(7)エピローグ

最後にスーツケースの鍵の顛末を書かねばなるまい。

あれほど探したはずの鍵は、帰宅したその日、荷物を片付けているときにバックの中から出てきた。インターラーケンのホテルで入れたはずの、まさにその箇所に入っていた。

レンタルショップに直接行ったらいいのか、その前にメーカーに連絡して開けてもらえるところを聞くのが先か、など帰宅してからのそんなことが頭から離れず感じていた重い気分が、すっと軽くなったのは言うまでもない。しかし、すっかり迷惑を掛けることとなってしまったツアコンのxxさんにはお詫びのしようもない。そう彼女とは、解散後、成田で電車を待っているときにばったり顔を合わせた。このあとの仕事のスケジュールなんかも聞いたが、当然スーツケースの件も話題になった。鍵の本当のことを書くのも、罪滅ぼしの気持ちも幾分かはある。

今回の鍵紛失の原因は入れたバックの構造にもよる。
このバック、全体で4つに分かれており、収納ポケットは全部で21ヶ所もある。これだけ収納場所があるのは確かに便利なのだが、頭がごちゃごちゃになってどれをどこに入れたか管理できなくなってしまう。入れたはずのものが1つ見つからなくなると、21ヶ所を探さなければならなくなる。これはいかにも大変だ。
実際は記憶していたポケットのせいぜい隣を探せば事足りるのだが、一つ狂い始めると大パニックになってしまう。
見つからないとあれだけ大騒ぎする前に、バックをすっかり空にしてみるぐらいのことはやれば良かったのである。
しかしそれをしなかった。したつもりだが、していなかった。
1年前のことだが、そのことを考えるといやーな気分になってしまう。しかしまあ、それが引き金になっていろんなことが起きたのも事実である。得がたい経験ができたと思っておこう。


是非書きたいと思ったものの、結局ひとつも書いていないことがある。
各地にあった公衆トイレの運営費用は誰が賄っているのだろうかという疑問である。
「疑問」と書いたが、日本でなら行政、また駅など施設に付属したものはその施設の運営者で、税金なり企業の経費で賄われているということで疑問にもならない。しかし、ヨーロッパ(と十把一絡げにしてはいけないのだろうが)では公衆トイレは有料が当たり前で、かつ数も少ないというのは広く知られている。無料で使えたのはホテルとレストランのトイレぐらいのもので、あとは全て有料。デパートだって有料だったよとは、あるホームページに載っていた報告。

有料であるからには事業者がいるわけですが、それは一体誰なのか。しかも、トイレで「不正は絶対許しませんわよ」といった顔をして番をしているおじさん、おばさんの人件費、光熱水費、紙等の物品費、建物の修繕費など諸々の経費を料金で賄えるとは考えられない。これは一体どんな仕組みなのか、興味をもった次第。


ホームページの情報をいろいろ検索し、本も何冊か買った(「うんち大全」「パリのトイレでシンブプレ〜〜!」「はばかりながら「トイレと文化」考」、その他)。図書館、立ち読み等々手を尽くしたが、その件に触れてあるのは皆無。しかも、調べている中で、トイレは全部有料というわけでもなく無料のものもあるらしいことがわかった(その汚れ具合は天文学的だと報告しているが)。さらに、トイレのセキュリティを心配する一文もある(これは男性が書いている。その配偶者は心配性だと笑い飛ばしているが・・・)。とすると、「誰が事業者か?」に興味を感じていること自体がもともとおかしいということになりはしないか。行政なり施設の運営者が実施しているという答えが極めて自然に思えてくる。

以下は単なる戯言です。
ローマ帝国のころはともかく、ヨーロッパの町に公衆トイレなんてのはずーっとなかった。なにせイギリス紳士がいつも持ち歩く傘は建物の上から急に降ってくる糞尿を避けるため、女性を家屋側にして歩くのは決して高貴な精神によるものではない、ハイヒールの起源は・・・、なんて時代が続いていた。
日本でも金肥というくらいで、糞尿の肥料としての価値は大変なものであり、これは商品になった。道路脇に桶を置いてトイレとし糞尿を集める商売が生まれた。利用する側からは使用料を、農家からは「商品」代金をというわけで、道路の縄張り争いは熾烈を極め、手を焼いた施政者はその権利を取り上げ、自らの収益とした。
これが公衆トイレの起源で、19世紀の都市改造・下水道整備まで続いた。施政者はこれにより糞尿から得る収益を断たれ、なおかつ現在の姿の公衆トイレを整備する責務を負うこととなった。有料は糞尿売買時代の名残とも言えるし、公衆トイレ整備の責務のみ負うこととなった施政者のせめてもの抵抗とも言える。
なんてことだったら面白いのだけれど・・・。

有料トイレのチップにより清潔で、安全なトイレが提供されていると単純に理解しよう。
あのチップがトイレおじさん・おばさんの懐に入るのか、はたまた清掃作業の賃料、物品代、修繕代の足しにされるのかは判らないが、結果として良いサービスの対価と考えれば決して高くはない。何せこの旅では我が女の子チームは行く先々でトイレのお世話になり多額のチップを提供したのに対して、男の子チームは、その構造上めったにトイレに行かずに過ごし、チップも僅かで済んだ。
こんなに必要性が異なるのに税金を通じて平等に負担させられたのでは堪らない。日本にもどんどん有料トイレを増やすべきだ、なあんてね。


きょうは8月4日。ちょうど1年前は、出発を翌日にひかえ、レンタル店から例のスーツケースを借り出し荷物を詰めこんでいたところだ。昨年大旅行をしたこともあって、今年はどこかへ行こうという話しも小振りで済んでいる。
子供たちは行きたいところへ自分の才覚で勝手に行けばいい。
子供抜きでどこへ行くか、そろそろ考え始めようかと思っている。


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