『こんな素敵な場所』
 
 
目が覚めた
カーテンの隙間から今日最初の朝陽が射しこんでいる
ベッドの中から手を伸ばして
たくさんの時計達の中からひとつをつかむ
 
 あれ まだ 早いよ
 
めざましより先に起きてしまった
最近のわたしは寝覚めがいい
ほとんどめざましと同時に目が覚める
長い間働いてくれたたくさんのめざまし時計達も
最近は活躍の機会が少ない
 
その事をお母さんに言ったら
 
 それはきっと 気持ちが満たされてるのね と言われた
 
自分の気持ちを見透かされたみたいで恥ずかしかった
 
カーテンを開ける
思ったとおりの青空
ついこの間まで雪に覆われて白一色だったことが嘘のように
家々の屋根がそれぞれの色を主張している
 
窓を開ける
すっかり春の空気だ
ほんのすこし甘味をふくんだような
くすぐったいような空気
 
わたしはベランダに出る
 
わたしの好きな場所
春も 夏も 秋も そして冬も
朝も 昼も 夕暮れにも そして夜も
わたしは隙間の時間を見つけてはこのベランダに立つ
 
かなしくてひとりで泣いたこともあった
さみしくてひとりで泣いたこともあった
くやしくてひとりで泣いたこともあった
このベランダはわたしのいろんな涙を知っている
 
 特別な場所なんだよ
 なんだか包まれる雰囲気がするんだよ
いとこの男の子にそう言ったら
 
 ふーん そんなもんか
 
と 煮えきらない返事をされたけど
 
でも わたしは知ってるんだ
わたしの大好きなその男の子も
本当はそう感じていることを
だってここは二人にとってのたいせつな場所だからね
 
とても寒かった冬の夜
お互いのぬくもりを初めて身近に感じた
そんなたいせつな場所だからね
 
ひとつ強い風が吹く
わたしの髪の毛を揺らす
 
開け放った窓
 
部屋の中に春の風が吹き込んで
 
わたしが今使ってる唯一のめざましが目を覚ます
 
 名雪・・・
 俺には、奇跡は起こせないけど・・・
 
わたしはもうすこしここにいよう
もうすこしすればめざまし時計の声の主が
あわてて扉を開けるはず
 
このメッセージが終わる前には
かならず扉を開けるはず
 
そしたらわたしはこう言おう
にっこりと笑ってこう言おう
 
 おはよう 祐一 って
 
この場所から
 
とてもすてきなこの場所から
 
 
 
 
 
【初出】1999/7/2 key SS掲示板
【One Word】
この話は題名から書いたヤツですね。
槇原の「such a lovely place」を久々に聴いてこのタイトルが浮かびました。 英語にしなくて良かったな。
(1999/7/15)


コメントを書き込む

戻る