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◆ トランス

 「ケビン」
 と、その「男」に耳元で己の名を囁かれると、それだけで、体中に甘い痺れがおきるようだった。
 男は、マスクを外したケビンの耳たぶを軽く噛むと、そのまま首筋に舌を這わせていった。唇に触れられた場所から、
 じわじわと熱が広がっていく。
 「はあ…。」
 その滑らかな舌の感触に、思わずため息が漏れる。
 「もう、感じているのか?」
 嘲りをふくんだような男の声。
 途端、ケビンは自分にのしかかる男を押しのけ、上半身を起こした。
 「からかうつもりなら、とっとと俺の部屋から出て行け。」
 首筋を手で押さえ、努めて険しい表情で相手をにらみつける。
 「出ていけ。」
 「そんなに恐い顔をするな。」
 口元に薄い笑みを浮かべて男は言った。
 「お前の声があまりにも色っぽかったから、いけないんだぜ。」
 「また、そうやって俺をからかう。いいかげんにしてくれ。」
 「からかってなんか、いねーよ。」
 男はケビンの腕をつかんで自分の元へと引き寄せると、そのままベッドに組み伏せた。
 そして、顔を近づけ、ケビンの深紫の瞳を覗き込む。
 「もっと、もっと、イイ声を聴かせてくれよ。」
 やさしく、ゆっくりと、まるで小さな子供に語りかけるように囁く。
 しかし、男の眼が声色とは全く異なる、静かな、深い暗闇を宿していることにケビンは気がついていた。
 「ケビン、お前はおれのものだ…。」
 男はケビンに己の唇を重ねた。舌を深く差し込み、ケビンを求める。同時に、シャツの下に手を滑り込ませて、
 その滑らかな肌をまさぐり始めた。
 (本当にそう思っているのかよ?)
 己の体を這い回る男の手の感触に眉根を寄せながら、ケビンは冷めた頭で考えた。
 いつもこの男は、このような甘い言葉を囁いてはケビンを抱く。
 しかし、本心からの言葉とは、ケビンには到底思えない。
 こうやって自分を抱いているときでさえ、この男の瞳は感情を表そうとはしない。一見、燃え盛る炎のようであるが、
 その奥深いところには決して溶けることはない氷塊を隠し持っているようにみえる。誰も近づくことを許されない氷塊。
 その瞳を見るたび、この男の本心には永久にたどりつけないと思う。
 (結局、おれはこいつの暇つぶしの道具なんだろうな。)
 そう考えると、なんだか、こうやって抱かれることが馬鹿馬鹿しく思えてきた。
 けれど、冷めた思いとは対照的に、体は男の愛撫に応えつつあった。
 少しずつ息があがり、体中が熱を帯びていくのがわかる。
 男はケビンの首筋を舐め上げると、一言、耳元で言葉を発した。
 「ケビン…。」
 途端、ケビンをあの甘い痺れが襲った。
 この声で名を呼ばれると、理性も何もかもかなぐり捨てて、快楽に身を委ねたいという衝動が沸き起こる。その獣じみた
 衝動は、冷静であったはずのケビンを恐ろしい速さでのこんでいく。
 「んんっ…!」
 男に乳首を軽く噛まれ、ケビンは苦痛とも、快楽ともいえない声を漏らした。
 ケビンは思わず男の首に両腕を絡ませると、か細い声ではじめてその男の名を呼んだ。
 「マルス…。」
 自分の耳に入ったその声が、どことなく甘えたような調子を含んでいたことに気づくと、ケビンは己への嫌悪感を感じた。

 ケビンの部屋で、マルスがこのように夜を過ごすようになってから、二月がたつ。
 全ては、dMpでの試合において、ケビンがマルスに負けたことから始まった。
 それは「試合」と銘打ってあるが、実戦と何ら変わりはない。相手が戦闘不能となるまで闘い続ける。死者が出ることなど、
 めずらしくもない。
 死にたくなければ、勝てばよいのだ。
 二月前、その「試合」において、ケビンはマルスの驚異的な強さの前に倒れ伏した。
 マルスはその容赦のない戦い振りから、非情さを常とする悪行超人のなかでもひときわ目立つ存在であり、また、周囲から
 恐れられていた。一方ケビンも、dMpに所属してから僅かの間に、その天性の才能から頭角をあらわしつつあった。
 ケビンにはマルスに勝つ自身があった。
 けれど、その自信は全く根拠のない単なる思い上がりであることを、ケビンは身をもって悟ることとなった。 
 実際に戦ったマルスの強さは、ケビンの想像を遥かに超えるものであった。
 その鍛え上げられた筋肉は、野生の獣のようなしなやかさを持ち、相手に容赦のない攻撃を加える。当初、戦いは五分五分の
 状態であったが、次第にケビンは押され始め、ついにはマルスの圧倒的な力の前に、血の染み込んだマットへ崩れ落ちた。
 そのとき、ケビンは自分の死を覚悟した。家を飛び出し、流れ着いたこの地獄のようなdMpで、敗者として惨めに死んで
 いくのが自分にはお似合いだと思った。
 しかし、マルスはケビンにとどめをさすことはしなかった。
 その代わり、こうやって気まぐれにケビンのもとへやってきては、彼の体を弄ぶようになった。
 ケビンのマスクを剥ぎ取り、足を開けと強要する。プライドの高いケビンにとっては、無様に死ぬことよりも恥辱的で
 あった。だが、どんなに抵抗しても、結局はマルスの力の前に組み伏せられ、そして、彼の与える快楽により、
 なすがままになってしまうのだ。
 なぜ、マルスがこのような行動をとるのかはわからない。
 「どうして、こんなことをするんだ?」
 一度マルスに訊いたことがある。が、彼はその問いには答えず、代わりに、己の唇でケビンの口を塞いだ。

 「う…っ、んんっ…。」
 幾度数を重ねても、この瞬間だけはケビンにとてつもない痛みをもたらす。
 仰向けになったケビンの体に、マルスがわざとゆっくりと、熱く昂ぶった自身の欲望を埋め込んでいく。ケビンの背筋を
 灼熱の苦痛が走り抜け、さらに体中に広がっていく。
 「マ、マルス、いた…い。」
 マルスの体の下から、苦痛の声を発しても、当の本人はそれを無視した。
 さらに、ケビンの片足を担ぎ上げると大きく腰を動かし始める。
 「つっ…!」
 体の中を蠢く熱い異物が与える激痛に、ケビンは悲鳴のような声をあげた。
 「もう少し、体から力抜けよ。」
 そう、マルスに促されるが、痛みにより強張った体はケビンの思う通りにならない。マルスの肩に添えた指に力が入る。
 「ちっ…」
 と、マルスは舌打ちすると、片手をケビンの下腹部へ伸ばし、すでに硬く屹立したケビン自身に手を添えた。そして、
 繋がったまま、柔らかな手つきで刺激を与え始めた。
 「んんっ…、あぁ…。」
 マルスの手がもたらす甘い刺激が、少しずつケビンの体を侵食しはじめる。ケビンの全ての感覚は下半身の一点に集中し、
 より深い刺激を求めるように腰をくねらす。少しずつ呼吸は速さを増し、くぐもった喘ぎ声が漏れ始める。
 マルスはケビンに愛撫を与えながら、理性を失いつつあるケビンの姿を見下ろしていた。
 そして、意地悪そうに口元を歪めると、ケビンへ与えていた愛撫を中断した。
 「マルス…?」
 きつく閉じていた目を開き、ケビンは疑問の表情をみせた。
 マルスはケビンの顔に己の顔を近づけると、低い声で囁いた。
 「イキたいか?」
 その問いに、欲望にのみこまれつつあったケビンの屈辱感が再び頭をもたげ、その顔は 羞恥の色で染まった。なんの
 抵抗もせず、ただマルスの与える快楽に没頭する自分がどうしようもなく、惨めに思えた。
 「まだ、イカせないぜ。楽しい時間は、今からだ。」
 無言のケビンに、マルスは深くキスをした。熱い舌でケビンの唇をなぞり、そのまま口の中へ差し込む。
 そして、それまで担ぎ上げていたケビンの片足を下ろすと、今度はケビンの両腕を己の肩にまわさせた。
 「しっかり、つかまっていろよ。」
 そう囁くと、ケビンの背中を手で支え、彼を抱き起こした。
 「う…!!ああっ…!!」
 ケビンが一際大きな声を発した。
 ケビンはマルスの膝の上に抱きかかえられ、腰を下ろす形となった。
 自身の体の重みで、先程よりもより深くマルス自身を咥えこむ。それまで感じていた快楽は一瞬ではじけ飛び、代わりに
 体を貫く激痛に支配される。必死にその苦痛から逃げようと身をよじるが、背中にまわされたマルスの腕がそれを許さない。
 「マルス…。もう、離してくれ…。」
 「駄目だ。ほら、お前も動けよ。」
 「嫌、だ…。んっ…。」
 さらに抵抗の言葉をあげようとしたが、マルスに突き上げられ、言葉を失う。
 マルスの激しい動きに、ケビンは背中をそらせ、理性を手放すまいと懸命に耐える。
 「ケビン…。」
 マルスが少し荒くなった息遣いで、ケビンの名を呼んだ。
 「ケビン。」
 繰り返し、マルスが囁く。
 甘い、クスリのような声が、ケビンの意識をとろとろと溶かし始める。
 同時に、下半身から圧迫感とは全く異なる別の感覚が、ケビンを支配しはじめた。それは、マルスの動きに合わせて
 少しずつ大きな波となり、ケビンを翻弄していく。ケビンはそれにとまどい、きつく唇を噛み締めようとするが、
 途切れ途切れに漏れる声を止めることができない。
 「は…、あ…っ。」
 その声が苦痛のものから快楽のものへと変わりつつあることをマルスは悟ると、のけぞらせたケビンの喉にキスをし、
 より一層激しい動きで彼を攻めたてた。
 「ケビン、もっと声出して…。」
 名を呼ばれれば呼ばれるほど、ケビンの体に甘い痺れに似た感覚が広がる。
 「んんっ…、マルス、マルス…。」
 熱を帯びた声で、相手の名を呼ぶ。いつのまにか、ケビンの腰はマルスの動きにあわせ、淫らに動いていた。その部分に
 意識は集中し、より深くマルス自身を感じようと、動きを早める。必死に保とうとしていた理性は、欲望の前に
 崩れ去りつつある。
 マルスはそんなケビンに軽くキスをすると、満足そうにその顔を覗き込んだ。
 マルスの瞳は欲望に濡れていた。しかし、その奥に広がる虚無の塊のような闇が決して失われていないことにケビンは
 気がついた。瞬間、ケビンの胸のずっと奥のほうに、ちりちりとした痛みが沸き起こった。
 「ケビン、イイ顔しているぜ…。」
 魔王のように傲慢に、マルスは微笑んだ。
 その声が、ケビンを快楽の頂点へと追い立てる。
 同時に、胸の奥に沸き起こった痛みが徐々にその大きさを増し、快楽と一緒にケビンを侵食する。
 (この男は、俺のことなんか見てはいない…。)
 マルスに必死でしがみつきながら、ケビンは思った。
 どんなに体を重ねても、この男は目の前の自分を見てはいない。
 己の名を呼ばれれば呼ばれるほど、逆にその距離を感じ、せつない。
 (俺はこんな奴のことなんか、好きじゃない。)
 そう自分にいいきかせるが、いったん感じたその距離は、ケビンの痛みを広げていく。
 マルスがその動きを更に激しくした。貫かれる感覚が、ケビンの意識を高みへと導いていく。
 「マルス…、俺の名を、呼んでく、れ…。」
 途切れ途切れの声で、哀願する。
 「珍しいな、お前が俺に頼むなんて…。」
 「はやく…。」
 マルスは喉の奥で笑うと、大きくケビンを突き上げた。
 「ケビン…。」
 名を呼ばれた瞬間、ケビンは快楽と痛みとに溶け合いながら、その意識を手放した。

 ケビンが目を覚ますと、すでにマルスはいなかった。
 ベッドの上に体を起こすと、腰に鈍い痛みが残った。
 「また、無茶しやがって…。」
 ぽつり、と、つぶやくその声は力ない。
 わかっていたことだった。マルスが決して誰にも心を開いていないということは。
 だが、心のどこかで、自分は別格だと思っていた。
 あの試合の後、殺されなかったのは、自分が彼に選ばれたから。
 自分を抱くのは、彼にとっての自分の存在が、重要なものだから。
 全く根拠のない思い込みから、優越感を持っていた自分に吐き気がする。
 その時、ドアが開いた。
 振り向くと、そこに立っていたのは、マルスであった。
 マルスは片手に持っていた酒をベッドのサイドテーブルに置くと、ケビンの隣に腰を下ろした。
 「いい酒があるんだ。飲まないか?」
 と言うと、ケビンの返事を待たずに、グラスに酒を注ぎ始めた。
 ケビンはしばらく黙っていたが、やがてマルスの首に腕をまわした。
 「どうした。ケビン?」
 耳元にかかる息と、声が、先刻の興奮を呼び起こす。
 そして広がる、痺れと痛み。
 「マルス…。」
 己の声はどんな風に相手に届くのかと思いながら、ケビンは、静かにその名を呼んだ。   
ふふふ・・・しつこくしつこく昔(?)から催促したかいがありましたわmizo様♪
メールのやりとりするたびにずうずうしくお願いしてしまってましたね(汗)今思えば
すごく失礼だったような・・(涙)あ、でもこ〜んな素敵なお話をいただけたんだから
万事OKということで!(←???)ケビンくんへの愛が感じられる・・と思うけど、
ちょっとこのままじゃスカーは酷いヤツだし、(笑)ケビン君は可哀想なような・・・。
せっかくスカーのことが好きなのにヤツ(笑)の行動に猜疑心持ったまんまだものね。(Noriko)

同感。(↑)このままじゃ俺、ただの嫌われそうな悪者じゃねェ?(笑)だってさ〜、
勝負の勝ち負けにつけこむだけなんて最低だぜ?・・っつーことで・・・続き、
あるよなァ?もちろん。俺様がこう言ってるんだからよ?頼むぜ?(スカー)

ガラが悪いぞお前・・・。す、すまんな・・・(汗)(ケビン)