ゆきむすめ
 
 
 
 
 
昔、あるところに、子供のいないおじいさんとおばあさんがいました。
 
おじいさんが、寂しがるおばあさんにある冬の日に、雪で、女の子の雪像を作りました。
 
仕上げに、青いビー玉を入れると、不思議なことに雪で作った人形は、一人の人間の女の子になっていました。





 
だいたい、奇跡なんて言葉は、安っぽくて嫌いだった。
 
いつものポーカーフェイス。誰からも距離を置いて、少しだけ優越感に浸る毎日。
「美坂さんて、頭いいよね」
「性格もいいし、ルックスもかわいいし」
「こんな人が自分の近くにいるなんて、ほんと奇跡って感じだよねー」
 
私は、そんな時、少しはにかむように笑うだけだ。
この人たちは、知っているんだろうか?奇跡の意味を・・・
その価値を。
 






 
むすめは、すくすくと大きくなりました。雪のように白い肌。
 
美しいむすめは、たちまち街の人気者になりました。
 
ただ、どうしても青空のしたで遊ぼうとは、決してしませんでした。
 
「暑いのはにがてだから」むすめは、お日様のにおいを知りません。







 
 
今日も、中庭であの人を待ちます。風が、頬に当たります。
寒さよりも、その感触がうれしいのはどうしてなんだろう。
外の空気。もう、こんなに長く外に出ていたのは、何ヶ月ぶりだろう。
お姉ちゃんがいるのはあの教室かな。
裕一さんもあの窓の向こうにいるんだ。
軽く目を細めて、窓に反射した、冬の太陽を見る。
「冬の太陽は、美容の大敵だぞ」
まだ、2、3日しか聞いていないのに・・・懐かしい声。
 
「そんな事言う人、嫌いです」
 




 
むすめは、ある日、恋をしました。しかし、男の子がどんなに誘っても、むすめは首を縦に振りません。
 
大好きな男の子が誘ってくれる場所は、雪でできたむすめには、危ない所ばかり。
 
それに、むすめは大変美しかったのですが、笑うことができませんでした。
 
むすめは、楽しくても笑うことができない自分が、嫌いだったのです。
 






 
妹が、「嫌い」とか、「いやだ」とかいうのを聞いたことがなかった。
人の言うことをいつも素直に聞く。
だから、私はつらかった。
 
「偽善者」
 
そう、誰も知らない、私の素顔。一番好きだったものから、背を向けた。
 
「わたしは、ひとりっこよ」
 
辛いことから目を背けて。すべてわすれてナカッタコトニシテ・・
最初から、そう最初からいなかったと思えば・・・・
 
では、どうしてコンナニクルシイノ・・・・
 






 
むすめは、男の子のことを思うと、胸が苦しくなりました。
 
そして、ある日、とうとう誘いにのって、みんなとハイキングに行きました。
 
でも、風は娘には強すぎました。晴れ渡る空も、むすめには恐怖でした。
 
男の子と一緒に当たったたき火は雪でできたむすめには、耐えられないものでした。
 
でもその日、むすめは本当に嬉しそうに笑ったのです・・・・
 






 
「お姉ちゃん」
「うん?」
「またあのお話聞かせて」
「ゆきむすめ?」
妹の好きなその絵本は、最後のページがちぎれていて・・・
私がよくお話を創って聞かせたものだった。
 
「起きないから奇跡って言うんだよね・・・」
 
否定の言葉が、何度も何度も喉まで出かけるのに、言えなかった。
 
夜の公園を、妹を背負って家に向かっていた。
 
いつのまにか雪はやんで、蒼い月が出ていた。
 
「栞・・・。春になったら、みんなでお花見に行きましょう」
 
「うん」
 
「明日の誕生日には、お姉ちゃんがクッキーを焼いてあげるからね」
 
「うん」
 
背中に当たる、妹の息が、うれしかった。
 
多分、私は、笑っていたと思う。
 
月は、少し・・・滲んでみえた。
 
 
そして、街に春がやってきました。
 
 
ゆきむすめは、・・・・もういません。
 
 
そこには、良く笑う春の木漏れ日のような娘と、太陽のにおいのする男の子が、
 
 
ずっと、ずっとしあわせにくらしましたとさ
 
 
〜おしまい〜
 
 
 

 
 
 
【ひとこと】
元々、はじめて書いたSSに、はじめてコメントをくれた方が、HID様でした。
そして、最も感動したSSが、S・Oでした。
ホームページを作られた時に、ぜひうちの娘を(笑)もらっていただこうと思ったのですが、方法が分からず・・・。
(実は、かなりのメール初心者)
これからも、暖かく優しいお話をどんどん作ってください。
これからもこのホームページがにぎやかであることを祈りつつ。
それでは、・・・また。
 
 
 
【お礼の言葉】
赤丸さんありがとうございます。
最初にこの話を読ませていただいたとき、「自分には書けない種類の話だなあ」と
素直に感心した覚えがあります。
その内容には共感を抱きましたが...。
 
これからも、素晴らしい話を書き続けていただけることを願いつつ。
 
HID
1999/08/06




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