気温24℃ 天気良好 東向きの微風に、白い花弁が混じる。 頭上の枝々に溢れんばかりに咲いた花は、今が盛り。 一番美しい時が名残と、次々に散っていく。 ……山桜、といったか。 かつてなら、この見事な花の宴を訪ねる見物客が、皆無ではなかった。 この木の、恐らくは親に当たる老木があった時、人間がやってくることはなかったが。 兎や鹿、熊の類はしょっちゅうだった。 今は……静かなものだ。 二度に渡る、地殻の大崩壊。火山の噴火。津波。気候の大変動。 現在、この星に人間、及び超人が住む確率、0.01パーセント。 全く姿を見せなくなった他の動物たちが、今も住んでいる確率、0.02パーセント。 そして……他の惑星に移住した彼らが生き延びている確率、99.65パーセント。 移住する人間たちに連れられ、他の多くの動物も他星に渡り、人間たち同様、いつかこの星の名残を失い、別の生き物になって生きる。 以前とは全く変わって。 それでも、途絶えることなく。 ………強いものだ、動物は。 植物は、この星で生きている。数種類の昆虫と共に。 樹齢軽く四百年を越え、化け物のように固く根を張って、様々な災害を生き延びた老木は、二度目の大崩壊の直後、 精根尽き果てたようにして、倒れた。 しかし、それから幾度かの津波や地震が過ぎていった後、新しい芽が吹いた。 どこかに、種を残していたのだろう。 今その場所には、もう若木とも呼べない山桜が、白い花弁を風に散らしている。 ゆらゆらゆらゆらと。 以前と、変わることなく。 ………強いものだ、植物は。 しかし、俺が寂しさを感じないでいられるのは、星に残った植物たちの存在故ではない。 いつからここに座り込んでいるのか、もう、俺自身にも定かではなかったが。 ずっと、一人ではなかったから。 座り込む俺の傍らに。 「ケビン……」 小さな、自然石の墓標………… Fin. |