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◆『Loneliness』

 

 気温24℃ 天気良好 

 東向きの微風に、白い花弁が混じる。
 頭上の枝々に溢れんばかりに咲いた花は、今が盛り。
 一番美しい時が名残と、次々に散っていく。


 ……山桜、といったか。

 かつてなら、この見事な花の宴を訪ねる見物客が、皆無ではなかった。
 この木の、恐らくは親に当たる老木があった時、人間がやってくることはなかったが。
 兎や鹿、熊の類はしょっちゅうだった。

 今は……静かなものだ。


 二度に渡る、地殻の大崩壊。火山の噴火。津波。気候の大変動。


 現在、この星に人間、及び超人が住む確率、0.01パーセント。
 全く姿を見せなくなった他の動物たちが、今も住んでいる確率、0.02パーセント。

 そして……他の惑星に移住した彼らが生き延びている確率、99.65パーセント。

 移住する人間たちに連れられ、他の多くの動物も他星に渡り、人間たち同様、いつかこの星の名残を失い、別の生き物になって生きる。

 以前とは全く変わって。
 それでも、途絶えることなく。
 
 ………強いものだ、動物は。



 植物は、この星で生きている。数種類の昆虫と共に。

 樹齢軽く四百年を越え、化け物のように固く根を張って、様々な災害を生き延びた老木は、二度目の大崩壊の直後、
  精根尽き果てたようにして、倒れた。
 しかし、それから幾度かの津波や地震が過ぎていった後、新しい芽が吹いた。
 どこかに、種を残していたのだろう。
 今その場所には、もう若木とも呼べない山桜が、白い花弁を風に散らしている。

 ゆらゆらゆらゆらと。
 以前と、変わることなく。

 ………強いものだ、植物は。



 しかし、俺が寂しさを感じないでいられるのは、星に残った植物たちの存在故ではない。


 いつからここに座り込んでいるのか、もう、俺自身にも定かではなかったが。

 ずっと、一人ではなかったから。


 座り込む俺の傍らに。


「ケビン……」


 小さな、自然石の墓標…………





                                   Fin.