余  Second Line

 Introduction

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 綾菜の声が途切れそうになる瞬間、私は良太と洋平に目で合図をした。
 一瞬の空白。私が勢いよく振り下ろしたスティックがスネアを叩き、左足がハイハットを鳴らす。洋平のギターが泣き声のような音を出し、良太のベースの太い音がそれをしっかりと支える。綾菜の歌が終わってから八小節目、私たちは、呼吸を合わせてすべての音をぷつりと閉じた。
 
 
 私たちのプレイは終わりを告げた。
 九月。学園祭のステージ。
 私たち四人の、最初で…、そして最後のステージ。
 



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Second Line
 
 




 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『耳鳴りが聞こえるよ』
 
 波の音が、思いの外規則正しく周囲に響いていた。夕暮れの大きな太陽が水平線を燈色に染めている。海から吹く風は、次の季節の予感を孕んで涼しく、汗をかいた私のシャツを乾かしてゆく。
 
『まだ耳鳴りが聞こえる。みんなの拍手が聞こえる。洋平のギターが、良太のベースが、綾菜の歌が聞こえる。私の刻むリズムが聞こえるよ』
 
 砂浜にしゃがみこんで、波に遊ばせた素足の指の間を、さらさらと砂が流れてゆく。
 波の音が一瞬遠のく。世界のすべてが私から離れてゆく。
 
 
『なのに、何で……』
 
 
『なのに、何で、キーボードの音は聞こえないの?』
 
 
『ねえ、純』
 
 
『なんで……』
 
 
 
 

















 
 
 
 

 
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(2000/08/24)