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◆ 肉でファンタジー眠れる天使編

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【 毎回思わぬ事件に巻き込まれておりますが、はてさて今回はどんな冒険が?ギルドの戦士達の運命や如何に?!
 海が呼ぶ山が呼ぶ、俺と遊べと人が呼ぶ!(遊んでちゃいけません)とにもかくにも… 始まり、始まり〜♪ 】



「ね、キン骨おじさん。其処からカークフレイム王国までどの位だったかな?」

 ――此処は船上。そう言って相手の老人へと語り掛けた女は、潮風に煽られる髪を気にせず、遠方に見える岸を眺めた。
 広大な中央大陸へと…大陸間を行き来するこの大型の船は、優雅に船旅を楽しむ人や商人達で一杯である。

 …そんな旅人達に良く声を掛けられていた彼女。
 其れもその筈、彼女は実に艶やかで何処か謎めいた女性だったから。赤毛を通り越して緋色とでも呼ぶべきだろう長い髪は
 象牙の肌に纏う衣装のよう。其の下から覗く明るいヘイゼルの瞳は黄金色に見える… だが。

「そうさの〜あそこに見えとるジェスター王国から、陸路南東へ……いや、ワイバーン(飛竜)でなら半日程じゃ」
「懐かしいな、中央は。でも確か非武装地帯を飛ばなきゃなのよね?だったら結構かかるわ」
「ヒョッヒョ、近道して戦いに巻き込まれるなよ。そうじゃなくてもお前さん血の気が多いんじゃから…ってまさか戦う気か?
 この跳ねっ返り娘が…」
「もう、こんないい歳した女に娘は無いでしょ。まだ腕っ節ならそこらの男に負けないし、それに…」
「なんじゃ?」
 浮んだのは挑発的な笑み。その柳のようにしなやかな腰に手をやり、吊るした長剣の柄を鳴らす。
「このお尻が垂れない限り現役よv」
「やれやれ、娘じゃないと言った端からそれかい。女心は複雑だの、年寄りにも毒じゃて」
「ま、其処が分かんない不埒者はこの「燕翼刀」のサビね」
 しかし、腕に憶えのある者ならばその実力も見抜けるだろう…… ――彼女、実は女戦士だ。
 船内でしつこく声を掛けて来た男達は、其の出で立ちと鋭い眼光に気付き、スゴスゴと退散するしかなかった。

「だがの、あれから何年も経ってしもうた。皆もう其々の生活をしとる。気負わんでもええんじゃよ」
「うん、最初はd.M.p.再興の為の資金集めだったトレジャーハントだったけど、最近はもう意味を成さなくなって来たしね
 分かってる。だけど何となく続けてるのは、私が戦いたいから…かな…?」
 …思い出すように遠くを見詰める視線。

「そう、同じ部族の皆を…d.M.p.を昔みたいに戻したかった……でも、今は……」
 ゆっくりと、切れた言葉を繋げるように…
 岸との稜線を眺める彼女の口元から、唄うような旋律の言葉が零れ落ちた。


 ――通り過ぎる時間の外で、帰る道も足跡もない…
 求めた安らぎも許されず 祈りはこの手を滑り落ち 自分の影は何処にもなく 孤独が私を焼き尽くす。

「…ほぅ、確か(創生詩)の女神…フレイヤの一節か…」
「うんそう、なんかさ今の私と似てるのよね。結局は私の所為で皆バラバラになっちゃって、彼も守れなかったし、あの子に
 苦労かけさせたし、身を隠して彷徨って、今は独り…」
 背後に広がる青い海の色とは逆の…長く赤い睫毛が影を落し、黄金の瞳を翳らせる…。
「お前さんの所為じゃなかろうに」
「ううん、やっぱり私の所為…私が彼の傍を離れなかったら、あんな風に死なせたりはさせなかった……いいえ、そもそも
 私が彼と一緒にならなかったらd.M.p.も攻められる事は無かった」
「そんな事は…公王は若いが立派な人だった。だが身内に恵まれなかっただけじゃて…」
「うん……そうね」
「らしくないのぅ、(紅の戦姫)の名が泣くぞ… おお!そうだお前さん、自分の息子に会いに行かんのか?」
 そのキン骨の励ましの言葉に、ハッと顔を上げる彼女。
「まっ、自分の事は棚に上げて、私にあの子に会えって言うのね!おじさんだって…ボーンが待ってるよきっと」
「さあて、どうするかの〜ヒョッヒョッ。ま、昔の知り合いには挨拶位してもええかのぉ」
「もう、誤魔化さないでよ……ふふっ、でも…ありがとね、おじさん」
「元気出たか?良かった良かった」
 無垢な子供と角の取れた老人程、素直になれる相手が居るだろうか。今の彼女にとって、彼はもう数少ない理解者だ。
 親のような存在でもある。その後も暫く話が続いた…昔の事、これからの事、色々…。 
(2人の素姓に付いては、聖都協奏曲編の冒頭、スカーの回想を参考にされたし)

 目の前の陸に上がったとて、本当の意味での旅は終わらない。優しい会話を楽しみつつ、指先を交差させ軽く伸びをした。
 遠くから此方を見ている男連れが此方を指している。きっとまた声をかけられるのだろう。
 だけど、もっと話したかった相手は既にこの世には居なくて……ふと、先程思い起こした神話の一節へと立ち戻る。

「思い人を追って転生し続ける女神様か…まだ何処かに居るのかな?大事な人と一緒に」

「そうさの〜この世におったら、きっとお前さんみたいなぺっぴんさんじゃろうよ」

 …見上げた空は、海よりも広く眩しくて。
 今日もきっと何処かで、彼女が思う人達は懸命に日々を過ごし、愛した人はその空から彼女を見守っている事だろう。



 一方その数日後、ジェスター王国某所では、今日も今日とて、口の悪い王子様と態度の大きい付き人が…。
「…っ…――クシュン!!」×2

「なんだケビン。今日は出かける予定だと言ってただろう、体調を崩すとは何事…」
「ハァ、それが同時にくしゃみした奴の台詞か!」
 …吸血鬼の牙に倒れたジェイドを送り届けたあの日。お前に引き受けて欲しい話がある…と、帰ろうとした自分を不意に
 呼び止めたのは、名も無き国の王だった。そんなブロッケン王からの話は、今のケビンには興味深いもので…
 しかしその話には他人も絡むとか。其処が気に障ったが、それ以上に関心を引くには充分だった。其の内容とは?

『約500年前の研究施設跡の調査及び収集と棲息する害獣の駆逐を、依頼人が選出した他の者達と共同で行なう事』

 遺跡…と言う程は古く無い。だがその辺りの年代物となれば、現在では復元も不可能になった物や、使用禁止になった物が
 あるだろう事は明白だ。他の者達……連れという名目だが、きっと監視役といった所か。
 多少ウザいが、まぁこれだけの宝、しかも他国の領地内の事だ、仕方あるまい。そして気になった事がもう一つ…。
「大体なんで期日指定なんか?さっさと調べさせろっての」
「それは…それなりの調査団を準備させてるのだろう。これ程の規模の発見は100年に一度あるかだろうしな」
 だが引き受けたからにはやらねば。面白くなさ気なケビンを横目に、クロエはいそいそと仕度の続きを始めた。
 ケビンの方は読み掛けの本に集中する。これから攻略するであろう場所の事を調べなくては。

 …それから、少し時間が経った頃だろうか、ふと隣の方から聞こえて来たのは?

「なんだいケビン。お腹が空いたんだね?そうか、今ご飯をやるからな……ふふっ止めないか、舌がくすぐったいぞケビン
 大きい癖に甘えん坊だなお前は。ああ、だけどこの肌触りがまた…こら乗るな、重たい」

 台詞だけ聞けば大いに勘違いしそうである。思わず顔を上げ、叫びだしたのはケビン本人の方(笑)
「おぃ!その猫、何時そんな名前にしたんだ紛らわしい!!」
「しょうがないだろう、この名前にしか反応しないんだから」
 そう、今目の前で痴態?にも聞こえそうな行為を繰り広げているのは、野太い声でニャ〜と鳴き、豹よりも大きな金褐色の
 体躯を摺り寄せる猫…もといリュンクス(大山猫)だ。前編で手に入れたモンスターである。
「今日はお前も一緒だよ、良かったなケビン」
『ンニャ〜vv』
 呼ばれたリュンクスは、撫でられると嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らし、其の美しいパープルアイを細めた。
「はぁ?俺はそんな事決めて…」
「ダンジョン攻略に連れて行くなら手頃だと思うが。暗い所にも狭い所にも対応できるし敵への感知能力の高さも良いだろう
 それに敵に遭遇してからの対応を考えると……(云々)… …」 
 とまぁ何時ものように説き伏せられる。こんな時の理路整然さは意見したとて到底敵わないから仕方無い。
 憮然としつつもケビンは応じるしかなくて。
「…ふん、其処まで言うならまぁ連れてってやるか…」
「そうした方がいい」
「大体お前、最近態度がデカいよな。最初の頃はしおらしく付いて来てたのに…ま、遠慮すんなつったのは俺だけど」
「フッ、そうだな……ケビン、お前も早く身繕いをしないと…」
「…はいはい」
「ハイは一回。それから、嵩張らないアイテム類は多めに。だが野戦用は威力あって洞窟に適さないから… …(云々)…」
「… ……」

(すまないな、煩いのは何かをしてやれる時間がもうなくなるからだよ…)

 ケビンを目の前に改めて思う。こんなに些細で優しいやり取りを、今から自らの手で断ち切ろうとしているのだと。
 今クロエは、平静を装いつつも自分への悪態とは別の事に胸を傷めていた。
「ほら、縺らかして…」
 …考えつつも、何時ものようにそのケビンの長い髪に櫛を入れ始めた。昔も小さい時にも良くした…サラサラと指の合間を
 抜けてゆく金の髪が心地良くて……そうだ、離れるなと言ったこの子に、ずっと傍にと誓った筈なのに。
 きっと長く一緒に居過ぎたから甘えさせたくなってるんだ。あの頃も、今だって、可愛くてたまらないあの人の写し身。
 自分に言い聞かせる… ――だけどロビン、貴方への思いを越える筈が無いと。

「クロエ…もういいのか?」
 寄り添うように頭を預けるケビン。気付くと手が止まってしまっていた。誤魔化すように恭しく持ち上げた髪に口付けると
 引き寄せられた頬に返される口付けの温み…と、気遣わしげな視線……ああ、まだ悟られる訳には。
「ええ、用意は整いました。行きましょう、遅れると厄介です」

 仕度も済んで屋敷を出る時、振り返り2人で過ごした隠れ家を仰ぎ見た。ロビンの命令で此処に来て数ヶ月が経つ。
 自分にはあっという間だったが、やはり待たせている人達が居る以上、初志通り使命は全うすべきだろう。
 このままで居たい半面、居れる筈も無いとも思う。逆らう事など…。
「早いトコ済ませて戻ろうぜ。また調べ物が増えそうだけど、手伝ってくれるよな?」
「……はい…」

 きっと、此処へは戻らない… ――ケビンも、自分も。

 


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