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◆ ジェイドくんの逆襲

 
 
「うわっ、は……」
「ほら、動くなよ」
「だってなぁ………」
 
 
 いつもと違う状況にオレはけっこうドギマギしていた。オレをベッドに寝かせてパジャマ姿で跨っているジェイドは
やけに嬉しそうだった。
「お前は動くなよ。そう、約束したんだからな」
 そう言って笑うと、ジェイドはオレのパジャマを脱がせ始めた。確かに『約束』したので、オレはじっと動かず、
ジェイドの好きなようにさせてやる。
 するすると手慣れた調子で脱がせていく。下着も引き下ろされ、オレは素っ裸にされてしまった。
「お、お前は脱がないのかよ……」
「後でな」
 ジェイドはくすくす笑っている。口づけてきた。柔らかく触れるだけのフレンチキス。もっと深く欲しかったが、
ジェイドの唇はオレの首筋をたどり始めた。
  

 そもそも喧嘩のきっかけはオレがあいつの師匠とのことをからかったことにある。ジェイドは孤児であのお師さん
 ── ブロッケンJr. ── に育てられたようなものなので、ジェイドは師匠を父とも慕っている。
 それはオレにとってはひどく口惜しいことだった。あいつの意識の中の相当な部分をブロッケンJr.が占めており、
オレはそれにはかなわない。
 嫉妬するのも大人げない話だが、あの師匠もオレのことを『ジェイドをかっ攫った男』として、
快くは思っていないように感じる。たまに会うと目つきに険があるのだ。
 そんなわけでオレは何かにつけてはジェイドをからかう。
 ベタベタ師匠にくっつくな、ガキっぽい、自立しろよ…… それは本当はあいつの中の師匠とまともに勝負できない
オレの弱さだ。
 しかしそんなことを知られるのは嫌なので、オレはさもあいつを心配して言ってるんだというそぶりをする。
 しかしその日はさすがにオレはやり過ぎちまったようだ。
 居間の隅に飾ってある『幼いジェイドと師匠の写真』。
 ブロッケンの家では日頃写真を撮るような習慣もなかったらしい。その写真は珍しく、出先で知り合いにたまたま会い、
撮ってもらったものだという。
 ジェイドはそれをとても大事にしていた。
『あ、まず………』
 がっしゃーんという音が派手に響き渡った。誓って言うがわざとじゃない。オレはうっかり写真立てに肘をぶつけ、
落としてしまった。
 やばかったのは割れたガラスが写真を破ってしまったことだ。
 あわてて走り寄ってきたジェイドが、膝をついて破れた写真を手に取った。恨みがましい目でオレを睨みつける。
その非難の色がオレの咄嗟の反抗心を呼んだ。
「し、仕方ねぇじゃねぇか。わざとじゃねぇよ!」
「そんな言い方ないだろう。謝れよ!」
 普段はおとなしいしオレの言うことをよく聞くが、怒り出したジェイドははっきり言って怖い。射るような翡翠の瞳が
オレに突き刺さる。
 オレのことで他の奴らにこんな風に怒ることはあるのだろうか。あいつの師匠がひどく羨ましかった。
オレはどこか声を上ずらせながら、開き直ったように弁解する。
「だから! わざとじゃねぇって!」
「わざとじゃなくたって謝れよ!! それとも何か!? そんな風にわざとじゃないわざとじゃないって言うのは……
わざとやったからなのか?」
 目が据わっていた。オレはハッと冷静になった。
 ジェイドは普段はこんな風に人の心理の裏を読んで、汚い推測をするような奴じゃない。そのジェイドからこんな
言葉を引き出してしまったのは、オレだ………
「………ごめん」
「スカー……」
「悪かったよ。ホントに、わざとじゃないんだ。それだけはちゃんとわかってくれよ……」
 オレの表情が変わったことに多分ジェイドも気がついたのだろう。言い過ぎたという顔になり、たちまちしゅんとする。
「オレの方こそゴメン。お前がわざとそんなことするはずないの、わかってるのにな……」
 そっと目を伏せて砕けたガラスを拾い始めた。
「バカ! 手を切るぞ。オレがやっちまったんだから、オレが片す」
 オレがそう言うとじゃあという感じで手を離し、改めて破れた写真を見つめた。
「あーあ、これもう二度と手に入らないよなぁ……」
 オレに当てつけてるつもりはないようだ。単純に残念がっているのだろう。五年以上も前の、それも他人のカメラで
撮った写真など、確かに今更焼き増ししてもらうことは出来まい。
「悪かったな。代わりと言っちゃなんだが、お詫びに一つ何でも言うこと聞くからよ………」
 
 
 オレへの『お願い事』を何にするかは「考えとく」とのことだったのだが、夜になりもう寝るという段になって、
ジェイドはちょっと目をキラキラさせながら言ってきた。
「あのなぁ、昼間の約束……あれ決めた」
「ん、何だ?」
「今夜、しよ。で、その時オレにリードとらせろ、な」
「はあ!?」
 ジェイドはくすっと笑った。いたずらをたくらんでる子供のような笑顔だった。
「いっつもお前の思う様で、オレも途中でわけわかんなくなっちゃうし…… そういうのけっこう恥ずかしいし悔しいんだよ。
だから今日はオレがリードとるから、お前は下でじっとしてろ」
「じっと……してるのか?」
「そう。絶対動くなよ」
 要するにマグロになれということらしい。そんなのがいいのだろうか? 妙な感じだが約束したのだから仕方あるまい。
「わかったよ」
 
 
 促されるままにベッドに横になった。ジェイドはオレの肩を押さえ込み、上から跨ってきた。いつもと違う状況に
オレはけっこうドギマギしていた。
「お前は動くなよ。そう、約束したんだからな」
 そう言って笑うと、ジェイドはオレのパジャマを脱がせ始めた。確かに『約束』したので、オレはじっと動かず、
ジェイドの好きなようにさせてやる。
 するすると手慣れた調子で脱がせていく。下着も引き下ろされ、オレは素っ裸にされてしまった。
「お、お前は脱がないのかよ……」
「後でな」
 ジェイドはくすくす笑っている。口づけてきた。柔らかく触れるだけのフレンチキス。もっと深く欲しかったが、
ジェイドの唇はオレの首筋をたどり始めた。
 一つ一つオレの体を確かめるようにたどっていく。妙にニヤニヤしている。何がそんなに嬉しいんだ全く。
「んっ……」
 思わず声が漏れた。徐々に降りてきたジェイドの舌が、オレの胸の尖りをぺろんとなめ上げていた。
「動くなよ」
 怒ったような声で言われた。目を見りゃ本気で怒っているわけではないことはわかるが、『動くな』という言葉は本気だろう。
『やれやれ……』
 オレは小さくため息をついた。どうやらオレは、今夜はこいつのおもちゃになって弄ばれる運命のようだ。
 ジェイドはオレが初めてで、仕込んだ頃は随分うぶでたどたどしかったものだが、こうして上からのしかかってオレに
触れてくる様子は、すっかり堂に入ったものになっている。
 まあ確かに今更何をしようと恥ずかしがるような間柄ではなくなっているわけだが、自分だけが素っ裸でこんな風に
触られ続けるというのは、随分とこそばゆいような感じだ。
 ジェイドは嬉しそうにオレの体をたどる。自分より一回りはでかいオレの体。その体に包まれると安心するのだとよく言う。
───── オレも男なのにそんなのって変かな……
 くすっと笑ったジェイドをオレは抱きしめてやったものだった。
 ジェイドがさらに降りてきた。そこら中を撫で回され、肌をすり寄せられ、舐められて、オレの体はすっかりその気に
なっている。なのにジェイドの言いつけで一切反応を示すことが出来ない。
 ちょっとでも動くとそのたび「動くな」と恫喝されるのだ。
『こりゃきついや……』
 オレはたまらなくなってきた。丁寧にたっぷりと刺激を与えてくるジェイド。
すぐさま奴を押さえ込み思う様貫きたい。しかしそれは出来ないのだ。
「ほら動くなって」
 また怒られてしまった。笑っている。下腹の辺でうろついていたジェイドがさらに降り、とうとう硬く張りつめている
オレ自身を口に含んだ。
「は……あああ、ジェイド………!!」
 我慢しようとしても腰が淫らに蠢いてしまう。
 ジェイドもオレのどこがどんな風に感じるかは、すでによく知っているのだ。
ジェイドはそこを徹底的についてくるつもりのようだった。
 フェラも随分うまくなった。オレを歓ばせるために、一から覚えたのだと思うとけっこう感激ものだ。
「く……く……は…はああ……」
「だめだよスカー、今日はちゃんとオレの言うこと聞くんだろう?」
「くそっ、お前けっこう意地悪だぞ!!」
 下腹をひくつかせながら叫ぶと、ジェイドは実に楽しそうにニヤニヤッと笑った。
「何だ… 知らなかったのか?」
 
 
 オレの体をさんざんに嬲り立てたジェイドは、満足したのかオレの上から降りるとやっと服を脱いでいく。
ベッドサイドの引き出しに手を伸ばした。
 取り出したそれは言ってみれば『夜の生活の必需品』というやつだ。
「スカー、手ぇ出して」
 オレは素直に手を差し出す。透明なジェル状の、そう要するに『ラブ・ローション』。オレの指先にローションを絞り出すと、
膝立ちになって腰を浮かせたジェイドはオレを導いた。
「ん………」
 ローションを塗り込むように刺激していく。これはいつものことだ。しかしいつもとは違い、確かにリードを取っているのは
ジェイドだった。
 オレの指をまるで道具のように使う。
 オレもジェイドの誘うままに、指を滑り込ませてやった。
「んふ……ふ……ふあっ、あ………」
 こんなシチュエーションにジェイドも興奮しているのだろう。抑えた声が何とも色っぽい。
「ああっ!!」
 指を深く差し込む。くにゅっと掻き混ぜる。ジェイドは大きな声を上げると顎を仰け反らせた。たまらない。
「なあ、ジェイド、もう………」
「ダーメ」
 上気した顔でオレを見下ろす。意地悪そうに笑うと軽く口づけた。
「くっそー……」
 大きく息を吐き出した。オレはまたオレで、後生大事に『約束』なんてものを守っているのだから笑える。
以前のオレなら考えられないことだ。
 オレ本来の性格からすれば、何をどう約束しようがやりたくなったらやっちまう。それがオレだ。
 そもそもわざと相手を罠にかける気でもなければ、『約束』なんてもの自体交わしはしない。
 何もかもを自分のしたいようにやる。オレはそうやって生きてきたはずなのに
、なぜジェイドの言うことだけは聞いてしまうのだろう。
『これも惚れた弱みってやつかねぇ。ああ、しょうもねぇ……』
 オレは心の内でつぶやいた。それは『敗北宣言』だった。
 
 
 ジェイドのそこが実にいい具合にくちゅっくちゅっと音をさせ始めた。オレはもういい加減沸騰寸前だ。
 膝立ちのジェイドはオレがそこを掻き回すたびに、腰を回し甘い声をたてる。
「オレ…も…ダメ……」
「おいおい、いくらなんでもこりゃひどいぜ」
「はは…… ゴメン、スカー。お待たせさまでした」
 もう一度ローションを手に取ると、いきり立っているオレに塗りたくる。ぬるぬるする感触があんまりよくて、
待たされっ放しのオレは思わずいっちまいそうだったが、そんなもったいないことは出来ない。
 ぐっと堪えるとジェイドが手を添え腰を落としてきた。
「は……ああああ………んっ」
「あっ、ジェ、ジェイド!!」
「ダメだよ。今日は最後までオレに任せて………」
 反射的に下から腰を突き上げちまったら、またジェイドに怒られてしまった。しかし今度の笑顔は意地悪というより
可愛いいたずらっ子という感じだ。
 オレの体の上でジェイドが跳ねる。自分から腰を振っているジェイドというのも何ともいやらしい感じで、
オレは下からそれをたっぷり堪能させてもらった。
 ここに来てジェイドの様子は一転した。オレをさんざん焦らした詫びでもする
かのように、自分の体でオレに思い切りサービスしてくれている感じだ。
「あっあっ……ああ!! ……あっあ……あ………」
 ジェイドに飲み込まれ締め付けられる快感だけではない。その声、仕草、表情、全てがオレに向けたサービスだった。
『たまんねぇ………』
 オレは自分の唇を舐め上げた。満足げにねめつけるオレに、自分の意図が充分通じていることを感じ取ったのだろう。
ジェイドも満足そうに笑った。
 ジェイドの胸元に手を伸ばす。充血している硬い小さな尖りをつまんだ。
「スカー……!」
「このぐらいいいだろ?」
 一瞬の咎めるような視線はとろけて消えていった。
「ふ……ん……ん……あ………」
 汗がこぼれてはじける。輝く金の髪が動くたびに振り乱される。
 眉を寄せ何かを堪えているような表情。
 だがその口元は嬉しくてたまらないと言うように笑みの形を作っていた。
「くっ…あ……ジェ、ジェイド………!!」
「ん……来て………」
 うなずくと最後に腰を突き上げた。ジェイドの腰にも手をやり、思い切り引き落とす。
「あ、ああああ……、スカー!!」
 のけぞり白い喉を顕わに見せ、ジェイドはがっくりと崩れて落ちた。オレの腹の上にジェイドの歓喜の証が飛び散った。
もちろんオレも我慢し続けた己の欲望を解き放った。
 しばらく余韻を楽しむようにオレを体に納めたままじっとしていたジェイドは、ようやくだるそうに腰を上げると
オレの上にばたーっと倒れ込んだ。
 息が激しく乱れしゃべることも出来ないジェイドを、オレは力一杯抱きしめた。ジェイドもオレにしがみついてくる。
 触れ合う肌の間で汗が流れ落ちている。
 ひどく暑苦しい ──── だが離したくはなかった。
 オレはなぜこんなにもこいつのことが好きになってしまったのだろう。出会った頃はむしろそりが合わず、
喧嘩してばかりだったのだ。
 くそ真面目で清廉潔白なジェイドは、わがままなオレの気まぐれに振り回され、そのたび怒りまくっていた。
オレもこいつの真面目さをどこかバカにして見下していたはずだ。
 まっすぐで純粋なジェイドはオレにもまっすぐに向かってくる。こんな奴は見たことがなかった。そしていつの間にかオレは、
バカにしていたはずのこいつのまっすぐさに心惹かれていた。
 ジェイドはとても心地よい。それはお日様の心地よさだ。
 ジェイドはひねくれ者のオレの心を溶かしていった。心の中に弱みを作ってしまったオレを、かつてのオレならバカにして
笑っただろう。
 しかし今のオレはそんなことは気にしない。腕の中にジェイドがいる。それが全てだった。
「スカー、よかった?」
「ん………」
 ようやく息がおさまってきたジェイドは、少し体を起こすとオレを覗き込み微笑んだ。
 真面目で一生懸命なジェイドはこんなことまで一生懸命だ。
 最初はどうなることかと思ったが、ひどく盛り上がったし、いつもとはまた違うジェイドの姿を見ることが出来てオレは満足だった。
 してみるとマグロになれ云々というのも、ここまでシチュエーションを引っ張るための演出と言うことになる。
『一生懸命考えたんだろうなぁ……』
 思わず笑ってしまった。ジェイドの頭に手をかけ引き寄せると、口づけてきた。そのままオレの顔にいくつも
小さなキスを散らし、もたれて被さってきた。眠そうだ。
「寝ちまえよ。眠いんだろう?」
 そう言ってやるとジェイドは微笑み、オレの上でこてっと顔を伏せた。やがてスースーと静かな寝息をたて始める。
『ホント一生懸命だよな』
 随分頑張ってしまったのだろう。あっという間だった。
 さすがに眩しかろうと思い、明かりを落としてやることにする。ジェイドをそーっと降ろした。だが闇色がたちこめても、
カーテン越しに差し込んでくる月の光のおかげでけっこう見える。
 まだ眠くはないオレはそのまま今度は、安らかなジェイドの寝顔を堪能させてもらった。
 もう一度ベッドに滑り込む。布団を被り、眠っているジェイドにそっと触れる。
 こんな風に決まった誰かをそばに置くなんて、昔だったら考えられなかったのだが……
『でもこんなのも悪くないよな』
 今日の『意地悪』を思い返して鼻の頭をピンとはじいてやった。眉間を寄せてう…ん……と呟き、小さく頭を振った。
 可愛い。
 
 
 こんな結末が待っているならたまには喧嘩も悪くない。オレはクスクス笑うと目を閉じた。
 これからも……期待してるぜ、なぁジェイド………!!


こちらの小説の元ネタはなんとうちの新婚さんシリーズ!という嬉しいパロディ♪
天童渉さんのサイト、ミックスベジタブルには同小説掲載と共に、
うちのつたない画像を使った簡単な説明があったりします♪あわせてドウゾ〜♪♪