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◆ グノシェンヌ(#2)

 部屋に戻ったものの、何となく眠れずにいたデッドシグナルは窓の外を見た。「ん!?」月明かりに浮かぶ人影。
 よろけているその人影は・・・
 「ジェイド? 何やってんだ、あいつこんな夜中に?」 乗り出して見ると、
 ジェイドは木に身体を凭せ掛け、右手を振り上げ自分の太腿に振り下ろした。遠目にも、噴き出す赤い血が映える。
 「おっ、おいジェイド!!」仰天したデッドシグナルは、一階の窓から飛び出し駆け寄った。
 「一体何をやってんだ! お前・・・」そこまで言ってデッドは口を噤んだ。明らかに様子がおかしい。目の焦点が合っていない。
 ぜぇぜぇと息をついている。「オイ、どうしたジェイド・・・」腕を掴んだ時に、違和感があった。(・・・・何だ?) 滑り。
 ジェイドの肌は何かの滑りを纏っていた。目を凝らすと、その滑りはジェイドの肌の露出した部分全てに纏わりついている。
 露出した部分・・・・というのは、腕以外にも胸。彼は上着のボタンを碌に留めていなかったのだ。 「こりゃあ・・・・どうしたってんだ、
 ジェイド?」只事でない雰囲気を感じたデッドシグナルはジェイドに問うてみる。ジェイドは、やっとデッドシグナルに目を向けた。
 「・・・デッド・・・」喘ぎながら、ジェイドは仲間を認める。「・・・・ク・・・クリオネを・・・・」「クリオネ? あいつがどうかしたってのか?」 
 「クリオネを・・・・止めてくれ・・・」ジェイドの、焦点の定まらずにいた瞳に、必死の色が浮かんだ。 「おい、ジェイド・・・一体何が
 あったってんだ!?」 「頼む・・・・クリオネを・・・クリオネを止めてくれ、デッド・・・!」言葉を漏らしながら、ジェイドは今にも
 崩れ落ちそうになる。
 その朦朧とした意識に昇る、クリオネの姿。 ――――「私は、お前のために奴を殺す。」アイスブルーの瞳に宿る、冷厳な決意。
 背を向けて、扉を開けながら彼はさらに言った。「例えそのために、お前の憎しみを受けることになろうとも。」

 ――――「ジェイド!」扉の外のクリオネの声。マルスは着衣の乱れを直しながら立ち上がり、扉に向かって進んでいく。
 「ス・・・スカー!?」マルスの意図が全く分からず、上ずった声を出すジェイド。
 マルスは扉を開けた。

 「!」クリオネマンは驚愕する。 「き・・・貴様っ!!」 身構えたクリオネは、マルスの向こうにジェイドの姿を認めた。
 衝撃に、彼は瞬間マルスの存在を忘れる。超人戦士として身体に染み付いた心構えさえ、その瞬間に消し飛んだ。 
 ベッドに身を起こし、凍りついた表情をこちらに向けているジェイド・・・ 月明かりを受ける金色の髪・・・ 引き締まった、
 白くしなやかな半裸。 ・・・・下半身に纏わりつく白いシーツに、点々と、赤い血の紋章。
 ジェイドを凝視していたクリオネマンは。ゆっくりとマルスに視線を移した。
 マルスは不敵に、笑みを浮かべる。 「無粋な野郎だな、全くよ。」

 次の瞬間から繰り広げられた光景を、ジェイドは呆然と、夢の中の出来事のように見詰めていた。
 何か甲高い叫び声・・・あれはクリオネの声だ。クリオネの右手に氷の剣。スカーが・・・それを避けている。
 あいつは、楽しんでいる風ですらある。スカーは、窓の所まで飛び離れた。 「グフフ・・・ 落ち着けよ海洋生物。動転しちまったら、
 この俺相手にゃ勝てねぇぜ。そこの優等生で立証済みだろ?」
 「貴様ぁっ!!」 クリオネの、血を吐くような叫び声。 あいつは・・・普段は、どんな時でも冷静なのに。
 「ジェイドをあれほど傷つけただけでは飽き足りず・・・・ よくもっっ!!」
 「おやまぁ・・・・ お友達の台詞だか、恋人の台詞だかわかりゃしねぇな。」スカーは笑った。
 「――― 殺す! 貴様は、この場で八つ裂きにする!」クリオネが、右手の氷の剣を振り上げた。
 ・・・・その時、夢の中にいるような、水の中から見ているような遊離感が消え失せた。

 「クリオネッ!!」ジェイドはクリオネに飛び掛り、押さえつけた。クリオネの動きが、断ち切られたように止まる。
 「駄目だ! 止めろ!!」しがみ付く裸体のジェイドを、凝視するクリオネ。「・・・・ジェイド・・・・」
 「そいつが邪魔になるな。」マルスは二人を見た。「何とか説得して、この先の海岸に来い。てめぇに合わせてやるよ、
 海の近くでなけりゃ不安だろうが?」 その厚い拳が、窓ガラスを叩き割る。
 「クリオネマン。ファクトリーでてめぇは、俺と決着をつけたがってたな? いい機会だから付き合ってやるぜ。 じゃあな。」 
  マルスは窓から飛び降りた。
 「待て!!」追おうとするクリオネを、ジェイドが押し止める。 「ジェイド!」叫ぶクリオネ。
 「何故止める! 奴は生かしておくべきではない!」 「駄目だっ・・・・ 止めろ、クリオネ!!」
 その時クリオネは、ジェイドの白い腿を伝っている赤い血の痕に目を留めた。
 彼の手が下り、ジェイドはクリオネを見る。「・・・・奴は、お前に・・・・ こんな辱めを・・・・」クリオネはそこで絶句する。
 「あ・・・・・・」ジェイドは、自分の姿を自覚し、クリオネマンの身体から離れた。
 「奴を庇う必要など微塵もない!」唇を噛むクリオネマン。「私が、お前の敵を討ってやる。」クリオネマンはくるりと背を向け、
 部屋を出ようとする。 「クリオネ!」ジェイドは駆け寄って押し止めた。
 「・・・ジェイド。」振り向いたクリオネマンは言った。「おそらくお前は、奴がかつて仲間だったからという温情から
 私を止めているのだろうが・・・・ 奴の本性は悪行超人。我々正義超人の使命は悪行超人の殲滅だ。まして奴は、お前を弄びその腕を
 一時は奪った仇・・・・ 万死に値する!」
 「違う、違うんだクリオネ!」アイスブルーの瞳に宿る驚きと疑問の色。「何が違うんだ? 今私が言ったことに、何か間違いが
 あるとでも言う気か?」
 「そうじゃない・・・・ でも・・・ スカーを殺そうとするのは、止めてくれクリオネ・・・」
 クリオネは沈黙した。しばしの時が流れる。 「何故だ、ジェイド。」ジェイドは顔をあげてクリオネを見た。今までに見たことの
 ない疑問と・・・・攻撃的な意志が混じった瞳を、クリオネはジェイドに向けている。
 「・・・何故お前は未だに、奴を"スカー"と呼んでいるんだ。」静かな声が冷たく、責めるように響く。
 「スカーフェイスなどという超人は、始めからどこにも存在しなかった。いたのはそれを隠れ蓑に使った、マルスという名の
 悪行超人だけだ。 お前は・・・・ まさかまだ奴が、我々と同じ二期生なのだと思っているのではあるまい?」クリオネマンは、
 ジェイドの剥き出しの肩を掴んだ。
 ジェイドは、目を逸らした。「それは・・・・」 「現実を見ろ、ジェイド! 奴は超人界に、人類に災いをなす悪行超人なんだぞ!!
 どれほど残忍な超人かは・・・ お前が一番良く知っているだろう!!」
 「クリオネ・・・・」ジェイドは言葉を失いクリオネマンを見た。
 そうだ・・・・。確かに、スカーはもう仲間ではないのに。なのに、今俺の中で何かが、クリオネの言葉を否定している。
 それは違う、と。
 「・・・とにかくジェイド、お前は医務室へ行け。私は奴と決着を着けに行く!」再び、ドアへ向かおうとするクリオネマン。
 ジェイドは、ドアの前へと飛び出していた。
 「・・・・」半ば呆然と、クリオネマンはジェイドを見た。全く理解できない、彼の瞳がそう語っている。

 クリオネを見据えながら、首を振るジェイド。彼を凝視するクリオネの中に渦巻く、戸惑いと疑問。
 ジェイドが、どれほど「正義」という概念に忠実であろうとしているかは・・・・ファクトリーにいた時から、伝わってきていた。
 あの頃のジェイドは「俺は何でもNO.1が好きだ」と公言し、高飛車で生意気な振る舞いをしていたが、NO.1になるために
 どれだけ努力をしていたかは、遠目からも見て取れた。
 試合においてもそうだ。彼ら二期生は先輩格の一期生と比較して、肉体だけによる正統的ファイト以外に、それぞれの特殊能力を
 使用した戦い方をする事が多い。変身能力を駆使した手数の多さを誇るクリオネマン、交通標識を使った暗示で相手の動きを操り、
 さらに自然現象も動かせるデッドシグナル、スカーフェイスは・・・圧倒的な力を持ち、加えてマルスとしてはスワローテイルと、
 相手の技を把握し改良することのできる格闘センスを持っている。ジェイドは、二期生では最も正統派だが、師匠ブロッケンJrから
 受け継いだ技『ベルリンの赤い雨』の威力は凄まじい。ある意味では、師を超えているとも言えよう。
 だがジェイドは、その『ベルリンの赤い雨』を、正常の状態時には使おうとしていなかった。
 入れ替え戦・第一戦の対ガゼルマンでは、どうも師匠に使用を禁じられていたらしい。にも関らず使ってしまったのは、
 知らない事とは言え、ガゼルマンがジェイドの最も大切なもの――― 師匠との絆の証である髑髏の徽章を、嘲り汚したからだ。
 第二戦の対スカーフェイス(マルス)では・・・・ スカーフェイスの策略に嵌り、憎しみに捕らわれた故の暴走で
 『ベルリンの赤い雨』は乱発された。スカーフェイスが、師匠ブロッケンJrを嘲る言葉を口にするまでは―――ジェイドはどこまでも
 正当のファイトで戦おうとしていたのだ。彼としては、スカーフェイスの戦いに関する考え方に賛成できない故に、自分のファイトで
 その事を示そうとしていたのかもしれないが。つまり、正に最大の必殺技である『ベルリンの赤い雨』を―――結果的にそうなって
 いないが、ジェイドはリングの上では封じようとしていた節がある。
 入れ替え戦決勝で・・・・スカーフェイスの正体が悪行超人マルスであると知らされた時、病院で治療中だったジェイドは裏切られた
 怒りと絶望で血の涙を流し、髑髏の徽章を通じてスカーの対戦相手・キン肉万太郎に『ベルリンの赤い雨』を宿らせた。
 スカーフェイスは、マルスという名の悪行超人だったからだ。倒さなければならない相手と思えばこそ、ジェイドは普段禁じている
 必殺技を、怒りに任せてでなく使おうとしたのだろう。
 クリオネマンはジェイドのその戦い振りに危うさを感じていた。情に捕らわれ流されていては、戦いの中ではいとも容易く逆手に
 取られてしまう。だがそれと同時に・・・ 何故か羨ましさを感じていた。あまりにも真っ直ぐに戦いに向き合っているジェイドに。
 その純粋な瞳が見ている、どこか高い世界に。
 それ故にか、ズタズタに傷つけられた無残な姿にも・・・血に塗れたジェイドにも、クリオネマンは美しさを感じていたのだった。
 胸の痛みと共に。

 ・・・それなのに。その純粋さ故に悪しきものを許さない筈のジェイドが、残忍な悪行超人マルスを庇っている。一体何故だ・・・ 
 ジェイドをこの上ない惨いやり方で痛めつけ、その後も悪事を繰り返している超人を・・・。挙句に、超人戦士として耐えられない
 辱めを与えた相手を・・・。
 そこまで思考して。クリオネマンは1つの可能性に辿り着き、愕然となった。
 何が目的かははっきりしないが、この正義超人専用宿泊施設に潜り込んだマルスがジェイドを襲った・・・
 それにしては、ジェイドはあまりに落ち着きすぎている。全く突然のことなら、もっとショックを受けていてもいい筈なのに・・・・。
 まさか・・・・。まさか。
 そこに思い至った時、クリオネはジェイドの肩を押さえつけた。そのままベッドまで強制的に彼を運ぶと、腰を掛けさせる。
 「ジェイド!」あまりに強い語気に、ジェイドは一瞬僅かに身を震わせクリオネを見た。
 「・・・まさか・・・ これが、初めてではないのか!?」
 その言葉に、ジェイドは剥き出さんばかりに目を見開いた。それが全てを語っていた。

 「・・・・何故だ・・・。」茫然自失として呟くクリオネマン。ジェイドは目を逸らし顔を伏せた。
 きつく閉じられた瞳。拳が握り締められ、震え出す。そんなジェイドを見つめていたクリオネの目に・・・
 窓からの月明かりに仄かに照らされる白い肌が、ただそれだけが映っていた。
 (・・・・もしもただ力ずくの、欲望を満たすためだけの行為なら)鉛のような重いものを抱え込んだ心の中で、クリオネは思案を始める。
 ジェイドの白い肌を目に映しながら。
 (ジェイドがむざむざと、されるがままになっている筈もない)腿にこびり付いている、血の痕。
 (奴を・・・・受け入れたのか・・・・)そのことが、そして先ほど必死の表情でマルスを庇ったことが意味するのはただ一つ。
 (ジェイドが)辛そうな、ジェイドの瞳の色。(悪行超人のマルスを)
 心の中を占めていた、鉛のように重たい何かが、一度に燃え上がり込み上げてきた。

 突如クリオネの腕が、ジェイドの両肩を鷲掴みにする。「クリオネ!?」問う間もなく、ジェイドの身体はベッドの上に押し倒された。
 その上に圧し掛かるクリオネ。ジェイドの目は、クリオネの目を真っ直ぐに覗き込む形になった。ジェイドの心に、直に突き刺さって
 くるクリオネの、アイスブルーの瞳。
 その瞳に、悔しさが満ち溢れていた。「・・・・」ジェイドは声を失った。
 クリオネマンは、ジェイドの身体を抱き締める。「う・・・・・」あまりに強い力に呻くジェイド。
 「洗い清めてやる・・・・私が!」ジェイドを抱き締めながら、声を押し出すクリオネ。
 「お前の清い体に残った・・・・奴の痕跡を!!」ジェイドを解放した次の瞬間、クリオネは彼の両腕を押さえつける。クリオネの両腕に、
 変化が現れた。

 「あっ!?」捕まれた腕に感じた違和感。ジェイドの腕を掴んだクリオネの指は、見る間に膨張し、瞬く間に腕だけでなく、
 肩も胸も覆い尽くしていく。クリオネマンは、変身を開始していた。
 ジェイドは声を立てることも出来ず、見慣れた友の姿が変化していく有様を呆然と見詰めている。両手と両足が、無数にも見える
 触手に変化していた――― 巨きな水母の姿。
 触手がうねうねと波打ち、ジェイドの肉体を弄り、這い回る。「ひうっっ!?」全身が粟立ち、ジェイド自身の内側から奇妙な感覚が
 立ち昇って来る。
 手足を捩って逃れようとするジェイド。だが逃れる事は叶わなかった。既に全身が、滑る触手に覆い尽くされている。と言うより、
 飲まれ、取り込まれている。
 「ジェイド・・・・」どこから発声しているのかは判らない。だがその声は、ジェイドをさらに包み込もうとするかのように響く。突如、
 目の前にクリオネマンの顔が現れた。長い舌が伸びて――― ジェイドの首筋から胸元を滑り降りていく。
 「ク・・・クリオネッ・・・・」ジェイドは首を捩り、腕を動かそうとする。しかし無数の触手にやんわりと取り込まれた腕は、
 もうジェイド自身のものでなくなったかのようだった。
 クリオネの顔が、水母のものに変化した身体に埋没していく。触手の動きが激しさを増した。
 「ひ・・・ぎっ!」反応し反り返った四肢の間を縫って、触手が脚の間の、後部の窪みへと滑り寄る。「や・・・・あっ・・・・止め・・・ろっ!」 
 腕も脚も自由にはならず、ただ首を振るより他はない。
 「大丈夫だ」再び響く声。「酷い裂傷だな・・・・」見られている。瞬時にそう感じ、ジェイドの全身の血が恥辱に沸き立つ。
 「今治してやる。」その声と共に、裂かれた窪みを撫でていた触手が、一気に内側へと押し入り、滑り込んだ。
 「・・・く・・・・うああっっ!!」首を逸らせて叫ぶジェイド。その時前の部分は、別な触手に柔らかく巻きつかれていた。
 鎮めるかのように。
 「身体の力を抜いて・・・ そうだ、そのまま楽にしていればいい。また放ってしまったら・・・・身体によくないからな、ジェイド。」
 とクリオネの声。
 「ふ・・・うぅん・・・・あう・・・・」呻き声を漏らし、ジェイドは激しく息をつく。触手が中で蠢き、うねる度に、多数の触手に飲まれた
 肉体は仰け反り、のた打ち回る。「あっ・・・くはっ・・・・ああンッ!」
 ジェイドの内側を弄び、狭く熱い感触を楽しんでいた触手は、突然激しく、ジェイドのさらに奥へと突き上げた。「ぎゃっっ!?」
 ジェイドは、衝撃に悲鳴をあげる。触手に包まれていた全身が瞬時に硬直した。
 「ひぐ・・・・」断続的に息をつぐ口から、透明な雫が数滴、皇かにつたい落ちる。
 しばしの間を置き、触手はジェイドの内側から引き抜かれた。滑りが窪みの周囲に残り、皇かな腿に纏わりついている。
 ジェイドは、がくりと首を落とした。

 ベッドの上に横たえられたジェイドの身体には、至る所に透明な滑りが残っていた。既に力は失われていたが、引き締まった胸板の
 中央の蕾は、固く尖った先端を宙に向けている。
 「・・・・」変身を解き、元の姿に戻ったクリオネマンは、ジェイドを見下ろして立っていた。普段接している時には想像もつかない、
 ジェイドの乱れた姿と甘い声に思わず、治療の為彼の内部に入れていた触手を深く突き入れてしまった。引き抜く時にヒーリングは
 済ませたものの・・・・ ジェイドを弄んでしまったことに、クリオネマンは一抹の後悔を感じていた。
 彼はベッドの側に跪く。「・・・すまない、ジェイド。」顔を寄せると、ジェイドは胸をゆっくりと上下させていた。クリオネを見ない、
 虚ろな瞳。
 クリオネマンは立ち上がる。「大丈夫だ。明日にはちゃんと起き上がれるようになっている。」そのまま扉に向かおうとする。
 「・・・・駄目だ・・・行くな、クリオネ・・・・」擦れたジェイドの声。クリオネが振り向くと、ジェイドは半身をベッドに起こしていた。
 息を吐きながらクリオネを見ている。
 クリオネマンは僅かな笑みを浮かべる。「お前が私を止めるのは・・・私のためか?それとも奴のためか?」
 「・・・・おれは・・・・お前達に、戦ってほしくない・・・・」ベッドを降りようとしているジェイド。
 「それは無理な相談だ。」言い放つクリオネマン。「私が正義超人であり、奴が悪行超人である以上、戦いは避けられん。
 心配するな、明日には決着がついているさ。お前が関る必要はない。」
 出て行こうとするクリオネマンに、ジェイドはよろけながらも追いつき、肩に手をかける。
 「・・・頼む・・・・止めてくれ、クリオネ・・・」ジェイドを見るクリオネは、笑みを浮かべつつジェイドに向き直った。
 「なぁ、ジェイド。私が思うにお前は、一時の錯覚に捕らわれているに過ぎない。奴に・・・・マルスに身体を奪われたショックを、
 奴が仲間だった時の記憶に縋ってやり過ごそうとしているだけのことだ。元凶を断てば迷いも消える。私に任せておけ。」 
 「クリオネ・・・ 頼むから、スカーとは戦わないでくれ・・・俺は、お前達のうちどちらも失いたくない・・・!」 「ジェイド。」
 クリオネマンは微笑んで、ジェイドの肩を掴み顔を寄せる。「ん・・・・!」ジェイドの唇が、クリオネの唇に塞がれた。「あ・・・・」
 唇が解放され、クリオネを見たジェイドを眩暈が襲う。「!?」ジェイドの、倒れかけた体を支えるクリオネマン。
 「本当にすまない。しばらく眠っていてくれ、ジェイド。」頭を落としたジェイドに、クリオネマンは囁く。
 「悪行超人マルス・・・お前を傷つけ、身体を汚し、心まで惑わせた男・・・・その罪に相応しい罰は、私が与えてやる。」クリオネマンは
 ジェイドを抱き上げると、ベッドに運び横たえた。
 「私は、お前のために奴を殺す。」アイスブルーの瞳に宿る、冷厳な決意。背を向けて、扉を開けながら彼はさらに言った。
 「例えそのために、お前の憎しみを受けることになろうとも。」
 「ク・・・リ・・・・オネ・・・」ジェイドの沈んでいく意識の中で、去っていくクリオネマンの背が浮かび上がり、やがて消えて行った。

 「頼む・・・・クリオネを・・・クリオネを止めてくれ、デッド・・・!」言葉を漏らしながら、ジェイドは今にも崩れ落ちそうになる。
 屈み込んでジェイドをじっと見ていたデッドシグナルは、意を決して立ち上がる。「よしわかった!クリオネの奴がどっちへ行ったか
 わかるか?」 「う・・・みの方・・・」 「それだけわかりゃ充分だ! トラフィックサイン番外編、久々の自動追跡!!」
 デッドシグナルは、青色のカードを取り出した。白い線で、少年が自分より小さな少女を押して歩いている絵が簡潔に表記されている。
 通学路の表示である。
 「実はこいつは、 "自動"と"児童"をかけててな。」とデッドシグナル。足元で崩れ落ちているジェイドを見て、
 「それどころじゃねぇか。」とカードを翳す。「データ・クリオネマン、インプット!」カードが光を放った。「海へ行ったのは
 判っても、確実に一回で、ビンゴに場所を突き止めた方がベターだからな!じゃ、行ってくるぜジェイド!」走り出す構えを取る
 デッドシグナルに、ジェイドは声をかけた。
 「つ・・・連れて行ってくれ、デッド・・・・」 「あ!? ムリだろそんな身体じゃ・・・」言いかけたデッドは、ジェイドの目を見て
 言葉を切る。「・・・・しょうがねぇな。オレ様の肩に捕まってろ!今の時間ならそんなに車も多くねぇだろうが、いざとなったら
 "トラフィックサイン・歩行者優先"の出番かもしれねーな!」デッドシグナルは再び、ジェイドに向って屈み込む。
 「しっかり捕まってろジェイド!最大時速で行くぜ!」

 波の音が辺りに響いている。月明かりに揺れる海。腕を組んでいたマルスは、やって来たクリオネマンに顔を向けた。
 「あの坊や、ちゃんと説得してきたのか?」彼はニヤリと笑う。無言でマルスに向って歩むクリオネマン。
 「てめぇも不便な奴だな・・・ 対戦相手が海洋生物系か、対戦場所が海の側でなけりゃ、フェイバリット・ホールドが
 使えねぇんだからよ。」と、嘲りに似た口調で言うマルス。
 「・・・・そう思うか?」クリオネマンは不敵に笑った。

To be continued Gnosienne #3 
1つ、いい・・・?良すぎるお話に水をさすようで恐縮なんだけど、・・クリオネ・・最低(笑)
デッド・・・最高(笑)ベスト・オブ脇役の座はゆずれませんな(笑)(Noriko)