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◆ グノシェンヌ(#1)

 レッスル星、ヘラクレスファクトリー。
 その日の過程は全て終了し、ファクトリーの全てが眠りについていた時間。
 クリオネマンは、目指す相手が不在だったため、彼を探して寝静まった廊下を歩いていた。
 ふと窓の外に目をやる。実習用のリングの前に人影。巨体で禿頭の男が見えた。

 屋外に出たクリオネマンが背後から近付いた時、彼・・・ スカーフェイスは何やら口笛を吹いていた。
 振り向くスカーフェイス。鋭い目に、頭部の真っ赤な、大きな傷。クリオネマンを認めて唇の端を吊り上げる。
 「何か用か。」 「昼間に、貴様が私に言ったことについてだ。」 「はて、何か言ったかね。」
 「とぼけるな。貴様は戦闘狂の自分と、この私を同列に扱っただろう。」スカーフェイスは笑った。
 「訂正してもらおうか。」クリオネマンのアイスブルー(氷の蒼)の瞳がスカーフェイスを見据える。
 「んなことをまだ根に持ってんのか?」肩をすくめるスカーフェイス。「別に、恥じるこたぁねぇぜ。超人なんてのは、元から
 戦闘狂に生まれついてんだからなあ。」 「・・・貴様。」 こいつとは、決着を着けなくてはならんな。クリオネマンは思った。
 その時の彼の心は、氷の鏡の如く冷たく静かだった。

 (・・・・妙なことを思い出したな。)ファクトリーでのことを思い出すなど、殆どなかったのだが。
 スカーフェイスが、オーバーボディを脱ぎ捨てマルスの実体を現し・・・ その後、入れ替え戦決勝で悪行超人であると暴かれた、
 それを聞いた時。クリオネマンは思ったのだった。(やはりな。)
 彼の姿を見、準決勝前の記者会見で隣に並んだ時既に、直感のようなものがあったのだ。
 (こいつは血の匂いが強すぎる。)しかし興味があった。悪行超人だったとして・・・ どんな理由で正義超人となることを
 選んだのか。彼の口ぶりや態度からは、単に悪事を働きたい願望を押し隠している以外のものがあるように、クリオネマンには
 感じられたからだ。
 だが今、スカーフェイス・・・いや、マルスのことを思い出すと心に湧き上がってくるのは・・・・
 怒り。そして憎悪だった。
 (奴は私の初めての友を。) 「ありがとう・・・ジェイド!」あの時、クリオネマンが握り締めた暖かい右手は。
 (ズタズタに傷つけ敗北に追いやった。)無残に引き千切られ、赤い肉と白い骨を見せて、
 (あの輝く瞳から生気を奪った。)強張って、転がっていた。
 (ジェイドを傷つけ、さらに裏切った罪。その罪が消えたわけではないぞ。)
 入れ替え戦の後、マルスはジェイドの拉致を企て失敗した。 更にその後、ジェイドの話によると魔界の力を使って町を
 吹き飛ばそうと画策し、やはり失敗した。そしてチェックメイトの結界にも現れ、先日の新世代超人親善試合にも乱入し騒ぎを
 起こしている。
 (・・・・全て、実際には殆ど被害が出ていないと言っても・・・ やはり、生かしておくべきではないな。)
 クリオネマンは、アイスブルーの瞳をあげた。
 (ファクトリーでの決着をつけるため・・・ 正義超人として、悪行超人を駆逐するため・・・ そしてジェイドに対し犯した罪を
 償わせるため・・・・ 私は、奴を倒さなくてはならない。)その瞳に宿る冷たい光。

 ジェイドはふ、と目を醒ました。窓からの月明かりが眩しいと感じたのだろうか。その時部屋の中に黒い影が見えた。「!?」 
 跳ね起きるジェイド。
 「よぉ。」その人物が、軽く右手をあげる。 「ス・・・スカー!?」 マルスは歩み寄って来た。「久しぶりだな、ジェイド。」 
 「貴様!どうやってここに入り込んできた? ここは正義超人専用の宿泊施設なんだぞ!」 
 「フン。だからって入り込める込めないは別問題だぜ。」
 次の瞬間、ジェイドは目前まで来ていたマルスの握り拳を掴んでいた。「お見事」マルスはニヤリとする。
 「で・・・何をするつもりなんだ、お前は!」ジェイドは険しい目でマルスを見据える。「一言で言やぁ、」一瞬目を伏せたマルスは、
 「まどろっこしいマネはもう止めだ!」刹那、マルスは片手の力だけでジェイドの身体をベッドに捻じ伏せた。捕まれた右手を
 振りほどいて、「・・・ってコトさ。」ジェイドに笑いかける。

 「スカーッ・・・!」 もがくジェイドを後目にマルスは、彼の両手首を掴み上げ、縄でベッドに縛り付けた。上着を裂き、下半身を
 包んでいた着衣を全て擦り降し、両足首を掴むと・・・腿と脹脛を着けて、縛り上げる。
 「や・・・・ 止めろっ!」抵抗するジェイドの腹部に、マルスの右の拳がめり込んだ。「がっ」一瞬怯むジェイドの耳に囁くマルス。 
 「オマエだってやりたいだろ?」 「・・・・!」睨みつけるジェイドにさらに投げかけられる言葉。「ま、正直言って俺の方が
 限界きてるがな。」有無を言わさず、ジェイドの唇はマルスの唇で塞がれ、貪られる。「ふ・・・・!」声にならない声が漏れ出した。
 ジェイドの口唇を、その熱い内側と柔らかな舌を絡めとりながらマルスの厚い手は、白い胸板に指をのめり込ませるように走らせ、
 ピンクの尖った蕾を摘み取り、捻り上げる。「うう―――っ・・・」自分の口唇と繋がったジェイドの口唇から発せられる、
 くぐもった呻きが、マルスには心地良かった。唇をもぎ離すと、首筋から胸へ・・・腹部へと、唇と舌が滑り降りていく。
 白い肌の上にしばし残る、透明な滑りの跡。
 厚い手は、ジェイドの身体を象るかのように滑らされていった。目指す場所を悟り、ジェイドは興奮と衝撃に震える。
 マルスの手が、ジェイドの腿を押し開く。その状態で身体を割り込ませ、足の間に顔を近づけて言った。
 「この俺が、サービスしてやろうってんだから・・・ 精々いい声で鳴きな。」
 「ああっっ!? あ、はァっ!!」ジェイド自身が、マルスの口腔に飲まれていく。

 根元の部分はしっかりと逞しい手に掴まれ、先端から中程まではマルスの口内にあった。その部分に舌が絡みつく。「ふああっ!!」 
 生まれて初めて味わう感触に耐え切れず、ジェイドは叫び声をあげていた。
 吸い付かれ・・・嬲られているそこに、全身の血が集まっていくような感覚。「うっ、う!!」ジェイドは上半身を捩り、
 激しく上下させた。腰はマルスの身体で押さえられ、悶える自由も奪われている。
 「あア・・・・・・!!」激しく息をつこうとしたジェイドのそれから、マルスは突如、口を抜き手を離した。
 「うァっ!?」 マルスは、唇の隅から流れていた、ジェイドの白い先走りを右手で拭い取る。
 「・・・・・ア・・・・・やぁ・・・・・あ・・・・・」身を委ねようとしていた快楽の波を突然遮られ、ジェイドは疑問と僅かな哀願の篭った瞳を
 マルスに向けた。マルスは悠々とベッドの上に腰を降ろし、意地の悪い笑みを浮かべてジェイドを眺めやっている。 
 「・・・いい眺めだな。はちきれそうになっていやがるぜ。」身体を震わせているジェイドの、その部分の先端に・・・・マルスの指が
 僅かに触れた。「うン・・・・はあ・・・・」吐息をつくジェイド。指を離してマルスは、ベッドに肘をついて再び見やる。
 「や・・・・だ・・・」擦れるジェイドの声。
 「溢れてきてやがる。そんなに欲しいのか?」 「う・・・・」閉じられた瞳から溢れてくる涙。
 「手が使えねぇんじゃ・・・・自分で扱くわけにもいかねェなあ?」冷たく響く、低い声。
 「結構な見物だが、これ以上焦らすと気の毒って言うか・・・・俺の方も持たんか。」突如伸びた逞しい手が、生々しく濡れ光り、
 そそり立っている桃色の茎を鷲掴みにし、扱き上げる。「くはっ! くうアッ!!」叫びと共にジェイドは激しく身悶えた。 
 マルスは、力なくベッドに伸びた白い腿を再び押し上げる。放たれた熱い精に濡れた指を、以前に侵入した可愛らしい窪みに
 当てた。ジェイド自身が放った、白く粘ついた蜜を・・・最初は窪みの周囲に、次に窪みの内側に浅く・・・・深く塗りつけ、
 擦り付けてゆく。ジェイドの内部(なか)に当たり、うねる指。 「・・・ふぅ・・・」熱に浮かされたような色を浮かべるジェイドの瞳。
 「結構・・・ ヒクついてるぜ。淫乱なもんだな、ジェイド。」甚振るようなマルスの言葉に、ジェイドの目が一瞬怒りを
 浮かび上がらせた。 「お願いしてみな、ジェイド。」指で、窪みとその周囲を、ねっとりと弄び続けながら・・・マルスはさらに
 声をかける。身を乗り出し、耳朶の側で言った。「入れて、良くしてくださいって・・・・俺にお願いしてみろ。」 
 「き、きさま・・・・」ジェイドはマルスを睨みつけ、唇を噛んだ。

 「だれが・・・・そんな・・・・」震えながらもジェイドは言葉を漏らし、顔を背ける。零れ落ちる涙。
 「このままイケないんじゃ・・・なぁ?」マルスは喉の奥で笑った。唇を噛み締め、ベッドに顔を埋めるジェイド。その様子を見た
 マルスは、身体をずらして片手で、縛められたジェイドの右腕を取る。
 その腕に、彼はそっと口付けた。「あ・・・」 舌が腕を濡らしていく。「お前の、この腕。」腕を冷ややかに眺めやるマルスの目。
 「もう一度もぎ取ってやろうか・・・。」ジェイドの身体に震えが走る。
 「そうすればお前の中で・・・俺が消えることはなくなるか。」腕に、そっと力を抜いて歯を立て、口を離す。
 「お前を俺から隔てているのは・・・」腕に唇を走らせるマルス。「お前の中の師匠。お前の中の正義。そしてお前の中の、
 超人の魂・・・。フン。」突如乱暴に、腕から手を離す。「それを全部壊しても、またお前は・・・」
 「・・・・スカー。」涙に濡れた顔をあげるジェイド。 「・・・もう言うな。」身体の位置をジェイドの両足の間に戻し、
 マルスは自分自身をジェイドの前に曝け出す。

 窪みにマルスの身体の一部を感じた瞬間、以前の激痛の記憶が身体を走り抜けて行ったのにも関わらず、ジェイドは穏やかな気持ちで
 挿入を受け入れた。「ぐっ・・・」引き裂かれていく自分。
 入り込んで、押しあがってくる、この上なく熱い肉。「スカー・・・」吐息と共に漏れる声。ジェイドを貫くとマルスは、ジェイド自身を
 握り締めてから自分を動かした。「あっ・・・」熱い波にジェイドは呑まれていく。自然に、マルスの動きに合わせて身体を揺らし・・・ 
 動きに激しさが増すにつれて、思考も、感情も、全てが瓦解し溶かされていった。「い・・・いっ・・・・」後の言葉は喘ぎ声に紛れて
 消える。
 「フ・・・・」なおも激しく突き上げ、揺さぶるマルス。身体の奥から込み上げ、激流となってジェイドへと溢れていくそれを・・・ 
 ジェイドも紛れもなく感じ、全身で受け止めていた。

 「・・・スカー。」ジェイドは、ポツリと呟いた。「お前が悪行超人でなければ・・・ 良かったのに。」
 しばし無言で、ジェイドの頬と髪を弄んでいたマルスが言った。「バカが。仮定の話なんぞしたってしょうがねぇだろう。」
 「・・・・そうだな。」ジェイドは目を伏せる。

 何となく目が冴えて、その階の給湯室に向かったクリオネマン。その途中、「キョカッ!?」普段比較的冷静な彼だが、いきなり
 部屋の扉と給湯室の間のスペースに挟まっているデッドシグナルを見て、思わず声を上げていた。「ん〜?クリオネか。」 
 「・・・・何をしているんだ、お前はこんな夜中に・・・」しかもこんな所で。という言葉は胸に仕舞っておく。「あ〜、なんか月が
 綺麗なんで廊下に出て見てたら、ついこんな所で活動停止しちまったな。」 
 「活動停止だと?」 「ま、お前さんら生身の超人でいや睡眠か。」
 超人には実に様々な形態が存在しているが、ごく大雑把な分類は、有機体の生物タイプと無機体の非生物タイプとなる。
 生物タイプの生活様式は、生物のそれと大きく異なることはない。食物を摂取し睡眠を取り、呼吸をするのは超人と言えども
 同じだ。一方無機質系・・・大抵、身体が機械もしくは金属で構成されているケースが多い・・・・の超人は、その点で生身の超人たちと
 異なっている場合が多々ある。彼らと言えども活動の為のエネルギーは必要だし、機械・金属のボディ(中でも司令塔である脳や
 それに相当する器官)にも休息は必要だが、エネルギー摂取や睡眠の方法は違っているのだ。第二期生唯一の無機質系超人である
 デッドシグナルは、身体維持に食物摂取は必要でなく、必要なのはオイルのみのようだった。錆び止め防止兼栄養摂取になるらしい。
 しかしヘラクレスファクトリー時代、食物摂取の必要がない筈のデッドシグナルは、かなりの回数食堂に姿を見せていた。曰く、
 「必要なくても、食べる楽しみってのは重要だからな!」摂取そのものは、どうやら生物系超人と同じ様にできるらしい。しかし
 彼は食べる以外に、彼の言う所の"食事のルールを守らない超人"を、食堂中走り回って叱咤することにも時間を割いていたが・・・。
 「活動停止するなら自分の部屋でやれ!」 「そりゃそうだな。脅かして悪かった。」デッドシグナルは素直に謝罪する。 
 (・・・そう言えばあの晩も・・・)クリオネマンは思い出す。(こいつのせいで、決着がつけられなくなったんだった。)

 「・・・貴様とは、決着をつけなくてはならんな。」 「フン。」スカーフェイスはニヤリと笑う。
 「いいぜ、丁度リングも空いてることだしよ・・・・。てめぇがこのファクトリーに集まってる有象無象と同じかどうか、
 俺が確認してやろうじゃねぇか。」 「よし。」 クリオネマンはスカーフェイスを見据える。
 格闘実技の授業での暴れぶりを見る限り、こいつは単なる力押し一辺倒のパワーファイターのようだ。
 それ以外にも何かの隠し技などがないとは言い切れないが・・・ゼリー・ボディ・インパクトがある以上、
 滅多なことでは捕らえられはしない。仮にも仲間だし、大怪我をさせてもまずい。腕辺りにアイスソードを突き刺して、
 フィニッシュにしておいてやる。そうクリオネマンは思っていた。 笑いを顔に貼り付けたまま、スカーフェイスはロープを分けて
 リングに上がる。クリオネマンが続こうとした時―――。
 「ん?」スカーフェイスが怪訝な顔をした。クリオネマンが振り向く。
 レッスル星の空に浮かぶ、幾つかの惑星をバックに浮かんだ奇妙な長細い影。 「あれは・・・・デッドシグナル、か?」 
 「なんだ? お散歩でもしてんのか、あの標識サンはよ?」とスカーフェイスは言う。
 デッドシグナルは、二人のいるリングまでやって来た。突如、胸部の三色信号が点滅し出す。「よ〜し、異常はないな!」
 と甲高い声。「ではこっちはどうかな?」今度は腹部の二色信号が点滅した。「大丈夫だな。メンテナンスはきちんとしないと
 錆び付く! そうなったら取り締まりもできなくなるからな!」
 その後、頭部の三角形の標識が回転を始めた。「サイン丸鋸も異常なし! ・・・しかし、このネーミングだとまんますぎるから、
 も〜ちっとカッコいいのに変える手もアリだな。サイン・チェンソーとか・・・ グギガガ・・・」 呆気に取られて見ていた二人は、
 「グギギ・・・」妙な呻き声・・・というか、金属音のような音が連続してデッドシグナルから発せられるのを聞いた。 
 「まさか・・・こいつは。」とクリオネマン。
 「寝惚けてやがるのかよ。」とスカーフェイス。「グギゴギ・・・」クリオネマンはリングから飛び降りると、ツカツカとその場で
 停止しているデッドシグナルの前に歩み寄った。「アイスシェルド!」右腕の氷のバンドが盾に変化する。ドカッ!! 
 盾は三角形の標識の頭部を直撃した。
 「グギャガッ!? クリオネ? いきなり何しやがんだてめーは!」頭を押さえるデッド。 「やかましい!!」クリオネマンは
 怒鳴った。「寝言ならベッドに寝て言え! 夜中にふらふら出歩くなど、夢遊病者かお前は! 地球と人類を守る新世代超人を
 目指す者が、そんな奇行をしでかすなど・・・ 恥を知れデッドシグナル!」 「おっ!? 外に出ちまったのか?」シグナルは
 周囲を見回す。
 「グギガ・・・ オイ、誤解するなよクリオネマン。オレ様は、いつも夜中にフラフラ出歩いてるわけじゃないぞ! 滅多に起こる
 ことじゃねーんだ。プログラムが処理しきれねーと、人間で言う所の夢遊病みたいな症状が出ちまうこともあるんだが・・・」 
 「プログラム? コンピューター制御なのかお前は!?」
 「いや、そうじゃねぇ。プログラムっつったらすぐ機械に結びつけんのも、固い考えだぜクリオネマン。生物系超人にせよ、
 人間その他の動物にせよ、言わば遺伝子のプログラムで動いてるよーなもんだろ? オレ様の場合もほぼ似たようなもんだ。
 構成物質が、有機物か無機質かってだけの差だな。」
 「・・・殆ど説明になっていないぞ。」 「マトモに説明してたら一日かかる! ・・・ところでお前ら、こんなとこで何やってんだ?」
 デッドシグナルはクリオネに尋ねた。
 「グハハハハ!」リングの上で二人を見ていたスカーフェイスは高笑いする。「アホらしいぜ全く! 部屋に戻って寝るとするか。」
 彼はリングから降りた。 「おい、貴様。」クリオネマンはスカーフェイスの方へ向かおうとする。「お前さんとの決着は、
 またの機会だな。」クリオネを横目で見て、スカーフェイスは言った。「なんだ、私闘かコラ? それこそ正義超人を目指す者が
 するこっちゃないぞ! スカーフェイス!授業中に居眠りなんぞするから夜中眠れなくなるんだろーが!」 
 「へいへい。弁えとくぜ、ファクトリー風紀委員サン。」スカーフェイスは立ち去りながら片手を上げてみせた。
 見送るクリオネマン。(・・・全く、余計なヤツが・・・)とデッドシグナルを振り向く。デッドが言った。
 「あいつにガンつけるより先に、やるこたぁ山ほどあるだろーが。」 「?」クリオネは彼を見る。

 (・・・・まさか奴はあの時・・・ まさかな。)デッドシグナルの後姿を見送りながら、クリオネマンは僅かに首を振る。
 (だとしても・・・・今なら奴も首を突っ込むまい。私が、かつてのスカーフェイス・・・悪行超人マルスを倒すのは、正義超人として
 当然の行いなのだから。) その時、クリオネマンは何かを感じた。(・・・泣き声?) 妙な胸騒ぎがする。(ジェイド?)

 ジェイドを縛めていた縄を解くと、マルスはその顔を両手で覆った。「スカー・・・。」 「ジェイド。さっきてめぇは言ったな?
 俺が悪行超人でなければ良かった、ってよ。」 「・・・・。」 
 「俺の方からはこう言うべきかな? てめぇが正義超人でなけりゃ、とサ。 だがそんな台詞は吐かねぇぜ。」マルスは笑みを
 浮かべた。どことなく、嘲笑が混じった笑みを。「もう一度言うが、仮定の話なんぞしたってどうしようもねぇ。ただ、これから
 先を仮定すれば・・・ 話は別だがな。」 「どういうことだ・・・?」ジェイドはマルスを見据えて問う。
 「てめぇが、正義超人でなくなれば・・・ってことだ。まぁ聞きな。」身を起こそうとしたジェイドをマルスは押し止めた。
 「覚えてるだろ? この間の新世代超人親善試合。全世界の正義超人を束ねる立場にある、超人委員会のメチャクチャなご見解をよ。」
 冷たい瞳が嘲りを宿す。 「俺は、超人の本性ってのは戦いにあると思ってる。より強くなる、そのためにより強い者と戦って
 倒す、その本性に従うのは当然のことであって、別に正義だの悪だのは関係ねぇ。だが、正義超人どもは愚かしいことに、
 超人の本性を何とか誤魔化そうと腐心していやがる。」フン、とマルスは喉の奥で笑った。
 「・・・それなりに取り繕った誤魔化し方ならまだしも・・・ 半端だからボロが出まくってて、無様なもんだ。
 "正義超人は常に紳士たれ"とか言っといて、残虐行為は平然と見逃される。悪行超人から人類を守る使命より、仲間うちでの
 縄張り争いを優先させる・・・・ハッ! 言う事に一貫性があるだけ、dMpの方が余程スッキリしてたぜ。」
 「・・・スカー!」 「・・・てめぇは、それが"正しいこと"だと思うのか?」マルスはジェイドを覗き込む。
 「どうだ、ジェイド。それが"正義"だとてめぇは言い切れるのか? ん?」 「お前が・・・悪行超人のお前がそんなことを言っても、
 説得力がないぞ・・・」戸惑いながらジェイドは言う。「フン。そんな馬鹿げた正義に惑わされて右往左往してるてめぇを見てると、
 笑えてくるってだけのことだ。・・・大体、正義超人になりたいと言うのは、」ジェイドを見据える、マルスの瞳。
 「本当に、てめぇの意志か?」 「なん・・・!?」
 目を見張るジェイド。 「お前はいい子ちゃんだから、育ての親の遺言を忠実に守ろうとしたんだな。だがそれが果たして、
 お前自身の本当の望みだったのか? ・・・・どこかに強制があったと・・・そう感じた事はないのか? ジェイド。」 
 「違う・・・ 違う、強制なんかじゃない・・・! この力を・・・超人として持って生まれた力を・・・人々のために役立てたいと思うのは、
 間違いなく俺の意志だ・・・!」ジェイドは、キッとマルスを睨みつけた。「また俺を、言い包めようというんだろう・・・ 
 もうその手には乗らない!」
 冷たい笑みを貼り付けたまま、目を伏せたマルス。次の瞬間彼は、ジェイドの身体を引き寄せ―――
 抱き締めた。「!」 まるで、自分に縋っているかのような抱擁。 「dMpってのは・・・・碌なヤツがいなかったが、居心地のいい
 所だったぜ。だが今は・・・戦いがあるなら、別にどこでもいいような気になってる。」「・・・・。」 
 「だが、超人の本能をヘタなやり方で誤魔化すような所にいるのは御免だ。 お前も・・・ そんな所に留まるべきじゃねぇんだ。」 
 「それは、違う・・・ 俺は力を誇示するために戦いたくない・・・ 昔の俺のような想いを誰にもさせないために・・・ 守るために
 戦いたいんだ・・・」 マルスの声が遮る。
 「守る為には、力がいる。そしててめぇにその力を授けられるのは・・・・正義超人界じゃねぇ。」
 「あ・・・・」マルスの腕の中で、言葉を失うジェイド。 その時、部屋の扉を叩く音がした。

 「ジェイド・・・・ ジェイド、起きているのか?」クリオネマンの声。
 「・・・ク・・・クリオネ!」ジェイドは目を見開いた。マルスは、扉の方に顔を向け、ニヤリとする。
 「・・・・起きているんだろう? どうした? ・・・何かあったのか!」
 「グフフ・・・ 面白いことになりそうだな。」マルスはジェイドを解放し、立ち上がった。


                 To be continued Gnosienne #2