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◆『機長の恋路・極妻新婚編』

 

「…あ。ロンドンから手紙だ」ケビンが封筒を手にしてつぶやく。「懐かしい…」
イリューに「誰からです?」と目で問いかけられ、ケビンは「ウォーズさんから」と懐かしい人の名を口にした。
「最近旅から戻ったとは聞いてたけど、…ちゃんと手紙くれるなんて」相変わらず律儀な人だなーとのケビンの賞賛に、
イリューは「仲良しなんですか」とにこにこ笑って荷造りの手を休め、ケビンのそばに寄る。
「ん?ああ。…小さい頃よく遊んでもらったりしてたから」イリューを振り返りケビンはウォーズの話を始める。
穏やかで物静かな優しい人だったと、ケビンが珍しく他人を誉めるのを聞いてイリューも、「お会いしたいですね」
そんな素敵なお友達なら、と言う。
「うーん…どうかな。ロンドンに行くとあの親父も居るんだよなぁ」奴には会いたくない、とケビンは返す。
「でもウォーズさんには…会いたいな。元気かな」
ケビンは小さい頃懐いてその足元に付きまとい、父親の目を盗んでは手を引き遊びに連れ出したその人との思い出を
懐かしく思い返す。今思うと子供の相手など面倒だったろうに、いつも優しく相手をしてくれた。
大人になったら何になりたい?と問われてウォーズさんのお嫁さん!と返したこともあったっけな…。
ケビンは一人、小さな笑みを浮かべる。
「―――ケビン?」イリューの問いにケビンはにこっと笑う。肩先にもたれかかるように頭を乗せ、昔の話を続ける。
英語が達者でなかったウォーズと一緒に英語の絵本を読んで勉強したことなどを語るとイリューは
「へーロシアの人なんですね。俺やクロエと同じ」と口を挟む。
途端にケビンは顔をしかめ「一緒にすんなよ!」と怒る。奴と一緒にするな、と怒られイリューはしょげて謝った。
「本当に、優しくていい人なんだぞ」とケビンはその後もしつこく繰り返していた。
「――――で?なんと書いてあったんです?」着々と荷造りを進めながら、イリューはちっとも片付かないケビンに聞く。
「…おめでとうってさ。一応、ロンドンにも知らせといたんだよ」色々とあの親父煩いから…とケビンが
また手を休めながら言う。自分の荷物なのに一向に片付かないケビンのそばに寄り、イリューは荷分けを手伝い始めた。
「お祝いには駆けつけれないけど、おめでとう、お幸せにって。ふ…昔から優しい人」頬をちょっと染めて口元を押さえ笑うので、
イリューも「なんか妬けるな」と笑った。
「んー?そうか?」ケビンは話していても手を止めないイリューの背に乗りかかるように抱きつき、笑みを浮かべている頬に
キスした。そして、イリューが動揺して手に持ったアルバムを落とすのを笑う。
ケビンはもう一度顔を寄せイリューの赤くなった頬に軽く歯を立て、そのまま唇をずらして半ば強引に口付ける。
イリューは顔を寄せてくるケビンの後ろ髪を軽く掴む。
「……ええと、大変嬉しいのですが…少し困ります」
控えめにケビンを遠ざけながらイリューは申し訳なさそうに謝った。「その…」と言葉を濁す先から、
「昼食の用意、出来ましたよーお父さん、ケビンさんー」と隣の部屋から声がかかる。
「今日は簡単にパスタにしました」
新妻よりよっほどお母さんらしいミートがエプロン姿で現れた。「ケビンさん、荷造りでホコリっぽいからちゃんと
手を洗ってから食事にしてくださいね」などと、言うこともお母さんのようだ。
「あれー?なんで5人分なんだ?ミート」不思議そうなイリューにミートは「ジェイドさんとスカーさんも今からお手伝いに
来てくれるって連絡あったんですよ」ジェイドさん、優しくて気が利いて僕大好きvとミートは微妙に当て付けがましいことを言う。
が、ケビンは聞いてない。さっさと席に付き一人フォークを手に食べ始めた。
「ああ〜皆そろって食べましょうよ…もうすぐ2人来るんだし」ミートが文句を言うと、ケビンは「どーせあいつら
手伝う気なんて無いし、そんな待ってやらなくったっていいぜ?」とフォークで指しながら言う。
「昼飯食いに来るだけだろ、ただ単に」イリューの注いだアイスティーを飲みながらケビンはそう笑った。
あなたと一緒にされては可哀想ですよ…と、可愛い顔に似合わないシリアスさでミートが心中でつぶやいているところに、
「こんにちはー!」と玄関からジェイド達の声が響く。
「はーい」と迎えに出たのはやはりミートで、ケビンは席に座ったまま「悪いな」と手を挙げて迎えた。
そのまま5人仲良く昼食になる。
「わーい美味しそ〜」ミート料理上手なんだね、今度教えてもらおうかなーとジェイドはパスタを口に運びにこにこ笑って
ミートに話しかけた。
へへ、と照れた笑みを浮かべるミートの横でケビンが「そんなに美味いかそれは良かった」と口を挟む。
「ちゃんと食った分の働きを見せろよ」スカーも、とケビンはフォークで指し「行儀悪い」とジェイドにたしなめられる。
ミートはひっそりと溜め息ついた。
「ほら昼飯は終わりだ、働け働け」高圧的に、昼食後すぐに働かそうと手を打って命ずるケビンに皆慌てて立ち上がり
荷造りの続きを再開する。煩いケビンにジェイドは「ちゃんと手伝ってるよ〜」と返しながら、
ふと手を止める。「…あ!?ケビン!これって」ジェイドが荷物の中からバッグを手に取り騒ぎ出した。
「うわ、どーしたのこれ!?エルメスのケリーバッグじゃん!」すげー…と手に持った百万単位の値が張るバッグをしげしげと見る。
「あーこっちはルイヴィトンのタイガとヴェルニの新色だー!どーしたの、これ!?(←良く知ってるな…)」
次々引っ張り出すジェイドにケビンは顔をしかめて「散らかすなよ、おい」と注意するが聞いてない。
「お前金回り良くなったのかぁ?いいモンつけてるし」とスカーもケビンの手首を持ち上げて腕時計を見た。
ケビンはロレックスのデイトナがついた腕をスカーから隠すように遠ざける。
「もらったんだよ」追求が鬱陶しいのでケビンは早々にばらすが、ジェイドとスカーはそれを聞いて余計に騒ぎ立てた。
「うっそ!イリューってそんな金持ってるのか!?俺なんて手取り30万ないっていうのに…(現実的数値)」
ウラヤマシイ…と騒ぐスカーの横でジェイドも「あ、そーいえば車もいいヤツに乗ってたもんね?」と言う。
アルファロメオのGTVと聞いてスカーは「イタ車かよ!しかもオヤジ、結構渋い路線いってるね〜」
分かってるねーと腕組みして感心した。煩いな、と迷惑げなケビンの横からミートが口を出す。
「でもケビンさん用にって、新しい車をまた買うんです。そうですよね?お父さん」さりげなく刺がある。
外に荷物を運び出しながらイリューは「もう少し小さい車の方が乗りやすいかと思って」ちょうど車庫も2台分あるし…と
にこやかに肯定する。
「えー?何買うの?」マー○?キ○ーブそれともデ○オ?とジェイドは安価な車名を挙げて聞く。
「2台目だからそんなに高価な車は買えませんが…イギリスの車がいいとのケビンさんの希望で」
ロータス社のエリーゼ。小さくて軽量で姿も良いのでケビンさんにぴったりかなと…イリューの返答にジェイドとスカーは
仰け反って叫ぶ。
「500万コースかよ!?」うわーと呆れるジェイドの横でスカーはケビンの肩を何度も叩き、「ケビン、お前……
うまくやりやがったな〜このヤロー!」と大袈裟に言い立てた。
「煩いな、お前ら」ケビンは本気で嫌そうに言い捨て、立ち上がる。飽きた、休憩するとケビンは部屋から出て行ってしまった。
「適当に詰めておきますから、後で確認だけお願いしますねー」と送り出すイリューに、ミートはまた溜息つく。
スカーも、相変わらずワガママなヤローだぜと大袈裟に頭を振り、「最初にガツンとやらなきゃ、ダメだぜ?お前さー」と
イリューの肩を叩いて諭す。
「この先舐められっぱなしよ?マジで」そうでしょうか?と笑って取り合わないイリューに3人は、ダメだこりゃーと溜息ついた。

「ケビン、ようこそいらっしゃいました。お忙しい時期にわざわざ来ていただけて光栄ですよ」
チェックは艶やかな笑みを見せて、友人を迎え入れ早速手製の菓子を机に並べ始める。
ケビンは肩肘ついたままチェックが茶器を温めたりスコーンを焼き直したり、立ち働くのを眺めていたがプレートを自分の前に
置かれ紅茶を注がれると、すっと背筋を伸ばしてカップに口をつけた。
普段行儀悪い時もある。それなのに目の前の菓子に手を伸ばすケビンは姿勢良く上品な振る舞いで、手にとったスコーンも
流暢な仕草で切り分けている。
チェックも負けず劣らない品良い笑みを浮かべて、ケビンを見守るように見つめている。
二人向かい合っていると、どこか現実離れした絵のようだった。
「――――ジェイドはご一緒ではなかったのですね」美味しい焼き菓子を作ったので食べていただきたかったのに…チェックは
鷹揚に口元を押さえて笑い、さっきまで一緒にいた、この後また
会いに戻るとケビンが言うと、「それではお手数ですが、届けていただけますか?」ジェイドは焼き菓子がお好きですから…と
微笑んでケビンに頼む。
いかにも育ちが良いその物言いに、ケビンはふと眉を寄せ「チェック…あのな」この前の…と言いかけてくちごもる。
「?」可愛らしい仕草で首を傾げるチェックにケビンは「この前お前に作り方聞いたボルシチ鍋だけど」
あれ、あんまり美味く出来なかったぜ?と苦情を言う。
チェックはまた首を傾げ「そうですか?簡単なロシア料理をと伺ったので、煮込み料理などをお勧めしたのですが…」と
失敗を不思議がる。
「美味くないなんていうより、不味かったぞ」さすがに食卓に出すのが憚れるほどに。
量の加減が出来ず大量に作ってしまったボルシチを、大鍋一杯流しに捨てたのは勿体無かった。
レシピ通りに作ったかとか、肉を焦がさなかったかとか、暫く二人は話し合っていたがケビンは「まぁいいや」と溜息ついて
肩肘ついた。「ガラでもねーしな」と再び行儀悪く肘をついたまま菓子を口に放りこむケビンに、
「それはどうでしょう」とチェックは穏やかに異を唱える。
「誰かのために何かをしてあげたいと思う心は、人を選びません」
ケビンはしばらく黙った後、「――――恥ずかしいセリフ、真顔で言うなよ」と横を向いた。

夕食ギリギリ前に帰ってきたケビンに、スカーは「お前本気で働く気が無いのなー」と文句を言い、
ミートは「皆さんお疲れですし、今日は外で食べようって話してたんです」荷物が多くてさっきまで荷分けに手間取ったので…と
かなりな嫌味をかました。
「ふーんで、何食べるんだ?」美味いものがいいな、とケビンは気にしないようすでイリューに聞く。
お前とことん図々しいなとスカーが呆れる横で、「俺寿司が食いたい」と勝手に決める。
はいはい、と頷くイリューを遮って「嫌だ!」とスカーは異を唱える。
「そんなモンちまちまとお上品に食いたくねぇ!俺は腹が減ってんだ!」
「沢山頼めばいいだけじゃないか」
「今日は働かされたから、焼肉とか、もっと腹に溜まるモン食いに行きてぇんだよ!」
「そんな言うほど動いてないだろ?」と言うジェイドと「まぁまぁ、じゃあ多数決取りましょう」というイリューに二人の口論は
中断させられた。
「じゃあ焼肉がいい人―寿司がいい人―」と決を取ると、寿司は2人(イリューも付き合いで挙げた)で焼肉に決まる。
「上着が煙臭くなるから嫌なんだ」とふくれるケビンを宥めるように、イリューはそっと背を叩いた。
(イリューのおごりで)料亭風の高価な焼肉屋に入り、皆好き勝手に注文を始める。
「好き嫌いはダメだぞー大きくなれないよ?」とジェイドがミートに笑いながらニンジンやらピーマンやらを取り分けてやると、
スカーもにやにやしながら「お前もな?」と同じ物をジェイドの取り皿に盛った。
新居に移ってからの話をイリューがジェイドと話している。ケビンはその横でつまらなさそうに箸の先で肉を突付いていた。
「へーじゃあ一応旅行には行くんだ」どこどこ?とジェイドが聞くと、イリューは「まだ決めてはいませんが、ケビンさんが
長野に思い出があるらしいので…」とケビンに笑いかけながら返した。
「へー長野」懐かしーとジェイドは手を打って喜ぶ。「俺も長野、好きなんだよねー温泉とかあるし」
スカー俺たちも付いて行っちゃおーか?と対面のスカーに提案して、「ああ?マジかよお前…」と嫌がられる。
「お前、新婚旅行(?)に付いて行くなんて…それ、ただの嫌がらせっぽいぞ、止めろよ」
賢明なスカーがジェイドに言って聞かせるが、ジェイドは聞いてない。
「いーだろ?ケビン、イリュー。俺たちがミートの面倒見てやるからさ、二人で新婚さんらしく(笑)温泉デートでもしなよー」
いえ、僕は今回はパスしようかなと…付いて行くとお邪魔だし…とのミートの言葉も聞いてない。
「……そうだなぁ…皆で行くと楽しいかもしれないな」いくら息子自ら辞退したと言っても、ミートを残していくのに抵抗がある
イリューは、ケビンの顔を伺うようにちらっと見る。
「好きにしろ」とだけケビンは短く返した。
「じゃあ日程はまた明日にでも決めようねー!チェックも誘ってみよう!」
お休みーと手を振り去っていくジェイド達に、イリューとミートは盛大に手を振り返し、ケビンは手を挙げもしなかった。
イリューがミートを車に乗せ、ケビンもと振り返るのを「俺はいい」とケビンは剣呑に断った。
「今日は一人で寝たい」お前は家でミートと二人で寝ろよ、とケビンは背を向けて歩き出す。
「えー?ど、どこに泊まるんですか?」前の家があるじゃないかと返され、「でももうベッドも運び出して…」
とイリューは困惑しながら見送った。
「一人では、…寂しくないですか?」と追ってきたイリューの声に、馬鹿にするなと言いたげに顎を上げケビンは夜道を一人で、
もう誰も居ない我が家に帰っていった。
「3人で川の字に寝れば幸せ、ってモンでもないんだぞ。バカ…」
本当に何も無くなってしまったリビングのフローリングの床に直接腰を下ろし、一人悪態をつく。
大きなイリュー家のベッドなら、3人一緒に寝れますね、とイリューに言われた時ケビンは何かの冗談かと思ったのだが。
昔そうやって3人で寝ていた…といそいそと3個枕を並べ始めたイリューに聞こえない
ように小さな声でケビンはマジかよ…とつぶやく。ふと横に目を向けると、ミートも困惑した表情でイリューを見守っている。
嫌そう、というよりは怯えたような表情で「さ、おいでミート。お父さんと、……お、お母さんVv…の間に寝なさい」と
嬉しそうに呼ぶイリューに仕方なく従いベッドに入った。
マジかよ、ともう一度つぶやき髪をかきあげるとケビンも仕方なくベッドに入り、イリュー家最初の夜は3人川の字
(イリュー・ミート・ケビンの順)で過ぎていった。
あんまり合わないなと思ったミートとは、その後その予感が当たっていることが次々判明していった。
お父さん、お父さんと父親に懐いている息子は、きっと俺のこともさぞかし疎ましく思っているのだろうと、ケビンはミートの
漏らす不満の数々を思い出しては嫌われてるよなぁと再確認する。
しかし機嫌をとってやろうとはならない。そんな殊勝な思考はケビンには無く、好きにしててもなるようになるさぐらいに
醒めて見ていた。
「――――高価なものばかりねだって」
ただ、カチンときたのはその言葉だった。いかにもお前など父には相応しくないと言いたげで、ケビンは腹立たしさに
「せっせと貢ぐのはお前の親父だぜ?」と喧嘩を売るような物言いで返してしまった。
びっくりした顔で、ミートはそれ以上何も言わなかったが今日のジェイド達への言い方で、未だ快く思ってないのは分かる。
ケビンは腹立たしい思いが蘇ってきて、不貞腐れ床に寝転ぶ。今ごろ久しぶりに2人になれた親子は仲良く寝付いているのだろう、
それとも熱心に俺の悪口でも言ってるかなと、ケビンは悪い方向にばかり勘ぐってしまう。
お父さん、絶対騙されているんだよ、いいようにされて、高価なものばかりねだられて…とでも訴えてるかな。
ケビンは目を閉じ、じゃあいらない、と小さくつぶやく。
欲しいものをねだり取るという感覚は無かった。金持ちの家に生まれついた性か、与えられて当然と思ってる節がある。
あげる、というから受け取っただけ。それをいかにも利用しているような言われ方は不快だった。
プレゼントを渡すときの嬉しそうなイリューの表情と自分の反応を見守るような緊張が、どちらかというとプレゼントそのものよりも
気に入っていたケビンは、一人きりで冷えた床に横たわっている今、イリューと
一緒に居るミートを疎ましく思ってしまう。これじゃあ俺に父親を取られたくないミートと同類だと溜息をついた。
このまま寝付いたら風邪ひくかな、さすがに夜は冷え込むからな…とケビンがうとうとしかけていると玄関から、ガチャ…と
ドアを開ける音が聞こえてきた。ケビンは飛び起きる。
「ケビンさん…?どこに居るんですか?暗くて…見えない」人影がケビンに近付いてきて、ケビンはそれがイリューだと気付くと
相手が何か言う前に「ミートは?一人置いてきたのか?」と詰問した。
「一人じゃいくらなんでも可哀想じゃないか?大事な大事な息子だろ」少し刺のある物言いに、イリューは大丈夫ですと返す。
「いえ、ジェイドさんから電話があって…ケビンさんが一人でクロエの家に居ると言ったらミートを預かってくれて…」
だから来ました、とイリューは微笑んだ。
「なんにも無い家に一人は寂しいかなと思って」
「連れ戻しに来たってわけかよ?お節介な奴」最初の頃から変わってねーなとケビンは鼻で笑いながら、イリューが
脇に抱えたものに気付く。
「いえ、ただ寝るのなら布団が要ると思って…布団持って来ましたからここで寝てください」
手早く寝床を整えるイリューにケビンは「あ…サンキュ、悪いな」とちょっと赤くなって感謝の言葉を述べた。
肌寒かったケビンは布団の中にもぐりこんでから、ちらっとイリューを伺う。イリューは「寒いな」と聞こえるように言い、
「隣に寝ても良いですか?」とケビンに聞いた。
黙ったままだったが、確かにケビンが頷いたのを確認してイリューは寝床に入る。
すぐに体をすり寄せてきたケビンに、イリューは「2人きりで寝付くなんて久しぶりですね」と嬉しそうに喜び肩に手をやる。
それはお前が子供を間に引き込むからだろ、とケビンは思いながらイリューの肩に置かれた手にキスを落とした。
隣に来た思いがけない温かさに、ケビンは確かめるように手を伸ばす。
甘えるようにイリューの首に腕を回しその唇に顔を寄せると、昼間とは違い拒まれるようなことも無くケビンの口付けは
確かな手ごたえで返ってきた。
吸い寄せられるように口付けを交わし、挿し入れた舌を絡め取られ焦らすように甘噛みされる。
「――――あ…」ケビンは待っていた感覚に小さく満足げな声を洩らした。
イリューにしがみ付くように回した腕を、宥めるようにゆっくり暖かい手のひらが撫でていく。
その手がケビンの襟元から滑り降り、暖を取らせるように胸から腹を撫で下ろし、幾分暖かくなったケビンの素肌へと
シャツの裾から侵入していった。
ケビンは体を捻って仰向けになり、どこか母親の愛撫を受けるままの赤子のような素直さで、イリューのなすがままになっている。
こんな時のケビンの表情が妙に幼いことを、イリューは最近分かってきた。ご機嫌なお子様のようにイリューの腕の中で甘えている
ケビンに、この人結構甘えんぼだよな…と口に出せない感想を抱く。
そんな所もまた可愛いんだけどと、イリューもいい歳して一人のろけていた。
力の抜けた体中を丹念に撫で、くすぐるように指先で頬を軽く引っ掻くと、ケビンはようやく安心したように小さく息を吐く。
イリューは、そんなケビンをすぐ横で見守れることを喜びながら「寝ましょう」ともう一度腕に力を込めケビンを抱きしめる。
金髪を愛しげに撫でてから、体を離し自分も仰向けになった。
ケビンはちょっと物足りなさそうに、イリューの胸に手を置き顔を寄せたり脚でイリューをつついたりしていたが、
やがて諦めて大人しく目を閉じた。
「…………なぁ…イリューさ…」俺…と、目を閉じたままケビンが独り言のようにささやく。
「俺…俺…ワガママ、だよな?」
「――――は?」何を言い出すのかと思っていたら突然の問いかけで、イリューは思わず声を大きくして聞き返す。
「自分でも分かってるけどさ。俺、ワガママだよな」
「――――はぁ…」
「お前もそう思ってるか?」
あ、いえ別にそんなことは…とイリューがやっとまともに返答しようとしたのに、ケビンが被せて
「俺、これからそんなに物、いらないから」と怒ったような口ぶりで話す。
イリューはケビンさんどうしたんだろうと思い巡らし、昼間くらいから機嫌が斜めだったことに思い当る。
もういらない、ともう1度繰り返すケビンに、イリューは困ったように微笑みながら逆に尋ね返した。
「ええと…ケビンさんは、受けとっても嬉しくなかったんですか?」
え…とケビンのほうが言葉に詰まる。首を横に振って「嬉かったけど、…でも俺」と再度拒否しようとするが、今度はイリューが
その言葉を遮る。
「良かった。喜んでくれたなら、それでいいんです。喜ばしたくてしたんだから」
あなたが喜んでくれたらいいなと思ってしたことなんです、とイリューは分からせるように繰り返した。
「俺が何をしたいのか分かってますか、ケビン」ケビンはしばし言葉を無くし、「俺、でも…お前が…」
困ると嫌だからと言い足すがイリューにその先を手で制される。
「俺は困ってませんよ」あなたに困らせられてはいませんと、ケビンの頬をつつく。
「だから、安心して」自分から顔を寄せケビンに口付けてから、イリューは自信有り気にそう言う。
「不可能なことやそれは困る、ということはちゃんとそう言いますよ」子供じゃないんですから…と、なんでもふたつ返事で
「Yes」と言いそうなイリューは、全然説得力の無い笑みを見せて言う。
「――――――…」
「だから。もういらないなんて、言わないで下さい」
「――――――…うん」じゃあ、貰ってやる。顔をイリューの胸に押し付け、ケビンは照れ臭さを押し隠して
わざと高飛車な物言いをする。イリューはそんなケビンの背を軽く撫でながら、幸せそうに笑った。