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◆『機長の恋路・殺人ナース編』

 

「俺、バイト行くわ」と朝いきなりケビンに切り出されて、イリューは突然のことに言葉が詰る。
「家でゴロゴロしてても暇だし」それに、と大袈裟に微笑んで言葉を続けた。
「それに、もうすぐクリスマスだしな」お前に何かプレゼントと思って…と言われたイリューは感激する。
「バイトで稼いで、良いモノ買ってやるよ」と恩着せがましいセリフに眉をひそめるのは、隣で聞いているミートだけだった。
「そんな…ケビンさんが俺のことをそんなに大事に思ってくれているなんて…」
涙で前が見えないイリューに、ケビンは得意げに胸を張る。
この前スカーにクリスマスを当てこすって「どうせお前、もらいモンは一方通行だろ。昔からテメーで出したこと無かったもんな」と
笑われたのを根に持っているだけ、とはケビンは言わなかった。
この俺が、誠実で行い正しい正義超人だってところを皆に知らしめてやる…と心密かに思う。
「で、明日からナースやるから」
そこの近くの病院でバイト募集してたしと言うケビンに、イリューは「…失礼ですけど、ケビンさん看護士の資格って持ってましたっけ?」と聞く。
「結構払いが良いんだよな。まぁ夜勤キツそうだけど。テキトーにサボればいいかと思って」
「―――確か看護士は、保健婦助産婦看護婦法に基づいた国家資格…」
「ピンク色の制服なんだ。着てるとこ、お前見に来いよ」
「―――はいVv」
あっさり話をそらされ、イリューは両手を組んで心をときめかす。ああ、きっとケビンさんのナース姿なんて清らかで可愛らしいに違いない。
「―――そんなゴッついナースなんて、嫌です僕」と、一人だけ冷静なミートがツッコミを入れた。が、2人は聞いてなかった。
翌朝ピンクのナース姿になったケビンは、金髪を結い上げて意気揚揚と病院内を闊歩していた。
その姿は…やはりミートの言うようにゴツ過ぎる。綺麗な顔にバランスのとれた上背のある体形だったが、やはり肩幅と筋肉に、
ナースの可愛い制服は無理があった。
廊下でケビンを目にした患者は皆、ちょっとびっくりした目でその姿を見送っている。
「やーだー!僕はカルビ丼が食べたいって言ったのにさー!!」
父上のバカー!と父親に向かって横柄な口を聞く入院患者の居る病室のドアを、ケビンはさっと開く。
ぶーぶーとブタのように文句を言っていた息子は、ぎくりとした様子で口を閉じた。
「…お…おぉ看護婦さんですかな。万太郎や、注射の時間だよ」さ、お尻を出しなさい、と甘やかし放題の父親に万太郎は枕を投げつける。
「やだっ!なんか怪しいし!偶然を装って血管に空気入れそうだし!」
「――――無邪気な子供の発言にも程があるぞ、コラ…」
初手から手間取らせんなと、ケビンは万太郎の首根っこを引っつかむと注射器片手に引き寄せた。
「わ―――っ!!殺される!なんだよその怪しい緑の液体!何て薬だよ!?」
「ま…万太郎や、落ち着きなさい看護婦さんに失礼じゃろう…」
「はいサクサク行くから。この後もまだ詰ってるんだよ」
「なんだよこの人でなし!!」
「―――――………!」
うぎゃぁぁあ――――!!……と、絶叫が病院内中に響きわたる。その後、なんだかんだと言っては仮病で居座っていた息子は、
父親に泣きついて速攻で退院していった…。
「さて、次は…と」ケビンはカルテに目をやり、見たことのある名前に眉を寄せる。
「この爺さんか…困ったな、こんな場所でかち合うなんてな」
近所の老人が入院していることを知り、ケビンは浅くため息をつく。
「ケビンちゃんや〜〜〜Vv可愛ええのぉ、今日はナースさんのコスプレでお見舞いに来てくれたのかい?」
傍に擦り寄ってぺたぺたと体を触ってくるジョージマンに(近くに介護人のニルス)、ケビンはいつものように軽く手の平を叩いて退かせる。
「違う。ここでバイトしてるんだ。熱測らせてもらっていいかな?」
「おやすい御用じゃよ、ケビンちゃん」
また懲りなく引っ付いてくるジョージマンに、ケビンは呆れた顔をする。が、いつものバッサリ切り捨てるような厳しさはその様子には無い。
一人暮らしの老人には、さすがのケビンも甘かった。
まぁ爺さんには菓子もらったり(子供か)色々と世話になってるし、と多少大目に見て胸や腰を触られても我慢している。
「ケビンちゃんが居ると熱が上がりっぱなしになっていかんのぅ〜〜」とジョージマンはケビンが許しているのを良いことに、
胸に置いた手をわさわさと動かした。
「――――っ…ちょ…っと!爺さん!!」
さすがに赤くなるケビンに、「止めて下さい、やりすぎですよ!」となにかと影の薄い介護人も止めに入るが。
「ほえほえほえ〜ケビンちゃんは感度もええのぅ♪毎日可愛がられとる成果かのぅ」
「―――…いい加減にしろこのエロ爺!」
叫んで振り下ろしたケビンの拳をひょいと避け、ジョージマンは「ほえほえほえ」と笑いながら病室から逃げ出した。
「こら待て!まだ熱測ってない…」とケビンは慌てて追いかける。
廊下を曲がったところで勢い余って小山のような大男(婦長)にぶつかった。
「―――痛っ!」
「無礼者!図が高いぞ!」何を走り回っていると怒鳴られて、ケビンは「―――何だよ!?」と相手を睨み返す。
「一介のナース風情が図が高い、プリンスの御前になるぞ」
プリンス?なんだそりゃ、とケビンが呟くのを待っていたように大男は背後の人物を指し示す。
「こちらにおわすのはこの病院きっての天才外科医、『千本の腕を持つ男』と崇め奉られておられる医師会のプリンスなるぞ」
得意げな大男を軽く手を上げ制した天才外科医は、その整った顔になんとも奇妙な笑みを浮かべてケビンを見つめる。
やや無遠慮なその視線にケビンが苛付き口を開きかけた時に、ようやくプリンスは興味が失せたのか目をそらした。
「―――おい、コラてめぇ…」
何事も無かったように横を通り過ぎようとするプリンスに、ケビンが啖呵を切る。
逆上して食ってかかろうとする大男をまたもや軽く手を上げて止め、プリンスはケビンに向き直りもう一度つくづくと顔を見た。
「――――君…」ここが…と、トントンとそのほっそりとした指先で自分の眉間を叩く。
「―――…気になったら、来たまえ」見てあげよう。微笑みながらそれだけ言うとまた背中を見せ、お付きを従えて歩み去っていく
プリンスの後ろ姿に「…へっ」とケビンは中指を立てた。
「……あっ…と、そうだ」忘れるところだったとケビンは踵を返す。
あいつどこ行きやがったとジョージマンを追いかけて、広い病院内をうろうろと歩き回る。
「おい、爺の姿を見なかったか?」とヤクザの三下みたいな口の聞き方でケビンは、通行人の首を掴んで聞きまわるが行方は分からない。
通りがかりの人々が怯えるばかりだ。
「ち…どこにいったんだあの爺」
だんだん焦りはじめたケビンは、ふと足を止め「…あれ?」と首を傾げた。
「イリュー。来たのか」
本当に見に来るなんてなーと笑うケビンに、待合室で腰掛けていたイリューは慌てて立ち上がる。
「いえ、その、そういえばそろそろ健康診断の季節だったかな〜なんて…」
顔を赤くして言い訳に苦労するイリューを、ケビンは悪戯な目で見つめる。
「似合うか?」
唇に指を当てて流し目を送るケビンに、イリューは真っ赤な顔で何度も勢い良く頷く。
「そそそ、それはもう……!」似合ってます綺麗です流石ですケビンさん!と目を輝かしながら賛辞するイリューに、
ケビンは満足げに微笑んで見せた。
確かに美形だけど…似合ってるか!?と周りの人間は心密かに突っ込むが、イリューは心底幸せに浸っていたのだった。
「あ、そうだ。爺さん見なかったか?ほら近所のやたらとエロい…」
首を横に振るイリューにケビンはため息をつく。どこに行ったんだよと呟くケビンに、イリューが控えめに意見した。
「―――もう病室に戻っているってことはないですか?」
「……あ、そうかも」と、ひとつ手を打ったケビンは元来た道を戻り始める。イリューも思わずその後を追った。
しかし病室に戻っても、誰も2人を待ち受けていなかった。頼りなさげな介護人まで姿を消している室内に、ケビンは「なんだよ」と腕を組む。
「居ないじゃないか。お前が居るって言うから戻って来たのに」
「済みません」と頭を下げるイリューの胸を小突いてから、ケビンはベッドに腰掛けて伸びをする。
「あ――あ…もう飽きてきたな。面倒だし、思うようにいかねーし…」
心配そうなイリューをふと見上げる。意地の悪い笑みを浮かべて「…誰かさんにプレゼント渡すのも楽じゃないな」と言った。
「そんな、済みません…いや、ありがとうございます…でも本当に、ケビンさん無理はしないで下さい俺は別に、」
あなたが居てくれればそれで、もう。
「――――ふ…ん」ケビンは満足げに目を細める。困った顔のイリューに向かい、ケビンは腕を広げてみせた。
おいで、と犬を呼ぶように催促され、イリューはケビンの手に引っ張られてベッド脇に腰掛ける。
くすくすと小声で笑うケビンの顔が近くにあって、なんとなくイリューは気詰まりな思いをした。
神聖なるナース姿のケビンによからぬ期待をしてしまいそうで、イリューは困った顔で話題を変えようと咳払いする。
「―――しー…っ。黙れってお前」
指を一本口元に立てられ、首の後ろを手で押さえられる。金髪を後ろで結い上げたおかげで、いつもに増して知的に見えるケビンが
すぐ目の前に居た。
窓からの陽射しを受けて輝く薄青い瞳。近くに在りすぎて魅力的で目に毒だ、と思いつつイリューはそっと肩に回された腕を退けようとする。
が、その手は簡単に振り払われてしまった。
「なぁ。この制服ホントに似合ってるか?」
うんうんと頷くイリューにケビンは嬉しそうだ。ちょっとコスプレの気があるケビンは、今の状況にご満悦でイリューに擦り寄った。
ちょっとそそられるシチュエーションかも、と口の端を持ち上げる。
イリューは困ってしまって視線をあちこちに泳がせる。薄いピンク色のナース姿が妙に艶かしく見えてしまう。
急にケビンが顔を寄せてきた。慌てて止める前に軽く音を立てて唇に口付けられる。余計焦って口ごもるイリューを見て、
ケビンは面白かったのか声を立てて笑った。
「なぁ。こんな場所って、良くないか?」
「え―――っ…と…良いとは…」
「…ちょっと」そそられる、と耳元まで顔を寄せられて囁かれイリューは言葉を無くす。
困った、困ったここは病院で今居る所は知り合いの病室でしかも患者を探索中…と頭では考えながらも、イリューの体は欲求に正直で。
ケビンの促すままに、自分から相手に口付けた。
悪戯に軽く唇を噛まれ、やり返すと喉をそらして笑う。
舌先を触れ合わせるような軽いキスを何度か繰り返し、少し上気した頬でケビンは「…ちょっと良いだろ。こんなのも」と微笑んだ。
もう一度唇を合わせ、吐息と共に漏れた声はお互いが飲み込んで、…さすがにそこで身を離す。
ケビンが名残惜しげに薄く開いた唇を撫でていたので、イリューも胸の高鳴りを押し隠すのに大変だった。
「―――さて、と…お前そろそろ戻ったほうがいいんじゃないか?」
イリューは「あ…確かに」と慌ててベッドから立ち上がり、ケビンのピンクナース姿を(こっそりと)もう一度目に焼き付けてから
病室を後にした。
「俺も、もう一度探しにいくか」とケビンもベッドから腰を上げる。その時、ベッド下から「……ケビンちゃんは本当に可愛ええのぅ〜〜〜〜」
と萎びた声がかかった。
「―――――……!!」
一瞬固まったケビンは、慌ててベッドの下を覗き込む。這い出してきたジョージマンは、「お邪魔のようでなかなか出て来れんかったわい」と
ほえほえ笑った。
「色っぽい表情のケビンちゃんを、しっかりと目に焼き付けておいたからのぅ」
当分オカズに困らんわいと下品なことを言うジョージマンの首元を掴んで引き寄せる。
「…分かってんだろうな。言うなよ?オイ」
さすがに慌てるケビンに、ほえほえとジョージマンは気楽に笑った。
「ケビンちゃんがひとつ、お願いを聞いてくれたら、なんにも余計な事は言わんでおくとも」
「なんだと、爺!?…交換条件かよ!」
とんでもないことをやらされるのではと警戒するケビンに、ジョージマンは背中を向けた。
「肩を叩いてくれんかの」
「―――……はぁ?」
返答に困るケビンに「ほれほれ早く」とジョージマンは身を揺すって促す。
仕方なくケビンが肩をトントンと叩き始めると「おぉ〜ええ気持ちじゃ」とジョージマンは目を細めて満足げに笑った。
「やっぱり肩は人に叩いてもらったほうが気持ちええのぉ〜」
まるで孫に叩いてもらってるようじゃ…と呟かれ、ケビンは「爺さん…」と言葉を濁す。
嫁に嫌われ孫も尋ねてこないと噂されている老人の喜びように、ケビンの口元は苦味を帯びた笑みを浮かべる。
「爺さん、どこを叩けば気持ちいい?…ここ、ちょっとこってるから力入れるぞ?」と身を乗り出して背をさすり始めたケビンの表情は
柔らかく、窓から差し込む陽射しのように暖かかった。


しかし次の朝、イリューの顔色は冴えなかった。ケビンは昨日あっさりと病院を首になってしまったからだ。
「殺人ナース」が居る病院、生きて帰れないと妙な噂が立ち始めた病院側に解雇されてしまったケビンは、昨日遅くまで帰ってこなかった。
「ケビンさん…あんなに頑張ってたのに、きっと落ち込んでるんだろうな…」
「手っ取り早く追いはぎでもして金作るとか言い出すと困りますね」とは言えないミートは、黙ってイリューに茶を入れる。
「おはよう」ふぁ…眠…と欠伸しながら姿を見せたケビンに、イリューは「あ、ケビンさん!おはようございます!」
と勢い良く挨拶し相手を見守る。
落ち込んでいる様子も無く席についたケビンは、開口一番「俺、今日からまたバイト行くから」と笑顔で言った。
「――――え…?」
「近くの高校で、非常勤講師募集してから」
「――――えぇ!?」
今日からスーツ着なきゃ。お前見に来いよ。前にも聞いたセリフを口にするケビンに、イリューは
「ケビンさんの教師姿…聖職その2…Vv素敵だ」と両手を組み、ミートは「怪しい…怪しいですよあなた…そのAVモノみたいな
職種選択は一体…?」と頭を抱える。
ケビンは機嫌良さげな笑みを見せ「美人OLは前にやったしな」と腰に手を当て威張ってみせた。


この小説の続き(?)として1本漫画を描かせていただきました(笑)なんかもう、アヤシサ爆発です。ミドリ様に捧げますvv

殺人ナースのイケナイ遊び