Starting over 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 Prologue
 
 
 
 
 
 
  私は走っている。
 夕暮れに染まる街、白く積もった雪さえ紅に染める夕焼けの中を、息を切らしながら。
 私の吐いた息が白く凝固して、後ろに流れていくのがわかる。私は吐息を置き去りにして、ただ走る。
 あと、ひとつ、あとひとつ角を曲がれば、家が見える。そして、きっと今日も、小さな妹が私の帰りを待ちわびているはず。暗い家の中で、寂しさに耐えながら。
 
 家が近づくにつれて、泣き声が聞こえてくる。
 最初は聞き間違いかと思うほど小さく、けれど、家が近づくにつれて、それはだんだん 大きくなって、今では、女の子のすすり泣く声だとはっきりわかる。
 家の門の前で泣いている、小さな女の子。私の妹だ。冬の夕暮れの中、コートも着ない で立ちつくし、ただ、泣いている。
 こんなことは初めてだった、いつも、どんなに寂しくても、我慢強くて、けして涙を見 せたりしなかった小さな妹。いつも私を笑顔で迎えてくれる妹。
 私は駆け寄って、息を弾ませながら言う。
「栞、ごめんね、ひとりで寂しかった?」
 栞はただ、首を横に振る。
「どこか、痛くしたの?」
 また、首を横に振る。
 一体どうしたんだろう、妹が泣いてるのを見ていると、私まで悲しくなってくる。
 私は、どうやってなぐさめたらいいのかもわからずに、ただ妹の小さな右手を両手で包む。
しがね、んしがいたの」
 泣きじゃくりながらの栞の言葉、聞き取りにくい言葉。
「でも、いなくなっちゃたの、しおりが…、しおりが家に入ってる間に
「寒そうだったから、貸してあげようと思ったの、あたたかくなるようにって
 見ると栞の小さな左手にはストールが握られている。
 
 
「おねえちゃん
 
 
「天使がいなくなっちゃったよ」
 
 
 
 
 
――そんな、夢を、みた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
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