SCAR FACE SITE

前画面へ



◆Romeo&Juliet?


 ――其の日、俺達は何の脈絡もなく海に来ていた。

 いや、全く脈絡無かった訳じゃないが。これはまあ後で話そう。デート…か?そう一応デートだなこれは、うん(自己納得)
 何だか凄く久しぶりに二人きりになれた。でも数ある障害を蹴散らしてみても、お前の方からも近付かなきゃ意味ねーだろ?
 だから最大の難関はコイツ自身で……ああもう、分かってんのかお前。

 一匹狼気取りなのに、一人になった試しがないケビン。
 何時も人気者なケビン。俺様だけの……と、言い切れないケビン。

 くくぅ、切な過ぎて、溜め息もポエム調にしか出ねぇよ。
 今の俺様を前にしたら、どんな詩人や作家だろうと、裸足で逃がす自信あるぜ?(逃がしてどうする)




「はぁぁ、ケビン……なんでお前はケビンかねぇ…?」


「何だマルス。そのやる気の無いロミオとジュリエットみたいな呼び方は?」

 ケビンはそう言いながら、今まさに夢中になってる事へと、すぐに意識を向け直す。
「ははっ、さぁ取って来いマックス、ジョン!競争だ」
 そして彼の手元から放たれたフリスビーは、波打ち際へと吸い込まれて行った。
 ケビンの動きに反応し、弾むように後を追うのは犬二匹。
「…いや、何でもねぇ…」
 そう憮然としたまま、小声で答える。
 今はケビンの姿を目で追う事しか今はできない。この状況にはいささか不満が……いや、そうでもなくて。
 眩しいほどに、この状況が似合い過ぎるケビンに文句も言えない俺だったり。

 ああ、さっき言いそびれたが、此処に来たきっかけは…そう、散歩って奴だ。
 少し遠くだが、海に来るにはいい季節と状況だからな。
 ん、犬の事はだと?そう、今まさに恋敵はコイツらなのさ!
 これがまたあのくそ鉄仮面親父様のありがた〜いお知恵って奴だから始末におえねぇ。
 だだっ広いマンションに一人で居るケビンに(悪い虫)が付かないようにとの事らしいが、なるほど考えてると思うぜ?

「やっぱジョン早いぜ。おい、マックス泳ぐな!」
 何?用心棒なら人の方がイイだろ、だって?……甘いッ!大体、ケビンと一緒にいて変な気起さない奴が居ると思うか?
 それで前に失敗してやがるんだよあの親父。ざまーミロだが、それは同時に俺のライバルも増やす結果になった訳で…
 って、此処まで読んだら分かるだろ?!クロエとか言う、中身が伝説超人の。その事は俺にもありがたくは無かった。
 そりゃたかが犬っコロだけどよ、人様より手が掛かる。つまりソレが狙い。

「うわっ、冷た!こら」
 はぁ、さっきのジュリエットの台詞の続きじゃねぇけどさ、「俺の為に、其の名前は捨てて下さい」
 なんて、言ってみたくもなるぜ。
 そしたら俺達どうなるだろ?お前だけを連れて逃避行か…イイねぇ、俺だけを見てるケビン。ホントにそんな事になったら
 俺様何も怖くないぜ?たとえお前の親父の差し金やらライバルが20人で襲ってきても返り討ちだ…
 っと、これはロミオの言動の方か?まあどっちでもいいや。

 だけどな、それよりも怖いのは、お前に相手して貰えない事。

「何、黄昏てんだよマルス。お前ももっとコイツらの相手してやれよ」
「へーへー…分かりました」
 今日此処に来たのは、「愛に導かれて来た」つーより、お前に連れまわされて来たってのが正しいか?
 だけど文句言うほど俺様余裕が無い訳じゃねぇし。そりゃこんな状態が続けば、根気も付くってもんだ。


 それに文句何て言えねぇよ… ――だって今日のお前、綺麗だから。


 足元を濡らしながら、潮風に煽られてる長い髪を時々かきあげたりとか。
 大きく伸びをしながら、太陽へ向かって手を伸ばす仕草とか…何だかバルコニーの窓を開け放ってるみたいで。

 お前、眩し過ぎ。太陽みてー……。
 

「フフッ、何だお前ら、しょっぱくなってるぞ?…!っ…身体を振んな」
 ぬぁっ!犬の分際でケビンの唇に気安く飛び付くんじゃねぇよ!
 そう、犬だ。だけどコイツらの所為でケビンの魅力が増してる。
 俺にすりゃ単なる毛玉の四本足。だけど、ケビンが連れてるってだけで余計に豪奢で綺麗な生き物に見えるから不思議だ。
 基本的に似合うのか?お貴族様と犬って。
 ちなみに、マックスは毛足の長いアフガンハウンド。ジョンは美しい肢体のボルゾイ……なんつーか、ダディの成金趣味
 丸出しって奴ですか?ああ〜〜ん?(いかん、ジェイドの奴の口癖が移る)


 でも、こうして楽しげに笑うお前が見れて… ――俺は今、幸せだ。


「よしよし、帰ったら洗って貰おうな」
 塩水に濡れた犬達を、優しく抱擁するケビンの姿。
 またこれが…青い海、青い空、白い砂浜、舞い上がる水飛沫、犬と戯れる美人とくらぁ、憎らしい程絵になってる。
「俺が洗うのか?」
「まさか、其処まではやらせねぇよ。帰りにちゃんとしたトコでやって貰うんだ。
 お前に任せるとコイツらを乱暴に扱いそうだしな」
 分かってるじゃねぇか。いやいや、そんな犬相手に大人気ない事は… …するかも(笑)

「ほら、コイツら早く捕まえて車に詰めてくれよ」
 が、まだ遊び足りないとばかりに駆け出す二匹?!!追う俺様。
「んなろ!待てやコラ〜」
 馬鹿にしたように追い付けない距離で逃げる。其の所為でケビンと大分距離が離れてしまった。
 だが何とか追い付き、波打ち際で対峙する。
「…頼むからもう……」
 其の言葉が効いたのか?抵抗なく二匹は傍に寄って来た。ずぶ濡れのままのソイツらを、小脇に抱えて連れ戻る。

「あっはっはっ、結構てこずってたな(笑)」
「笑い事じゃねーよ!くっそ」




 その後、やっとの事で帰路に着いた俺達。
 途中、行き付けのペットショップへ寄り道して犬達を綺麗にしてやる。全く、手の掛かるお犬様だぜ。
 そう、これが狙いだって分かるから余計にムカ付く。でもまぁコイツら自体に罪はねーし、ケビンも可愛がってるし、
 許してやらぁ。ああ、俺様って寛大。
 そして元のフサフサ毛玉になった犬めらと共に、久し振りにケビンの家へと訪れた。
  
「今日はありがとなマルス、付き合ってくれて。しかしお前も大分濡れちまってたよな?……少し、寄ってくか?」

 待ってました!とばかりに二つ返事。でも少しとか言うなよな。俺はもっと居たい。
 そして客の俺より先に、お先〜とばかりにバスルームへ消えるケビン。普通先に入るか?絶対教育間違ってるぜ鉄仮面親父。
 もしくは俺様と一緒に入りやがれ!…って、まあこれは願望だが。

「はぁ、お前等もちゃんと世話して貰ってんのか?」
 独り言のように呟く。不思議とじゃれ付こうともせず、大人しく座りこちらを見る二匹。
 気付いたら、まるでロミオが修道士に告白したように、ジュリエットが窓から独り語りしてたように語り掛けてた。

「んな恨めしそうな目で見んなよ。お前等と同じようにさ、俺もお前等のご主人様の事ホントに大好きなんだぜ?
 だからもう少しだけ傍に居させてくれ。2人きりになりてーんだ…」

 お前等に意味なんか分かんねぇよな?だから俺もこんな弱音言える。


「俺はもう他は全部捨ててもいい、だからケビンを俺にくれよ…」
 



 そして、ようやく出て来たケビンと入れ替わりでシャワーを浴びて。俺様が出た時、ケビンは珍しそうに犬達を見ていた。
「寝てんのか?」
「ああ、珍しい。何時もは俺より早く起きて、遅く寝るのに…」
「楽しかったんだろ?あんなに全力疾走すりゃ、疲れもするだろうぜ」
「…うん……良かったなお前達…」
 ケビンの、俯き加減で手を伸ばし犬を撫でる指先とか。正面から見える、肩に掛かった髪の間から覗く首筋とか。
 ローブから覗く胸元とか。長い睫毛とかが……ああ、何か…。

「お前、今日さ…」
 言おうとした言葉はその指先で止められた。みなまで言うなと告げる瞳。
 そのまま、胸元へと寄りかかってきた身体を抱き止める。
 そして囁き声。
「どうせ、男が来たらコイツらにじゃれ付かせるつもりだったんだろうけど、そうは行くか」
 顔を上げ、正面から見据えて来るケビン。

「ダディの策略を一番分かってるのは俺。それを避けて鼻を明かしてやるのも俺の役目。相手を選ぶのも俺の自由……」
「……ケビン…」

 なんだよ、――ちゃんと両思いじゃん俺ら。
 今さら了解はいらないとばかりに瞳を伏せたケビンに口付ける。
 そのまま、無言で手を取るケビンに引かれベットルームへと…。




 長い付き合いだけど、この時ほどしっかり意思の通った試しがなかった。
 でも引っかかったのは、何でケビンがこんな風に吹っ切れたかって事?考えながら抱いてたけど…途中で止めた。
 開き直った事に照れた顔とか、俺のしたいコト全部してくれる仕草とか、自分のして欲しいコトを強請ったりとか
 ……そんなのが綯い交ぜになって。それが幸せで、幸せで…。 

 嗚呼、ケビン… ――今までも最高だったけど、前よりもっと最高。




 コトが済んで、まどろみながら思った事を、ただひたすらに噛み締める。
「……ヤバイ、幸せ過ぎる。この後離れちまうのなら、このまま2人でどうにかなりてぇ」
 気だるげで、それでも嬉しそうに答えるケビン。
「何だかお前が今日言ってたロミオとジュリエット調の台詞みたいだな。いっそ一服盛るか?逃避行するとか?」
「冗談、あれが俺達なら逃げない方を選ぶね」

 ロミオとジュリエットの2人にゃ悪いが、ありゃまるっきり(ガキの駆け落ち最悪パターン編)としか言いようがない。
 思い付きと他人の入れ知恵で突っ走った挙句、双方共に連絡ミスだろ?その所為で起こった不可抗力で何人も死ぬわ、
 そんで終いにゃ相手が死んだと思い込んで心中って… はぁぁ、物語と分かってても頭痛くなるぜ。

「ふむ、まぁ逃げも一つの手だが、正攻法もまた手だな」
「だけどよ、今思うとあの話がそんなに悪い話とは思えなくなっちまってるのがなぁ」
「うん、分かるな俺も…」


 だって、――あの2人はこんなにも幸せだっただろうから…。


「ぐはっ、我ながら頭沸いてるぜ」
「別にそれもイイんじゃねーの?俺も…その沸いてる状態のお前に付き合ってんのが、楽しいとか思ってる…」
 そう言って胸元に寄り添ってきたケビンの髪を透いてやる。
 何度触れても飽く事のないその身体に腕を回して、ゆっくりと指を這わす。視線が合うたびに何度もキスをして……。 
 …そしたら急に、ケビンが起き上がった――?!!


「おかしい…?…今まで電話も無いし携帯も鳴らねぇなんて。ダディもクロエも、今日はどうしたんだ?!」


 そう、奴等は毎日定時連絡してきやがる。電源を落したり、留守電にしていようものなら、後で押しかけて来るのだから
 たまったモンじゃない。ケビンが慌てて枕元に置いた携帯を掴み、確認すると…?

「ゲッ、表示イカレてる。動かねぇ…」
 無反応になってしまった携帯を呆然と見る。
「あちゃ〜今日海で濡らしたからじゃねぇの?つか、電話の方は……っと」
 起き上がり、リビングに置かれた電話を近くまで行って見ると…?
「…受話器ズレてるし…」
 とりあえず元に戻そうと傍に……と、いつの間に目覚めたのだろう?二匹の犬が電話の前に陣取った。
 まるで触るなと言わんばかりに。

「そうか、お前等の仕業だったのか…」


 かくして口喧しいヒバリ達は鳴かず。
 ナイチンゲール(夜鳴き鳥)は俺達の為に、声無き声を上げていた訳で。


 今日は邪険にして悪かったよ。ありがとな、お陰でイイコトあったぜ。

「しかしコイツらって家じゃ案外大人しいじゃねーの?」
 起き出して来たケビンは、俺の背に縋るように覗き込む。
「ああ、最初の頃とかじゃれ付いて大変だったがな、ちゃんと躾たんだ。フン、甘いぜダディ。
 頂点を極めた俺にできない事はないね」
「オイオイ、変な方向に自信付けてんじゃねぇよ」
 だけど談笑してても頭から離れない気に掛かる事。多分そうなるから始末に負えない。
「来るな、確実に…」
「キャピュレット卿と夫人が押し掛けて来るってか。めんどくせぇ、さっさと逃げるか?」
「まだイイだろ、マルス…」
 そんな俺に、ギュっとしがみ付くケビン。見上げて来る瞳は楽しげだけど、何所か寂しさの漂う色は今も昔も変わらなくて
 ……そう、これがあるから、お前を手離せない。

「後でちゃんと逃がしてやるから、まだ此処に……傍に…居てくれ…」

 それに俺のジュリエット様は、こんなにも強くしたたかになってた。これだから、お前と居るの止められない。
 もっと、もっと、変わってくのが見てぇ……。

「お前の開き直り方、――最高…。 
 …あ、言っとくけど。物語調に死んだフリとかでやり過ごすのは無しな。俺様、確実にボコられちまうから」

「…ふむ……それも楽しそうだな…」
「うぉぃ!!」




 あ〜俺様の独り語りは此処でお終い!これからそんな余裕なくなりそうだしな。
 今どんだけ俺様が幸せか、お前達には分かるめぇ?


 Romeo&Juliet...俺達が、最高のパッピーエンドを見せてやろうか?




 TheEnd