蒼穹の瞳(LUNA)   

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◆ 蒼穹の瞳(LUNA)

 {愛したかたちは歪ませたくない}

 正義超人親善試合は一般公開されており、いつものように沢山の観客が詰め掛けていた。開始10分前、場内はまだざわついている。
 二階堂凛子は、客席からリングを眺めやる。 「・・・私、超人プロレスって生で見るの、初めて。」隣席の恵子はポツリと言った。 
 「二階堂さん、ただで招待してくれてありがとう。」 「いいよ。こっちだってタダでもらった券だからさ。」凛子は煙草に火を
 つけながら・・・ 試合開始には消さなくてはならないが・・・ 万太郎の台詞を思い出す。(今度、一期生全員が揃って試合をするんだ。
 なんか、委員会が招待したゲストも来るらしいよ。僕は連中の勝ち残りをカッコよく倒すおいしい役どころさ! 凛子ちゃん、
 券をあげるから、クラスの可愛い女の子を選りすぐって連れてきてね)
 凛子は煙草を吹かした。 (ふざけんなっての。) 彼女は、チラリとゲスト席の二期生たちを見る。
 (ジェイドがさっき出てったみたいだけど。まだ戻ってきてないな。)

 地下のボイラー室の扉を、油断なく開けたジェイド。後ろ手に扉を閉めると呼びかける。
 「・・・スカー! ここにいるんだろ?」 一歩一歩、ジェイドは踏み出す。「何故、この親善試合の会場に現れた!? 今度は何を
 企んでいるんだ!」
 「グフフフ・・・ 人聞きの悪いこと言ってくれるなぁ、優等生。」 マルスは腕組みをして立っていた。
 「・・・ お前がそんなもの気にするガラか?」とジェイド。 「わかってるじゃねぇか、ジェイド。やはり"信頼と共感が芽生えた
 者同士"は違うねェ。」喉の奥で笑うマルス。 先日、チェックメイトが現れた時彼らに投げかけた言葉を揶揄的に使うマルスに、
 ジェイドは眉を顰める。
 「安心しろ。別に今回は魔界の結界がどうとかいうことはないぜ。前に"次に会ったらお前の体を楽しませてやる"と約束したのに、
 チェックの野郎のおかげで果たせなかったからな。約束は守らなけりゃ、男がすたるってもんだからよ。」 マルスはジェイドの
 肩に手をかけた。ジェイドはその手を掴んで自分の肩から外すとマルスに言う。 「ふざけるな! 一つ聞くが、お前は何故
 シャルロを襲ったんだ?」 「あァ?誰だそりゃ。」 「お前が、肩にその胸のマークをつけた超人だ!」 「ああ、あのトリ
 連れた男か。」
 (・・・鳥?)自分と会った時は、シャルロの傍らにいたのは少年を装った少女・・・ジャネットだけだったが。
 マルスは常のようにニヤリと笑うと、「どうでもいいだろ、そんなこたぁ。」ジェイドの両肩に手をかけ、その場に押し倒した。

 「スカー!」 マルスに圧し掛かられ、ジェイドは逃れようとする。マルスは、ジェイドの目を至近距離から覗き込んだ。
 いきなり上着をはだけると、「これが、奴と戦った時の傷痕だ。」と、胸に残る僅かな痕を・・・ まだ血の色が残っているそれを・・・ 
 指し示す。「奴の実力も・・・ せいぜいお前程度ってことさ。俺を楽しませるにゃ、まだまだ程遠いぜ。」言うと、
 マルスは自分の指を、傷痕に突き立て、抉っていく。みるみる鮮血が吹き出した。
 「・・・・!」 (まだまだ、致命傷には程遠い・・・) 入れ替え戦の時に。そう言って自らの傷口を抉ってみせたスカーの姿が
 ジェイドの脳裏に甦った。
 あの時感じていたのは。不可解、混乱。戸惑いと恐怖。だがそれ以外に。
 ・・・全ての思考を奪い、胸をぼうっと熱くする、興奮と、憧れ。そして陶酔。
 マルスは、自らの血に塗れた指を、ジェイドの頬に当てた。白い頬は、紅い鮮血に彩られる。
 「あ・・・ スカー・・・」 「いいか、ジェイド。」マルスはジェイドの耳元に口を寄せ、低く囁く。
 「正義も悪もねぇ。存在してるのは、コレだけだ。」唇を喉元に走らせ、ジェイドの上着を脱がせにかかる。「う・・・」
 抵抗しようとするジェイドだが、何故か力が入らなかった。
 白き肩と胸が露わになる。それをなおも自らの血で彩り、唇で貪っていたマルスは、突如肩に歯を立てた。「くぅ! あっ・・・!!」
 ジェイドは仰け反る。なおも歯はジェイドの肉に食い込み、鮮血が溢れ出した。それを舐めとりながら言うマルス。 
 「確かなのはコレだけさ・・・ 血と痛みだけだ。」ジェイドは身を震わせながら、マルスを見る。「キモチいいだろ、ジェイド?」
 「ス、カー・・・」
 何だろう・・・ この感触は。 突然味わわされた痛み。なのにこの痛みが、
 今、俺とスカーを・・・ 何よりも確かに結び合わせているような気がする。
 マルスはジェイドの手をとると、自分の胸の傷口に触れさせた。「スカー・・・!」「果たして、お前が俺を殺せるようになる日が・・・
 やって来るもんかね? ・・・おい。そこの出歯亀。いつまでこそこそ隠れてるつもりだ?」と、彼は呼びかけた。 
 「!?」驚愕して、ジェイドは辺りを見る。

 「なんだ。 もうやらないのか?」 突如、浮かび上がる人の姿。
 「見といてやるから、最後までやれよ。面白そうだ。 なあネクベト?」 マルスは冷たい目で見やり、ジェイドは呆然と声の
 する方を見た。 そこに立っている人物を見て、ジェイドは異様な思いに囚われる。
 大人とも子供とも、男とも女ともつかない容姿・・・・ おかっぱに切り揃えられた黒髪も一因だろうか? 瓜実の顔に、黄金色の
 ・・・猛禽のような目。わりと端正な顔立ちだが、異様に残酷な印象の笑みが浮かんでいる。それが、その人物の雰囲気に、
 どこかしらアンバランスなものを漂わせていた。
 古代エジプトを連想させるスタイル。頭に鳥の形の飾りをつけている。その羽根の部分は、頭の両脇、髪の上に下がっていた。
 「・・・でも、僕は姿を消してたのに。 お前、よく気付いたな?」とその人物はマルスに言った。
 「気付かれてねぇつもりだったか? あれだけクスクス笑ってやがって。」
 「あはは! そうか。でも残念だな。折角ナマで、マトモにコドモ作るところ見られると思ったのに。なあ、ネクベト。」 
 彼は上目遣いをする。
 「てめぇ、さっきから見えない誰とお話してんだ? 大体男同士でガキができるか、バカが。」とマルス。
 「お前の目にも見えてるハズだ。ネクベトは、これだ。」 彼は頭の鳥の飾りを指差す。「ネクベトは、僕の作った"カー"だからな。
 昔エジプト人は、死人の魂は鳥になって抜け出ると考えてた。僕のカーは、僕の思念から作られた下僕だ。だから僕の思う
 とおりに動く。」ニヤリと・・・また世にも残酷な笑みが浮かぶ。
 「下になってるの。お前が、ジェイドだな? ブロッケンJrによく似てる。隠し子か?」と、ジェイドを覗き込むような仕草を
 した。 呆然としながら、謎の人物とマルスの会話を聞いていたジェイドは、はっとして彼を見る。「レーラァを知っているのか!?」
 「30年くらい前に会った。伝説超人時代の終わりの方だ。」 ・・・その時何故か、あの時のシャルロの言葉が脳裏に甦った。
 (貴方は、王位争奪戦後28年間、年を取らなかった超人の話を聞いたことがありますか?)
 「おい、出歯亀のコスプレ野郎。」 「失礼な呼び方するな。 僕の名前はホルス。鳥人ホルスだ。」ホルスと名乗った人物は、
 ニヤリと笑い付け加える。「BIRD,MAN,の方だ。」 「んなこたぁどうでもかまやしねぇよ。 ここで何をしてやがった?」 
 「覗き。 今の、僕好みのシチュエーションで良かったんだけどなぁ。 やっぱり、もしコドモ産むんならお前の方なんだろうな。」
 ホルスは残酷な笑みを浮かべたまま、ジェイドを見た。「ずーっと華奢だし。似合ってるぞ、そのいいカッコ。」 「・・・!」
 ジェイドは、マルスに脱がされた上着を手にとった。
 「で、そっちのでかいの・・・ ソコのジェイドは、すかーとか呼んでたっけ?」
 「てめぇにそんな呼ばれ方される筋合いはねえ。」 「じゃあ、なんて言うんだ?」後ろ手を組み、ホルスはマルスの目の前まで
 歩んで来る。 「フン。てめぇに名乗る名なんざねぇよ、このクソガキ。」
 「ホント失礼な奴だな! あ、こんな部分だけ燕尾服だ。じゃあツバメって呼ぼう。 決めた!」そう言うホルスを見ながら、
 ジェイドは今だ違和感を拭い去れずにいた。 この超人は・・・ 何かが違う。今まで会ってきた、どんな超人とも異質な何かがある。
 「で、ツバメ。お前上で始まる大会に乱入するつもりなんだろ?」ホルスは、マルスを上目遣いに見る。
 「!」ジェイドはマルスに顔を向けた。「僕もそのつもりだ。ツバメが狙ってんのはキン肉マンの息子だと思うけど、あいつは
 僕に譲れ。」 マルスは笑う。「グフフ・・・ ふざけたクソガキだぜ。お譲りしますとでも俺が答えると思うか?」 
 「言わないだろうけど、もっと美味しい獲物が大会には参加してるんだ。お前はそいつをやればいい。」 「・・・ほう。誰の事を
 言ってんだ?」 「ザ・ファルコ。今回呼ばれたゲストの一人だ。」 マルスは、ジロリと相手を睨んだ。「奴が、俺が満足できる
 タマだってのか?」 
 「思えなかったかもしれないけど・・・」ホルスの笑みに、一層残酷さが増す。「あいつは、僕もそうだったように生まれながら
 特殊な力を持ってる奴だ。それを発揮したら、お前でも梃子摺るかもしれないな?悪行超人マルス。」 ジェイドは、ホルスの
 言葉を聞きながら、心に冷たいものを感じていた。
 「知ってやがるんじゃねぇか、このクソガキが。」 「あんまり呼びたくない名前だ。僕のと似てるから。 とにかく、お前は
 ファルコの方をやれ、ツバメ。キン肉マンのガキは僕が片付ける。」マルスは、目を閉じて笑みを浮かべた。 「おい、待て! 
 そんなことをさせるわけにはいかない!」ジェイドはホルスに向かって踏み出す。 ホルスは笑って言った。「ムダだ、お前には
 止められないよジェイド。心配しなくていい。僕はただ、馴れ合いの試合をもうちょっと面白くしたいだけだ。――― 
 『ヌートの腕(かいな)』!」
 言うなり、ホルスの姿はぼやけて消えた。 「く・・・! すぐ委員会に知らせなくては! そうだ・・・スカー、お前も乱入などという
 馬鹿なマネを・・・ !?」マルスの姿も、既にそこにはなかった。

 「・・・グフフ・・・ また妙な奴が湧き出てきやがったもんだ。だが、確かに面白くなりそうだな。おそらくあれが、『ラプトゥリア
 (鳥人族)』と『天帝鳥人』のハーフとかいう奴だろう。その分けったいな力を持ってるんだろうが・・・」
 マルスは冷酷な笑みを浮かべる。「バカな奴だ。キン肉族の火事場のクソ力の前には、強大な力であればあるほどただのエサに
  しかならん。精々てめぇも万太郎のパワーのいいコヤシになるがいいぜ、クソガキ。グフフフ・・・」マルスは、笑いながら壁に
 凭れ掛かり、今始まったばかりの親善試合の舞台である、二つのリングを見やった。

 会場へと駆け戻ったジェイドはすぐさま委員長に地下室で起こったことを知らせ、委員長は超人の警備員を会場への出入り口に
 配置した。さらに、ジェイドたち3人の二期生を順繰りに巡回させたが、特に何事もなく、2つのリングでは勝ち残った一期生が
 ゲストの超人たちと戦うこととなった。
 Aリングでは、九州地方防衛担当者・ジャイロ対ザ・ファルコ、Bリングでは東京防衛担当者・ガゼルマン対ダーク・バラバという
 カードである。Bリングでは、ラフファイトを信条とするダーク・バラバの前に、一期生主席のガゼルマンは善戦したものの、
 43分40秒で敗れてしまっていた。

 「あ〜あ、これでガゼルマンは公式戦での0勝記録を更新しちゃったワケだ。まだ2戦だけどさ。」
 Aリング脇の座席で、いつものとおりカルビ丼を頬張りながら言うキン肉万太郎。 「U世! そんな言い方はないでしょう、
 仲間に対して。」と嗜めるミート。「だってホントのことじゃん?」と万太郎。
 「ったく・・・」と、ミートは今だ試合が続くAリングを見た。コーナー脇に立て掛けられた、ザ・ファルコが携帯していた刀剣。
 試合では使わないらしく、剣の柄の部分にはやはり彼が連れてきた白い鷹が止まっている。ミートは、鷹を連れた超人という点が
 どうにも気になっていたが、ザ・ファルコはその鷹も試合では使わないようだった。
 ジャイロは、右手首に付けられた二つのカッターで勝負をつけようとしているが、対戦相手の、白いヘルメット型の覆面で顔を
 覆うザ・ファルコはかなりの身軽さを誇り、ジャイロを寄せ付けない。相手のペースに飲まれそうになり、それが長時間続いて
 相当焦りを感じているだろうジャイロだが、まだ相手に屈していない忍耐力は賞賛に値するものだった。
 彼を見やるザ・ファルコは、突如フライングヘッドシザーズを仕掛けてジャイロをマットに倒す。続けてコーナーポストに強烈な
 蹴りを放ち4つに断ち割ると、それを抱えて舞い上がった。
 「マリポーサ・バインディング!」ザ・ファルコは4つの断ち割れたコーナーポストをジャイロ目掛け投げつける。
 「! ぐわぁっ!!」ジャイロの両手両足が刺し貫かれた。 「!!」ミートは驚愕に目を見張る。(あれは・・・ あの技は・・・!)
 ジャイロの側に舞い降り、彼に近付いてザ・ファルコは声をかける。
 「まだ、続けますか?」 ジャイロを見据える、黄金の目。 「ぐうぅ・・・ ま、参った・・・」 
 試合終了のゴングが鳴らされた。

 試合終了と同時に、ファルコは自らジャイロに突き刺さった4つの破片を抜き取った。
 「痛い思いをさせてすみません。」超人同士の試合で滅多に聞かない台詞と行為に、ジャイロは目を丸くした。「貴方はとても
 気骨のある方です。同時に状況判断にも優れていらっしゃるようです。私の技を喰らって悔しかったでしょうが、続け様がないと
 正しい判断をされましたね。これからも九州地方防衛を頑張られてください。」 「・・・そう言ってもらえると光栄だな・・・ 
 握手してくれるか、ザ・ファルコ。」
 「ええ。」場内から、拍手が沸き起こった。

 剣を携え、肩に鷹を止まらせてリングを降りたザ・ファルコの所に、ミートは駆け寄った。
 「"秘技・鉄杭縛り"・・・名前は違っても確かにあの技でした。ザ・ファルコ。 貴方はもしかして・・・ キン肉マンマリポーサの
 関係者ですか!?」 ファルコはミートを見る。 「誰それ、ミート?」続いてやって来た万太郎が言う。「U世! スグル様に
 聞かなかったんですか! 王位争奪戦に参加した、5人の運命の王子の一人ですよ!」「あ〜、そう言えば聞いたことあるような。」 
 「全く! キン肉族の王子なのにそんな重大なことを知らないなんて! とにかくどうなんです、ザ・ファルコ?」 
 彼は答えた。「キン肉マンマリポーサは私の師父です。」 「やっぱり・・・! マリポーサも弟子の貴方にU世を倒させ、復讐を
 果たそうとしているのですか!?」「性急に決め付けないでください。」とファルコ。
 「師父マリポーサは、母亡き後寄る辺のない私を育て、超人の習いとして格闘技を教えてくださっただけのことです。あの方は
 復讐など考えていません。」 「・・・」ミートは、ファルコの肩の鷹を見る。
 「それならいいんですけど・・・ もう一つ聞かせてください。試合には使っていませんでしたが、その鷹・・・僕はかつて、鷹を
 使って戦う超人を見たことがあります。王位争奪戦で、マリポーサの部下でしたが・・・ 貴方はもしかして、ザ・ホークマンの・・・」
 ファルコはふっと目を逸らした。 「確かに、ザ・ホークマンは私の実父です。ですがその復讐など、私はなおさら考えていません。」 
 「どういうことですか?」とミート。顔を向けるファルコ。
 「あの男は、私にとって母の仇だからです。」 「・・・・」 「アレキサンドリア・ミートさん・・・でしたね。貴方が心配される
 ことはありません。私は何の私怨もなく、ただの一超人レスラーとしてキン肉万太郎さんと戦うだけです。」
 「なあんだそうなの! なんか今まで、爺ちゃんの仇とか仲間の恨みとか、僕には関係ないのにケンカ吹っかけてくる迷惑な奴が
 多かったからさ、お前みたいにサッパリしてる奴はありがたいな! 次の試合、せいぜい宜しくねんc」と万太郎は声をかけた。
 「・・・こちらこそよろしくお願いします、万太郎さん。では私は控え室に戻りますので。」背を向けたファルコに、ミートは声を
 かけた。「あの、最後に一つ・・・・ 貴方の父親のホークマンは、健在なんですか?」
 背を向けたまま、ファルコは答える。「父は28年前に死にました。」 「!?」ミートは目を見張った。

 (A・Bリング共に決着がついたか・・・) 巡回から戻ったジェイドは、リングをチラリと見やる。休憩の後、勝ち残った
 ゲスト超人2名が万太郎と戦うことに決定していた。
 (スカーと・・・ あのホルスという奴が乱入してくるなら、まず間違いなく万太郎の試合だろう。)
 「ジェイド。」声をかけられその方を向くと、師匠ブロッケンJrが立っていた。
 「レーラァ!」 「スカーフェイス・・・いや、マルスがまた現れたそうだな。」 「ええ・・・おそらく万太郎と戦う狙いで、彼の
 試合に乱入するつもりだと思われます。」ジェイドは師匠に言う。
 「厄介な話だ。」ブロッケンJrはリングの方を見た。 「それとレーラァ・・・ 実は乱入を宣告した超人は一人ではないんです。」 
 「それも運営委員に聞いてきた。ホルスと名乗っていたそうだが。」
 「私も会いました。レーラァを知っている様子でしたが・・・」 「どんな奴だった、ジェイド。」
 ジェイドは答える。「古代エジプトの壁画のようなスタイルでした。黒髪に黄色い目の・・・」
 「何歳ぐらいに見えた?」 「はっきりとはわかりません。でも、わりと若い超人だったようです。身長は、私とスカーの中間
 ぐらいでしたが・・・」 「では、私が会ったことのある超人とは別人だな。あの頃確か14歳だったから、今では40代になっている
 筈だ。瞳の色も黒かったし・・・」
 ―――(貴方は、王位争奪戦後28年間、年を取らなかった超人の話を聞いたことがありますか?)
 再びシャルロの言葉を思い出したジェイドは、師匠に問う。
 「レーラァ・・・レーラァがご存知のその超人とは、どんな奴だったのですか?」 「『天帝鳥人』という、非常に稀少な超人族の
 血を引く少年だった。お前に話したことはなかったが・・・ 天帝鳥人は変身能力に優れた超人で、特定の超人に仕えその最も適した
 武器となって戦う。私が会ったホルスという少年は、腹違いの兄のため鷹に化身して戦っていた。」
 「鷹に・・・」 先程出会ったホルスは、頭上の鳥を"ネクベト"と呼んでいた。どこかで読んだ、エジプト神話に関する記憶を
 ジェイドは辿る。ホルスは・・・ 鷹もしくは隼の頭を持つ天空の神の名。一説にはその右目が太陽、左眼が月と言われる。
 ネクベトは禿鷲の女神の名で、それを模した冠をつけることは王妃にしか許されなかったという。
 「レーラァ・・・ そのホルスの兄というのは?」「かつてキン肉スグルが、王位争奪戦で一番最初に戦った超人、ザ・ホークマンだ。」
 鷹の男・・・ 偶然にしては出来すぎている。レーラァが語ったホルスと、先程出会ったホルスとは・・・ まさか同一人物なのか?
 そしてシャルロの言っていた、28年間年を取らなかったという超人。 (一体、どういうことなんだ・・・) とジェイドは
 思いながら、再びリングを見た。
 そこでは万太郎と、ガゼルマンを破ったダーク・バラバの試合が行われようとしている。

 「うわ、イヤだな・・・ ラフファイターなんて、感じが悪いよ。」リングで相対しながら万太郎は言う。ダーク・バラバは質の悪い
 笑みを浮かべて万太郎を見た。どう甚振ってやろうか、と言わんばかりの表情だ。
 (凛子ちゃんが、カワイイ子一杯連れて応援に来てくれてるハズなんだけど。一発マンタローコールでもやってくれたら、こんな
 奴あっとゆー間にヒネってやるんだけどなぁ。)そう思いながら間合いを図っていた時だった。
 「フフフフ・・・」突如、間近で聞こえた笑い声に、万太郎とダーク・バラバは共にギョッとして周囲を見渡す。リングの外の観客も
 ざわつき出した。 「お前、そのマスク・・・ ブッサイクだな。お前の親父もそうだったけど・・・ なんでキン肉族って、わざわざ
 カッコ悪いマスクつけるんだ?」
 コーナーポストの上に、黄金の目の、黒いお河童頭の人物が腰掛けて、笑っていた。


To be continued