに、関西空港到着後は当局に引渡し致します」

…だって。さすがの航空会社も一線を越えてしまった悪人には強い。

 例のオヤジは、我に返って自分のやったことにやっと気づいたらしく、シュンとしていました。到着後に皆が降りようと脇を歩いていく間も下を向いて席に座ったまま。ほぼ全員から“哀れ”の一瞥をもらって、かなり惨めな状況でした。

 お酒を飲んで飛行機に乗るときは気をつけないと。怒りっぽくなる人は、「飲んだら乗るな、乗るなら飲むな」です。

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