赤の王様が見た夢3   

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◆ 赤の王様が見た夢3

夢を見たのはどっち?

 チェックメイトはジェイドの顎を掴む手を放す。 ジェイドは飛びのき身構えようとしたが、途端に体がぐらついた。 
 「なっ・・・?」眩暈が起こり、足に力が入らない。
 それを眺めやるチェックメイトは、両肩に手をやった。その上のそれぞれのパーツ・・・ナイト(騎士)とルーク(城)の根元の
 『ピースチェンジ』用のスイッチを、彼は同時に押した。
 「アルティメット・チェスピースチェンジ、グランドスラム!」
 チェス駒(ピース)のマークが配置された、美しく強固な鎧に全身が包まれ、下半身はケンタウロス(半人半馬)のそれとなる。
 頭は、右側が元のもの、左側がユニコーン型のナイト(騎士)のものだった。
 「血括りの窓!」チェックメイトの体に、突如3つの空洞が開く。それがジェイドの、力を失った両腕と両足を吸い込んだ。
 途端に空洞は閉じ、ジェイドの両腕と両足は挟み込まれる。
 「うあ・・・」 「これが、私の体で行う窓簾です。」チェックメイトは、自分の胸の前にあるジェイドの頭に囁きかける。 
 「さてと、そろそろでしょうか。」 「??」訳がわからずにいたジェイドは、「くあぁっッ!?」 突然体を突き抜けた衝撃に
 声をあげた。

 「はぁ・・・ はうっ!!」 窓簾に自由を奪われたままジェイドはもがき、喘ぐ。金髪が激しく揺れる。 彼自身の器官を中心に、
 全身を焼いていく・・・・ 強烈な快感。
 「あ・・・ かはぁっっ !」身体の奥底から、容赦なく突き上げてくる。
 「くうぅ!」 ジェイドは乱れる。 思考も意識も既に消し飛んだ。今のジェイドはただ、淫らなうねりに飲み込まれ、流されて
 身悶えるだけだった。 あまりに身を捩るために、窓簾に縛められた手袋と両腕の皮が裂け、またしても血が流れ出す。
 「ふふ・・・ なるほど、効くものですね。」 ジェイドの淫靡な狂態を間近で見つめ、その悶えを体で直に感じているチェックメイトは、
 笑みを浮かべつつポーン(兵士)を摘み上げた。
 激しく蠢くジェイドの胸に手をかけると、突然上着を引き裂く。金色のボタンが弾け飛んだ。
 一文字に傷の残る白い胸板と、引き締まった腹部が露出する。なおも動きに激しさが増すジェイドの体・・・ 興奮に、ほんのりと
 桜の色に染まっていく白い肌。 首から胸へ、胸から腹部へと・・・チェックメイトはポーンの丸い頭部を肌に密着させ、滑らせていく。
 数回繰り返すと、一点で止まった。白い腹部の上で。
 「ではそろそろ、」チェックメイトは言う。「感じさせてあげましょう。」
 「!!!」 腹部に、ポーンがのめり込み、ズブズブと内側へと入り込んでいく。続いてチェックメイトの手も入ってきた。

 「あっ・・・・ギャッ・・・ あああああ!!」絶叫するジェイド。
 体の内側が・・・掻き回されている。「ひっ・・・ ひぅ、ああアッ!!」 涙と唾液に、ぐちゃぐちゃに濡れている顔、既に焦点の
 定まらぬ瞳。 動いてはいけない・・・ ごく微かに残っている意識がそう告げる、だが次の瞬間、うねりとなって押し寄せた快楽と
 苦痛に飲まれそれも消し飛ぶ。
 「あ・・・ アア・・・ うあああ!」全身が絶頂へと登りつめていく。ジェイドは叫んでいた。
 「スカーぁっ!!」

 ジェイドは果てた。首をがっくりと落とした、壊れた人形のような姿。チェックメイトは、ジェイドの腹部から右手と、そこに
 掴まれたポーンを引き抜く。「どうです? 気持ちいいでしょう。」
 彼の手も、ポーンも、ぬらぬらと血に濡れていた。
 「わかりましたよ。成る程、そういうことでしたか・・・」ジェイドを見下ろしながら呟くチェックメイト。
 血塗れのポーンを、目の前に持ってくると翳す。
 「マルスは、貴方の最初の男だったわけですね?」ヌルヌルとした血に彩られた、艶やかな黒のポーン。
 「貴方の意志ですか? それとも、マルスの方から?」とチェックメイトはジェイドに語りかける。
 何の言葉も返ってはこない。 「答えられませんか? ホホ・・・ 先程私に無礼な言葉を吐いた罰に、内臓を握り潰してやろうかと
 思いましたが止めておきました。安心なさい。内臓や骨は損傷していませんからね。血管は何本か破れたでしょうが・・・」
 チェックメイトは血塗れのポーンを振る。首を落としているジェイドの、剥き出しにされた白い腹部一面に、内出血の痕が紫の
 紋様となって残っていた。
 「次元を操るというのは、時空間だけに限ったことではありません。人間や超人の体にも・・・ このように、何の器具も武器も
 使わず入り込むことができます。相手を内側から破壊するかしないかも、こちらの自由というわけです。」 ポーンを見ながら
 言葉を続けるチェックメイト。
 「先程、貴方に飲ませたものですが・・・ サンシャイン・ヘッドが持っていた魔界の劇薬です。魔界では俗称『乙女の死』と
 呼ばれているそうです。」 がくりと項垂れているジェイドは、何の反応も示さない。
 「この薬は・・・ 脳の快感を司る神経を直に刺激する。あまりに強烈なので・・・ 性体験のない者はショック死してしまうとか。 
 魔界では、そのことを利用して暗殺に使われるか、もしくは刺激の欲しい連中が媚薬として・・・というのが一般的な利用法だそうですが、
 前者の場合盛られた者は激烈な快感のうちに悶え死に、後者では量の調節を誤って死に至る者が多いそうです。・・ 面白いと
 思いませんか?」
 チェックメイトは、手にしていた血塗れのポーンを突如投げ捨てた。次元の床に転がるポーン。
 「最後の質問の答えも得ましたし・・・ もう終わりにしましょうか。」

 チェックメイトの胸の上部を突き抜ける衝撃。一瞬、グランドスラムで頑丈になった体にも揺れが走った。彼は胸に目をやる。
 血塗れになっている、大きな逞しい手が見えた。その手は、力を失っているジェイドの、右手首をがっしりと掴んだ。
 「王手、だな。」低い声が呟く。 「・・・本当にタイミングよく現れますね、貴方は。」振り向かずにチェックメイトは呟いた。
 振り向かずとも、鋭い視線は彼に突き刺さっているのがわかる。
 「文字通りチェックメイト―― "王様(キング)に死を"ってワケだ。」冷たい目をしたマルスが言った。

 「確かに、私の名でもあるチェックメイトの言葉の語源は、ペルシャ語のシャー(皇帝、王の中の王)とマート・・・"追い詰める"に
 あると言われていますが。」 平然と言うチェックメイト。
 マルスはジェイドの右手首を掴んだまま、窓簾を破壊した。同時にジェイドの両足を縛めていた窓簾が開いて足を解放する。
 投げ出されたジェイドの体。マルスは右手首を掴んだままで、ぐったりとしているジェイドを見下ろす。
 「情けねぇザマだな・・・」呟くマルス。「根性見せてみなよ、ジェイド。俺と戦った時のように。」
 「ス・・・カー・・・」ジェイドはようやくのことで顔をあげ、マルスを認めると擦れた声で呟いた。
 マルスは、手首を掴んだままジェイドの体をグイと引き起こした。そのまま自分の片腕に、彼の体を凭れ掛けさせる。
 「チェス野郎。」マルスはチェックメイトに顔を向けた。「この俺にこれだけ痛い目見せたからには・・・覚悟はできてんだろうな。」
 今だ呆然としているジェイドは、その時感じた。自分の肩を支えているマルスの手に、力が込められたのを。
 「てめぇの命で償ってもらうぜ。」冷たい瞳に、野獣の色が宿る。

 一方さしものチェックメイトも、体を直に破壊されてすぐには動けなかったようだ。顔を顰めて蹲っている。 
 「ハン、痛ぇか。」とマルス。 「・・・なめないでもらいましょう・・・ チェスピースチェンジ究極形態たる、グランドスラムの
 修復力を!」チェックメイトは立ち上がった。
 破壊された血括りの窓がみるみるうちに閉じていく。
 「ま、その鎧はそれでいいかもしれんが、実際に傷が治ったわけじゃねぇだろう。てめぇの体がどういう仕組みか知らんが、元は
 生身だったんだろうしな。」マルスは言った。
 「ホホホ・・・ 私はピースチェンジによって、体質を変化させることができる超人です。グランドスラム時には無機質を体内に
 取り込んで、生身の部分を補強することが可能です。元来超人には、そういう能力を持つ者も多いようですけれどね。」
 チェックメイトはニヤリと笑う。
 「・・・・まだこの技は開発中なのですが・・・ 試してみるいい機会かもしれませんね。見せてあげましょう! ビショップ(僧侶)の
 狡猾さと、最強のピース(駒)・クイーン(女王)を加えた、私のピースチェンジの最終形態を!」チェックメイトは両腕を広げた。
 冷たく彼を見やるマルス。
 「まして、ここは私の作ったチェスボードの結界内・・・ あなた方は運がいい。 最高のゲームに参加できますよ!」 
 「フン。」マルスは鼻で笑った。「吠える前に、何故俺がここに入れたかを考えた方がいいんじゃねぇのか? 王子様よ。」 
 「? どういうことだ。」チェックメイトはマルスに問う。

 その時、周囲の空間に異変が起きた。市松模様が激変し、白一色と黒一色が交互に現れては消える。
 「な・・・ 何だこれは!」明らかに驚愕の表情を見せるチェック。 「確かに、てめぇの窓簾を自力で破るのは・・・できなくはねぇが
 時間がかかる。 だが、この異変のおかげであっさり外す事ができたぜ。この場所を探り当てられたのも、コレのおかげかね。」
 とマルス。
 "鏡の地獄"は最早『鏡』ではなく、目まぐるしく変わる黒と白の世界に過ぎなくなっていた。
 「・・・馬鹿な! この結界は、作った私にしか解除できない筈・・・ なのに、私の結界を・・・ "内側から"解除している者がいるだと!」

 「よぉ―――し!! クリオネ! 次のなんとかって駒はどう進むんだ!」 「ナイト(騎士)は、その位置から2マス飛びで、
 八角形を描くように動く。その間にある敵味方の駒全てを飛び越せるのが特徴だ。」
 「なるほど!桂馬と似てるワケだな! では、トラフィックサイン(交通標識)・追い越し禁止!」
 デッドシグナルは、長短2本の矢印が描かれ、背後に斜線の引かれた交通標識のカードを顔の前に翳す。『止まれ』と書かれた
 標識型の顔面が、そのカードと同じものに変化した。
 クリオネマン・デッドシグナル・そしてクリオネの手で応急処置を受けていた一期生ナムルの、足元の市松模様が激しく流れる。
 「これで飛車角桂馬、金銀に香車は全て解除できた! 残るは歩と王将だけだな!」カードを取り外すと、デッドシグナルの顔面は
 元の標識に戻る。
 「・・・ あのなデッド。ポーンとクイーンと呼ぶんだ! それに、将棋の駒とチェスのピースは数が違うし、動き方も同じではないぞ!」
 ナムルの様子を見つつ、クリオネマンは呼びかけた。
 「どっちも同じようなもんだろ! そんな気取った呼び方は好きじゃねぇんだ! 動き方は、同じく1マスずつと全方向か。となると、
 これしかねぇな。盤上この一手! トラフィックサイン究極奥義、進行停止!」 デッドの顔面が赤く輝くと、またも激しく流れた
 市松模様が全て消滅した。そこには薄蒼の膜に包まれた空間が残っていた。
 「・・・確かそれは禁じ手と言ってなかったか?」とクリオネマン。
 「グギ〜〜〜ッ!」デッドシグナルはその場にへたり込んだ。「じ・・・十試合はこなせそうなエネルギーを使っちまったぞ!」

 「こんな馬鹿な・・・」端正な陶器の如き顔を歪めるチェックメイト。「この私の結界が・・・ 道路標識の操作能力如きで解除された
 だと!」 マルスとジェイド、チェックメイトの3人がいる次元空間からも市松模様は消え失せ、クリオネたちのいる空間の様子が
 見えていた。
 マルスはジェイドを見る。「てめぇのお仲間はホント面白ぇな、ジェイド。」 「・・・クリオネと、デッドが・・・ トラフィック
 サインは・・・こういうことにも使えたのか・・・」呟くジェイド。
 「詳しい理屈はわからんが、チェスってのも動きが規則によって支配されてるゲームだからな。お前はドイツ人だからよく知ってる
 だろうが・・・。その辺が、あの規則野郎の技と合致したのかもしれん。」とマルス。チェックメイトに顔を向ける。
 「で、どうするんだ王子様よ? 直てめぇの結界は消滅するだろうが。」 「フ・・・興醒めですね。今回は退散して、また出直す
 ことにしましょう。チェスピースチェンジ最終形態もまだ不完全ですし・・・この次は、あなた方ファクトリー第二期卒業生・全員を
 ご招待しますよ。 グランドスラム解除!」
 チェックメイトは、元の『王様(キング)』の姿に戻った。 ニヤリと笑うマルス。「この場でブッ殺してやるつもりだったが・・・
 また新しい芸を身に付けたてめぇをブッ倒すのも面白そうだ。見逃してやるから精々芸を磨いてきな、コマ野郎。」 
 チェックメイトはマルスを見る。続けてジェイドに視線を移した。
 「キョウカンとシンライの芽生えた者同士・・・ですか。サンシャイン・ヘッドの話によると、かつて悪魔超人の中にも、正義超人に
 キョウカンした者が数名いたそうです。私にはやはり理解できませんが・・・ 貴方はそういうことのできる正義超人になるのかも
 しれませんね? ジェイド。今のあなた方を見ていると、何となくそう思えます。」 「ざけるな、お稚児さん。俺は正義になんぞ
 共感しねぇよ。」マルスが言った。
 「ホホホ・・・ ですが、貴方はジェイドがお気に入りのようですねマルス。いろいろな意味で・・・」にこりとするチェックメイト。 
 「やっぱりこの場で死ぬか、テメェ?」とマルス。
 ジェイドはチェックメイトを見た。何か言いたそうだが、言葉が出てこないようだ。
 チェックメイトは二人の前に歩み寄り、ジェイドの右手を取った。「今日は楽しかったですよ。また私を楽しませてくださいね。」
 微笑むとチェックメイトは、ジェイドの手の甲にそっと口付ける。
 「では、ごきげんよう。」チェックメイトの姿は消えた。

 「ケッ・・・ 奴について、一つ面白い話をしてやるか、ジェイド。」マルスはそう話し掛ける。ジェイドはマルスを見た。
 「dMpってのは言うまでも無く野郎の集まりだったから、たまった奴は悪行超人の中で力がないとか、華奢とか美形とかいう奴を
 襲って満足してたもんだが・・・」 「汚らわしい・・・」ポツリと呟くジェイド。「男の集団じゃありふれた話だ。チェックメイトの
 野郎も・・・ あのとおり面はいいからな。奴の所属する悪魔超人軍は他の二派に煙たがられてたし、奴の側には殆どいつも、
 砂超人の師匠と恐竜超人の兄弟子がいたからしょっちゅうじゃなかったようだが・・・ 1人の時に、命知らずな悪行超人に襲われ
 かけた事が何度かあったらしい。その結果・・・」ニヤリとするマルス。「五体満足な死体が見つかった奴はいなかった。おかげで
 あいつにちょっかい出すバカは、dMpからもいなくなったワケだ。グフフ・・・ 奴のイカレっぷりは一流だぜ。俺でも勝てねぇ
 かもしれんな?」 
 「・・・確かに、奴は平然と殺す事ができるのだろう・・・だが、元からそうだったんだろうか・・・」ジェイドは言った。「あぁ?」と
 マルス。 「少なくとも、あのチェックメイトは・・・怒る事はできた。だから・・・自分で言っていたように、感情がないのでは
 ないと・・・ 俺は思ったんだ・・・ もしかしたら・・・ いつかは奴にも、愛する事や信じる事が理解できるようになるかもしれない・・・」
 ジェイドは、そこでマルスの顔を見つめる。「スカー・・・ お前は・・・」
 「どこまでお人よしだ、このバカが。」マルスはジェイドを見た。ジェイドは言う。「・・・俺は・・・ お前の・・・」
 次の言葉が出てこない。 「怪我してんだろう。だったら余計なことはしゃべるな。」マルスは、ジェイドの頭に手を当てると、
 自分の体に引き寄せる。 ジェイドは黙って目を閉じた。

 結界が消滅しようとしている。クリオネ・デッド・ナムルの前に、ジェイドを腕に抱き抱えたマルスが現れた。「! 貴様!!」 
 「あのチェックメイトとか言う奴とつるんでやがったか!」クリオネは身構え、デッドは叫んだ。マルスは二人をジロリと見やる。 
 クリオネマンはジェイドを見た。ヘルメットがなく、引き裂かれた上着から覗く白い肌には紅い一文字の傷痕と、無残な紫の紋様が
 見えている。腕にこびり付いた血の痕、虚ろな表情。
 「・・・貴様は・・・ またジェイドを・・・」クリオネマンの目に、冷たく激しい憎悪が宿る。「アイス・ソード!」クリオネマンは
 右手の氷状の筒を剣に変化させた。デッドシグナルも、よろけながら立ち上がり身構えようとする。
 「止めとけ。まともに立つこともできんのや、怪我人抱えた奴と戦っても面白くねぇ。 そらよっ!」
 マルスは腕に抱えたジェイドを、クリオネマン目掛けて放り投げた。「!」慌ててアイス・ソードを解除したクリオネマンは
 ジェイドを受け止める。
 「この結界は消滅する。さっさと病院に連れて行きな。確か、岡山の倉敷に超人病院があったっけな・・・」
 ヘラクレスファクトリーにいた頃。彼らは日本の各都市にある超人病院についても教わっていた。
 マルスは彼らに背を向け言った。「それとチェックメイトの野郎から伝言だ。今度は、"お前ら"ファクトリー二期生全員をご招待
 しますだとよ。 じゃあ、またな。」
 その時、結界が消え失せ、彼ら4人はスタート地点に戻っていた。マルスの姿はない。

 「・・・ ジェイド・・・ 私がわかるか?」クリオネマンは腕に抱いたジェイドにそっと語りかける。
 「・・・クリオネ・・・」ジェイドは彼を見て呟く。 「どこが、痛むんだ?」そっと白い肌に手を当てていく。「うっ」瞬間、顔を
 顰めるジェイド。 「肋骨か・・・」クリオネマンがそこに手を置くと、
 ズキズキとした痛みと疼きが、少しずつ和らいでいくようだった。「・・・」 「大怪我は、完全には治せないが・・・ 私には、少々の
 治癒術(ヒーリング)能力があってね。」とクリオネマン。
 その後しばらく押し黙って集中していた彼は、やがてジェイドの肌から手を放した。紫の痕も、紅い傷も、かなり色が薄れていた。
 クリオネマンは、そっとジェイドを引き寄せる。
 「・・・クリオネ?」 「・・・胸が痛いというのは・・・ 本当にあるものなんだな。 以前は、そんなことは絵空事だと思っていたよ・・・」
 クリオネマンは呟く。 「クリオネ・・・」 「これで3度目だ・・・ 一度目は、お前が準決勝の後病院で・・・生気を失っていた時。
 二度目は、マルスに拉致されたお前が、首を絞められたのを目の前で見た時。 三度目が今だ。」
 傷に触らないように、クリオネマンはそっとジェイドを抱き締めた。「もうしたくないものだな・・・ こんな痛い想いは・・・」 
 「・・・」ジェイドの瞳が潤んでいた。その時。
 「だ〜か〜ら〜、二人の世界を作るなと言うのに!全身クタクタのオレ様をほっぽらかして、何やってんだ!おいクリオネ! 
 そんな便利な力があるならオレ様にも使わんかい!」デッドシグナルが叫んだ。
 「残念だがデッド。お前は無機質系の超人だから、私のヒーリングは効果がないだろう。そんなに喚ける元気があるなら大丈夫だ。
 病院に着くまで我慢しろ。」とクリオネマン。 「人が鉄で出来てるからってそーゆう差別をするのかこの! あの妙ちくりんな
 結界は、オレ様でなきゃ解除できんかったというのにこの仕打ちか、エエ?」と不満気に喚くデッドに、ジェイドは身を起こして
 言った。
 「そう喚くなよ、デッド・・・ 代わりに俺が、お前を病院まで背負って行ってやるから・・・」
 「・・・ちょっと待て、ジェイド。オレは体重692kgあるんだぞ!? そりゃキツイだろうが。」
 ジェイドはむくれたようだった。「・・・俺だって超人だ! お前を背負っていくぐらいワケない! そんなに頼りなく見えるのか?」 
 慌てて言葉を継ぐデッドシグナル。「い、いやそういうんじゃなくてだな・・・怪我人に背負われるとゆーのはどうも・・・」 
 「だったら、病院まで我慢して歩け! 私はナムル先輩を背負って行く。ジェイド、歩けるか?」とクリオネ。ジェイドは彼を見て
 答える。「ああ。」
 4人は歩き出した。「しかし、何だ・・・ 委員長は滅多なことはないと思うと無責任なこと言ってくれたが、あの西洋将棋男1人に
 わりとエライ目に遭っちまったな。」デッドシグナルが言った。

 ――― チェックメイトは、師匠サンシャインがいるアジトの前に立っていた。今回、何の断りもなく抜け出して勝手に結界を
 張り、サンシャインの所有物も持ち出した。
 (フフ・・・ 私も"悪い子"になったものです。ヘッドは怒るでしょうかね? お仕置きされるとしても・・・ 私には効果がないでしょうが。)
 侵入者防止用に目くらましのかけられた入り口を入ると、地下への階段が続いている。一歩一歩降りながら、チェックメイトは
 何とはなしに、あの時のことを思い出していた。

 「dMp・・・ 25年間烏合の衆が寄り集まっていただけの組織・・・ これで壊滅か。」 アジトに残る弟子達に反乱を指示し、その
 結果彼らの殆どを失った老超人・サンシャインはポツリと呟いた。腕に抱き上げた満身創痍の弟子・チェックメイトに語りかける。
 「チェックよ・・・ ワシはお前に対して取り返しのつかない過ちを二つ犯してしまった。一つは痛みを教えなかったこと・・・ もう
 一つは、感情を教えなかったことじゃ。」チェックは師匠を見る。 「痛みを知らなかった結果、お前は自分を不死身と思い込み、
 手遅れになるまでダメージに気付かなかった。感情を知らなかった結果、お前は自分にプライドを持つことができず、万太郎に
 敗北した・・・」 「・・・矛盾していませんか、ヘッド。」苦しい息の下とはいえ、チェックメイトははっきりと言う。「痛みと
 感情など、悪魔に必要ないとおっしゃったのは貴方ですよ。」 「フフ、そうだのう。わかれと言ってもすぐには無理じゃろうが・・・ 
 チェックよ。この事は覚えておくがいい。 先程dMpは壊滅した。直接のきっかけを作ったのはワシじゃが・・・ 最大の原因は、
 奴らに何の心の繋がりもなかったということじゃ。それが少しでもあれば、この事態を招くことはなかったじゃろう。」
 「・・・私にはわかりません、サンシャイン・ヘッド。」 「いつかはお前も、自分で考えられるようになる。その日まで、自分を
 磨いていくがいい。」dMp二首領に受けた傷から血を流しながら、サンシャインの足取りは確かだった。

 「ココロの繋がり・・・か。」呟くチェックメイト。「やはり甘いですよ、サンシャイン・ヘッド。ですが・・・」
 彼は思い出す。「お前は、寂しいと感じたことはないのか?」と自分に問い掛けた正義超人ジェイド。そして、かつて獣と恐れられた
 マルスは、明らかに、ジェイドを傷つけられた怒りをチェックメイトに向けてきた。 
 (あの時マルスが現れなければ、私は彼を殺していたでしょうか? 今まで殺した大勢の超人と同じ様に。でしょうね。躊躇する
 理由はありませんから。ですが、今まで私にあのようなことを言った者は、1人としていませんでした。1人としてね。結果殺さずに
 済んで、まあ良かったのかもしれません。死体からあのような言葉は聞けませんからね・・・)フフフ、と含み笑いをするチェックメイト。
 (マルス。ジェイド。あなた方の間には、ヘッドの言ったココロの繋がりとやらがあるのでしょうか?いつかまた、それを見せて
 もらいましょう。楽しみです・・・。)
 階段を降り切ったチェックメイトは、アジトの入り口をくぐり抜け、呼びかけた。
 「只今戻りました、サンシャイン・ヘッド。」

THE END

チェック編完結、おめでとうございます!!・・もう・・私がここにつらつらと書くのもおこがましいほど
奥の深い内容と面白さに、改めて鷹覇様の偉大さを感じさせられます〜〜。♪いつもなんだかトラブル発生の
ジェイドに、いいとこ取りのスカー様も魅力的ですが、個人的にデッドの隠れた(?)活躍が気にいっています!
ベスト脇役賞ものだね!クリオネの回復魔法(笑!!)もなかなかですが。いいパーティですよ(笑)(Noriko)

俺の(!??)ジェイドに手を出しやがったあのゲーム野郎!もう許せん!(怒!)パーティ!??おいっ!
  それ、俺も入ってんのか?俺様は一匹狼なんだからな!またお姫様の危機には疾風のごとく登場してやるぜ!?
・・あの標識と軟体も少しは役にたったようだが・・いいか?ジェイドに手を出すなよ!?(スカー)