蒼穹の瞳(SOL)   

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◆ 蒼穹の瞳(SOL)

 {守りたい祈りは既に届かないから}

 突然の、謎の人物の乱入で騒ぎとなった会場。控え室に居たザ・ファルコは、中継モニターを見て椅子を蹴るように立ち上がる。
 肩に止まる白い鷹が騒ぎ出した。「お前はここを動くな! いいか、私の命令だ!」 ファルコはそのまま控え室を飛び出す。

 「しまった!」コーナーポストに現れたホルスを見て叫ぶジェイド。脳裏に閃いたのは、マルスとの会話の後いきなり、文字通り姿を
 消したホルスだった。「奴は・・・ 姿を消せたんだ! 入り込むなどわけのないことだった! レーラァ!」師匠を振り返ったジェイドは
 硬直した。ブロッケンJrは驚愕の表情を浮かべている。「・・・馬鹿な・・・」普段は冷静な師匠の、意外な様子に戸惑うジェイド。
 「レーラァ? どうしたのですか!?」 「あれは・・・」リング内を凝視したままブロッケンJrは呟く。
 「私がたった今、お前に話したホルスと・・・ 同一人物だ!」 「え!?」 「どういうことだ・・・ あんなに若い筈がない・・・ 
 瞳の色も違っている・・・ 一体・・・」呆然と言葉を継ぐJr。

 「い、委員長!」 「入り込まれたか・・・ すぐ引き摺り下ろせ!」委員長の指示を受け、超人警備員数名がリングに向かっていく。 
 それをホルスは、チラリと目の端で見た。「うるさいなぁ。 エイッ!」
 途端にリングの周りに集まってきた警備員達は、見えない圧力に弾き飛ばされ倒れる。 ホルスは、リング上の万太郎と、リング外の
 委員長達、そして・・・ ミートに目を留めると言った。
 「オイ、そこの目のでかいチビ。お前、僕と同じだな?」 「えっ・・・」ミートは一瞬たじろいだ。
 「僕と同じだ。自分の時間が、止まってるんだ。」コーナーポストから飛び降りたホルスは、ミートの方に歩み寄った。顔を近づける。
 「そう言えば・・・兄さま、覚えてる? あの時もこのチビ、こうやってリングの脇に居たよね?それで余計なこと言ったんだ。
 おかげで兄さまは・・・」ホルスの黄金の瞳に憎悪が燃えた。
 「にいさま?・・・ 貴方、まさか・・・ 」とミート。「あの頃、キン肉ハウス・・・あのきったないちっぽけな小屋にも、僕は何度か
 行った事あったっけ。覚えてるか、チビ。僕はホルスだよ。」 「そんな・・・ どうして・・・ 瞳の色が変わっているんです!?」 
 「それはね。」ホルスはにっこりと笑った。満面の笑みだった。「後で教えてやるよ! 先に試合だ!」くるりと、万太郎と
 ダーク・バラバの方を向く。

 「ふざけんなよ〜、このオカマ野郎が! これは俺とキン肉万太郎の試合だ!!」ラフファイターのダーク・バラバはホルスに
 吠え付く。 ホルスはニヤリとした。「おい雑魚。今から僕が10数える前にリングを降りろ。行くぞ。一つ、ふた・・・」 
 ガシュッ!! ホルスの頬をナックルが翳めた。ホルスは僅かによろめく。 「こいてんじゃねぇぞ、クソ野郎! 万太郎の先に
 テメェから血祭りだ!」
 笑い出すダーク・バラバ。 ホルスはゆっくりと顔を向ける。その表情を見てバラバの笑いが掻き消えた。
 「この雑魚」抑揚のない声。「しちゃいけないことをしたな。」 次の刹那、絶叫が会場に轟き渡った。

 何が起こったのか、万太郎は咄嗟に把握できなかった。ただ、乱入者が「ヌートの腕(かいな)」と呟いた瞬間姿が掻き消えて、
 ダーク・バラバの周りに――― 素早い風。そうとしか形容しようのないものが巻き起こったのだ。彼の絶叫。そして鮮血が大量に
 吹き出した。
 全身ズタズタの血塗れの姿。その真前に、ホルスが再び姿を見せる。世にも残酷な笑みを浮かべながら、ダーク・バラバの顎を
 掴みあげると、 「これがウィング・カッター―――」喉が何かに突き通され、
 血の滝が流れ出す。 「"オシリスの裁き"だ。」 ダーク・バラバの体はそのまま崩れ落ちた。
 笑みを浮かべたままのホルスの背には巨大な翼。片側は血で染まりきっていた。

 「叔父上! 何て事を!」 あまりの惨事に悲鳴があちこちで乱れ飛ぶ会場、呆然としていたミートはその叫びにハッとする。顔を
 向けると、駆け寄ってきたのはザ・ファルコだった。その少し後からは、ジェイドとブロッケンJr。 翼を背に畳むと、リング上の
 ホルスは顔を向ける。
 ファルコを認めて言った。「ふ〜ん・・・ 大きくなったな。でも、28年でそれだけなのか。」 「叔父上・・・」 
 「お前と対戦したいって奴が直に来る。遊んでもらえ。 じゃあ万太郎・・・ なんか座り悪いから、マンタって呼ぶぞ。僕と戦え!」
 ホルスは万太郎に顔を向ける。彼はリングを出ようとしていた最中だった。 「わっ!?」万太郎は声をあげる。すぐ目の前に
 ホルスの姿があった。「逃げる気か? つまんないじゃないか、お前と戦うために来たのに。逃げたら殺すぞ。ここにいろ。」

 「ボ、ボクと戦いたいって、どうして・・・?」恐々尋ねる万太郎。「ボクなんかと戦ったってつまんないよ?」
 「そうかもな。でも、お前の親父よりはいいかなって。」 「父上と?」万太郎は聞き返す。
 「僕の兄さまは、お前の親父・キン肉マンに負かされた超人の1人だ。 僕は兄さまが死んでから25年くらい、強くなる為に修行した。
 で、お前の親父に勝つために、一度キン肉星に乗り込んだんだ。でもあいつを見て・・・ 僕はガッカリしたよ!」そう言いつつ、
 ホルスの表情には露骨な嘲りが浮かんでいた。
 「みっともないジジィがそこにいた。ハラが突き出てヨボヨボで・・・ おまけに、ガキのお前の言いなりになってた。親父っていうより、
 召使みたいだった! キン肉マンの伝説は、とっくに終わってたんだな!だから僕は標的をお前に変更するんだ。」 
 「迷惑だよ・・・ 父上のした事は、ボクには関係ないのに!」
 ホルスの笑いは消える。「お前はキン肉マンの息子だもの。それだけで恨む奴は沢山いる。っていうかキン肉マンの息子でなけりゃ、
 お前には何の価値もないんだ。」
 冷たく言い捨てると、ホルスは万太郎に背を向けダーク・バラバの血塗れの骸に歩み寄り、その首筋を掴みあげた。顔を上げる。
 「オイ、おっさん!超人協会の委員長!」と、呼ばれてホルスを見据える委員長と、戸惑う委員達。ホルスはニヤリとした。
 「あんた、まだ現役だったんだな。これ、邪魔だから片付けろ! あんたの仕事だろ!」言うなりホルスは、骸を委員長達目掛けて
 投げつける。彼らが避けると、骸はドサリと床に落下した。あちこちで上がる悲鳴。
 「おっさん、確か王位争奪戦決勝でさ、あんた時計みたいな名前の超人ハンターの死体片付け忘れて、キン肉マンに怒鳴られてたっけ。
 僕はスーパーフェニックスみたいに死体を利用はしないけど、やっぱり邪魔だからな。じゃ、試合開始を宣言しろよ!」
 「ふざけるな! これは新世代正義超人達による親善試合だ、貴様のような得体の知れない、正義の弁えのない、しかも乱入者を
 参加させるわけにはいかん!」委員長の脇に控えていた委員の1人が怒鳴った。
 ホルスは横目でその委員を見る。
 「お前委員のくせに、正悪超人レスリング統一規約も知らないのか? え〜っと、確か第16条第3項捕捉・・・ "なお、捕捉として
 試合に闖入者が現れ、正式メンバーを暴行その他の手段で出場不能にした場合は、第3項と同じく闖入者が試合の続行を義務付けられる。"
 だろ? 戦う資格があるのは強い超人だけだ。さっさと開始を宣言しろ!」 「・・・止むを得ん。ゴングを鳴らせ!」
 委員長が言った時、「待ってください!」ジェイドが声をかけた。「奴の・・・ 奴のしたことは明らかに殺人です! 試合を中断して
 拿捕すべきでしょう!」 「ジェイド!」と、ブロッケンJr。 委員長はジェイドを見て言った。
 「ジェイド、ファクトリーでは全ての超人ルールは習わなかったのかもしれんが・・・ 奴の言った超人レスリング統一規約・
 第16条第3項には、"試合に際し、第三者超人が暴行傷害・拉致監禁等の手段で正式メンバーを出場不能にした場合、第三者超人は
 正式メンバーに代わって試合を続行することを義務づけられる。"とあるんじゃ。つまり、試合の妨害も乱入行為も、その結果としての
 殺人も罪にはならん。」
 ジェイドは一瞬絶句した。 「そんな・・・」 委員長は続けて言う。「超人界ではその昔から、リング内ではルール無用、どんな
 残虐な試合が行われても構わないとされておった。先ほど奴の言ったとおり、戦う資格があるのは強者のみ・・・ それが超人じゃからのう。」
 「・・・・」 その時、二人の前にザ・ファルコが歩み寄ってきた。 「委員長。では、もう一つのルールを適用して、試合を中断して
 いただけますか?」
 「ん?」委員長はファルコを見た。 「キン肉万太郎選手は本大会ではシード選手であり、本来ダーク・バラバ選手と、その後は私と、
 対戦する予定になっていましたね。ダーク・バラバ選手があのようなことになってしまった以上・・・」 ファルコは、警備員二名に
 担架に乗せられ、布をかけられ運ばれようとしている遺体の方を見やる。 「本来の正式なシード選手である私に、試合をする資格が
 あるのではないでしょうか。」 「フム・・・」考え込む委員長。 「そのとおりじゃな。では只今から・・・」と、彼が委員達に指示を
 出そうとした時だった。

 上空から、突如舞い降りてきた大きな影。素早くファルコの背後に回ると、「スワロー・テイル!」 曲がった鋼鉄の刃が、
 ファルコの喉元に突きつけられた。「!!」委員長、ジェイド、ブロッケンJr、ミート。そしてその場にいた一期生、二期生たち
 全員が目を見張る。
 「それじゃ面白くねぇ。てめぇの相手は俺がしてやるぜ。」ファルコを後ろ手に押さえつけ、マルスは言った。

 「スカー!!」 「悪行超人マルス!」 彼らは口々に叫ぶ。 「よぅ、委員長。杜撰なコトだな。一箇所に人全部集めとくなよ。
 おかげであっさり入り込めたがな。 今から、俺とこの覆面野郎の試合開始を宣言してもらうぜ。」
 「それはならん! ここはリングの上ではないからな、乱入行為は認められんぞ!」と委員長。
 「そりゃ困ったねぇ。」と、マルスはニヤリとした。「・・・それに私も、」スワロー・テイルを喉元に突きつけられながら
 ザ・ファルコは言う。「君と戦うつもりはない。」 「ほ〜。俺には勝てんと怖気づいたのか?覆面。」マルスは挑発的な台詞を
 吐いた。 「何と言われようと君とは戦わない。」 「超人にしちゃ珍しい性格だな、テメェは。」 言うなりマルスは
 スワローテイルを振るうと、ファルコの纏う鎧の右肩部分を破壊した。「!」全員に驚愕が走る。露わにされた肩には、マルスの胸の
 マークと同じ赤い模様がくっきりと浮かんでいた。 「・・・君は・・・!」ジェイドは口走った。 (シャルロ。)
 「テメェが俺と戦わんと言うなら・・・ この右肩、俺がもらうことになるぜ。」 「なっ・・・」その言葉に、ジェイドは思わず踏み出す。 
 「このマークは、俺の超人パワーに反応し爆発を起こす。つまり俺がその気になりゃ、テメェの肩と右腕を吹っ飛ばすことが
 できるんだ。組織が焼き切れちまうから・・・」
 マルスは悪魔の如き笑みを浮かべてジェイドを見る。「そこの優等生のように縫合するのは不可能。ま、腕一本でも生きてはいけるが、
 この先二度とリングにゃ立てねぇ。どうする、覆面サン?」
 「スカー・・・」声の震えているジェイド。なおも踏み出そうとするが、ファルコが人質である以上それはできない。
 「・・・そうしたければするがいい。」ファルコは静かに告げた。一瞬マルスの顔から表情が消えたが、
 「グフフ・・・ 腰抜けが。てめぇはよくても、てめぇの連れはどうだろうな? 怒って殴りかかってくるかもしれねぇなあ。」
 そう言うと笑った。ファルコはマルスを振り向く。顔は見えなくても、その目に明らかに怒りが現れていた。 「・・・いいだろう。」
 「よし。じゃあ委員長。選手の了解を得たから・・・試合開始を宣言してもらおうか。」
 「ならん! 今の貴様に大会に参加する資格はないぞ!」委員長はマルスを睨みつけ怒鳴った。
 「フン。言ってることが支離滅裂だな、正義超人てのはよ。」そう言いつつ、マルスはチラリとジェイドを見て、笑ったようだった。
 「素直に試合開始した方が、超人委員会のため・・・って言うか、あんたの身のためだぜ、ハラボテマッスルさんよ。」 「なにぃ!?」
 身を乗り出す委員たち。
 「超人委員会主催の大会で、委員会に招聘された超人2名のうち1人は乱入者に惨殺され・・・」目の端で、リング上のホルスを見やる
 マルス。「もう1人も、別な乱入者に再起不能の重傷を負わされた、となりゃ・・・」
 マルスは、ファルコを押さえつける手に力を込める。 「開催者たる委員会の杜撰な遣り口が、世論で槍玉にあげられるのは必至だ。
 いくら超人の世界に死にかねんような行事が多いとはいえ、親善試合までコレじゃ委員会に不信を抱く超人が増えるだろう。
 そうでなくても最近は、委員会は独裁者と化しつつあるって批判の声も多くなってるようだし・・・格好のリコールのネタを提供するのも、
 マズイだろ?」マルスはニヤリと笑った。 「・・・試合開始を宣言する!」委員長の声を聞いて、ジェイドは彼を睨みつけた。

 二階堂凛子は、乱入者ホルスによるダーク・バラバの虐殺が始まる寸前に、恵子を立たせて絶叫と悲鳴が飛び交う会場を出た。
 会場を後に、凛子は半泣きの恵子を支えて、会場前のバス停まで連れてくる。
 「次のバス・・・ 10分後か。乗って帰れるよね、あんた1人でも!?」時刻表を確かめて、凛子は恵子に声をかけた。
 「にっ・・・二階堂さんは、どうするの?」しゃくりあげながら問う恵子。
 「付いててやれなくて悪いけど、あたしは会場に戻る。」 「あ、あんな怖いとこに!?」凛子は会場の方を見た。
 「あのままじゃ、大変なことになる。」

 「やっと・・・始まりだな!」ホルスは残虐な笑みを浮かべた。 「そおれっ!」と叫ぶと、ホルスは右手をキャンバスにつく。
 リングの周りに、弾幕のように薄蒼の膜が広がった。
 「これで邪魔は入らない。決着つくまで戦えるぞ、マンタ。」 (ど・・・どうしよう・・・)万太郎は辺りを見回した。どこかで、
 似たようなものを見た覚えがある。先日、入れ替え戦で倒したスカーフェイス(マルス)が現れた時、"魔界の結界を張る"と称して
 作った空間とそれはよく似ていた。 「ヘラクレスファクトリーの卒業生って、面白い奴が一杯いるしな。 自分の身体に相手
 入れたり、標識で催眠術かけたりとかさ。そんな奴らに乱入されちゃたまんないもの。」ホルスは薄蒼の膜を透し場外を見て、
 笑みを浮かべた。
 「・・・これ、結界ってやつ?」万太郎はホルスに尋ねる。「よく知ってるな! 流石自称プロフェッサーだ。」
 ホルスは言う。「じゃ、あんたも悪魔超人の流れを汲んでるの?」と万太郎。「これは魔界とか、次元操作とかは関係ないよ。
 僕がした修行の中に、こういうメニューも入ってただけ。」万太郎を見て、にっこりと笑い、次の瞬間真顔になるホルス。
 「自己紹介がまだだったな。僕は鳥人・・・BIRD・MANのホルス。29年前王位争奪戦でキン肉マンと戦った、ザ・ホークマンの弟だ。」

 「29年前って・・・ あんた一体いくつなワケ?」万太郎は戸惑いながら、ホルスを上から下までジロジロと見た。正確な年齢は
 わからないが、目の前の人物は30代以上にはとても見えない。
 「クルルル―――ッ!!」甲高い叫びと共に、突如ホルスは跳躍した。「うわっ!?」後ずさりする万太郎。ホルスは万太郎の背後の
 トップロープに乗ると、「ネイル・クラッシュ!」万太郎目掛けて蹴りを放つ。
 「がっ!!」万太郎の体を翳めた脚は、人のものではなく、鋭く巨大な鉤爪を持った鳥のそれだった。
 「別名、バステトの跳躍。」キャンバスに着地するホルス。蹲った万太郎を見て、高らかに笑う。 「あははは! 29年でお前の
 親父は小汚いジジイになったし、かつての正義超人もみんな歳を食った。でも僕のこの体は・・・・」彼は両腕で、自分の身体を
 抱き抱えた。「兄さまのこの身体は・・・ 若くて綺麗なまま・・・・ いつまでも19歳のままなんだ。」

 「いつまでチョロチョロ逃げ回る気だ?」マルスは、ファルコに声をかける。 「俺のスタミナ切れでも狙おうってのか? 
 隼(ファルコ)なんて勇ましいリングネーム持ってんなら、それらしく戦えよ。」
 無言のままのファルコ。Bリングで試合が開始されてから、彼はリング内を跳躍し回り、マルスに捉えられることがなかった。
 マルスはファルコに突進していく。引き付けてから、またもや跳躍するファルコ。
 「チッ、うっとおしい!」舌打ちすると、「スワローテイル!」マルスの身体を飛び越そうとするファルコ目掛け、鋼鉄の刃が素早く
 飛び掛っていく。胸元と顔面を掠めるスワローテイル。血が飛び散り、ファルコはその場に墜落する。ヘルメット型の覆面は
 砕け散った。
 「ほう。」身を起こしたファルコに目を向け、マルスは言う。「超人レスラーより、ホストにでもなった方が似合いそうなツラだな。」 
 銀に近いプラチナブロンドのさらりとした長髪、細面に金色の目の青年の顔がそこにあった。 「そら!! 本気出してみな!」
 マルスは間髪入れずにファルコの身体を持ち上げる。

 「U世!」ミートはリングに駆け寄り叫んだ。 「ホークマンはかつてスグル様全盛時代の超人界で、スピードにおいてトップクラスに
 入っていました! その一族なら、スピードは同等の筈です!無闇に掴まえようとせずに、攻撃のリズムを読んで捕らえる事を念頭に
 置いてください!」リング内で、ホルスはミートを見てニヤリとした。万太郎は、「とにかく・・・ わりと細っぽい奴だし、
 捕まえさえすれば何とかなる筈だ!」考えを纏めてホルスを掴まえに行く。「ありゃっ!?」
 ホルスは空中にいた。彼は羽ばたく鳥の脚を掴んで宙に浮いていたのだ。「そらぁ!」足から万太郎に突っ込むと体をキャンバスに
 倒し、続いて宙に放り投げる。「フェザー・ウィップ、アヌビスの鉾!」ホルスの背中の翼が曲線を描いて、万太郎の体に
 襲い掛かった。彼はコーナーポストまで弾き飛ばされ呻く。
 「U世!?」ミートはリングに向かって叫ぶ。「舐めてかかってはいけません!僕のアドバイスに従ってください!」 
 「待て、ミート! どうも妙だぞ。」ブロッケンJrが声をかける。「え?」 「万太郎はお前のアドバイスを無視したと言うより・・・
 始めから聞いていないようだ。」 「どういうことですか、Jrさん・・・」リングを見つめていたジェイドは言う。「レーラァ・・・つまり、
 万太郎にはミートの声が聞こえていなかったということですか?」 「うむ・・・」その時場内に響き渡る声。
 「さっすが、Jrさんだね!一番最初に気が付いたんだ!」全員がギョッとする。声は会場内に設置されているスピーカーから
 響き渡っていた。 Jrは、肩に鳥・・・ネクベトを止まらせ、満面の笑みを浮かべているホルスを見た。29年前その少年を見た時と、
 全く同じ笑顔。
 「おいチビ! そんなに責めちゃマンタが可哀相だろ? Jrさんの言ったとおり、お前の言葉なんか全然聞こえちゃいないんだからな!」
 ネクベトが肩から飛び立ち、ホルスは万太郎に向かって進む。彼は身を起こして喘ぐ彼の前に、満面の笑顔で立った。「マンタ。
 お前には親父と同じ様に、いろいろ余計な知恵つける小僧がついてる。僕はお前の今までの戦いを見てたけど、dMpの連中の時も、
 ツバメと戦った時も・・・」ホルスはちらりとBリングを見やる。 「殆ど相手に追い込まれた時、ミートやらお友達やらが、ヘンな
 エールとかでお前を励まして・・・友情パワーってやつ? それで、溜めといた力で一発逆転てパターンが殆どだったよな? 
 キン肉族の勝利の方程式っていうのかなぁ。お前の親父のファイトパターンもそんなもんだ、って言ったのが・・・」彼は万太郎を
 抱え上げた。 「マリポーサ様と同じ運命の王子の一人、キン肉マンゼブラだったっけ。 ネクベト!」その声で、上空で待機して
 いた鳥は万太郎目掛け舞い降り、その体を掴んで舞い上がった。
 「じゃあ、誰もお前を助けてくれなかったら? 途端に勝てなくなるのかなぁ?」

 「U世!!」ミートの叫び声。ブロッケンJrは呟いた。「奴は・・・ 兄のファイトスタイルをそのまま継承したようだな。」 
 「レーラァ・・・」考え込むようにしながら、ジェイドは師に言った。「あのホルスは、先程妙なことを言っていませんでしたか?」 
 「ん?」 「"僕のこの体は兄さまのものだ"と・・・。」
 Jrは瞬間目を見張った。「何? ・・・お前には聞こえたのか、ジェイド?」クリオネマンがジェイドに語りかける。
 「あいつがリングに結界を張ってから、音声は一切遮断されているぞ。」 「そ、正に口パク状態だったぜ。たださっきスピーカーから
 あの野郎の声が聞こえてから、リング内の音声は中継されてるみてぇだが。」デッドシグナルが言葉を継いだ。 
 「思うに、オレ様がトラフィックサインを使う時、狭い範囲とはいえ自然現象を操れるのと似たようなもんで・・・ あいつは結界で
 音声を遮断して、万太郎にどんなアドバイスも届かないようにしてから、リング内の音声は会場の音響設備を利用して聞こえるように
 したんだろう。どーゆー原理かわからんが。」 そこでセイウチンが声をかけた。「そんじゃあ、超人っていうよか魔法使いだ!」 
 「カッコよく超能力って言ってくれよ、セイウチン先輩。」デッドシグナルは言う。

 マルスがファルコ・・・シャルロをキャンバスに投げつけようとした瞬間、彼の体はマルスの腕から抜け出ていた。シャルロは飛び離れる。
 「・・・そう言やてめぇの師匠ってのは、投げ抜けが得意だったそうだが。逃げ回って、戦うなってのが師匠のお教えか? ええ?」
 シャルロは何も答えない。「チッ・・・ラチがあかねぇな。Aリングの方も急展開のようだし・・・。」 (あのクソガキ、最終的にゃ
 万太郎に殺られると踏んだんだが・・・ フン、やはり俺が出るしかねぇか。)マルスは立ち上がり、右手を突き出し拳を握った。
 「もうてめぇの相手はしてられん。その腕と肩、いただくぜ。その後フォール負けってことにしといてやる。」
 「うぐぁぁっ!!」シャルロは叫んだ。剥き出しの右肩のマークが赤く輝き、彼は苦痛に顔を歪めて蹲る。
 「ぐ・・・うぁっ・・・」 「この俺相手に、本気出して戦わねぇなんて舐めたマネしてくれるからだよ。てめぇはこの先・・・そうだな、
 ザ・スパロー・・・雀チャンとでも名乗った方がいいんじゃねぇか?」マルスは笑みを浮かべた。呻きながらキャンバスに倒れ付す
 シャルロ。「隼は鳥類最速にして、最も獰猛な猛禽類・・・ てめぇはその名に相応しくねぇぜ。 ザ・ファルコの名は俺がいただいた。」

 ホルスはその背に翼を広げた。「その辺でいいぞ、ネクベト。」 鳥は万太郎を掴んだまま、空中で羽ばたき停止する。 
 「Jrさん! 僕が兄さまと同じことしかしないって思ってるみたいだけど、僕にもオリジナルホールドはあるんだよ? 見ててね!」
 鳥の足から万太郎の体が離れる。その瞬間ホルスの体が舞った。「スパイラル・ブレード!」翼は螺旋状の巨大な突起に変化して、
 落下してくる万太郎の体を貫いた。 「――― 太陽神ラーの翼。」血を噴出して墜落する万太郎の体。
 「あっけないなぁ!」笑いながら万太郎に近付くホルス。「あれ? まだ動いてら。」白目を剥いて痙攣する万太郎をホルスは
 蹴り上げた。「じゃあ、止め刺さなくちゃ! 僕は兄さまみたいな紳士じゃないもの。キン肉族に情けはかけないよ。」
 万太郎の頭をホルスは踏みつけにする。「昔スーパーフェニックスが言ってたことで、1つだけ僕が賛成した台詞は・・・
 "正義超人どもの死ほどあてにならんものはない! また奇跡の復活などされて、逆転負けなんてのはたまらんからな!"だったよ。
 だよねぇ兄さま? こいつら弱いクセにしぶといんだもん!」ホルスは哄笑した。楽しそうな笑顔を貼り付けたままで。

 「U世―――っ!!」ミートの絶叫。「アニキッ! いかん、何とかせにゃ・・・!」身を乗り出すセイウチン。「もう手遅れっぽいけどな。」
 とデッドシグナル。
 リングを凝視していたジェイドは、その時目前に全く別の光景を見た。「!?」 1人の、幼さを残した少年が。1人の男の体に
 しがみついて泣いている。黒い髪と、涙に濡れた黒い瞳が見えた。抱きつかれた男が纏っている鎧は胸の部分が破壊され、血に塗れている。
 一目でわかった。明らかに致命傷だった。
 (兄さま・・・ 兄さまぁ・・・)少年の目から、ボロボロと零れ落ちる涙。男は目を開く。黄金の瞳。彼は少年の背に優しく腕を回した。
 (ホルス・・・ 大丈夫だ・・・ お前はもう、1人でも生きていける・・・)少年は目を大きく見開いた。(やだ・・・ やだよ兄さま・・・ 
 僕を置いていかないで・・・!)
 (私の身体をやる)男はそう言った。話しながら、口から血が流れ出す。(身体を持たない超人だということを・・・もう悩まなくて
 いい。お前はこれから1人で、ラプトゥリアに相応しく生きていけ・・・)

 「な・・・何だね君は!?」その時委員の声に、ジェイドははっとした。(い、今のは一体・・・?)
 委員長達の前に、1人の制服の少女が立っていた。彼女は険しい瞳で彼らを見据えている。周囲で戸惑う一期生たち。 
 「凛子さん!」クリオネとデッドが、そう言ったジェイドと凛子を交互に見た。
 「これが、試合だっての!?」彼女は言った。「あんた達は、こんな嬲り殺しが試合だって言うの!」
 「き、君、一体何を、」凛子はその委員に口を挟ませなかった。「超人委員会って何のためにあるの!超人が殺しあわないために、
 リングの中で試合をやってるんじゃなかったの!! あんた達の言ってることって無茶苦茶だよ。前の入れ替え戦だって、ジェイドが
 目を潰されても腕をもがれても、ルール違反じゃないって言ってたよね? だったら正義も悪行も、試合も殺し合いも全部一緒じゃない! 
 それが超人なら、そんなのが正義と人類を守る超人なら、超人なんか地球からいなくなってくれた方がいいじゃないか!」
 「な・・・何と言う暴言を!」憤激し出す委員と、顔色1つ変えずに凛子を見ている委員長。
 「そう・・・・その人の言うとおりです!」そう発言したのは一期生の一人、関東防衛担当のアポロンマンだった。
 「我々はファクトリーで、正義超人の歴史を教わりました! 古代超人時代、ルール無用で暴虐の限りを尽くした超人達の間にあって
 異を唱え、弱き者を守り救うために、超人はその力を使うべきだと唱えたのが最初の正義超人たちだったと! 今目の前で
 行われている暴虐を、ルールの名の元に見過ごすことは・・・ 正義超人道に反します!!」 「試合を中断してください、委員長!」
 と一期生ナムル。
 「ほしたらワシらで、アニキを助けに行きます!」とセイウチン。「むぅ・・・」腕を組む委員長。
 スピーカーから響き渡るホルスの声。「あははは! 遅いよ。試合中断を宣言したって、誰もこのリング内に入ってこれないさ。
 ただこの結界を破るアイテムは・・・ あることはあるけどね、この会場のどこかに。」

 Bリングから聞こえてくるシャルロの絶叫。「シャルロ!」ジェイドはBリング方向に叫ぶ。
 その時会場入り口から、何かが飛び込んできた。凄まじいばかりのスピードでBリング上空に来たその白い鳥は、リングに舞い降りた
 途端、人の姿になっていた。「いや―――アッ!」その少年はマルス目掛けて、手にした剣を振り下ろす。マルスは腕を振り上げ、
 リストバンドの突起と本体の間で剣を受け止めた。剣を抜き、着地した少年は続いてマルスの足を狙おうとする。払い除けるマルス。
 彼は少年を見て言った。「なかなかスジはいいな。」チラリと蹲るシャルロを見ると、「これがお前の"天帝鳥人"か。ん?」
 ニヤリと笑う。 「ジャン! 来るなと言っておいたのに・・・!」 「貴方と共に生き、貴方のために死ぬ。それが僕の宿命です!」
 そう叫んでマルスに向かっていこうとするジャン。マルスはジャンの剣を持つ右手を、もう片手で首筋を掴んだ。 
 「大したもんだな、ボーヤ。」 「ジャンッ!!」 叫ぶシャルロに、冷酷な笑みを向けるマルス。「こいつが傷ついたら・・・ 
 てめぇもちったぁ本気出すか? 雀チャン。」 「・・・貴様っ!!」シャルロの目に始めて、強烈な怒りが宿った。

 「・・・・!」Bリングに向かって駆け出そうとするジェイド。その時会場内に響くホルスの声。
 「"なんでぇそんなにシンミリしやがって!今から最高の残酷ショーが待ってるってのに!" ははは・・・ ツバメの物真似!
 人間ってのはホントは、残酷シーンが大好きなもんだからな! 僕がお客さんを楽しませてやるよ! マンタには、僕が一番好きな
 処刑法で止め刺してやる!」 「く!」ジェイドは声を聞き、リングを振り向いた。その隣で、泣き出すミートを抱き抱える
 ブロッケンJr。「ブラッディ・イーグル・・・血染めの鷲。犠牲者から肋骨を抉り出して翼のように広げる・・・バイキングの処刑法さ。
 とっても綺麗なんだ!」
 ホルスの晴れやかな笑顔。ジェイドは、唇を噛み締めてリングを見据えた。

 To be Continued