以下の文章は、SEXFRIEND(CODEPINK)というゲームのレビューです。
 ネタバレを含みますので、未プレイの方は、ご注意ください。
 本文中の「 」部分はゲームからの引用です。







































「わたしが信じるから。それ以外のコンキョなんてないよ」

 深い深い暗闇を歩きながら、彼女は光芒を探している。
 信じてはダメだ、と思いながら。再び失ったときの痛みに慄きながら。




「ワレながらバカだよねー。いつ自分にクスリを盛るか判らない相手をこんなに信頼してるなんて」

 彼女はいつだって求めている。誰かを、本当に信頼できる誰かを。
 眩しいほどの強さで。悲しいほどの純粋さで。見ていられないほどの危うさで。







 Dancing in the dark−暗闇で踊る少女
 (SEXFRIEND REVIEW)







1.フェイク

 SEXFRIENDというタイトルはフェイクである。プレイをしてしばらくはそんな風に考えていた。けれど今では、実はとても正直で的確なタイトルでじゃないか、そう考えるようになった。
 プレイヤーには状況が与えられる。それは、SEXFRIENDという名前で規定された他者との関係である。
 ちょっと想像してみてもらえばわかると思うけど、何かによって規定された関係というのは、とても居心地がいい。なぜなら、そこでは自分で考えることをしなくてもいいから。決められた枠の中で、決められた役割をこなすだけでいいから。
 高辺はおかしいほどこの言葉に縛られ、この言葉によって早瀬の気持ちを推し量り、選択によっては彼女との関係と彼女自身を損なってしまう。自分で考えることをしなかったからである。壊すことを怖れたからである。
 ゲームの中で、過ちは選択肢に集約される。シンプルに。だから僕たちは、その選択肢に至るまでの道のりを考えなければいけない。
 彼女たちはSEXFRIENDから始めた。けれど、それはスタート地点に過ぎなかった。それは、ぬるま湯のように、居心地のいい関係だった。いつまでも続くのなら、それでもいいと思えるほどに。けれど、日々の中で、流れてゆく時間の中で、そのままのものなんて本当は何もない。変わらないものなんてありはしない。だから、彼には勇気が必要だった。そして、彼女は目を覚まさなくてはいけなかった。失った半身は半身として、彼と向き合わなくてはいけなかった。
 このゲームは、SEXFRIENDという状況から始まり、どこかに至る(あるいはどこにも行き着かない)ストーリであるという点では、本当はすごく正直なタイトルだったのかもしれない。今ではそう思っている。






2.シミュレーター

「あのねえ!!わたしだってねえ!!SEXばっかりじゃないんだよっ!!恋だの愛だのはあんたの独占物じゃない!!」

 セフレであるところの彼女たちは、ほとんど毎日SEXをする。コマンドが現れ、僕たちは試される。自分勝手は相互理解を阻み、欲望に流されれば互いの言葉は失われる。
 なんだか書くのが気恥ずかしいんだけど、体でわかることもあれば、言葉を使わないとわからないこともある。本質はそういうことじゃないかと思う。
 ゲームの中で、少しだけ立ち止まってみるといい。会話はつながり、物語は紡がれ、早瀬は目を逸らし、(場合によっては)頬を染めながらも、恐る恐る距離を詰めてきてくれる。最初の雨の夕方の、見たこともなかった女の子の姿は影を潜め、よく見知った隣の席の気の合う女の子がそこにいる。より近しい距離で。
 けれど、高辺は気づく。SEXFRIENDという枠こそが、彼らを今の二人たらしめていることに。彼は拠って立つ足場を失う。失ったような気になる。
 自分が思うように、相手に思ってほしい。自分が与えるだけ、相手からも与えられたい。人を思うときに誰もが感じるだろう、あたりまえの気持ちが、彼を苦しめる。
 それを見ている僕たちも、苦くて酸っぱい味が口の中に広がるのを感じる。
 そして彼は試され、また、僕たちも試される。






3.Dancing in the dark−暗闇で踊る少女

「その部屋は駄目だよ」早瀬の家で高辺が言われる言葉。
「その部屋は・・・・・・駄目だからね」
 寂しさと悲しさが沈殿した早瀬の自宅。がらんとした空間。鍵のかかった部屋。広すぎて生気さえ吸い取ってしまいそうな、大きな家。
 本編のいろんなルートに散りばめられた彼女の情報はあまりに少なく、あまりに曖昧だ。
 野々宮妹、蕪皿と四人で入った喫茶店で、蕪皿によって語られる過去の話。そこには他のルートで得られる情報との齟齬もいくつかあるけれど、早瀬が二卵性の双子で、兄がいたことは事実。
 また、その兄が今は死んでしまっていることも事実。そして、その原因が早瀬と兄との普通とは違う距離にあったことも、早瀬の言葉から推測される。

 彼女たちは自分の半身を失う。それは突然やってきて、やってきてしまったら、ずっと以前からそうであったかのように、完全な事実になる。損なわれたものは損なわれたままで、都合よく再生してくれたりはしない。それを誤魔化すことはできる。それから目を逸らすこともできる。でも、気がつけばいつだって、それは早瀬の(そしておそらく蕪皿の)すぐ近くにある。
 早瀬のセフレ作りは、空白を埋めるための足掻きだったのだろうか。だとしたら、彼女の気持ちに気づかずに、顔や体だけにおぼれた男たちは、彼女に何を残しただろうか。
 ゲームの中盤からは、早瀬の軽くて明るい言葉が、僕には、ある種の諦念を持っているように聞こえて仕方がなかった。
 高辺は、早瀬に惹かれてゆく。それは、いくつもの偶然が重なった結果。
 同じクラスになったこと。隣の席になったこと。そして、雨の日の夕方に偶然、彼女が男を振る場にい居合わせたこと。それはとても大切な偶然で、ある地点で振り返ってみれば必然であったとしか思えないようなこと。けれど、誰にでも心当たりがあるように、流れている時間の中では、それらに価値を見出すことは難しい。僕にはその気持ちが良くわかる。偶然に価値を見出すこと、それがどんなに危険で、無意味で、独り善がりなことか。
 だから、僕は早瀬を自分のモノにするための彼の選択を、責めることができない。
 だから、僕は間違いに気づいた高辺のことを、許そうと努める早瀬がとても好きだ。
 暗い暗い闇の中、知らない誰かの腕に身を任せることだけで、自分が生きていることを感じてきた彼女が、おそらく、たくさんの傷を心と体に負ってきた彼女が、それでも誰かを許すことができることに、尊敬すら覚える。


「それはね、わたしがキミを許しちゃってるからだよ」


 誰でも間違いを犯す。彼と彼女とは同じ人間じゃないんだから、きっと彼女の気に入らないことを、彼はたくさんしてしまうだろう。望むと望まざるとに関わらず。そして、彼だって彼女に幻滅を感じることがあるだろう。
 彼女たちが一緒にいるために必要なこと。そして、僕たちが一緒にいるために必要なこと。
 それは、誰かを許すことができるかどうか。誰かを受け入れることができるかどうか。
 おそらく、そこには理由なんてない。
 過去の因縁や幼馴染なんていう脅迫めいた関係や、魂の繋がりなんて、本当は信じられない。
 早瀬は言う。
 わたしのことをお前か早瀬って呼ぶのがいい、と。
 それは、たぶん二人の距離の話。
 高辺は早瀬の言葉に「わけわかんねぇ」と答えるけれど、感覚的にそれを理解しているのではないだろうか。彼は、性急に早瀬の過去を知ろうとはしない。その姿勢はひどく臆病で、だからこそリアルなように、僕には思える。
 自分は自分として、他人は他人として保つことができる距離感。君を君として認識しているからこそ、嫌なことを無理強いはしない。それは、あるいは二人にとっての新しい決め事なのかもしれない。
 誰もがみんな高辺のようである必要はない。また、彼の早瀬への接し方を冷たいと感じる人だっているだろう。けれども、ここで明かされる早瀬が高辺を好きな理由は、僕にとってはとても素敵なものに思える。


 このゲームにはいくつかのルートがあるけれど、少なくとも1.Happy(手を繋ぐラストシーン)、2.TRUE(スタッフロールの後に、二人で朝のコーヒーを飲むエピローグ)、3.鬼畜純愛(すごいネーミングだな)の三つはやるべきだと思う。なかでも、3.では、高辺の不安と早瀬の不安が深くて危うい分、ラストでのカタルシスが大きい。


 まっくらな宇宙空間を漂いつづけた王様が、ついにパートナーと出会えたように、暗闇で踊りつづけた少女も、「たいそーなもの」を見つけることができた。
 そんな二人を素直に祝福したくなるだけの積み重ねを、このゲームは怠っていないと思う。


 世界にはいろんなものがある。何を選ぶのも、何も選ばないのもあなた次第だ。
 人はいつだって間違いを犯す。けれど、反省することだってできる。
 もう一度考えてみればいい。とてもシンプルに、彼女がなにを好きでなにが嫌いなのかを。何を望んでいて、何をされると嫌がるのかを。
 そして、明日の朝には普通の顔でドキドキしながら、彼女に話しかけてみればいい。
 あなたの気持ちがホンモノであれば、そこには素敵な笑顔であたりまえの言葉をくれる彼女がいるはずだ。ひとり暗闇の中で踊り続け、やっと新しいパートナーを見つけた彼女が、何でもない調子でこう言ってくれるはずだ。




 おはよう、と。









◆その他◆


・野々村妹は、フツーのエロゲに出てればヒロインをはれただろう器(笑)
 根拠のない愛情と肉の繋がりよりも上のステージ(笑)の、スピリチュアルな関係を望む、乙女。けれど、セフレではかなり待遇悪し。
 ……最近のエロゲは嫌いですか?(笑)>丸谷さん
 ああ、「さよならジュピター」が見たい。

・地の文のテキストも素敵です。ネタの面白さはもちろん、
「なんども、なんども、毎日のように、少しずつ変奏してくり返したムダばなし」とか。
・ちなみに、セフレの世界では、日本(だよね)は戦時下。テキスト中に明言あり。

・美人保健医の頽廃の原因は、大切な人を戦争で亡くしたこと?
 飛行機を嫌ってる(アフリカでは飛ばないかしら等のセリフから類推)し、死を望んでいるような言動あり。
「不思議ね。幸せって良く判らないわ。面白いとつまらないは判るのだけれど、幸せって良く判らないから」

・ルートによって、美人保健医の思惑を拒否するのが早瀬だったり高辺だったりするんだけど、そのときのセリフが同じ。こういうとこ、イカス。
「別に先生を面白がらせるタメに生きてるワケじゃありませんから」

・システム的に、かなりダメですが、任意のシーン記録は使える。
 最初は、それ系のシーンを適当に流して記録しているが、気がつくとお気に入りのシーンにきちんとタイトルをつけて記録している自分がいる。
 タイトルの例:「王様の話ED」「鬼畜屋上」「カラオケ後キス」(笑)


2003/04/09 HID-F


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