花の翼   

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◆ 花の翼

 {父と母の祈り。}

 「ほう・・・・ この俺に一撃入れるとは大したもんだ。」 ヘルメット型の仮面で顔を覆った超人は荒い息をつきつつ、マルスを
 見やった。鋭く威嚇の声を上げる白い鳥。
 「ま、ジェイドクラスの実力はあると認めてやるよ。」マルスは彼の目を見てフン、とせせら笑う。
 「俺はお前の持ってるオモチャになんぞ興味はないがな。」地面に突き立てられた一本の剣。
 「それが超人界に騒動起こしてくれるってんなら・・・ 歓迎するぜ。 行きな!」顎で指図するマルス。
 その超人は、マルスに火傷を負わされた肩を押さえる。 「日本に行くことになってんだろ、テメェ。直また会うことになる。」
 マルスは冷笑を浮かべた。

 ドイツの首都ベルリン。 ジェイドは、馴染みの肉屋で買い物をしていた。
 「でもボウヤも大変だねぇ。また日本くんだりまで行かなきゃならないのかい?」と、おかみのヘルガ。
 ジェイドは今ヘルガに、近く日本で先輩の一期生たちが、超人委員会が世界から集めたヘラクレスファクトリー所属以外の
 超人たちと親善試合を行い、二期生の自分たちもゲストとして招待されたことを告げた所だった。
 「それも、別にボウヤがする試合じゃないってのに。 ハイ、このソーセージおまけしとくよ!」
 「おかみさん、いいよ! そんないつも気を使ってもらっちゃ・・・」ジェイドは断ろうとした。
 「相変らず固いね、ボウヤは! それじゃ、これは"旅人さんの分"だと思っときな!」 「え?」
 「何でもね、聞いた話だと中国じゃあ、"旅人が宿を頼みに来るかもしれない"って御飯を余分に作る風習があったんだそうだよ。
 そういうことにしときなよ、ボウヤ。」 ジェイドはヘルガに微笑んだ。
 「あの!貴方は超人の方ですね?」突然ジェイドの隣で、凛とした声が響いた。
 「えっ!?」ヘルガが驚きの声をあげ、ジェイドも唖然として声のした方に顔を向ける。超人の自分に、気配も感じさせず
 近寄ってきたとは。
 そこに居たのは、可憐な顔つきの少年だった。黒く澄んだ大きな瞳。淡い栗色の断髪。背中に、1m少々の長さがありそうな筒を
 下げている。「突然すみません。兄が・・・ この少し先の道で気分を悪くして動けなくなりました。今通りすがりの方が介抱して
 くださってますが、状態がよくわからないそうです。助けていただけませんか?」少年は言った。 「おかみさん・・・ 悪いけど、
 これちょっと預かってもらえないかな?」とジェイド。 「わかったよ、行っといでボウヤ。」 ヘルガは答えた。

 その青年超人を介抱していたのは、出かけた帰り道に偶然彼らと遭遇した肉屋の主人だった。ジェイドは少年と共に小走りに
 近付く。「おお、ジェイド!」 「あ、肉屋のおじさん!」
 途端に、家の壁に寄りかかっていた青年超人と、その弟と名乗った少年の表情に変化が表れた。明らかに、驚きの感情が彼らの
 顔に浮かぶ。ジェイドはそれを見逃さなかったが、まずは青年と肉屋の主人の所に駆けつけた。 「大丈夫なのか?」と声を
 かけて青年を覗き込む。
 殆ど、銀色と言っていいほどの細いプラチナブロンドの髪は、背中近くまで流れている。細面に、印象的な金色の目。顔には
 脂汗が滲んでいた。 「熱があるのか?」とジェイド。 青年はジェイドを見た。その時、上着からチラリと何かが覗く。
 「!?」妙に見覚えのある・・・模様。ジェイドは、「失礼!」と声をかけると、その部分の上着を捲ってみた。 「!」
 ジェイドは驚愕する。青年の肩の部分に、赤く浮かんでいた模様は、スカーフェイスこと悪行超人マルスの胸のそれと同じものだった。

 「マルス・・・ 彼はマルスと言うのですか。」ブロッケンJrの屋敷で、シャルロと名乗った青年超人は呟いた。 「元dMpの
 メンバーで、一時正義超人スカーフェイスとして潜り込んでいた男だ。君は・・・ スカーと遭遇したのか。」 「彼は私に一撃を
 受けた時あなたの名を出しました。」とシャルロは言う。 傍らに立つ、シャルロが「弟のジャンです。」と紹介した少年。
 「でも幸運な偶然でした。我々はブロッケンJr氏に会う為ドイツに来たのですが、あの超人の情報も得ることができたというのは。」
 「レーラァに? 一体どんな用で?」 「聞きたいことがあったのです。」
 「レーラァは今、近日日本で行われる正義超人親善試合の準備に呼ばれて、日本に行っているんだ。」ジェイドはシャルロに言った。 
 「そうですか。仕方がないですね。」 そこでシャルロは苦しげに顔を歪めた。
 「一応、解熱用の超人内用薬を服用してもらえばいいが、俺には詳しくわからないから、明日ベルリン超人病院に行こう。今夜は
 ここで休んでくれ。」 「ありがとうございます。」シャルロは目を伏せる。
 「えっと、ジャン・・・ 君には隣の部屋を用意するから・・・」 「ジェイドさん。」ジャンはジェイドに顔を向けて言った。
 「兄と同じ部屋にしてもらえませんか。」 「・・・いいけど。」
 仲のいい兄弟なんだな。 その時ジェイドはそう思った。

 (スカーは・・・ 何故あのシャルロという超人を襲ったんだ?) 何故襲われたかの心あたりについては、兄弟はないと答え何も
 語らなかった。 シャルロの肩に残ったマルスのマークについては、戦いの最中にマルスに掴み上げられ彼の超人パワーが
 放射する熱でダメージを受けた、おそらくその時につけられたものだろう。マルスが意味も無くそんな真似をするとは思えない。
 襲っておきながら、結果的には無事にシャルロを解放したのには・・・ どんな理由があるのか。 だが、それについて兄弟は
 明らかに語りたくないようである。 (聞き出すべきなのか、そうしない方がいいのか。)ジェイドは迷っていた。
 (おかみさんが言ったように・・・ ソーセージは、旅人さんの分になったな。)クスリと笑うジェイド。台所で今日の後片付けを
 終え、寝支度をしようとヘルメットを取った時だった。
 「ジェイドさん」ノックと共に、多少ふらつきながらシャルロが入ってきた。最初はジェイドの方を見ずに、「やはり・・・聞くだけは
 聞きます。貴方はブロッケンJr氏から聞いたことはありませんか、・・・・ !」
 シャルロはジェイドを見て。驚愕に目を見張った。 「・・・どうしたんだ?」戸惑いながら尋ねるジェイドに、シャルロは目を
 見張ったまま近付いていく。 「??」ジェイドはどう反応していいかわからないままシャルロを見る。ジェイドの目の前まで
 来ると、シャルロはジェイドの金髪に指を触れた。「!?」一瞬離れようとしたジェイドは、シャルロの目を見て動きを止める。 
 哀しみ。 彼の目はその時、深い・・・深い哀しみに満ちていた。 シャルロはジェイドの柔らかな金髪を弄びながら、ポツリと
 呟いた。「 ・・・ママン(母さん)。 」
 「なっ、なん・・・!」ジェイドは思わず飛びのく。シャルロはハッとしてジェイドを見た。
 「すっ、すまない」一言詫びの言葉を残し、シャルロは逃げるように台所を出て行く。 後に残ったジェイドは、「ママン? 
 何故俺が??」混乱と軽い怒りを覚えていた。

 その深夜、ジェイドは自分の部屋で何となく目を醒ました。先程シャルロが取った不可解な行動を思い出す。不愉快な思いをしたが、
 彼のあの哀しみに満ちた瞳を思い出すとそれも消える。 
 (母親を・・・ 亡くしたのだろうか。) 
 大切な人を無残にも失う哀しみ。 ―――だとしたら、それは自分にも覚えのあるもの。

 「うわぁぁぁぁア!!」その絶叫を聞いてジェイドは飛び起きた。「何だっ!?」次の瞬間見当がついた。今のはシャルロの声だ。
 ジェイドはベッドから飛び出し、ドアを開けてシャルロがいる部屋へと向う。
 「おいっ、どう、」泣き声が響く中ドアを開けたジェイドは、目に飛び込んできたものに驚愕し、次の瞬間にはドアを閉じていた。
 「な・・・ なっ・・・」 たった今見たものに混乱するジェイド。
 ぼんやりと月明かりに浮かんだ光景とはいえ、間違いようはなかった。ベッドに身を起こし、絶叫するシャルロを抱き締めていた
 白い体。 黒く長い髪、そして細っそりとした上体には、まだ幼く成長しきっていない、蕾のような二つのふくらみ。
 (おっ・・・ お、女の子??) ジェイドがドアを開けたと同時にその少女は顔を向けたが、
 可憐な顔立ちと、黒く澄んだ大きな瞳。 (あれは・・・ ジャン!?)夕刻、シャルロが「弟です」と紹介した少年と、今の少女は
 明らかに同一人物だった。 (い、一体、どういう・・・)

 「メトル(=MASTER)。」鈴を鳴らすような、優しい少女の声。「母さん・・・母さ・・・」嗚咽するシャルロ。
 「メトル。ジャネットはここにいます。メトルと一緒にいます。 落ち着いて、ください・・・」少女の声が穏やかに語りかけている。
 「う、うぅ・・・」青年の嗚咽。 しばらくの沈黙。 「すまない、ジャネット・・・」シャルロは擦れた声で少女に呼びかけた。 
 「あの夢・・・ しばらく見なかったのに。」 「メトル。」 「母さんが・・・ 血に染まって。僕の目の中も・・・ 辺り一面も・・・ 
 真っ赤、で・・・」
 ドアの外にいたジェイドは、思わず二人の会話に耳を欹てていた。やはりシャルロは、過去に母を亡くしていたのか・・・。 
 それも目の前で。惨い死に方で。
 ・・・・おじさんと、おばさんと、同じように。・・・・

 「こんなにハッキリと・・・ 最近は思い出さなかったのに。 彼が・・・ 母と似てたからかな。」とシャルロ。
 「それは、・・・ジェイドさんのことですか?」と、ジャネットという名の少女。「ふふ・・・ 容姿が似てたわけじゃないさ。 
 さっき、彼に例のことを・・・ もしかして聞いていないかと尋ねにいって・・・ 彼はヘルメットを取っていた。あの金髪が・・・ 
 母さんととてもよく似てた。」
 (・・・ そうだったのか。)ジェイドは納得したが同時に思う。それにしても、尋常な様子ではなかった。
 「ジャネット・・・ お前に母のことは、話してなかったな・・・」 「はい。メトルにはお聞きしてませんが、師父が何度か話して
 くださいました。」 「師父が・・・ そうか。 母があいつに殺された時・・・ 私はまだ1歳を少し過ぎた赤ん坊だった。 なのに
 母のことを覚えていると言ったら・・・ お前は、嘘だと思うか?」 「いいえ。メトルがおっしゃるのだからそうでしょう。」
 ジャネットは言う。
 「・・・母は、いつも快活な人だった。あいつを・・・父を訪ねて行く旅の最中に言ったことを今でも覚えている。『シャルロ。
 これからあんたの父さんに会いに行くよ。』いつも、会う人全てをほっとさせる笑い方をしている人だった。その頃の私には、
 世界の良いもの全てに思えた。『どんな人だと思う? イヤな奴なんだ、これが! 高飛車で自分勝手で、世界に自分より偉い
 奴はいないって思ってるんだよ。お前のことも、嫌な顔するかもしれないね?』母は私を覗き込んだ。あの明るい笑顔で。
 『でもシャルロ。お前の父さんは、世界で一番大事なことをちゃんと知ってるよ。愛する、ってこと。本気で愛するっていう、
 大切なことをね。お前も、父さんをヤな奴って嫌うかもしれないけど、そのことだけは忘れないで。』
 ・・・・嘘だ! 奴は、奴はそう言った母を殺した。私の目の前で殺した・・・! 今でも耐えられなくなる・・・あいつの血を引くことが、
 あいつの名を継いでいることが耐えられなくなる!」
 「メトル。」ジャネットの声。「師父に聞いています。メトルの母上は、父上の本名・・・呼んでいたのはその母上、メトルの祖母に
 当たる方だけだったそうですが・・・シャルルに因んでメトルを、小シャルルを意味するシャルロと名づけたのだと。」 
 「それは母のくれた名前・・・ だから耐えられる・・・ でも超人としての名まで、あいつを継がなければならないのか・・・ 私は
 師父に、師父の名を継がせてくださいとお願いしたのに・・・」 ジャネットはシャルロに言った。「師父は、メトルに一族の名を
 継いで生きろとおっしゃいました。メトルと共に戦う宿命の私にとっても、一族の名は継がねばならないものです。」
 「・・・・」沈黙の後シャルロは言う。「ジャネット。お前はそれで満足か?」 「え?」
 「お前は生まれた時から13年間、厳しい修行に耐え、かつずっと私に仕えてくれた。だが世の中には、あのマルスのような・・・ 
 恐るべき超人が沢山いる。彼はあの時、全く本気ではなかった。もしその気なら、私を屠るなど容易いことだったろう。
 そうなっていたら、お前は彼と戦い、やはり屠られてしまっていたかもしれない・・・ 私といる限り、お前はそんな危険に数限り
 なく巻き込まれてしまうんだ・・・」

 成り行きで彼らの会話を立ち聞きすることになってしまったジェイドは、その凄惨な内容に呆然としていた。シャルロの母は、
 シャルロの目の前で父に殺された。それを赤ん坊だったシャルロは覚えていると言うのだ。あの時の尋常でない様子も・・・ 今は
 納得できる。彼は今でも、その悪夢の光景に悩まされ続けている。そしてシャルロは、マルスの・・・ スカーの名を出した。 
 自分といる限りジャネットに安息はないと、彼は少女を気遣っている。 (・・・・・)ジェイドは、あの日のことを思い出していた。

 ―――「だから困るんだよ! この国には人間だけ住めばいいんだ! 同じ人間でも、最近ではトルコとかからわんさかやって
 来て我々の仕事を奪ってるというのに、この上得体のしれない力を持ってる超人なんかいたんじゃ、やっていけないじゃないか! 
 どういうつもりなんだい、あんた達!」
 ドアの外で、誰かがそう怒鳴っていた。おじさんとおばさんが、その誰かの・・・ いや、何人かの相手をしている。幼いジェイドは、
 もし彼らがおじさんとおばさんに危害を加えるなら、すぐ飛び出すつもりで様子を窺っていた。
 「皆さん。あの子はいい子なんです。決して皆さんがさっきからおっしゃっているような、人を困らせたり危害を加えるような
 子ではありません。自分の力の使い方も、ちゃんとわかっています。ですから、あの子を追い出そうとするのは止めてください。
 あの子には、他に行き場がないんです。」おばさんは、彼らにそう言った。「わかるもんか! 超人なんてのは、殺しを楽しむ
 狂人揃いなんだろう! あのチビがそうならない保証がどこにあるって言うんだ!」 「超人全部がそうじゃないですよ。人間の
 中にも、今あんたが言ったような手合いがいることもあるのと同じです。うちのジェイドは、本当にいい子なんだ。あんた方に、
 出て行けという権利はないですよ。」おじさんが言う。 「とにかく、お引取りください。あの子があなた方に、具体的に迷惑を
 かけたわけではないのでしょう? 万一そんなことになったら、その時はどんなお叱りでも受けます。」おばさんが続けた。
 その後しばらくの言い合いの末、「超人のチビなんか住まわせてたら、ロクなことにならんぞ!」と彼らは捨て台詞を吐いて
 去って行った。
 「まあ、ジェイド、まだ起きてたの? 明日も学校なんだから、早く寝ないと。」おばさんは様子を見ていたジェイドに言った。
 小さなジェイドは顔を伏せていたが、顔をあげておばさんとおじさんに言う。
 「おじさん、おばさん・・・ 僕、ここを出て行った方がいいの?」 「・・・! まあ! どうしてそんなことを言うの、ジェイド?」
 おばさんはジェイドの前に膝まづき、おじさんも心配そうに見る。
 「だってさっきの人たち・・・ 僕のことでおばさんたちに文句を言ってたんでしょう? 僕がいなくなったら、もう何も言って
 こないよね?」 「ジェイド・・・」 「僕は超人で・・・ 他の、普通の人間の子たちと違う力を持ってる・・・ あの人たちが言った
 みたいに・・・ なっちゃうかもしれない。」
 「何言ってるんだ! ジェイドは自分の力に負けるような弱い子じゃないだろ?」おじさんが言う。
 そしておばさんは、ジェイドを優しく抱き締めた。「ジェイド。そんな悲しいこと言わないで。ジェイドがいなくなったら、
 私たち悲しくて生きていけない。」 「・・・おばさん。」 おじさんはジェイドを覗き込んだ。「そうだぞ、ジェイド! お前は
 私らの宝物なんだ。 どこにも代わりなんていないんだ。」
 「おじさん・・・」 「さっきの人たちのことは気にしないで。ジェイドのことを知りもしないで、知ろうともしないで、ありも
 しない心配をしている可哀相な人たちなの。いつかあの人達も、自分たちが間違っていることがわかるわ。」 「・・・・」
 おばさんを抱き締め返したジェイドの、ぎゅっと閉じた目から涙が零れ落ちた。「だから、ジェイドは何も気にしないで。貴方が
 超人なのは貴方のせいじゃない。ジェイドはジェイドなんだから、自分らしくしっかり生きていきなさい。ね?」 「うん・・・」
 ジェイドは、涙声で答えた。

 ――― ジェイドの耳に入ってきた、少女の声。 「メトル。私は貴方のために生まれ、貴方と共に生きてきました。これからも、
 貴方と共に生きます。」鈴を鳴らすような声。はっきりとした言葉。
 「貴方のために生きます。そして、貴方のために死にます。」その声には、何の迷いもなかった。
 「私が決めたことです。だから誰にも邪魔はできません。例えメトルでも、私の意志を変えることはできません。」
 しばらくして、シャルロが言った。 「・・・・メルシィビヤン(ありがとう)、ジャネット。」
 ジェイドは、自分よりも幼い少女の意志の強さに心打たれ、ドアの外に立ち尽くしていた。

 次の日の朝。部屋を出たジャン・・・ことジャネット・・・と入れ違いに入ったジェイドは、シャルロの前に頭を下げた。「すまない!」
 「?」不思議そうなシャルロ。 「そんな気はなかったが・・・ 夕べ結果的に、君たちの話を立ち聞きしてしまった。」 青年は、
 僅かに微笑みを浮かべた。「ジャネットが・・・ 夕べ貴方に見られてしまったと言っていましたが。」 「あの・・・ 不躾だけど、
 どうしてあの子は男の格好をしているんだ?」 「ジャネットは私の戦いのパートナーではありますが、リング上の試合の
 パートナーではありません。 リング以外の場所で戦う時、少女だからと侮られることが大半です。ジャネットはそれを嫌って、
 普段は少年として振舞っています。」 それはわかったが、もう一つ聞きたいことがあった。
 だがこちらはおいそれと口にできない。(・・・なんで、あの子は夕べ裸だったんだ!?)
 妙にそわそわしているジェイドを見て、シャルロは微笑して言う。 「夕べのジャネットのことですが・・・私は時々、体温がかなり
 低くなることがあります。体質なのですけれど。そういう時ジャネットに暖めてもらっています。」 「・・・・。」それにしても
 刺激が強かったぞ、ジェイドはそう言いたかった。
 「とにかく、今日は超人病院に行こう。支度してくれるか?」 「わかりました。お世話をかけます、ジェイド。」シャルロは
 言った。 「あ、そうだ。君が夕べ聞きたかったことというのは?」ジェイドはシャルロに尋ねる。 彼は一瞬沈黙し、考えを
 巡らせていたがこう言った。「貴方は・・・ 伝説超人時代の王位争奪戦終了後、28年間年をとらなかった超人の話を聞いたことが
 ありますか?」
 唖然とするジェイド。「?? ・・・何だそれは? 一体・・・」 
 「ご存知ないのですね。では結構です。関わらない方がいいのですから。」シャルロはそう言った。

 数日後、日本。いよいよヘラクレスファクトリー第一期生親善試合の開催日である。
 「委員会が呼び寄せた超人は2名・・・ 一人はダーク・バラバ、もう一人はザ・ファルコという奴だそうだ。」
 クリオネマンはジェイドに言った。 「で、試合の方はアホの万太郎先輩をシード選手にして、後の8人で勝ち抜き試合、
 最終勝者二人がその二人と対戦して、勝ち残りが万太郎と戦うんだとさ。」デッドシグナルが続けて言う。「すると万太郎は
 連続2試合戦うことになるのか?」ジェイドは尋ねた。 「dMp壊滅の功労者、入れ替え戦の制覇者である強豪の万太郎だから、
 そうした方が面白いという決定だったそうだが・・・」とクリオネマン。デッドシグナルが口を挟んだ。「要は、大会委員長が
 万太郎を好かんからっつう個人的感情で、そーゆームチャくさい組み合わせになったってウワサだぜ。」
 (・・・ 本当なら正に独裁者だ。 それでいいのか?)ジェイドは思った。
 「まー、オレたちは見てるだけだから何でもかまやしねぇが。あ、そうだ、今回は特別ルールで、試合はリング内で行われるが
 特にプロレス技に拘らなくてもいいんだと。」とデッド。
 「デッド、見ているだけでいいのでもないぞ。招待された選手との試合で、我々は特別ゲストとして解説を任されることに
 なるんだ。」クリオネマンが言う。 「マジか!? そいつはいい! この機会に交通規則の重要さを広く観客に訴えよう!!」 
 ジェイドとクリオネマンは顔を見合わせる。

 その時ジェイドは、会場入り口の影に一人の男を見た。彼はニヤリと笑った。
 (・・・! スカー!!) マルスの姿はふっと消える。ジェイドは立ち上がった。「どうした、ジェイド?」
 とクリオネマン。「控え室に忘れ物だ!」ジェイドは答えると、マルスの姿が消えた入り口目掛けて走り出した。

 マルスの姿を追って駆け出したジェイド。人気のない廊下に差し掛かって周囲を見渡すと、壁に小さく付けられた赤いマーク。
 マルスの胸のそれと同じもの。
 明らかに、彼はジェイドに誘いをかけていた。 (地下・・・) ボイラー室へと向う階段にジェイドは目を向ける。 
 (今度は・・・ 何を企んでいるんだ、スカー!)ジェイドは階段を駆け下りて行った。

 その様子を隠れて見ている人物がいた。 「あいつがジェイドか。 よく似てるよ、な? ネクベト。」
 残酷な薄笑いがその顔に浮かんだ。 「ああ、お前は知らなかったよな? ネクベト。」唇は、刃物のように歪められた。

 続劇

鷹覇様の連載小説第4弾です〜〜!!今回は初のオリジナルキャラクターを登場させるということで、私も
たいへん楽しみにしていました〜〜!また、違った感じで楽しめそうですね!・・・まだまだ冒頭のようなので
私がここであれこれ解説(??)するのも不躾ですから、しばし続きを楽しみに待ちましょ・・ふふ。(Noriko)