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◆『機長の恋路・波乱の新婚旅行偏』

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『機長の恋路・波乱の新婚旅行偏』

「みんなーっ、乗り込んだかーっ!?出発するぞ!!」
大声を張り上げたジェイドにすかさずスカーが「見れば分るだろ」とツッコミを入れるが、本人は気にしない。
イリュー親子とケビン、スカー、チェックの顔を満足そうに見渡して「それでは、出発進行〜!!」と
バスガイドよろしく手を上げた。
合図に従い運転手のイリューは車を発進させる。こうして6人の旅路は始まった。
しかし、窓の外に視線を固定したまま笑おうともしないケビンとミートを見ても、この旅行の
行き先への不安は高まるばかりだった…。
「ロシア料理美味しいですよね〜私も好きです。日本料理も好きですけど」
「日本料理?たとえばどんなものですか?」
「トウフとか、ゴーヤとか。大好きですVv」
「ゴーヤ?苦瓜?へぇ沖縄料理か…だったら豆腐チャンプルーは好きでしょう?どちらも入ってて」
「そんな料理があるのですか?わー、食べてみたいです!」
「―――――ダンナに食わせてもらえば?」
ケビン、早速揉めるんじゃないとのスカーの止めを無視して、ケビンは後部座席から話の腰を折った。
一番後にジェイドとスカーが座り、その前に魔の仲良しセッティングでケビンとミートが並んで座っている。
その前、運転席にはイリューが座り、その横助手席に座っておっとり微笑んでいるのはチェックだった。
一見何故そうなったのか謎の席配置だったが、…それなりに思惑を含んでいる。ミートが助手席に行っても、
ケビンが座っても一波乱ありそうな車内で、皆が思考錯誤(主にスカーとジェイド)した結果だ。
別に何を話すでもなく、ケビンとミートはお互い窓の景色を眺めている。静かで居るだけまだ一安心、と
スカーは密かに胸を撫で下ろしていたのだったが…。
当たり触りの無い会話で盛り上がるイリューとチェックに、ご機嫌斜めのケビンが口を挟むと
他の者(ジェイドとスカー)に緊張が走る。
「……やべぇ、絶妙の配置だと思ったのにっ」
「やっぱり、俺かスカーのどちらかが前に行けば良かったんだよ」
「やだよ俺、つまんねーよお前の隣じゃないなんて、絶対嫌」
後ろのひそひそ声に、余計ケビンの眉が上がる。
ミートは、ケビンのトゲトゲした表情を横から眺めて、顔を背け小さくため息ついた。
―――なんか文句あんのか?…と、ケビンは冷たい目でミートを一瞥する。
その目を思いきり平静な顔で受け流すミートもすごいな…とスカーは密かに感心する。
「ケビン、…あなたお腹がすいているのでしょう?」
一人だけ空気を読んでいないチェックは、くすっと口を押さえて小さく笑った。
「私の作ったお菓子でも食べませんか?」
誰も何も言い出せないうちに、チェックは持っていた包みを開いて次々菓子を取り出していった。
はい、と手渡されるマドレーヌにケビンは仕方なく食いつく。
いつもご馳走になっているジェイドに「ミート、美味しいから食べてみろよ」と勧められ、ミートも
「わー…チェックさんって料理上手なんですね。本当に美味しい…」と感激しながらぱくついた。
「こんなに美人で優しくて、その上料理も上手なんてすごいなぁ」
「………だからまたそーゆう余計なコトを言う…」スカーは頭を抱え、チェックは鷹揚に微笑んだ。
ケビンは…無言で流すケビンが恐い。
「イリューヒン、あなたもおひとつ如何ですか?」横から微笑まれイリューは「ああ頂こうかな」と返す。
「お口に合うと良いのですが」とチェックは微笑みながら膝の上のマドレーヌを、その白い指先で
ひとかけらつまみ取ると「どうぞ」とイリューの口元に寄せた。
「―――――……」無言のケビンの周りの空気が凍ったことにスカーは慄く。
イリューの困惑している表情を見て、チェックはもう一度「どうぞイリュー」と笑いかける。
「―――――ありがとう」
イリューは左手でチェックの指先から菓子をつまみ取ると、自分の口に放りこみ「ああ美味い」と
どこか社交辞令な賛辞を返した。
もうひとかけら取ってくれようとするチェックを止めて、イリューは膝の上の菓子を自分の手で掴む。
「そんなに気を使ってもらわなくても大丈夫ですよ」運転は慣れてますから、とイリューは言う。
空も陸も安全運転で行きます…と重い空気の車内を気遣ってか、変に明るい調子で言った。
「そうですよね、ケビンさん?」
ケビンの返事は無く、イリューは首を竦める。
チェックだけが張り詰めた空気の中朗らかに笑って「さすがはパイロットですね〜」と手を叩いた。
「ヘッドにいつも運転中は余所見をするなと、私言われているんです」
私の運転中はこうやってヘッドにいつも世話を焼いてもらっているのですよ、とチェックが言う。
「ノ…ノロケか??」と呟くスカーにジェイド、イリューは曖昧に笑うだけで返答しない。
ケビンは相変わらず憮然とした顔で黙りこくっている。
―――――そーゆう楽しいコトは、夫婦だけでやってなさい。
4人とも同時に、天然のチェックに心の中で同じツッコミを入れたのだった。
…ただ独りミートだけが、何を思いついたのかメガネの奥の瞳を光らせた。


「ったくよーこんな大人数でどこが新婚旅行だよ、ったく」目的の旅館に付き、案内された和室に
寝転がるとスカーは盛大に愚痴り始めた。
「大体ケビンの顔見たか!?俺なら怒りが収まるまで逃げ出すねホント」
「スカーそう言うなよ」と傍に座ったジェイドが宥める。
「しかしだなぁ、ジェイド!部屋もなんでお前と2人っきりにならねーのよ!?」
2人部屋3つ取れば良かったのに、なんでチェックと3人部屋なんだとごねる。
「仕方ないだろ―…向こうを親子3人水入らずにしてやろうと思って俺…」
「それが大きなお世話なんだって!つか、よくやるよなイリューも。俺なら速攻逃げ出す…」
なんでもいいけど、とジェイドが釘をさす。
「みやげ物買いに出てるうちはいいけど、チェックが戻ってきたら口に気をつけろよ?スカー」
「へーへー」と煩そうに返すスカーにジェイドはため息ついた。
その頃、噂の人イリューはチェックが隣で「これ面白いですね」と話し掛けるのを一々相手していた。
「………ケビンさん…どこに行ってしまったんだ……」
イリューは他所事に気を取られて仕方ない。傍を離れてしまったケビンを探しに行きたいのに、
延々チェックの買い物に付き合わされていた。
ミートがチェックと一緒に居たがるのだ。「お父さん、3人でお土産を選びましょうよ」と握った手を
離してもらえない。
「これはどうでしょう?可愛い」
さるぼぼを手にして喜んでいるチェックに、イリューは「良いですね、それに決めたら」と急かす
物言いで買い物を切り上げさせた。
うろうろと他に行かないうちに、「あーもう帰ってきたのかよ」と煩いスカーが居る3人部屋へと
チェックを送り届け、イリューはすぐ背を向ける。
「お父さん!」とミートはその背に呼びかけた。
「―――僕トランプ持ってきたんです、皆でやりましょう」
イリューは困った顔でゆっくり振り返る。
にこにこと邪気無く笑いかけるミートに、「……お父さんはケビンさんを探してくるよ」どこに行ったか
心配だから…と言い聞かせた。
「―――子供じゃあるまいし。姿が見えないからって、こんな旅館で何があるって言うんだか」
イリューが再度背を向けて出て行ってしまい、ミートはうって変わって冷たく呟く。
「おーいイリュー!」とスカーが追って廊下に出て行き、がしっとイリューの首に腕を回した。
「いいかイリュー、ケビンを侮るなよ?」内緒話をするように顔を寄せて、スカーは真面目な顔で言う。
「ケビンの嫉妬深さはな…恐ろしいんだぜ…奴のヤキモチは、ヤキモチなんて可愛いもんじゃねーぞ」
俺も何度刺されそうになったことか、とスカーは芝居がかった調子で額を押さえた。
「あの…具体的に質問いいですか?」どんな場面で刺されそうになったのか?と聞かれてスカーは口ごもる。
「それはそのぅ…いや、でも本当ヤバイんだってあいつ!なんつーの?遊び相手なら犬猫にまで
目くじら立てる奴なんだって。ちょっと口聞いたくらいで殴られた日には…」
イリューはちょっと考え込んでいたが、「まぁ気をつけるこった。火の無い所に煙を立てる奴だからな」と
スカーが背中を叩いたので「はぁ…」と歯切れ悪く頷いた。


旅館中探し回らなければいけないかなと思っていたケビンは、すぐに見つかった。
「―――あ…ここに居たんですか」
自分たちの3人部屋の窓から山を眺めているケビンに、イリューは拍子抜けした声を上げた。
「自分の部屋に居て悪いのかよ」振り向かずケビンが返すので、イリューはゆっくり傍に寄った。
隣に遠慮がちに腰を下ろして、ケビンが見ている景色を自分も眺める。
「キレーな空ですね、晴れて良かった。鳶も、ほらあそこに飛んでますねぇ気持ち良さそうに」
勤めて明るく話し掛けるイリューに、ケビンは目を向けた。イリューは密かに緊張する。
「……お前だけなんでここに来たんだ?」皆向こうの部屋に居るんだろ?と聞かれてイリューは
当然のように「ケビンさんを探しに来たんです」と返した。
「姿が見えなくなって、心配になったから」
ケビンはちょっと首を傾けて黙って聞いてから、「もう心配なくなっただろ」戻れば?と目をそらせて言う。
「ケビンさんも一緒に行きませんか?」とイリューに聞かれて、「行かない!」と声を荒げてしまった。
「なら俺もここに居よう。一緒に日向ぼっこでもしましょうか」
なにか肴になる物でもあったかな…と勝手に鞄を探り始めたイリューに、ケビンの目は丸くなる。
「傍に居させて下さいよ、ケビン」
文句を言おうとしたケビンの唇を人差し指で留まらせ、イリューは笑みを見せて頼む。
「―――……居たいなら…勝手にしろ」
照れを隠してそんな乱暴な物言いを返し、ケビンはイリューの肩にそっと頭を預ける。
とても嬉しそうに微笑んで、イリューはケビンの背中に腕を回した。
「イリュー……」見上げるケビンと目が合う。先程まで不機嫌に引き結ばれていた唇にキスを落とすと、
くすぐったそうに小さく声を上げながら舌を絡めてきた。短い間隔で、何度も戯れるように口付ける。
ケビンの機嫌はどうやら直ったらしい。
イリューが顔を離すと、「もっと」と言いたげにイリューの背に腕を回して甘える。
2人切りの気安さで、イリューもケビンの甘えるまま頬に耳朶にとキスを注いだ。
首筋までをイリューの唇でくすぐられ、熱っぽく舌を這わされてケビンは声を漏らす。
イリュー、夜じゃなくて今しようか。そんな誘いがケビンからかかり、イリューは興奮した面持をさらに赤くした。
「………大体…、夜はミートも居るからな」
畳に横たえられながらケビンが拗ねたように呟き、「…2人でまた、ケビンさんの好きな所に行きましょう」
とイリューはケビンを宥めながら、その胸を服の上から軽く撫でた。
「……………………」声にならないため息をついて、ケビンは被さってきたイリューに顔を寄せる。
ケビンの指がイリューのシャツの釦にかかる。素早く外されあらわにされたイリューの素肌に
ケビンは上気した頬を押し当て、熱くなった唇を押し付けた。
色の無い白い胸に舌を這わせ、ケビンはわずかに色付く突起を口に含んで舐め上げる。
そんな、自分もと欲しがるケビンの媚態にイリューの心音は早く高くなっていく。
「ケビン!」と思わず名を呼び悪戯な唇を自分のそれで塞いで、イリューはケビンを固く抱きしめた。
「…ここ、家族風呂付いてるんだよな」ふと思いついたようにケビンは風呂場を指差す。
部屋付きの風呂は、見晴らし良く露天になっている。「一緒に入ろうか」と悪戯な目でケビンはささやき
イリューを伺うように見つめる。イリューはその瞳を閉じさせ瞼を啄ばむように口付けた。
「広かったし、…景色も良いし……気持ちいいぜ………?」
思いつきが気に入ったのかケビンは吐息の合間にイリューを口説く。
はだけられたシャツから入り込んだ手の平に脇腹を撫で上げられ、目を閉じて小さく喘ぐケビンに
イリューも誘惑に乗ってみたくなる。
若葉が目に眩しい新緑の山を背に、綺麗なケビンはさぞかし映えることだろう。
「――――……なぁ…?」
甘えた声音でせがみ、ケビンは自分でシャツを肩から落とした。
「―――ケビン」
その上等な容姿は先程までは、綺麗だが陶器のように冷えて固かった。
今は腕の中で上気した頬を愛しげに摺り寄せてくる。イリューはとても満ち足りて、もう一度ケビンを
抱きしめると上半身を抱き起こそうとする。
「――――……」イリューの意図を読んで喉の奥でケビンが笑う。
わざと色っぽい目つきで揶揄するように見つめるケビンの鼻を、イリューは指先で摘んだ。
「止めろよ」と笑いながらケビンはイリューの指先を払う。
2人はそのまま腕を取り合い絡み合うように体を起こした。
「抱いてって」
悪乗りついでに命ずるケビンにイリューは、こちらも浮ついた顔で頷く。
ケビンがイリューの首に腕を回して、ぴったりと上半身を押し付けた。
密着する肌の感触がイリューの心を逸らせる。出来るだけ慎重にとケビンを抱き上げた。
「お父さん〜帰ってますか〜?」
「―――――……!」
「ミート――――!?」
急に部屋の扉が叩かれたので、イリューもケビンもびくっと体を固くする。
「お父さーん」と再度ドアをノックされガチャガチャと鍵を開ける音も続いたので、イリューとケビンは
慌てて身を離し乱れた衣服を掻き合せた。
「あー居た居たお父さん。ケビンさんも」
にこにこと無邪気に笑いながらミートが部屋に入ってくる。
「ケビンさんもここに居たんですね。どうして独りだけ部屋に戻ってきたんです?」
「あ、ああ。…少し疲れて気分が悪くなったそうで、ここで休んでいたんだよ」
とりなすようにイリューが答える。
気分?機嫌じゃないですか…?と口に出さずにミートは「そうだ!お父さん見てください〜」と話題を変えた。
「チェックさんがさっき買った浴衣着てみたんです、とっても素敵なんですよ!」
後ろに引き連れていたチェックを前に押し出す。
白地に水仙の涼しげな浴衣姿で、少し気恥ずかしそうにチェックは微笑んだ。
「ほ…本当だ、素敵な浴衣だなぁ」うん綺麗な浴衣だ、とイリューはケビンの目を気にしながら
しきりと浴衣を誉める。
「チェックさん綺麗だから何着ても似合っちゃいますね〜…お父さんもそう思いませんか?」
じっとケビンに横目で睨まれては、おいそれと頷くことも出来ない。
絵柄のとおり一輪の水仙のような涼しげな佇まい。確かに際立った美しさだった。
にこにこと無邪気に微笑んでくるチェックに愛想笑いを返してみるが、ミートのセリフにイリューの心労は増す。
「お父さん綺麗な人が好きなんですよね〜」
ギロッと睨むケビンに先手で「ケビンさんもとっても綺麗ですから」とミートは笑顔で言った。
「お父さん、本当に良かったですね〜。ケビンさんみたいに綺麗な人と結婚できて」
それ・だけ。…それしか取り得が無いとでも言いたいのか、しつこく自分を持ち上げるミートに
ケビンのその自慢の顔は冷たく固くなっていく。
「―――俺、邪魔みたいだから外出てく。3人部屋で好きにやれよ」
ケビンは立ち上がると、そのまま大股で部屋を突っ切り外へと出て行ってしまった。
「―――ケ…ケビン!」と追いかけようとするイリューの胸にミートが泣きつく。
「ごめんなさいお父さん……!僕、僕…そんなつもりで言ったんじゃ…ケビンさんに喜んで欲しくて…」
胸で泣くミートを宥めるために、イリューは仕方なく腰を下ろした。



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