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◆『Sweetness』

 

 俺が、クロエに抱かれる時。

 俺の脳裏に、いつも幸せな砂糖菓子の姿が浮かぶ。

 誰の口にも入ることなく。
 甘い甘い蜜に浸されて、そのままぐずぐず溶けてしまう。
 幸せなお菓子………



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 ひんやりとしたシーツの上。

 生まれたままの姿で絡み合い、ガラス瓶の蓋を開ければ。


 ふわん…と甘い、梔子の香り。


 ……無香料のローションを使うのはイヤだった。
 何だか、濡らすだけの感触が気恥ずかしい。

 ハーブや柑橘系の香りもイヤだ。
 それは、あまりにも爽やか過ぎて。

 甘ったるくて、でもどこか冷ややかな、ダフネの香りもイヤ。
 ……背筋が凍って、勝手に身体が震えてくる。


 だから、クロエはいつも、梔子の香りのローションを、一本だけ買ってくる。


 余分に買いおくのは、イヤなんだ。
 ……あからさま、過ぎるから………



 最初に、まずちゃんと目を見てキス。


 それから、ローションに濡れたクロエの指が、俺の中に滑り込んでくる。


「ん………」


 俺の感じる所を全部知っていて、でもそこを刺激し過ぎない、指。

 そこそこ的確に、でも的確過ぎずに。
 俺の中で優しく蠢く。


 あまりにも早く、感じさせられるのは、イヤだった。
 好きに嬲られているような感覚が湧いて、逃げ出したくなる。


「ケビン……」
「うぅ……っん」
「いくぞ?」
「うっ……ぁ!」


 程よく解れたところで、下半身に熱い衝撃。


 ……性急過ぎるのは、イヤだ。
 怖くて、何てことない痛みまで、強烈に感じてしまう。

 でも、焦らされ過ぎるのも、イヤ。
 一人熱くなっていく自分があさましく、陰鬱な気分になる。


「あぁ……はあ…あっ……」


 身体を、揺すられて。
 下から突き上げられる感触に、俺は湿った吐息を洩らす。


 ……この波が、強すぎるのはイヤ。弱すぎるのもイヤ。

 二つの“イヤ”に挟まれた、俺の望む通りの波の強さ。



 一体、幾つの“イヤ”があるのか。
 自分でも分からない。

 そんな俺の我が儘なSEXに、クロエは全て、応えてくれる。

 頬を染め、睫毛を伏せれば抱き締めて。
 薄く、唇を開けばキスをして。

 俺自身、無意識な俺の要求に。
 クロエは全て、何も言わずに応えてくれる。



「…あ、クロ……」
「ケビン…」


 自分ばかり、応えてもらうことに。
 俺が一雫のせつなさを感じかければ。

 とても、優しく。


「俺の、名前を呼んで……?」
「クロ、エ……?」
「そう。もっと…もっと呼んでくれ、ケビン……」
「クロエ………!」


 俺が、クロエのために、“シテアゲラレル”こと………


 ――満たされ過ぎて生まれる不安や寂しさまでも。

 クロエはたやすく、埋めてしまう。



 ………脳裏に浮かぶ、砂糖菓子。

 誰の口にも入ることなく。
 甘い甘い蜜に浸されて、そのままぐずぐず溶けてしまう。
 幸せなお菓子………



「ああ…クロエ………!!」

 背筋を走り抜ける、蕩けるような快感。

「ああ、クロエ。…クロエぇ……」
「ケビン………?」


 俺を溶かしてしまう、クロエという名の甘い蜜。

 俺は、幸せに微笑む。


「くろえ……だいすき」





                                  Fin.